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蒼き天まで穿てば  作者: 卿 兎
一章 〈魔法闘士〉
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初任務

 


 名家対名家の模擬戦は結果的に、一之瀬家である一之瀬会長の勝ちで終わり、それと同時に最後の模擬戦が幕を閉じた。


 負傷した紅葉クレハは軽傷だったが、念のため医務室へと運ばれた。


 模擬戦を見ていた一年全員何があったのかよくわかっていないだろう。


 模擬戦が始まる前の熱は行き場を無くし、不完全燃焼のままその日は終わった。


 幸い、医務室に運ばれた紅葉はすぐに目を覚ましたそうだ。大事をとって一日医務室に拘束すると菫さんから連絡があった。


 拘束という言葉を使っていたから恐らく、紅葉が抵抗をしたのだろう。しかし、そこは姉、力付くで抑えたのだろう。


 剛太と理恵瑠、そして俺達も大人しく寮へと戻る事にした。


 剛太を連れての寮への帰り道だ、俺は菫さんと会長以外の先輩に初めて会った。








 模擬戦が終わり、寮へと向かっている俺と剛太は任務のことについて会話をしていた。


「任務か~、俺達はまだ一年だしお手伝いみたいなのしか受けれないんだろうな~」


 魔法闘士学園の任務は、学園内にある掲示板か学園専用ホームページで受けられる様になっている。勿論、依頼を出すことも可能だ。


 任務は下級、中級、上級に分かれて貼り出されており、任務契約の条件を満たしていれば誰でも受ける事ができる。


 剛太が言ったように、一年は正直言って任務というよりはお手伝いみたいなのが多いらしい。


「階級が中級なんだろ? だったらそれなりの任務だって受けられるだろ」


 剛太の階級は中級だったはずだ。


 中級と下級とでは大きな差があり、中級と上級ではさらに大きな差がある。下級から中級に上がるのはさほど難しくはない。だが、中級以上になると一気に上がりづらくなる。中級以上は危険が伴う任務が多くなるからだ。上に上がるというのはそれなりの評価が必要になる。


 入学時点で中級に位置付けられている剛太は、こう見えて一年にしては評価が高い方なのだ。言うまでもないが紅葉も中級だ。


「中級ね~、紅葉もお前も中級だけど山義は下級だし山義に合わすしかねえかな」


「別に、みんな一緒に受ける必要はないだろ。紅葉だって療養中だしな」


「そうだけど、どうせ燕ならすぐ帝の元へと戻ってくるって」


 へらへらと笑いながら言う剛太に、俺は苦笑いを返す。


 剛太の言うとおり、紅葉ならばすぐに復帰するだろう。怪我も軽傷だったしな。


 だが、紅葉の怪我を抜きにしても任務を一緒に受ける必要は無いと思っているのは本心だ。理恵瑠には悪いが、最初はともかく、いつまでも合わせる訳にはいかない。


 そんな会話をしているうちに、寮の近くまで着いた。


 魔法闘士学園の寮は学年毎に分かれている。


 俺達は当然一年の寮へと着いた。


 その一年の寮の入り口の近くに、カーキ色のブレザーを着た赤髪の青年とパーカーのフードを被った小柄な少女が何やら会話をしていた。


「明日の任務はさっすがに二人じゃ厳しいんじゃあねえかな~」


「そんなこと言っても条件満たす1年なんてそうそういないと思うけど。だから二人で行くしかない」


「だよな~」


 少女のぶっきらぼうな返しに青年は苦笑する。


(俺達も明日から任務に参加するんだよな。あとで学園掲示板で参加できそうなのを確認しておくか)


