魔力と魔力魂
魔法闘士とはなんなのか?疑問に思っている人もいるだろう。
なので、ここで少し説明をしようと思うのだ。
魔法闘士とは魔力を持ち、魔力を使い犯罪に手を染める者達を裁く、同じく魔力を持った魔法闘士協会に登録されている者達の事を指す。たとえ、魔力を使えても協会に登録されていない者は魔法闘士とは呼ばない。
そして魔力というのは持っていれば誰でも扱えるものではないそれなりに訓練が必要なのだ。
そもそも誰でも持っているものではなく、魔力魂という魔力が収まっている魂を持つものがもっているのだ。日本の人口の3割ぐらいの人が魔力魂を持って産まれている。
魔法と言うのだから何でもできると思ったら大間違い。人それぞれ魔力魂は違うので人によって特性能力と言うものが存在する
例えば銃の名家である紅葉なら、魔力を使うための特殊な銃を媒体に魔力の塊を放出するのが特性能力だ。紅葉のと言うよりは燕家のという方が正しいが。放出するだけ?と思うかも知れないが、確かに放出するだけなら誰にでもできるだろう。しかし、放出した瞬間に霧散するのが落ちだ。
ここで大事なのは霧散するのと塊として放出できるの違いだ。塊として放出出来るからこそ本物の銃の弾と同じ破壊力を生むことでき、自分の魔力が枯渇するまで弾が無くならないのが燕家が名家とされている理由の1つだ。勿論それだけではないが。
これが特性能力の1つの例としてあり、特性能力はいわゆるその人の魔力の個性みたいなものなのだ。
その個性を決定付けるのが魔力魂であり 、器として成りなっているのも魔力魂である。
そしてその魔力を使い魔法闘士を目指す者を教育する機関が魔法闘士学園だ。
魔法闘士学園は毎年きっかりと400人(50人で一クラス)入学し、入学試験では階級と言うものが与えられる。
階級と言うのは魔法闘士協会から定められた魔法闘士としてのランクみたいなもので、下級、中級、上級、そして特級。さらに各階級にA、B、Cのランク付けされる(下級のBランクといった感じ)
1年の時点ではほとんどが下級からはじまる。上の階級やランクに上がることは出来るが審査はかなり厳しく、そもそもテストや模擬戦、任務をこなせば上がると言うわけではない。結論を言うと協会が実績を元に勝手に評価し勝手に上げるのだ。
ちなみに紅葉は1年では数少ない入学時点で中級である。そして学園内に特級は一人もいない。
学園の話に戻るが、魔法闘士学園は家が遠かろうが近がろうが寮に入ることを義務付けられている。いわゆる全寮制だ。学園敷地内にはコンビニや娯楽施設が一応配備されているが、敷地内から出たら駄目だという規則は無いので外に行く人も多い。
学園の授業なのだが、月曜から水曜日までの午前中は座学があり、木曜日から土曜日の午前は武術訓練など体を動かすような授業ばかりだ 。
そして日曜(休日)を除く全ての曜日の 午後は学園内掲示板や魔法闘士学園のサイトに集められている警察や民間警備会社、そして民間からの依頼を学園から指定された物をこなすのだが、原則、依頼は学園から指定された物を受けるが人は依頼に書かれているルールを守れば誰を連れて行っても良い。どんな依頼を指定されるか、誰が指名されるかは前日じゃないとわからない。指名された人は学園から渡される端末にメールが届くそうだ。
1年の最初の1ヶ月は無いが、その代わりに模擬戦をかなりするらしい。恐らく生徒間で実力や戦いかたを互いに見させる為だろう。
俺の最初の模擬戦は入学式のときに目についた、小学生のような女の子だった。
入学式の次の日の朝、俺は学園寮の自室のベッドの上で目を覚ました。寝起きは良い方なのですぐに起き上がりベッドから降りる。
起きて向かったのは洗面所だ。まずは冷水で顔を洗い気分を切り替える。
ふと部屋の中を見渡すが二人一部屋の同居人は既に部屋には居らず、どこかへ行ってるようだった。
「昨日の晩に挨拶はしたが、真面目そうなやつだったな」
