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蒼き天まで穿てば  作者: 卿 兎
一章 〈魔法闘士〉
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燕 紅葉

 

 一ヶ月が経つのは早く、模擬戦の最終日となった。


 昨日特性を使ったことによって、俺の身体は酷く重く感じる。


 そんな身体に鞭を打ちつつ、だらだらと練武場へと紅葉(クレハ)と共に足を運ぶ。


「辛そうね、(ミカド)


 横を歩く紅葉は心配そうに俺の身体を気遣ってくれる。


 幼馴染みである紅葉は俺の特性の事をよく知り、今の俺の事をからかう様子など微塵もない。


「いや、久し振りの割りにはたいした事はないよ。 特性を使っていた時間も短かったし」


 俺の特性に対する反動は、使用時間に比例して酷くなる。いくら特性だとはいえ、魔力の上限を突破するのだ。反動が大きくて当然だ。


「そう。 でも無理はしないで」


「そんなに心配しなくても大丈夫さ」


 紅葉は、二人きりの時は俺に対してかなりの過保護になる。他の人が周りにいる場合、名家としての世間体があり、それなりの振る舞いを見せなければならない。その反動と言う訳でもないが、昔の事故の事もあり、俺に対しては周りの人間に対しての扱いとはかなり異なる。


 ()く言う俺も紅葉に対しては特別扱いだが。


 俺の速度に合わせて歩いていたため、練武場に着いたのはいつもより少し遅く観客席も後ろの方しか空いていなかった。


 いつもより遅くついたのは、どうやら俺達だけではなかった様で、大きな手をこちらに向かって振る剛太と目が合う。


 一番後ろに座る剛太の方へと行き隣へと腰を下ろす。


「おはようございます。 帝さん、紅葉さん」


 俺が座った剛太の逆隣からひょっこりと、小柄な少女が顔を出す。


「おはよう梨恵瑠(リエル)。 剛太のせいで見えなかったわ」


「居たんだな梨恵瑠。 おはよう」


「うっ…朝からなかなかショックな事を言わないでください…」


 別に、からかったつもりはなかったが、梨恵瑠はツインテールを跳ねさせ憤慨(フンガイ)する。 だが全く怖くはなく、ただただ可愛いだけだった。


「剛太の図体が大き過ぎるのが悪かったのよ。 梨恵瑠が小さいのが悪い訳では無いわ」


「俺のせいかよ」


「はっきりと小さいと言ってるじゃないですか…」


 どちらも事実なだけあって俺にはフォローができない。


 練武場の中央には既に教師が立っており、時間も迫っていた。


 やがて時間となり張りある大きな声で教師が練武場内の喧騒を静める。


「模擬戦は今日で最後だ。 お前らにとってどんな経験になったかわからんが、魔力の扱いが難しい事ぐらいは自覚出来ただろう。 さて、今日は最終日と言うこともあって特別だ。 見て勉強をしてくれ!! おい!! 一之瀬!!」


