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蒼き天まで穿てば  作者: 卿 兎
一章 〈魔法闘士〉
9/20

赤い物を背負う者

「紅葉!!」

 医務室に辿り着いた俺はドアを開け、第一声に彼女の名を叫んだ。

「帝、医務室では静かにしなさい」

 ベッドの上に座りこちらを見る紅葉(クレハ)は微笑みながら注意をしてくる。

「早かったな帝」

 入ってすぐ右側には剛太(ゴウタ)梨恵留(リエル)が椅子に座っていた。

「…大丈夫なのか紅葉」

 呼吸を落ち着かせ 、紅葉の体調をうかがう。

「見ての通り生きているわ。心配掛けてごめんなさい」

 確かに外見では大丈夫そうには見えるが、俺には大丈夫では無いことが分かってしまう。紅葉の魔力が落ち着いていない。

「紅葉、しばらく魔力は使うなよ」

「来週から任務が始まるわ。それはでき」

「紅葉。使うな。俺が許可をしない」

 紅葉の言葉を途中で遮り、釘をさす。

「…わかったわ。自業自得だものね」

 今の状態で紅葉が魔力を使うと紅葉だけではなく、周りにも被害が及ぶ可能性が大きい。それだけ不安定な状態だ。

「とにかく、今は休んでおくんだ」

 紅葉は無言で頷き、横になる。

 何故紅葉がこうなったかを聞かなくてはならない。模擬戦を見ていた剛太と梨恵留に事の顛末を聞いたが、何故ここまでの状態に陥ったのかは俺にはわからなかったが、赤い目には身に覚えがあった。

 考え込んでいると、心配そうに控えめな声で梨恵留が声をかけてくる。

「あの、帝さん。紅葉さんはやっぱりお姉さんに撃たれたから意識を失った訳ではないのですか?」

 梨恵留の問いにはそうであってほしいという思いが込められているのだろう。しかし、梨恵留の言葉を俺は否定できない。

 少しの間黙っていると、剛太が気を利かせたのか

「梨恵留、ここはもう帝に任せても大丈夫だ。俺達はそろそろ帰ろうぜ」

 梨恵留に医務室から自分と共に退出をするように促す。

 梨恵留は不安そうに俺と剛太を交互に見て、数秒後わかりましたと言い剛太と共に医務室をあとにした。

 二人になった医務室は外が既に日が沈み始め、室内も橙色に染まっていた。

 時間の流れが遅く感じる。室内にある壁掛け時計の刻む音が妙に大きく聴こえる。

 自業自得。紅葉は自分でそうは言ったがそんなことは断じて無いと俺は言い切れる。そもそも紅葉は気にしすぎる節がある。

 紅葉の魔力がここまで不安定になるのは紅葉のせいではない。昔から自分に責任を負わせる癖が紅葉にはある。

 今になって昨日の反動がぶり返す。いや、ずっとあったのだろうが、紅葉のことで意識が逸れていただけだろう。

 さっきまで大人しかった紅葉が俺の名前を呼ぶ。

「帝。私はとても弱いわ」

 紅葉はこちらを向かずに話を進める。

「だけど。だけども、私は強くなると貴方に約束をする。私が貴方を一人で守れるぐらい強くなるわ」

 紅葉の声には強い意思が感じられる。

「いずれ、貴方の横で胸を張っていられるように」

 さっきより魔力が落ち着いている。紅葉の中で何かが変わったのだろうか。

「…無理はするなよ」

 強くなるよりも紅葉自身が無事でいられるのが俺にとっては重要だ。だが…

「無理は承知よ」

 こう返ってくるだろうとは思っていた。

 紅葉が無理をするなら仕方がない。それに俺も付き合うだけだからな。

「ところで帝」

 紅葉は寝返りをうち、横になったままこちらに体を向け、照れ臭そうな顔をしている。

「図々しいお願い事なのだけれど、私が寝るまで手を握っててくれないかしら」

「ああ、お安い御用だよ」

 考える間もなく、俺は紅葉の手を握ってやるのであった。





 翌日の昼、紅葉から体調は良くなったと連絡が届いた。

 日曜日だから学園は休みだ。折角なので出掛ける事になった。

 支度をして学園の医務室に紅葉を迎えに赴く。ついでに剛太と梨恵留にも一応連絡はした。ちなみに梨恵留からは5分と経たずに返信が来て、医務室に来るそうだ。

 寮から10分ほど歩き学園の正門に着くと、アーチ状の柱が並ぶ道でカーキ色のブレザーを着た赤髪の青年とあま色の髪の少女が思案げに唸っている。

「明日の任務はさっすがに二人じゃ厳しいんじゃあねえかな~」

「そんなこと言っても条件満たす1年なんてそうそういないと思うけど。だから二人で行くしかない」

「だよな~」

 少女のぶっきらぼうな返しに青年は苦笑する。

(俺達も明日から任務に参加するんだよな。今のところ指名はされていないしあとで学園掲示板で参加できそうなのを確認しておくか)

