表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼き天まで穿てば  作者: 卿 兎
一章 〈魔法闘士〉
4/20

獅子王 帝

 着々と模擬戦は進行していき、ラスト2日間となった。


 今までの模擬戦を見てきたが、自分を含め未熟の一言に尽きる。それを自覚できただけでもこの1ヶ月は有意義だった言えるだろう。


 今日は朝から模擬戦だ 。


 練武場に向かう途中の道で、聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「山義ぃ~てめぇみたいな中途半端で役に立たない魔法を持つやつがこの栄えある学園にいると同じ中学出身の俺達が恥ずかしいんだよな~」


「そ…そんな…」


 3人の男に囲まれ、ビクビクと震えているのは梨恵瑠だった。


「だーかーらーさっさと退学してくんねえかな」

 高らかに笑いながら圧力を掛けているのは、金髪でチャラそうな青年だ。見たことが無いので同じクラスでは無いだろう。

「わ…わたしだって…もく…目標…が」


 最初にあった時の梨恵瑠みたいだ。あれは人見知りではなく1種のトラウマだったのだろうか。


「あぁ!?」


「ひっ…すみません…」


「お前みたいなたいした実力もないやつなんて魔法闘士になったって足手まといになるだけだよぉ!!弱いやつは魔力を使う権利もねえんだ!!わかったらさっさとやめちまえ!!」


 ああ、こいつは俺の嫌いなタイプだ。自分の様子が変わるのが自覚できる。恐らく今の俺は"青"だろう。


「そろそろ模擬戦が始まるぞ。そのくらいにしたらどうだ」


 俺は梨恵瑠と金髪青年の間に割って入る。


「なんだてめえ。あー、知ってるぞ。模擬戦で見たわ、魔力が少ない奴だよな。乙なこった。でき損ない同士で助け合いか」


「しかもお前燕紅葉の腰巾着だろ。女にくっついて歩くなんてだっせやつだな」


 俺の視界には紅葉がこちらに歩いて来るのが見える。これはまずい。


「俺はお前の顔すら知らないんだが。模擬戦に出ていたか? ああ怖くて今まで休んでいたのか。あと2日しかないんだし、最後まで休んだらどうだ?」


「なんだとてめぇ!!」


 これくらいの挑発で切れるとは沸点の低いやつだ。どちらにせよ、もう言い合いは終わりになる。


「誰かしら、帝のことを私の腰巾着なんて行ったのは」


 そう言いつつも、特製の銃は金髪の後頭部に向けられている。


「帝、これは撃っていいのかしら?」


 紅葉はこちらを向き、首を傾げる。


「やめとけ、こんなやつに撃ったら魔力の無駄だ」


「そう、ならやめてあげるわ」


 素直に銃を下げ、腿に着けているホルスターにしまう。

「さっさと練武場に行きなさい。目障りよ」

 紅葉は酷く冷めた目つきで見ながら、男たちを追い払う。


「ちっ、行くぞ」


 金髪の少年は、他の二人を連れて練武場へと去っていった。


「ご…ご迷惑おかけしてすみません」


 俯いたまま、梨恵瑠は謝罪をしてくる。


「構わない。それよりあいつらとは中学の同級生のようだな」


「…はい」


 梨恵瑠は辛そうな顔で肯定を示す。何かが中学時代にあったのだろう。


「その、あの人達に…」


 梨恵瑠が喋り始めたところで紅葉が割って入る。


「あいつらにいじめられていたのね。ただの屑ねあいつらわ」


「紅葉、気持ちはわかるが今は梨恵瑠の話を聞こう」


 昂っている紅葉を制し、梨恵瑠に続きを促す。


「紅葉さんのおしゃった通り、いじめられていました。理由は私の魔法が戦いの時につかえないから、と言われました」


 梨恵瑠の魔法が使えない? あいつらの目は節穴か。


「私も使いこなせていなかったので反論ができずにいまして…今でも会えばああいうことになっているのです」


「俺は梨恵瑠の魔法が使えないとは思わないのだが」


「恐らく、魔法を使うときに声を発することを使えないと言っているのよ。さっきの金髪達は」


 そんなことで? そんなことで梨恵瑠のことをあんな扱いしていたのか?


