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二十三、事態は動きだす

 俺はこの小汚い小部屋で用事は済んだと、窓から遠目に見える自分の土地をしばし眺めてから葉山を置いて歩きだしていた。彼が独自に俺の所在を探していた事を知ってはいたが、彼が俺を本気で心配しているらしき様子に俺は珍しく心打たれたのだ。そこで、自分独自に動いているようで髙の命をも時々受けつつ俺に付き従っている山口に、俺は葉山を呼び出すように言付けたのである。この先私欲ばかりの山口に武本をさらすよりも、葉山がいた方が好都合だという俺の武本への親心だ。


「あぁ、そうだ!あなたの行方不明も計画のうちでしたか!?」


 清々しい声が俺の背中を追いかけて叩いた。


「違うよ。俺は療養中だったんだ。知っているだろ?俺の血痕。」


「えぇ。あの大量の血は間違いなくあなたのものでしたね。」


「おい、葉山君、君もついておいで。この部屋はうんざりなんだよ。もうすこしきれいなところでお話しようや。例えば橋場孝継の自宅とか、な。」


「え?」


 豆鉄砲を喰らった鳩の顔を見せた葉山に俺は吹き出し、そして数日前の忌々しい出来事を思い返していた。

 俺を背後から襲いかかってきたのは本物の警察官であったが、田神の者では無かった。


「ひどいね、ナイフで後ろから刺そうなんて。警察官のやる事じゃないだろう。」


 ナイフを掴んだ手を激しく車のドアに打ち付けたせいか彼の右手首はおかしな方向に曲がっており、男は地面で這いつくばって殆ど唸り声の怨嗟の声をあげた。


「おま、お前が俺の足を振り払ったからじゃないか!」


 彼の足元を後方に勢いよく蹴り上げたため、彼はうつぶせの状態で地面に激突したのである。咄嗟に手を伸ばしたが、両手のうちナイフを持っていた右手をしたたかに車のドアに打ち付けて、だ。そんな激突を地面にしたせいか、彼の額と鼻の頭は赤くはれ、鼻血まで垂らしている。庇うことなく地面に打ち付けた腹も顔も、本気で痛い事だろう。


「俺にナイフを突きつけて何を脅すつもりだったんだよ。」


 男は黙り込み、俺は邪魔だと男の腹を蹴って軽く転がした。


「ぐふ。」


「もろいな、お前。そこで寝られると車が出せねぇんだよ。邪魔だ。」


 俺はおそらく俺を誘った波丘久之の差し金だと考えており、この一部始終も眺めているものだと思いながら、地べたで転がっている警察官の懐を探ろうと背広をはだけさせた。

 すると、背広の裏地は楊よりも格段に上の品だという事を示しており、表地も見返してよく見ればかなりの良品である。


「こんな高級スーツ、こいつは警察官でもなかったかな。」


 しかし男は道江みちえたもつという名の本物の警察官であり、ついでに言えば、彼は久之ではなく久一の方の子飼いであった。

 道江のスマートフォンには久一とのやり取りがみっちりと残っていたのである。



「え、悪事は二人一緒なんでしょう。」


 固い武士だった男が気安く俺に話しかけてきた。


 結局は山口の提案で近くの飲食店に男三人で入ったのだが、僧侶とスーツ姿の若い男二人という組み合わせは新興宗教の勧誘団体にしか見えず、俺に敵意丸出して続けて入店してきた田神御一行はやくざ一味にしか見えない。怪しい俺達は外から店内が見えない奥隅の四人掛けテーブルに誘導され、壁側を葉山にして二人はソファ席にぎゅうっと並んで座り、おれは広々と彼らの対面となるソファに座った。やくざ一味は俺達と対角になる奥の席だったが、その外見の恐ろしさを利用して俺達の後ろ、それも俺の座るソファに背中合わせとなる四人掛けテーブルに移って来て俺達の会話に耳を欹てている。