昨日会った同居人は髪は黒で短すぎずといった長さで、眼鏡を掛けた青年だった。いかにも真面目そうな容姿だ。背丈は俺より少し低い位だ。
朝ごはんを軽くトーストで済ませ、用意をして学園の校舎へと向かう。
ポツポツと校舎へと向かう人がいる中、後ろから声が掛かる。
「帝、おはよう」
綺麗な栗色の髪を後ろで結っている女性
「おはよう紅葉」
燕 紅葉だった。
「わりとみんな朝早くに学園に向かうんだな」
「意識が高い、と言うべきかしら」
朝のHRは8時30分からであり、今の時間はまだ7時だ。
「どうだろうな。まだ二日目だし、まだ今一学園のことについてよくわかっていないだろうしな」
「そうね。初っぱなから遅刻はいやだし、学園のシステムを早く把握したいものね」
早くついたところで学園内を見て回るぐらいしかできないが、それもこれから学園に通う者としては貴重な情報になる。どこにどの建物があるか把握するということは大事なことだ。
「そんなことより、まだ二日目だというのに一般科目の勉強と訓練がもう始まるらしいわ。帝は楽しみ?めんどくさい?」
「座学は嫌だが訓練はわりと楽しみだな。」
「帝は勉強は並だものね。訓練と行っても最初は模擬戦ばかりだそうだし、遊びみたいなものね」
模擬戦を遊びと言ってしまえるのは実力あってこそだが、紅葉はその実力が備わっている。名家でありかつ入学時点で中級は伊達ではない。
「でも、帝と当たるなら退屈な模擬戦も楽しめそうね」
その紅葉の相手をする俺は全く楽しめそうにないが、勉強にはなるだろう。
とはいえ、紅葉とは何度も手合わせはしたことがあるので互いの実力は知っている。なので学園でする模擬戦ではあまり意味がないのだ。
「剛太としたほうが楽しめるんじゃないか?」
少しニヤつきながら話を振る。
「いやよ。剛太と戦っても決着付かずのじり貧じゃない」
紅葉は少し不貞腐れた顔で文句を言う。
剛太の特性能力と紅葉の特性能力は、紅葉にとっては相性がかなり悪い。剛太も剛太でそれなりにやる奴なのだ。
そんな会話しながら自分達の教室に行き、時間潰しをしていると、教室の後ろのドアが開き誰かが入ってきた。
入ってきたのは灰色の髪をツインテールにしていてかなり小柄な少女だ。入学式の時に小学生と見間違えた少女だった。
同じクラスだったとは知らなかったな。
「あっ…お…おはようございます」
少女と目が合い、少女の方から少し吃りながらあいさつをしてくる。
「おはよう。初めまして、私は燕紅葉よ」
紅葉は挨拶と共に自己紹介をする。
「あなたが噂のつ…燕さんですか。わ…私は山義梨恵瑠と言います」
この子は恐らく人見知りなのだろう。紅葉と喋るのに酷く緊張しているようだった。
「初めまして。俺は獅子王帝だ、よろしく山義さん」
「よ…よろしくお願いします獅子王さん!!」
変に気合いが入っている返事に人見知りなりの努力が感じとれる。
「あー、苗字はなんだか厳ついから下の名前でいいよ」
「私も紅葉でいいわ」
「で…では、み…帝さんに紅葉さんで…」
まぁ最初だしさん付けでも構わないだろう。別に友達を作りに来ている訳でもないしな。
自己紹介を終えると山義さんは小走りで自分の席へと行ってしまった。
「何だか可愛らしい子ね。小学生みたいで。」
恐らく本人が気にしているであろう事を紅葉は言う。
「それ本人には言うなよな…」
苦笑いで返してやる。
しばらくして剛太や他のクラスメイト達も揃い、HRで担任が自己紹介をしていた。俺は特に興味が無かったのでぼーっとしていた。
午前は一般科目の座学だ。正直勉強はあまり得意ではない。馬鹿では無いが賢くもない。並である。
とはいえ、勉強の重要性は分かっているつもりなので真面目に受けるのだが、退屈だ。
やがて午前の座学が終わり昼休憩を挟み午後の訓練の時間になると、回りのクラスメイト達は何だかやる気があるのか、張り切ってる様子だった。
「模擬戦初日は誰がするんだろうな」
剛太が近づいて話し掛けてきた。
「どうだろうな、1つの模擬戦の上限時間は何分なんだ?」
「10分ね」
俺の質問に紅葉が答えてくれた。