「あの人達はそれなりに実力があるのです。入学時のつけられた階級は下級のAランクだそうです」


 1年にしては確かに高い位置にはいるようだ。だがそれとこれとは違う。階級が高いからと言って上から物を言えるものではない。それはただの理不尽だ。梨恵瑠が足手まといになる?そんなわけがないだろう。あいつらは梨恵瑠のどこを見ている!!1ヶ月弱しか一緒にいない俺でも良さがわかっていると言うのに。沸々と怒りがわいてくる。


「帝さん?」


「ん?…ああ、すまない。少し考え事をしていた」


 昂っているのは紅葉ではなく俺のようだ。


「その目は…」


 俺の目を見た梨恵瑠は少し驚いているようだった。


「梨恵瑠、帝の今の瞳の色をしっかりと覚えておきなさい」





 練武場に入った俺たちは観客席に座り、開始まで待った。


 時間になると、いつものようにいかにも体育会系の先生が模擬戦の組を呼び始める。


 着々と模擬戦は進行していき、今日の最後の組になった。


「最後の一組は…獅子王帝」


 呼ばれた俺は席から立ち上がり、練武場の中央へと向かう。


「もう一人は…」


(アキナ) (ヤシロ)


 聞いたことの無い名前だな。模擬戦の全てをしっかりと見ている訳ではないし、なにより生徒の数が多いので名前などほとんど覚えていない。


 名前を呼ばれ、観客席から出てきたのは金髪頭の青年だった。





「よぉ。またあったな腰巾着」


 ああ、こいつを見ただけでこんなにも簡単に半分ぐらい成れるとは思ってる以上にこいつには腹が立っているらしい。俺は。


「今日で俺たちの模擬戦参加は終わりだな。精々楽しもうじゃない金髪頭」


「はっ!!大した魔力をもたねえお前なんか楽しむ訳ねえだろうが‼始まって数秒で終わりだよばーか」


 俺の皮肉を笑い飛ばし、魔創具を具現化させる。


 (アキナ)の魔創具は空中に浮く6本のワイヤーだった。


「なんだ、俺が相手じゃあ数秒しか持たないのか?俺が思っている以上にお前は弱いんだな」


 馬鹿にされた歯軋りをし、俺を睨んでくる。相変わらず気が短い。


「ちげえよっ!! 俺がてめえをぶっ飛ばすんだよ!!」


 声を荒げ戦闘体勢に入る。俺も腰の後ろからダガー抜き、右手に構える。


 コインが上に飛ぶ、くるくると回り、落ちてくる。


 落ちると同時に動いたのは俺だ。足に魔力を集中させ、一気に相手の懐に近づく。


 だが、空中に舞うワイヤーによって先手を阻まれ 、ダガーとワイヤーがバチっと音を立て、ぶつかり合う。阻んだワイヤーとは違うやつが左右から攻撃を仕掛けてくる。俺は後ろに飛び難なく攻撃をかわす。


 さて、先手を取れなかったがそれによってわかった事はある。


 まずワイヤーはそれなりに硬いようだ、数は6本。何よりも面倒うなのはあのワイヤーは電気を帯びていた。


「あのワイヤーをダガーで防ぐのはあまり良くないな」


 ならばどうするか。簡単だ、当たらなければいい。ただそれだけだ。


「おいおいどうした腰巾着!! なにボーッとしてんだよ!!」


 挑発と同時にワイヤーを4本まとめて飛ばしてくる。左右2本ずつ向かってるが焦りなど毛頭ない。


 視界に収め無くても正確にどこから来るかが分かる。ギリギリのところで体を深く沈め、4本のワイヤーを激突させた。


 その一瞬の好きにしゃがんだまま足に力を込め、その場から離脱する。残りのワイヤーもやり通し懐に近づいたが、商の目の前に更に2本出てき攻撃を仕掛けてくる。辛うじて魔力を移動させた腕でガードは出来たが吹っ飛ばされた。少し痺れたが問題はない。


「…まだ出せたか。6本と決めつけたのは早計だったな」


 己の未熟さを痛感する。

「はっはっは!! 思い込みは駄目だぜ腰巾着!! しかし意外とタフだなお前。普通なら気絶してるんだがな。あのチビのようにな」


 ちび…?