 彼らの後ろを通りすぎ、校舎の中の医務室に足を運ぼうとするが、赤髪の青年に声をかけられてしまう。


「そこの一年生の君達!!」


 俺と剛太は振り向き俺ですかと自分に指を指す。


「そうそう、君達しかそこにはいないだろうよ」


「俺は2年の青葉 (リツ)って名前だ 。よろしく!!そんで横にいる猫耳フードを被った女は…」


 青葉先輩が目線を移した隣にいるパーカーのフードを被った無表情な少女も自己紹介をしてくれる。


「私は鬼灯(ホオズキ) (カナエ)。よろ」


 無表情のまま軽い挨拶を言う鬼灯先輩はところで、と話を変える。


「初対面で失礼だけど、君達の階級はなに」


 唐突な質問に少し詰まってしまう。先程漏れ聞こえてきた話に関係があるのだろうか。


「…一応二人共中級です」


 俺が答えると急に青葉先輩が嬉しそうに指を鳴らす。


「よっしゃ当たりを引いたみたいだぜ叶!!」


「彼等にとっては外れだろうけどね」


「おっと、そんなこと言うなよな」


「けど、絶対逃がさない」


 そんなやり取りを先輩たちはしているが、こちらは全くついていけない。


「待ってください。何の話をしているんですか」

 このままでは勝手に何かが決まってしまいそうなので話に割って入る。


「ああ、いや、すまんな。俺達明日の任務で少し人手不足でさ~中級以上の生徒を探してたんだよな~」


「そう。そこで丁度良いときに君達が通りかかった。しかも中級」


 俺も掲示板で任務を探そうとはしていたが、さすがに内容も確認せずに受けるほど馬鹿ではない。


「いくら通りかかったからと言って何故一年である僕なんですか。二年や三年の知り合いがいるはずでは…」


「みんな任務で忙しい。今の時期は特に」


「そっ。1年が入学したての今の時期は二年三年の任務が多くなってるんだよ。一年の中級に出会えるなんて俺達は運が良い」


 また勝手に参加する方向へと進んでいる。この先輩達は強引な人のようだ。


「まだ参加するなんて言ってないですよ」


「だめ。逃がさない」


 この場から離れようと思ったが鬼灯先輩に止めれてしまう。


「まあ、叶。そこまで強引にいかなくていいじゃん。気が向いたら俺達の名前を掲示板で探してくれよ」


「わ、わかりました」


 鬼灯先輩とは違い、青葉先輩は意外とあっさりとしている。


「律は甘い 。せっかくの好機、中級の一年なんてなかなかいないのに」


 少し不機嫌そうな顔で青葉先輩に抗議をしている。


「んじゃ、頼むぜ」


 軽い口調でそう言い、二人の先輩は去ってしまった。


 中級以上の生徒を求めていたということは、あの二人も中級以上だろう。例え、二年であろうと中級が多いというわけではない。むしろ二年も三年も下級の割合は結構高いだろう。


「まあ、あとで見てみるか」


 どちらにせよ、掲示板は見るつもりではいたのだから結局は目を通していただろう。正直どんな任務かは気になる。


 ただ、なんとなくだが荒事のような気はする。


「どういう内容だったら受けるんだ?」


 剛太も気になるのか。俺が受ければ剛太も受ける気なのだろう。


「さあな、任務自体受けたことがないんだし、他の任務を見てから決めるさ」


 俺はそう言い、自室へと向かった。





 自室へと戻ってきた俺はすぐに掲示板を開いた。


 確か名前は青葉 律だったか。


 調べるとすぐに任務が表示され、任務登録者代表の欄に青葉先輩の名前があった。


 この任務で間違いないだろう。


 参加条件は先輩達が言っていたようにクリアしている。


   ・内容-ブラッディ井上の捕獲又は情報収集(捕獲が優先)


 ・参加条件-中級以上4人以内


 ・場所-主に廃墟市街地で活動。いなければ他の活動地域の模索。


 ・容姿-金髪に黒縁の眼鏡、中肉中背。


 説明欄には簡単な情報が明記されていた。


「ブラッディ井上? 何て言うか仰々しい名前だな」


 ついそんな声をこぼしてしまった。


 任務の詳細を呼んだ後も、他の任務を探したがこれだという物は見つからなかった。


 最後に先輩の任務へと戻り確認をする。


 まあ、一人で任務するよりかはましか。


 剛太に連絡をし、自分と剛太の名前を参加申請欄に記入し送信をすると、数分で許可が降り、その任務の募集はすぐに打ち切られていた。


 初の任務となるが、心配はしていない。


 任務は明日の午後と書いてあった。結構ギリギリまで募集していたみたいだな。だから鬼灯先輩はあんなに必死だったのか。


 まあ、とにかく参加することは決まったのだ。


 俺は紅葉に任務のことを電話で伝えた。


「俺と剛太は明日任務に行ってくる」


「あら、もう決まったのね」


「ああ。寮の帰り道にたまたま先輩にあって誘われた」


「先輩? 帝に姉さん以外の知り合いなんていたかしら」


「いや、今日初めて会った」


「そう。どんな任務かはわからないけれど、気を付けてね」


 相変わらず紅葉は俺に対しては過保護だ。


 だが、そうさせてしまっているのは他でもない俺だろう。


 模擬戦で負け、身体的にも精神的にも傷付いた紅葉は少し弱気になっている気がする。


 そもそも、紅葉が負ける事自体がそうないのだから。


「大丈夫さ。紅葉こそ、大人しくしていろよ」


 そして俺もまた、紅葉に対しては過保護なのだろう。







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