ウチの息子は絶対おかしい!!!
ウチの息子はどこかおかしい。
ウチこと「カンナ」は常々思っていた。
まず、生まれた時からおかしかった。
ウチは残念ながら赤ちゃんにやるお乳が全然出ない体質で、
ちょうど村でお乳が出る知り合いの「シータ」がいたから代わりにやってもらった。
これは、長女のルルナの時もそうだった。
ウチだって自分のお乳で育ててやりたかった。
だが、ウチにはなかったのだ。いや、無いから出ない訳では無い筈だが、
生まれてこの方胸が絡む事柄で良い思いをしたことは皆無であった。
だから、これは一種の呪いなのかなあ、と半ば諦めている。
たまに、オーディットに「はっはっは!ウチの方が巨乳じゃないかハニー!」と
からかわれるが全くその通りだと思う。「テメーのは大胸筋だ!」と殴り飛ばしてからだが・・・。
息子のリントはシータがお乳をやっているときは大人しい。
そして、シータがいなくなると泣き叫んだ。
安心させるため抱っこをしてやると、
泣き止んだ。
この辺りはウチの息子かな。
本当の母に抱きしめられれば安心する・・・
「はあ」
なんだ・・・その溜息は?
息子の顔を見てみる。
そこには0歳児が決して浮かべるべき表情でないものがあった。
それは憐れみ。憐憫。かわいそ、かわいそ。
コイツ!!!!!!
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5歳になったリントはウチのことは母ちゃん。
オーディットの事はダディ。
そしてシーラの事をママと呼んでいる。
リント・・・ウチがママですよ!
リントは5歳で村の教会でスキルや、
魔法適正の鑑定を受けた訳だがここでも想定外のことが。
魔法剣士のウチと、治癒師のオーディットの息子にも関わらず、
魔法適正が0だったのだ。
どうして!どうしてなの?と疑問に思っていた。
確かに魔法適正は完全に遺伝はしない。
だが、名家と呼ばれる高等魔術師を輩出し続ける家だってあるのだ。
魔法適正が現れない訳が無い。
どんなものでも魔法適正は必ずあるのだ。
広大な台地を焼き払う高度な術式を唱えられなくとも、
近くを照らす仄かな光を出す術式を使えるものは多い。
魔術の行使が出来ない低数値の適正の者もいるが、
0などということは聞いたことも無い。
いまいち理解出来てないリントを他所に私は悲観に暮れていた。
魔法は確かに生活に必要という訳では無い。
しかし、魔法が使える事によるメリットは確かにある。
その最たるものが特別魔法学校の入学資格。
ここを出ることによって、その後の出世や、縁談等、
有利に働くことも多いのだ。
人生の選択肢を間違いなく増やせるのだ。
また、魔法を使える者は上位、
使えない者を下位といった選民思想を持っている者も多い。
この子は間違いなく将来【無能】と侮られ、謗られ、侮蔑される。
なまじ姉のルルナに適正があったことから、
期待していた私達は一層落胆した。
しかし、スキルをリントは持っていた!
これは大きい!優良なスキル持ちは貴族等に重用されることもある!
と、期待したのも束の間、鑑定をしていた教会のお爺さんが言った、
「こんなん分からんよ」の一言が全てを打ち砕く。
このジジイぶん殴っていい?
一度期待しただけにまた落胆した時の落差は大きい。
なんでウチの息子がこんなことに!
私は、周りの鑑定を受けている子供達が恨めしく思えた。
事実、ひどい顔で辺りの子供達を睨んでいたと思う。
そんなウチを見かねたのか分からないけど。
落ち込んでいる私の隣で、
いつもは変なことばかりするオーディットが言った言葉は今の私の
リントに対する態度の根幹となった。
「これから、あの子は色々な負の感情に晒されるだろう。間違いなく辛いだろう。
だからこそ、家の中だけでは忘れさせてやりたい。晒される負の感情に負けない位、
愛情を私は注ごう。リントは私の息子だ。そこだけは絶対変わらん。」
「そして、リントにいつの日か、私達の元に生まれた事を感謝される位、
幸せになって貰いたいのだ。それが私の夢であり、願いだ。その為に出来ることは全て私はしてやりたい。」
ここで一息入れたオーディットはウチに向き直って、
「息子の幸せを願わない親はいないだろう―そうだろうカンナ?」
そうだ、魔法適正やスキルが無くてもリントは私の息子だ。
だから私の答えは決まっていた。
「当たり前だよ。当然さ。ウチの家に生まれたんだ。幸せに絶対にならせるさ!」