「梨恵瑠のことか…」


 こいつはこんなことを普段、梨恵瑠にしていたと言うのか?


「さあ~な~。教えてやんねぇ。でもまぁ役立たずな奴だよ」


「お前は何故そんなに梨恵瑠のことをそんな風に言うんだ」


 ジリジリとダガーを構えながら近づき、問う。


「ああ?あいつの魔法は声を出さなきゃ発動しないだろ? もしも実戦であんな発動の仕方でやられたら敵に感づかれたりして奇襲だってできやしないだろ。しかも、あいつは身体能力が低い。強化しても、だ。同じ任務行くやつは可哀想だよな~」


 確かに声を出さなければならないのは奇襲作戦には厄介だが、任務は奇襲ばかりではない。身体能力は模擬戦をしたときには多少は感じた。


「だから俺が言ってやったんだよ、俺の女になったら魔法闘士になる協力をしてやるよってな。そしたらあいつは断りやがった。この俺様の誘いをな!! 使えないくせに‼ 弱いくせに‼」


 振られた逆恨み。これほどくだらない理由だったとは。


「弱い奴はいらない。足手まといになるだけだ」


 くだらない。こんなくだらないことで梨恵瑠はあんな罵声を浴びせられていたのか。そうか。

 俺は模擬戦を開始したときよりも怒りが深くなっていることを自覚する。

 一度目を閉じゆっくりと開ける。すーっと瞳の色が変わっていく。


「もちろんお前もだよ腰巾着!!」


 ワイヤーが6本同時に飛んでくる。普段なら後ろないし横に飛び回避していただろう。だが、今の俺には必要ない。6本すべての魔力の道筋が見える。


 俺はダガーをしまい、左足を後ろに下げ商に対して半身の体勢になる。


 ワイヤーは全て掠りもせず後ろへと過ぎ去り地面に刺さる。


「なっ…!?なぜ当たらない!?」


 なにも応えず両手を前にかざし、魔創具を具現化させる。両手に現れたのは少し長めの双剣だ。右手に持つの刀身が赤黒く、左手には刀身が青い剣だ。


「違うな。 弱いのはお前だ。金髪頭」


 青い刃を商へと突き付ける。


「魔創具を具現化できる魔力がなぜある!!お前は魔力が無いんじゃなかったのか!?」


 予想外の事が起こり、ましてやワイヤー全てを簡単に避けられた事で狼狽(ロウバイ)してるようだ。情けないやつだ。


「お前なんかには答える気はないな」


 地面に刺さったままのワイヤーを一振りで全て両断する。斬られたワイヤーは霧散し消えて無くなった。


「ぐああ!! なぜ俺の魔創具がそんな簡単にっ!?」


 狼狽(ウロタ)え過ぎだ。


 魔創具をかは破壊された商は、多大なダメージを負う。


「お前はさっきからなぜなぜばっかりだな。自分で確かめてみたらどうだ?」


 ゆっくりと歩き、近づいていく。


「8本もワイヤーを出したせいでもう魔力がないのか」


 商は歯軋りをし、再び残りのワイヤーを飛ばしてくる。避けることも斬ることもできるが、今は敢えてしない。くらったふりをしといてやる。


 飛んできたワイヤーはそのまま俺の体に巻き付いた。


「終わりだくそ野郎がぁぁぁ‼」


 魔力を込め、強力な電流を流してきた。バチバチと電流の弾ける音がし、やがて消える。


「な…なぜ立ってるんだよ」


 あの程度の魔力で今の俺に効くわけがない。


「さぁな。もういいか?そろそろ終わりにしよう商社」


 とはいえ、あまり長く持続できる訳ではないのでとっとと終わらせたい。首でも切ってやろうか。


「梨恵瑠を苦しめた覚悟はいいな」


「ま…待て!!俺はあいつのために!!」


 あまつさえもそんなことを言うのか。


「黙れ」


