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希望と夢は同じようで違う。  作者: 村咲 遼
1/5

戦いのあとの軍師

 軍師……。


 将軍の次に……いや、それ以上に味方や敵の情報を一手に掌握し、軍略を練り、将軍に上申したり、もしくは、それすらなくとっさの判断で軍を、部隊を動かす存在……。


 しかし、隣国を壊滅、もしくは隣国が協定を希望するとそれからは外交の職務になり、軍師は用済みとなる。

 いや、この国……デュッフェルの国では、代々、野蛮ではあるが、帰ってきた軍の戦勝パーティの裏で、軍師は口を封じられる。

 首をはねられ、その首を塔に納められるのだ。


 それが当たり前であった。

 逆に策略を伝えなかったとしても、敗戦の責任を取り、殺され、こちらは無惨にも遺骸をその辺りに打ち捨てられる。

 戦勝して首は塔に納められたら、残った身体は、棺に納められ軍師の墓に埋葬される。


 どちらがましか……微妙であるが……。




 10年前、弱冠7歳で軍師として召喚されたクリスでも、一日一日と王都に向かうことにより死に近づく。

 7歳とはいえ、当時から結末は解っていたが、8歳上の天才と言われた兄が、召喚を拒み行方をくらませた。

 軍の……国の命令に背くのは、家族親族は罰せられる。

 特に両親は兄を逃がした罪人として殺される。


 それだけはさせられないと、周囲の反対を押しきって……軍にやって来たのである。

 元々、兄が軍師として勉強していたのを横で勉強していた。

 兄の残した本やノートと共に、兄に届けられたローブを身にまとい、軍の新しい将軍であるウィルヘルムの元に出向いたのだった。




 自分は逃げるつもりはない。

 逃げては逃亡罪として、自分のみならず家族や今度は軍の仲間に罪が及ぶ。

 せっかく共に戦って生きて戻って、家族に会うのだと喜びあっている仲間を巻き込みたくない。

 次第に周囲の警備は強化され、今まで戦いの中、冗談をいっては気分を晴らしていた仲間たちとも遠ざかる。

 解っていても寂しかった……。

 敢えて避けていたこともあるが、切なかった。


 しかし、どうしても今日は……。

 ローブをまとい、自分のテントを出て、歩き出す。

 微妙な顔で付いてくる護衛の兵士に、


「ありがとう、大陣営に届けるのでよろしくお願いします」


微笑み、進んでいく。


 周囲には余り人はいない。

 ざわざわとしていた今までに比べ、雲泥の差である。


 一番大きなテントの入り口の兵士に頭を下げると、


「失礼致します」


と声をかけた。

 護衛が掛布を持ち上げようとするが、首を振る。


 ざわざわとしていたテントの中……一瞬に静まり返る中、ウィルヘルムの声が響いた。


「クリスか?どうした?入れ」

「いえ、これだけお渡ししたく持ってきたものですので、こちらの方にお渡ししておきます。目を通して、ご確認して頂きたく」

「何をだ?」

「10年前より、全ての戦い、こちらと相手の被害、亡くなった皆の名前、怪我をした人の名前、記録できる限り全て記録しております。こちらをお預かり下さいませ。では」


 丁寧に頭を下げると、油紙に包んだ紙の束を兵士に手渡し、もう一度頭を下げて自分のテントに戻っていった。


 そして、ようやく自分の身の回りを……転戦に次ぐ転戦でそれほどないが……片付け、残りの日々をどう過ごそうかと考えるのだった。

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