accident
「おーい」
帰りの準備をしていれば突然後ろから声が掛かった。振り返るとそこには見慣れた人物がいた。
「ん?なんだ、竜弥か」
「何だって…。まー、いいや。お前今日予定ある?」
竜弥のさらさらした茶髪が誘うように揺れる。
「いや……ないけど」
そう言うとそうかそうか、と満足そうに頷いてる。
「じゃあさ、合コン行かね?」
「行、……」
行く、と言いかけて咄嗟に口を噤む。
実は、竜弥以外の友達にも何度か誘われて挑戦したが、ろくに女子と会話できた試しが無かった。
「……澤谷琉癒君」
そんな俺の肩に労るようにポンッと手を置く。ちなみに、澤谷琉癒とは俺の名前だ。
「合コンってのはなぁ、当たって砕ける…だ」
何が『当たって砕ける…だ』だ!コイツは自分の見た目分かってそんな事言ってるのか!?
容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能のお前みたいなヤツどんな合コン行っても毎回女子との会話どころかお持ち帰りも出来るだろ!
それに比べて俺は、顔普通?、成績普通、スポーツ普通。全部普通。
「琉癒!男子高校生は今真っ盛りの時期だぞ!それなのにお前は童貞のままでいいのか!未だにキスの一つもしたことがないなんて、そんな可哀想なままでいいのか!」
拳を突き出して熱血指導?、をされる。
「大きなお世話だよ!?」
悪かったな!まだ童貞で!キスの一つもして無くて!
でも、同情してくれなくて結構だ。
「今回の合コンはお前の為に企画したんだ。主役が居ねぇと始まんないぞ」
さっきまで熱烈に語っていた竜弥が急に真剣な声音でそう零す。
「……竜弥、お前そんなに俺の事を」
「あぁ、琉癒。さぁ行こう!」
「、…あぁ。行こう!」
☆☆☆☆☆
「ねぇ、もうほんっとに竜弥君ヤバいんですけどー」
「何だよー、リサちゃん。てゆーかリサちゃん胸デッカ!」
「コーラー、どこ見てんの?」
……コイツら!?
竜弥の力説により、一筋の希望を胸に合コンの開催場所のカラオケボックスに来てみれば。
来た瞬間からずっっっとイチャイチャイチャイチャ。
結局俺は脇役か!なにが主役だ!
クソッ。覚えてろよ、竜弥。
八つ当たりをする様にコップを引っ掴み、一気に飲み干す。
俺がイライラしてる間も二人は向かいの席で一緒に今どきの歌を歌っている。
「はぁぁ」
こらえきれなくなった溜め息を控えめに吐き出す。
そして、あと一人。
さっきから隅っこで動かずスマホをいじっている肩まで伸びた茶色の髪を左だけ編み込んだ少女。
きっとこの子も俺と同じで一筋の希望を抱いてここに来たに違いない。
勝手に心の中で同情していれば視線が絡んだ。
白い肌に大きな碧色の瞳と、桜色の唇。
「、……」
めっっちゃこの子可愛いいい!
え、こういうのを清楚系っていうの?
そんな俺の気持ちに気づく様子もなく、一瞥すると再び視線をスマホに落とした。
俺、この子と話したい。
だけど、俺は持ちネタが沢山ある訳でもない。こういう時、とっても困るんだよな。
竜弥はリサちゃんって子とイチャついてるし。
よしっ、勇気を出せ俺!
「あ、あの」
「……何か?」
無視されると思ってたけど、以外行けるカモ。
「俺、澤谷琉癒って言うんだけど君の名前は?」
「…亜純」
「名字は?」
「……神木」
神木亜純ちゃんか。ぎこちない会話だが、なんとか繋げている。
「えっとさ」
次の話題を口に出そうとした、その時。
今まで座ってスマホをいじっていた亜純が立ち上がった。
「帰る」
「ぅえ、ちょっと」
待って、と言う前に部屋から出ていってしまった。
今までイチャついていた竜弥達も何事かと混沌とした表情を浮かべている。
「おい、琉癒……。お前追いかけた方がいいんじゃないか?」
「ちょっとー、ウチの可愛いアースーに何したのー」
「、行ってくる」
適当にお金を財布から出し乱雑に机置くと、カバンを掴んで亜純の事を追いかける。
外に出て、辺りを見回すと亜純の後ろ姿が遠くに見えた。
その姿を必死に追いかける。
「神木ちゃん、ちょっと待って!」
大声でそう叫び掛けるが、彼女が止まる様子はなく角を曲がってしまった。
やっべー、見失っちゃう。
直ぐに彼女の曲がった角を曲がる。
その数メートル先に亜純がいた。
「はぁ、はぁ、はぁ」
膝に手をついて肩で息をする。視界に黒髪が入り込み乱雑に掻き上げる。
「神木ちゃん」
少し息を整えて彼女の名前を呼ぶと、顔だけをこちらへ向ける。
「……何でついてきたの?」
「俺が神木ちゃんに嫌な思いさせたかな、って思って」
「…別にそんな事思ってないから」
「、…そっか」
でももう暗いしお家まで送るよ、と言いかけてふと疑問がよぎった。
今は多分午後六時くらいで、しかも七月。だけどこんなに暗いなんてありえない。空を見渡すが月一つ浮かんでいない。
と、その時。
「はーいッ。お二人さん、私の世界へようこそ!」
辺りに響き渡る呑気な男の声。
「さぁ貴方達もタノシー私の世界へ、……って。何何?まさかそこにいるのはお嬢ちゃんじゃないですか!はっははは!何たる偶然!」
声を発している人物の姿を確認する事は出来ず、その間にも声だけが響いている。
それが不気味で背中が粟立つ。
「っ、誰だよ!」
その恐怖を紛らわすように大声で叫ぶ。
「仕方ないですね」
不気味な声はそう言うと亜純と俺の間の空間が歪み、そこから長身の青年らしき男が現れた。格好はジーンズにラフなTシャツと、現代人と変わらない。
「私の名前はエデン。さぁ可愛い可愛いモルスちゃん達、タノシーご飯の時間ですよ!」
思考がその状況に追い付いて行けないなか、そう言ったはパチンと指を鳴らし、その直後に暗がりの地面の数十箇所がバキバキと割れ、そこから人の手や顔が現れた。どこからどう見ても普通の人間ではない。
「なっ……、」
恐怖で腰が抜けその場から動けなくなった。
その間にも、どんどん地面から這い出てくる。その姿は血塗れで、青白く、人の原型をとどめていない。
「やめ、」
恐怖から声が出ず、唇をパクパクと開閉させるだけ。
「はっはははは、そうだ!その表情!僕が欲しいのはソレだ」
エデンと名乗った青年は狂ったように笑い声を上げている。
ぎこちない動きでこちらに歩み寄ってくる血塗れの“人間”は口を開けながら呻き声のようなものをあげている。
「セイクレッド・レイ」
その中、凛とした声が聞こえた次の瞬間。
目の前まで迫っていた“人間”が糸が切れた操り人形のように地面に倒れ込んだ。
「はぁ……。お嬢ちゃんはいつも私の邪魔をしてくれる」
肩を竦めるがなんて事ないように余裕な表情を貫いている。
「当たり前でしょ。私と貴方は敵……」
そう言うと、亜純はスっと目を細める。
「今日こそは、仕留めさせてもらうわ」
彼女の細身の身体にはそぐわない大鎌が握られていた。
「、……」
──何が、起こっているんだ。