 身体強化された力で強引にワイヤーを解き、潰す。


 そして解くと同時に一瞬で距離を詰める。


 商の目線が俺に合っていない。いや、追い付けず合わせられないのだろう。


「ひっ…!!なんだその目の色は!!」


 目を見開き、脅える。


 さすがに防刃使用の制服でも双剣で攻撃をすれば人ごと切り刻んでしまう自信があるので腹部を剣の柄頭で叩いてやった。


「がはっ…!!お前…なんかに…」


「残念だけど梨恵瑠のことさえなければお前なんて眼中にもない。二度と梨恵瑠前に現れるな。次は殺す」


 すぐに気を失ったか。俺も疲れた。


 全身の熱が下がっていく。昂っていた感情も落ち着き、体が急に重たくなる。


「明日は体がまともに動かんな…」


 よろよろ歩き紅葉達の元へと戻る。


「帝さん!!」


 紅葉よりも先に梨恵瑠が寄ってきた。


「私のせいで、その」


 何か言おうとした梨恵瑠を手で制し、言葉を遮る。


「なにも言うな。成り行きでやったことだし、久しぶりに楽しめた」


「で…でも」


「楽しめたなんてよく言うわね」


 紅葉と剛太が少し送れてきた。


 紅葉が言いたい事は何となく分かる。


「全く相手にならなかったでしょ。さっきの貴方じゃ」


「久しぶりにあの帝を見て鳥肌が立ったぜ」


 確かに相手にはならなかったが、久しぶりにあの状態になれて楽しかったのは本当だ。1年ぶりぐらいだろうか。


「帝さん、魔創具を具現化できたのですね。やっぱり私の時の模擬戦は手を抜いていたのですか…」


「いや、違う違う。普段は無理なんだよ。条件付きと言うかなんと言うか…」


「梨恵瑠、練武場に入る前に帝の瞳の色を覚えているかしら」


 紅葉が助け船を出してくれる。あのときにも少しなっていたが、

 見られていたとは気付かなかった。


「ええ、青くなっていました」


「あの状態でなければ魔創具は使え無いのよ」


 あまり納得はいってないようだが、深く詮索をするつもりも無いようだ。ありがたいことだ。


「明日は寮で大人しく寝とくのか? 帝」


「そうしたいのは山々だが、明日で最後だし行く」


 ヘラヘラと笑いながら言ってくる剛太に即答した。


 反動が強いのだ、あの状態になると。今は大丈夫だが翌日が酷い。普段使えない程の膨大な魔力を使用したのだ、リスクはあって当然だが。



 俺は感情が昂った時に限って模擬戦の時のように目の色が変化し、魔力魂の上限が一時期に上がる。いわゆる限界突破だ。それこそが俺の特性能力であり、魔力感知は特性能力ではない。自分で言うのもなんだがただの才能だ。


 俺の魔力が低いのは生まれつきではない。昔、ある事故によって魔力魂そのものが減ったのだ。およそ50分の1ぐらいに減った。


 しかし、特性能力が発動し、限界突破をすると今の魔力魂の約50倍ぐらいになり、昔と同等の魔力が使えるようになるのだ。


 ただ、反動がかなりきつい。翌日になると魔力が枯渇し1日は使えないし、体のあちこちが痛むのだ。


 まあ、無理矢理上限を上げているのだから納得はできる。


 そもそも特性が発動する機会はあまりない。自分の意思でできる訳ではないし、あまり他人対して怒りを覚えることが無いからだ。


 今回の場合は梨恵瑠が関わっていたが故に怒ったことだ。もしも罵声を浴びせられたのが俺自身なら特性は発動しなかっただろう。


 何はともあれ、明日は大人しく観戦だ。商には悪いがいいストレス解消になったよ。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