 後ろにむさい男達がいる事には身の毛もよだつが、入店して山口を絞め殺したくなったほどのファンシーな店内で彼らは俺達よりも浮きに浮き、かなりの痛い視線と居心地の悪さを感じている様子に、俺は少々意地悪い喜びを感じており、さすがは髙の弟子だと山口を少々称賛してしまうほどだった。


 しかし、山口も葉山もただ小腹が空いたから俺をこの店に誘っただけであり、彼らがこの店の常連らしいと理解するのにはそれほど時間がかからなかった。

 この席自体彼らのお気に入り席のようなのだ。

 彼らは店員に「いつもの。」と気さくに答え、俺が注文する間もなく店員は去り、十数分後には俺の分まで奴らの「いつもの」が運ばれたのである。


 ベリー類がきれいに添えられたバニラアイスが乗り、そこに生クリームがぶちまけられ、さらにチョコソースが掛けられたアメリカンワッフルだ。ワッフルのお供の飲み物は五百ミリリットルはありそうな大型の計量カップを模倣した耐熱グラスに入ったホットカフェオレだった。


「今どきはホットケーキかもしれませんが、さくっと焼けたアメリカンワッフルの方が俺は好きですね。あ、百目鬼さん。そこのメープルシロップを盛大にかけてくださいね。」


 俺はテーブルの中心に三つのミルクポットが置いてあった事に気が付いた。


「え、これはメープルシロップか。お前達はそれにまだ甘いものをかけるのか?」


「はい。友君が試したらもう最高で。」


「アップルパイにアイスとシロップは絶品ですからね。これもどうかと。」


 二人は仲良く同じ動作でメープルシロップをかけだし、俺は口元を思わず抑えてしまった。楊も甘党だがあいつはここまでではないと、俺は楊が親友でよかったと思い直すほど思考回路が逝かれだしてしまっていた。きっと、武本も正常な筈だ。


「俺はお前らがどうかと思うよ。」


「えー。」


 恥も外聞もなく仲良く声を上げた二十代の男達は若々しく見栄えもよく、気づいて見れば周囲の女性客は彼らを盗み見て喜んでいるらしきところもある。


「お前らはここによく来るのか。」


「一か月に二回か三回くらいですね。やっぱりおやつに千五百円はちょっときついですからね。」


「そう。今日はできたら百目鬼さんにおごって欲しいなって。」


 俺の目の前の若造二人は悪たれな表情で俺にニヤついた。


「図々しいな。」


 これが彼らの仕返しなのだろう。

 俺が負傷して身を隠したがために武本を心配させ、そして彼らが信頼している上司さえも裏切らせているに近い俺への、だ。


「さぁ、百目鬼さん。続きを教えてください。波丘兄弟のことについて。」


 葉山は野武せりのような眼光をちらつかせ、山口は雀を前にした猫の目だ。


「教えるも何も、兄弟ってそれぞれが親に愛情を求めるだけの話だよ。俺が養育を受けた実父の家でもな、腹違いの兄達は協力しあうのではなく、それぞれが俺に嫌がらせをしては母親に報告をして喜んでいたからね。お母さま、僕はやってやりましたよって。」


 獲物を狙う目をしていた二人はドングリのような目になっており、それも髙に言われて俺の身上を探っていたに違いない山口さえも目を丸くしているのである。


「あの、百目鬼さん?」


 おどおどと尋ねてきたのは葉山であった。


「なんだ?知らなかったのか?俺の実父は参議院の佐藤さとう弘毅こうきだよ。実母は愛人。愛人の子供じゃあ、本妻どころか彼女の子供が敵意を見せるのは当り前だろ。でもさぁ、面倒になってね。それでこっちに出てきたのさ。追い出されたといった方が正しいか。そんな宿無しの俺を俊明和尚が拾って養子にまでされたってだけだ。」


 ぎゅっと口元を固くして目線を落とす葉山は想定内だが、山口さえも一瞬だけだが右目のすぐ下をピクリと痙攣させたのには驚いた。


「あぁ、山口はもっと詳しく知っているね。」


 俺が十五迄の養育期間のお礼をきっちりとして、あの家に別れを告げたことを知っているのだろう。兄二人を病院送りにして、彼等の素行の悪さを俺がつま開きにしたせいで地元で名士だった本妻一族が白眼視される事になってしまっているのだと、俺の過去が愁嘆ばかりでは無い筈だと。