 彼らの後ろを通りすぎ、校舎の中の医務室に足を運ぼうとするが、赤髪の青年に声をかけられてしまう。

「そこの1年生の君!!」

 俺は振り向き俺ですかと自分に指を指す。

「そうそう、君しかそこにはいないだろうよ」

「はじめまして、1年の獅子王 帝といいます」

 一応自己紹介をしておく。

「これは丁寧だな獅子王君。俺は2年の青葉 (リツ)って名前だ 。よろしく!!そんで横にいる猫耳フードを被った女は…」

 青葉先輩が目線を移した隣にいるパーカーのフードを被った無表情な少女も自己紹介をしてくれる。

「獅子王君。君の噂はかねがね聞いている。私は鬼灯(ホオズキ) (カナエ)

(噂?俺はそんなに認知されているのか?)

 無表情のまま言う鬼灯先輩はところで、と話を変える。

「初対面で失礼だけど、獅子王君の階級はなに」

 唐突な質問に少し詰まってしまう。先程漏れ聞こえてきた話に関係があるのだろうか。

「…一応中級です」

 俺が答えると急に青葉先輩が嬉しそうに指を鳴らす。

「よっしゃ当たりを引いたみたいだぜ叶!!」

「彼にとっては外れだろうけどね」

「むっ、そんなこと言うなよ~」

「けど、絶対逃がさない」

 そんなやり取りを先輩たちはしているが、こちらは全くついていけない。

「待ってください。何の話をしているんですか」

 このままでは勝手に何かが決まってしまいそうなので話に割って入る。

「ああ、いや、すまんな獅子王君。俺達明日の任務で少し人手不足でさ~中級以上の生徒を探してたんだよな~」

「そう。そこで丁度良いときに獅子王君が通りかかった。しかも中級」

 俺も掲示板で任務を探そうとはしていたが、さすがに内容も確認せずに受けるほど馬鹿ではない。ましてや、今は紅葉のところへ向かう最中だ。

「いくら通りかかったからと言って何故1年である僕なんですか。2年や3年の知り合いがいるはずでは…」

「みんな任務で忙しい。今の時期は特に」

「そっ。1年が入学したての今の時期は2年3年の任務が多くなってるんだよ。1年の中級に出会えるなんて俺達は運が良い」

 また勝手に参加する方向へと進んでいる。この先輩達は強引な人のようだ。

「まだ参加するなんて言ってないですよ。それに俺は今から向かう所があるので相談する暇もないんです」

「だめ。逃がさない」

 この場から離れようと思ったが鬼灯先輩に止めれてしまう。

「まあ、叶。そこまで強引にいかなくていいじゃん。獅子王君、気が向いたら俺達の名前を掲示板で探してくれよ」

「わ、わかりました」

 鬼灯先輩とは違い、青葉先輩は意外とあっさりとしている。

「律は甘い 。せっかくの好機、中級の1年なんてなかなかいないの

 に」

 少し不機嫌そうな顔で青葉先輩に抗議をしている。

「んじゃ、頼むぜ獅子王君」

 そう言い、二人の先輩は去ってしまった。

 中級以上の生徒を求めていたということは、あの二人も中級以上だろう。例え、2年であろうと中級が多いというわけではない。むしろ2年も3年も下級の割合は結構高いだろう。

「まあ、あとで見てみるか」

 どちらにせよ、掲示板は見るつもりではいたのだから結局は目を通していただろう。正直どんな任務かは気になる。

 ただ、恐らく荒事のような気はする。








 先輩が去って行った後、すれ違いで梨恵留が来たのでそのまま合流し医務室へと向かった。

 医務室に着くと、紅葉は既に出掛ける用意は終わっていたようだった。

「遅かったわね帝」

 開口一番で遅刻を咎められた。

「途中で2年の先輩に絡まれたんだ。仕方がないだろう」

「あら、帝に2年生の知り合いなんていたかしら」

「さっき知り合ったばかりだ」

「ふ~ん。なんの話を?」

「それはまた後で話すよ」

 そう、と言い紅葉は梨恵留に声をかける。

「折角の休日なのにごめんね梨恵留」

「いえ、私のことはお気になさらずに。それよりも体調はもうよろしいのですか?」

「ええ、元々病気だったわけではないから1日寝れば落ち着くわ。心配かけたわね」

「紅葉さんが無事ならそれでいいんです」

 愛らしい笑顔な梨恵留だ。ただやっぱり幼い。ランドセルを背負わせたい。

「行きましょう、帝」

「ん?あ、ああ」

 勝手な想像をしていた俺は話し掛けられて少しどもってしまった。

「どうかしたんですか、帝さん」

「いや、なんでもないよ」

 ランドセルを背負って欲しいなんて言えるわけがない。



 医務室を出て向かったのは学園敷地内にあるショッピングモールだ。

 敷地に内に住んでいる人以外にもたくさんの人がくるモールであり、店数も多い。

 特にこれと行った目的は無く、ただの気晴らしに来ただけなので3人で適当に見て回る。

「そういえば、剛太はどうしたの」

「一応連絡はしたんだが返事がない」

 結局剛太からは返信が来ず置いてきてしまった。まあ置いてきてしまったもなにもそもそも約束していた事では無いので別に構わないのだけど。

 今見て回っているのは女性用の洋服なのだが、男の俺としては肩身が狭い。何せ俺以外は女性しかいない。紅葉と梨恵留がいるとはいえ、知らない女性ばかりの場所は落ち着かない。