 そう大きな声で呼んだ名は、この学園にいる者ならば誰でも知っており、世間でも名の通っている名だった。


 ざわつきの中階段を降りてくる少年は、この学園の生徒会長を務める一之瀬(イチノセ) 詠史郎(エイシロウ)、紅葉と同じく名家の人間だ。


 階段を降りてきた一之瀬会長は、教師のいる中央で止まる。


「今年の1年にも名家の人間がいたな!! 燕 紅葉!! 降りてこい!!」


 そう名前を呼ばれた紅葉を横目で見ると、心底めんどくさそうな表情を浮かべていた。


「紅葉、勉強させて貰うよ」


「今さら帝が私の闘いを見たところで、帝が得るものなんてないでしょう。帝がした方が余程見る方は勉強になるわよ」


 少し頬を膨らませツンとする。


 紅葉は席から立ち、階段を降りていく。


 会長同様、紅葉も中央まで歩き立ち止まる。


「初めまして、紅葉さん」


「初めまして、一之瀬会長。姉がお世話になっているようで」


 紅葉の姉である(スミレ)さんも生徒会所属のため、一之瀬会長とは親しいのか。


「お世話になっているのは僕の方だよ。菫にはいつも助けられている」


 人の良さそうな笑顔を浮かべ、小さく肩を竦める。


「雑談はそれぐらいにしろ。ルールはいつも通りだ。それ以上の説明はいらんな」


 まだ学生だとはいえ、名家同士の勝負が見れる期待で練武場の熱は高まっていく。


 たかが歳が2つ上、されど2つだ。


 魔法闘士の2年はかなり大きい。ましてや学生ならばなお。


 今の紅葉が一之瀬会長に何処まで通用するのか。


 中央で対峙する二人は既に相手しか見ていないようだった。






 対峙する二人の間で、コインが回転しながら宙を舞う。


 当然の如く、コインは地面へと落下をする。


 コインが地面に付いた瞬間、魔力が弾ける音がする。


 落下した瞬間に仕掛けたのは紅葉だ。


 紅葉は一瞬で武具を抜き、魔力弾を会長に向かい撃ち放った。


 紅葉の早抜きは紅葉が最も得意としてる特技だ。異常なまでに早く、紅葉以上に武具を早く抜く魔法闘士は大人を含め、俺は見たことがない。


 しかし、それをもってしても、紅葉の魔力弾は会長には届いていなかった。


「開始早々、攻めてくるね、紅葉さん。噂以上の早抜きだよ。君の早抜きの噂を聞いていなかったら防げていなかった」


 会長の前には盾の形をした魔創具が具現化されていた。


「…ご謙遜を。会長ならばこの程度初見でも防げたでしょう」


 紅葉は武具を構えたままだ。


「それは過大評価が過ぎる。それに、君は自分のことを過小評価し過ぎだ」


 紅葉の早抜きは初見では脅威であるが、抜いてしまえば意味などない。しかし、紅葉は早抜きだけが取り柄ではない。


 早抜き加えての早撃ち。しかし、それをもってしても会長は健在のようだった。


 紅葉の銃撃を受けた会長の盾は霧散し、消える。


 霧散した盾の奥には無傷の会長が立っている 。


「人伝に聞く話って言うのはやはり、あまり信用ならないな」


 腕を前に出したままの会長は、笑みを浮かべる。


「それに、君に対する周りの評価が低い。さすがにここまで早いとは思わなかった」


「そのわりには、余裕だったと思いますが」


「いやいや、冷や汗物だよ」


 身内贔屓(ヒイキ)ではないが、紅葉の早撃ちを防ぐのはかなり困難だ。だが、それを避けるでもなく魔創具で防いだ会長の具現化速度もかなりのもだ。さすが名家であり学園会長を勤めているだけのことはある。


「先手を取られてしまったのは少し悔しいな。次はこちらから行かせて貰うよ」


 そう言いながら駆け出す会長の右手には新たな魔創具が具現化される。


 具現化されたのは一本の剣だった。


 紅葉は寄ってくる会長に銃撃を浴びせるが、全て剣で弾かれるか、避けられてしまう。


 今分かったことだが、どうやら紅葉は動きながら迎撃するのは苦手のようだ。


 剣が届く距離まで近付いた会長は突きを繰り出す。


 紅葉はサイドステップでかわすが、剣の軌道が突如変わる。


 ギリギリ体を捻り、(カス)っただけで済んだ。


「今のは蛇腹剣か」


「蛇腹剣、ですか。初めて聞きました」


 剛太の呟きに梨恵瑠が反応する。


「ああ、さっき突きをした会長の剣が伸びて軌道が変わっただろ? 蛇腹剣っていうのは刃の部分がワイヤーで繋がれつつ等間隔に分離する剣のことだ」


「紅葉さんはよくあれを避けれましたね。 あれ? そういえば会長はさっき盾の魔創具を出してませんでしたか?」


 剛太が言ったように蛇腹剣は分離する剣だ。鞭のようなもので、軌道が読みにくい。


「あれは会長の特性だよ梨恵瑠」


「複製、ですか」


 梨恵瑠の指摘は誰しもが思うところだ。


 会長の特性は、名家の一之瀬家の魔力操作特化。会長のは複製、しかし形だけで特性だけのようだが。





 弾幕を張りつつ後退し、距離を再度とる紅葉。


「所見で今のを避けるのか。全く、君は本当に15歳かい?」


「よく言いますね。手を抜いてる人に褒め称えられたところで…。それに、避けきれて無いですから」


 あまり余裕が無さそうに紅葉は言葉を律儀に返す。


「君だって本気ではないだろう? そろそろいいんじゃないかい?」


 紅葉は黙り込む。


 練武場内も静寂に包まれる。


 やがて紅葉は黙り込んだまま、武具を会長に向け、


「後悔しないでくださいよ、一之瀬会長」


 冷めた目付きでそう言うのであった。



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