「僕が知っている事など今はいいでしょう。今話し合うべきは波丘です。」


「そうだね。まず、波丘静子は若くてハンサムな男がとにかく大好きなんだ。死んだ旦那も美男子でね、新興宗教を立ち上げて静子を取り込もうとした菖芳和尚などかなりの色男だよ。さらに、ママは昔を思い出しては旦那の昔の婚約者が憎くて堪らないと度々ヒステリーを起こす。さぁ、ママが大好きな子供達はどうするだろうか。ビッグマザーの愛を勝ち取った者が、あの波丘建設を引き継げるんだよ。」


「あぁ。」


「それで、別々ですか。」


「そう。だからわからないって言っただろ。GOWはどっちが仕掛けたのか。菖芳和尚を殺そうと企んだのは誰なのか。」


「ですが、百目鬼さんを襲ったことで、菖芳和尚殺しは久一ということになりますね。」


「どうだろう。実行犯は行き過ぎた汚職警官一人だ。彼がなんと証言しようと表には出ないから久一への追及は無理だろうしな。」


「え?表に出ないって?あなたはちゃんと被害届を出してくださいよ。」


「被害届は出せないんだよ。そういう話し合いをしてしまったものでね。なにせ、ほら、俺は撃たれただろ、警察の銃でね。」


「え?」


「拳銃が一般人に向けて発砲されたとあっちゃあ、神奈川県警ではかなりのダメージだろ。武本目当てに俺の後を付け回していた橋場孝継もちょうどその場で目撃していたからね。第三者の目撃情報付きだってことで、孝継が勝手に県警と話をつけたんだよ。」


「だからって。いえ、俺達はあなたを捜索していたのですよ。同じ県警の俺達にそんな大事な、せめてあなたの無事ぐらいは伝えてくれても。それに、後ろの田神さん達だってあなたを必死で探していたのですよ。田神さん達はあなたを黒幕として、ですけど。」


「お前らは下っ端どころか県警の流され署と名高い相模原東署勤務員じゃねぇか。県警内の緘口令ならば尚の事、本庁のエリートさん達には絶対に内緒だろうな。あいつらがエリートってのもひどく気に入らねぇがな。」


 俺の指摘に葉山は顔を両手で隠すようにしてうなだれ、見るからにがっくりと落ち込んでいる。


「すまなかったな。実際に俺は動け無い上に、孝継の出資している病院に療養という名の監禁だ。孝継は俺が動けないのをいいことに、意気揚々と県警の偉いさんと勝手に交渉していたね。孝継も自分が的だと知っていながらそれを否定しているからね。商売は信用が第一だろ。同業者に命を狙われる経営者は信用に足るかどうかって問題があるんだってさ。武本の親代わりとあってかなりのろくでなしだよ、あいつは。だが、孝継の働きによって銃撃事件は報道規制が敷かれてしまった。県警にとっては首の皮一枚でも繋がっている有難い状態かもしれないがね。」


「悪事を隠すと隠した先で腐って燻るものなんだけどね。」


 俺は無言でもう一人座れるようにと席を壁側へと移動し、田神は俺の隣に潜り込んだ。すると彼の動きに合わせて店員が彼の注文していたらしき皿を俺の隣に並べだした。

 一昔前の船の形をしたガラスの器に盛られたプリンと果物とアイスクリームと生クリームの饗宴。そして飲み物は緑色のソーダ水。彼は自分の前に自分の皿が並べられると、にこやかに若者二人に笑いかけ、俺の使わなかったメープルシロップをプリンに掛けた。