「服を選んでくれないかしら」

 紅葉に声をかけられ少しほっとする。

 俺に選んでと言われても服に関して知識があまりない。それに紅葉は何を着ても似合いそうだ。

「これはどうだ」

 悩んだあげく、俺が選んだのは薄い水色をしたワンピースだ。

 これからは夏だし、涼しそうな奴を選んでみた。俺のセンスに自信は無かったので、無難にいったとも言えるが…。

「試着してみるわ」

 まあ、似合うだろうな。何よりも紅葉はスタイルも顔も良い。それに加え、魔法闘士として才能もある。これが才色兼備と言ったやつなのだろう。

「楽しみですね」

 一通り見終わったのであろう梨恵留が、俺よりも興奮ぎみに期待をしているみたいだ。

「梨恵留は何も試着してみないのか?」

「ええ、好みのが無かったので」

 結構見て回っていたがお気に召す服が無かったようだ。

「どうかしら」

 試着室のカーテンが開き、紅葉が姿を見せる。

「す…すごいっ」

「…」

 自分の期待をあまりにも越えていたため言葉が出ない。

「何か言いなさいよ帝」

 少し照れ臭そうにしている紅葉は不満を洩らす。

 いや、違うんだ紅葉。綺麗でとても似合っているんだが、なんというかくさい台詞になってしまうが言うならば女神のようだ。

「その…凄く綺麗だよ紅葉」

「く…紅葉さんとても似合ってます!!」

「そう、なら買うわ」

 普段クールなイメージが強いためワンピースを着た時のギャップは凄まじかった。元々綺麗なのは分かっていたが、こんなにもワンピースが似合うとは。

「行きましょう。梨恵留は欲しいものは見つからなかったようね」

 会計を済ませた紅葉は梨恵留を見てから周りを見渡す。

「うん、良いお店を発見したわ」

 そう言うと先に行ってしまったので急いで後を追う。

「梨恵留は目を瞑ってて。絶対似合うのを持ってくるわ」

 とても気になる。紅葉はどんな物を持ってくるのだろう。しかも何故あんなに自信ありげに。

 梨恵留に似合いそうな服。幼稚園児の服。勝手に想像して勝手にほのぼのとした。

「少し楽しみですね。どんなのを選んで来てくれるのでしょうか」

「紅葉のことだ外れはないだろう」

「ふふふ、それは期待できそうです」

 しばらくすると紅葉が何かを抱え戻ってきた。

 ああ、あれは絶対に似合うだろうな…。

「待たせたわね」

「いえ、大丈夫ですよ。それよりどんな物を持ってきてくれたんですか?」

「そう焦らないで。まずはほら、両腕を少し広げなさい」

「こうですか?」

 梨恵留は紅葉に言われるがままに行動をする。

「そうよ、そしてここに腕を通して…良い感じよ。手は肩紐を持つの、憎たらしいほど良い感じね」

「え…えっと紅葉さん?」

「あ、ごめんなさい。これを忘れては駄目ね。」

 紅葉は梨恵留の頭に黄色いものを乗せる。

「目を開けてもいいわよ」

 姿見の前で行き、自分の姿を確認する梨恵留。

「でしょうね。途中でなんとなくわかってましたよ。服だと思って期待してたらなにか背負わされますし。なんですかこれ。綺麗な赤色ですね。極めつけに帽子ですよ。なんですかこれ。凄く良い黄色いですね」

 じと目で梨恵留は紅葉を見ている。

「分かっているわ。色が気にくわなかったのね…くっ、私としたことがっ!!」

「"くっ"じゃないですよ‼これランドセルじゃないですか‼小学生が背負う物ですよ‼」

「意気揚々と自信ありげに待っててなんて言うから期待をしてたのに…いいえ、期待した私がバカだったのです‼」

 いまだに赤いランドセルを背負ったままの梨恵留は床に膝と手を付きうなだれている。ここはフォローをしておかないと。

「梨恵留、その…なんだ、と…とても似合っているぞ」

「そんな照れながら言われても嬉しくなんかありませぇぇぇぇん!!しかもこの歳でランドセル似合ってるって誉め言葉じゃないですよ‼」

「落ち着きなさい」

「元凶は貴女ですよ‼」

 このあとも梨恵留は騒ぎまくり紅葉と組み手状態になり華麗にあしらわれていた。

 疲れ果てた梨恵留を背負いショッピングモールをあとにした。

 なんというか、まったく本当に二人とも可愛らしい奴だ。


 勿論、梨恵留のランドセル姿の写真は撮らせてもらった。




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