「結構長いな」
「多分、魔力使用のペース配分だったり、長時間の戦闘時の体力的なペース配分を意識させているんじゃないか」
なるほど、剛太の解釈に素直に頷く。
10分と聞けば短いと思うかも知れないが、まだ入学したてで訓練なんて皆無な1年生にとっては10分でもかなりきついのだ。
ならば 、10分も戦わず模擬戦を終らせばいいと思うかも知れないが、そこは各々の負けたくないというプライドがあり上手くは行かないのだろう。まして今の時点では実力なんて基本的には拮抗しているのだから。そもそもわざと負けたりしたら訓練の意味がない。
模擬戦は1年全員が練武場に集まりなん組かの人が先生に名指しされて戦い、残った生徒は観客席で模擬戦を観戦するらしい。
俺達は遅れないよう練武場に向かう。
先生達が練武場に1年全員が集まった事を確かめると生徒たちの喧騒を鎮め、模擬戦の話を始める。
「今日が君達にとって初めての模擬戦だ。わからない事が多いだろう。しかし、誰でも最初はわからなくて当然だ!!だからこその訓練である‼では、模擬戦の説明に入るが…」
模擬戦のルールは以下の通り。
・殺傷力の高い技は禁止
・どちらかがダウンもしくは降参すれば即終了
・必ず魔力を使用しながら戦うこと
・武具を使う者は必ず自分の物を使用する。例外は認めない。
・模擬戦の上限時間は10分
以上の5つだ。
武具とあるが魔法闘士は武具を使う者と魔創具を使う者の二つに分かれる。
まず武具とは紅葉のように魔力使用のために作られたオリジナルの銃を媒体にするのものを武具という。まぁ単純に誰でも知ってる道具だったり武器を媒体にしてると思ってくれれば良い。
魔創具とは自分の魔力で具現化された武具のことを魔創具という。魔創具の利点は武具を常に持ち歩かなくても良いことと、魔力で具現化するので最初から武具に魔力が付与してることだ。しかし魔力で具現化するのでその分魔力消費が激しいのが欠点だ。
それに対して武具は、常に持ち歩かなくてはならないが魔法を行使するときだけ魔力を使うのでコストが低くて済む。紅葉の特性能力のような場合は元から形作られた武具は必要不可欠なのだ。
「よーし、ルールは理解したな‼今日の模擬戦の組を呼ぶぞ!!」
いかにも体育会系といった先生が大きな声で黙々と名前を挙げていく。今回俺は呼ばれなかったが紅葉が呼ばれたみたいだ。
「早速出番のようね」
「ああ、頑張ってこいよ」
紅葉にささやかなエールを送ってやる。
「応援をされたら頑張らない訳にはいかないわね」
そういいながら笑い、腿に着けているホルスターから二丁ある内の片方の銃を取り出す。
「じゃあ行ってくるわ」
微笑みながらそう言い、観客席から離れて行った。
相手には悪いが正直に言って結果は見えている。
練武場の真ん中で紅葉と対戦相手が対峙する。
「準備は良いか?」
対峙二人は無言のまま頷く。
「ではこのコインが落ちた瞬間に始めろ」
審判をする先生が右手の親指でコインを上に弾く。回転をしながら落ちるコインが地面に落ちた瞬間、パンッ!!という破裂音と共に対峙していた相手が膝から崩れ落ちる。
練武場内を静寂が包み、観客席で見ているもの達は唖然としている。
「先生、まだ続けますか?」
紅葉の言葉で審判はこの模擬戦の終了を告げる。
こちらに歩いて戻ってくる紅葉は特に嬉しそうにはしていない。当然の結果だからだ。
「さすがだな紅葉」
「いや~いつ見ても燕の魔力射撃の早さはすげえな」
「ありがとう二人とも。けどやり過ぎたかしら」
俺と剛太の賛辞にお礼言いつつさっきの対戦相手を気遣う
「大丈夫だろう。制服には防弾防刃が施されているし」
「ならいいけど。一応手加減はしたのだし」
最初の模擬戦で紅葉が出てしまったのでそれ以降の模擬戦はなんだか見ごたえがない。いや、みんなが悪い訳ではないのだが1年の中では紅葉は規格外過ぎるのだ。しかし当の本人は息子の試合でも楽しみにしてるかのような笑顔で
「帝の出番はまだかしら」
と呟くのであった。