「糖尿病で死んでしまえ。」


「黙れ。君のせいでしなくていい仕事をして疲弊しきっているんだよ。あの巡査部長も嫌がらせか、消えた工務店一家の足取りなんて無駄仕事を僕達に押し付けたからね。」


 田神はこってりと甘いだろうプリンを大量の生クリームと一緒に口に運び、今まで同じような食い物を口に運んでいた若者が嫌そうに同時に口を押えた。


「結局俺のところに戻ってきたところを見るに、上杉さん一家には早々にお会いできたようですね。皆さんお元気でしたか?」


「あぁ。僕達が警察官だと伝えた途端に、偽の通報のことを謝りだしてね。君には二度と訴えたり業務妨害などしないから安心して欲しいって伝えてくれってさ。」


 俺はこれは髙が仕組んだのだと納得した。俺へというか武本への謝罪の一部なのであろう。外見の怖い田神班を小煩い小物にぶつけて口封じしましたよ、借り一つ返しました。そんなろくでなしのセリフを吐いている髙の姿が簡単に思い描ける。


「それは良かった。心配していたんですよ。茶毒蛾は怖いって何度も説明したのにあんな事になって。従業員に逃げられたのは俺の責任ではないでしょう。慰謝料込みの追加料金なんて払えませんって。」


「そうですね。それで、その受けたという怪我は本当ですか?」


 俺は左の袂を捲りあげ、医療テープで止められた分厚いガーゼが左の肩先にあることを見せつけた。若者二人が息を飲んだにもかかわらず、俺の隣の親父はじろりと俺を破睨みしただけであったので、俺はテープを剥がして縫って塞がっているだけの傷口を露わにした。俺の左肩を穿った銃弾があったという事実そのものである傷跡だ。


「かすり傷じゃないの。」


「銃創は大傷だろ。俺はあんたと違って繊細なんだよ。」


「それで、君の話では道江は気絶していたはずじゃあなかったかな。」


「気絶じゃないですよ、悶絶して動けなかっただけです。失態をさらしていた彼は雇人の新しい命令に名誉挽回と従っただけです。孝継こそ殺せというね。橋場建設って波丘にとっては目の上のたん瘤なんだそうですね。俺は孝継を庇っての負傷です。そして撃った道江ですが、左利きだったそうで、まぁ咄嗟でその左手を潰してしまいましてね。これは仕方が無いですよね。俺は意識が朦朧としていましたから。」


「そんなの僕が知らないことだからいいんじゃないの。あぁ、もう面倒ですね。こんなところで時間を潰して、僕達は山中どころか末端の稲生組さえ上げられない。」


 田神は小柄な体の肩をさらに小さく力なく落とし、これ見よがしに大きくため息をついている。俺に憐憫の情を沸かせたいのだろうが、俺はそんなものを持っていた事はない。

 大体やくざの親分と見まごう怖い顔の男が目線を下げて顔に影を作れば、どこぞの組へ報復の鉄砲玉を出すか悩んでいる凶相でしかなく、間違っても人間が気落ちしている様子には見えないだろう。


「時間の無駄は、無実の一般人の俺を無駄に追い回していた自業自得だろうが。」


「まだ無実の人間だと言いますか。」


「言いますよ。ですが、今回は渡せる情報があります。それで満足してもらえたらな、と。」


「あぁ、あの不可思議な工事か?」


「違います。これから世田谷に一緒に帰りませんか?あなたの行方不明の部下の消息はそこでわかるはずです。あなたが俺にしつこく絡むのはそれが理由でしょう。」


 言い終わるや、俺は田神どころか、上司と俺の会話に聞き耳を立てていた田神班全員の殺気を背中に受けた。新原しんばら優斗ゆうと巡査の失踪について髙に匂わされた時に田神らの俺への報復的で執拗な捜査に対する疑問の解答のような気がしていたが、背中に刺さる殺気はそれが正解だと完全に肯定していた。


「君がやっぱりあの子の行方を知っていたんだね。」


「だから違いますって。信じられないのならばいいですよ。俺一人で対処します。」


 俺は殺気の溢れる中、もう面倒だと立ち上がる動作を仕掛けたが、俺の前方にいた青年達の椅子を動かした音の方が早かった。彼らは自分達の伝票を手に立ち上がり、俺に必死の目を向けた。


「ねぇ、百目鬼さん。僕も行きますって。県警ですけど、一応は警察官ですから。」


「俺だって。」


「どちらかは残って下さい。」


 甲高くはないがしっかりとしてよく通る女性の声に通路側を見返せば、黒髪の新人巡査が立っていた。すらりとした肢体をもち、小づくりな顔が妖精のような雰囲気の美女である。武本を女装させた三人組の一人かと思い出し、挨拶をしようとする前にその涼やかな外見の女性は爆弾を落とした。


「松野さん達が自宅を飛び出してしまいました。横浜市方向に向かっている様子です。監視していた者が追いかけていますが、私達も彼女達を追わなければ。」


「松野さん達が出かけたぐらい。」


「警備員が全員昏倒していました。彼女達は脅えて逃げ出したのかもしれません。目の前の楊警部補のいる署に向かわずに横浜市に向かったのです。警察が信用できない何かが彼女達に起きたのかもしれません。」


「わかった。俺が行くよ。」


 葉山は通路に出ようと山口を軽く押しのけた。すると山口は両の眉毛を楊のように上下に動かしてからにやりと彼に笑いかけた。


「友君はクロトに会いたいだけでしょう。」


 葉山は山口の前を通り抜けざまに山口の左肩をパシリと手の甲で叩いていた。山口はこれ見よがしに肩を抑え、葉山は体を捩じった山口のポケットに自分の伝票を入れ込んだのである。その様子に少々冷たい視線を浴びせていた妖精だが、葉山が通路に出た途端にくるっと踵を返し、俺達に軽く会釈をすると葉山と連れ立って店外へと急ぎ出て行った。


「俺達も行くか。時間が無さそうだ。葉山君が簡単に武本の所へ向かったということは、お前は彼に何も言わなかったんだね。」


「だって、二人一緒に暴れられるならいいけど、どちらか一人だったら僕が行きたいもの。情報は使い時を間違えるなって、怖い先生の言葉。」


 俺はいつまでも肩を抑えている山口の反対の肩を軽くたたき、またもや葉山に叩かれた時のように痛がる彼の姿に吹き出していた。


「あいつはなかなかやるんだね。君が出し抜きたいだけある。」


 彼はあぁっとため息交じりの情けない声を出すや、両肩を抱き締めている格好のまま椅子にどかりと落ち込んで恨みがましい目で俺を見上げた。


「ひどいですよ。百目鬼さんは。」


「ほら、早く行くよ。」


 面倒だなと思いつつ俺も田神の前を通って通路に出ると、山口の二の腕を下から掴んで持ち上げた。俺に捕まれた彼は眠くて動けない子供のように、俺に寄りかかる様にしてだらりと立ち上がったのだ。なんのことはない。彼は自分達の伝票を俺の袂に滑り込ませるという計画を遂行していたのである。


「この野郎。本気で俺に奢らせるつもりか。」


「いいじゃないですか。僕は貯金が無いのに警察を首になりそうなので。」


「なんだ。出し抜いたわけじゃなく、友人を庇っていたのか。友人の伝票迄受け取って。」


「当り前でしょう。あなたの計画でまともにすむと常識人は考えません。知らないですむのならば、知らないでいいのです。それに友君は無理でも、僕には再就職口がありますからね。」


「どこだよ。」


「あなたの所ですよ。必要でしょう警察の動きに耳が早い情報屋。」


 俺はそこで俺達に見捨てられていた田神を思い出して、少々の怒り声で山口に囁いた。


「今そこにいる敵の動きも教えてくれない奴をか?」


 俺の袂にもう二枚ほど伝票がねじ込まれたのである。山口は嬉しそうなくすくす笑いをしている。こいつが媚を売った先は田神だった模様だ。


「なんであなたの部下の分まで。」


「いいじゃない。行くんでしょう、世田谷に。あそこはもともと僕達の庭ですからね。君が彼の弔い合戦をしてくれるのならば、僕達は喪主として最後まで付き合います。」


「俺はあんたにこそ引導を渡したいけどね。」

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