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蒼き天まで穿てば  作者: 卿 兎
一章 〈魔法闘士〉
1/20

プロローグ

  人の強さと言うのは何で決まるのだろうか。


  腕っぷしの強さ? 頭脳の高さ? それとも人望?。


 他にもいろいろあると思うが、これだろうと断言できる物は俺には思い浮かばない。


 しかし、俺のよく知る彼女なら迷わずにこう答えるだろう。


「そんなの決まってるわ。精神や心の強さで人の強さは決まるわ」


 と誇らしげに。


 それに対して何故と聞き返した俺に、彼女は微笑を浮かべ、


「今まで何度も挫折を味わって来たけど、その度に貴方に助けられたわ。それは力や頭、権力で助けられていたわけではないの。貴方の優しさ、つまり心に支えられてたのよ。そんなお人好しな貴方の事を私は強いと思うわ」


 さっきよりも楽しそうな表情を浮かべ、俺を見つめ彼女は話す。


「だって(ミカド)、貴方は私という人を一人救ったのだから。」


  彼女の答えを聞いてもやはり俺はあまり納得は出来なかった。


 でもまぁ基準や価値観なんてものは人それぞれだろう。こんなことを言ってしまうと元もこも無いが…。


 この答えはいつまで経っても出ないだろうと自分自身思っている。いや、そもそも答えなんてものはないのだろう。だが、考えずにはいられない。

 

  俺は俺自身を脆弱で劣弱で誰よりも弱いと思っているのだから。








 4月6日である今日は、魔法闘士学園の入学式だ。


 そのため正門前で人を待っているのだが、遅れると連絡が来て早30分がたった。


 ふと後ろを見ると道を挟んでアーチ状になっている柱が正門から校舎まで続く道にいくつも並んでいる。


「なんというか大層なものだよな。生徒の通学に邪魔になるだろうに。」


 そんな事をボヤいていると後ろから声がかかる。


「入学初日から何をボヤいているの」


 どことなく楽しそうな顔で俺が待っていた少女が立っていた。


「おはよう(ミカド)、待たせて悪かったわ」


「おはよう紅葉(クレハ)、大丈夫だ、気にするな」


  彼女の名は(ツバメ) 紅葉、銃の名家と言われている燕家の次女で俺の幼馴染みでもある。


 髪は栗色で後ろで束ね結っている。ポニーテールと言うやつだ。なんとも可愛らしい。身長は俺より拳1個半ぐらい低い、女子にしては高めだ。


  二人とも白のカッターシャツに蒼色のネクタイ、上には蒼のブレザーを羽織い下は灰色だ(ズボンかスカートの違い)。


 ちなみに蒼は今年の1年の色であり2年はカーキ色、3年は臙脂(エンジ)色だ。


  他愛もない会話をしながら校舎までの道を二人で歩く。


「そう言えば、剛太はどうしたんだ?」


「一応連絡はしたけれど返事がないから多分寝ているんじゃないかしら」


 あいつ入学式遅刻するんじゃないか?。あと1時間も無い。


 同じ色の制服を着た学生が校舎に向かって歩いていく姿が、自分の視界内だけでも結構な人数見える。そんな中ちらほらと会話が聞こえる。


「おい、あれって燕家の…」


「く…紅葉様!!」


「相変わらず綺麗な人です…!!」


「あれが噂の燕家…」


 とまぁ色んな声が聞こえてくるのだが当の本人は全て聞こえていないかのように振る舞っている。慣れているのだろう。さすが名家と言ったところだ。


「相変わらず有名人だな紅葉は」


「あら、(ヒガ)みかしら」


 紅葉は口に手をあてふふふと笑っている。


「羨望はあっても僻み妬みはないさ」


 俺は肩を竦める。


「そう。でも私は万人の褒め言葉よりも貴方の一言で十分だわ」


 こんな事を面と向かって言って恥ずかしく無いのだろうか。


「そうかい」


 俺が恥ずかしくなり顔を背けてしまう。


 そんなこんなで校舎入り口に着いた俺たちは、入学式が行われる体育館を案内板で場所を確認し、移動をする。


 体育館に着いたところで見知った顔に出会った。


「帝君、紅葉入学おめでとう」


 栗色の髪を肩で切り揃え、臙脂色のブレザーを羽織ってる女性は、


「ありがとう、姉さん」


  紅葉の姉であり、燕家の長女の(スミレ)さんである。


「ありがとうございます、菫さん」


「うんうん」


 菫さんは満足気に何度か頷く。


「二人とも制服似合っているわ」


 そう言われると何だか気恥ずかしいが悪い気もしない。


「あ、私生徒会長に呼ばれてるんだったわ。じゃあ私は行くわね。じゃあまたあとでね帝君、紅葉」


  ひらひらと綺麗な手を振り去っていく菫さんは紅葉に負けず劣らず綺麗な人だ。


「帝、席を取りに行きましょう」

 中へと向かう紅葉の背中を追い、俺も体育館へと入る。



 体育館に入ると驚いた。広い、とにかく広いのだ。たかが学園の体育館にこんな広さがいるのかと思う。しかし話に聞くと魔法闘士学園では戦闘訓練以外にもスポーツが盛んなんだそうだ。体育祭の盛り上がりも凄まじいらしい。


 回りを見渡すと席は7割ぐらい埋ってる。


 同じ制服を着た小学生くらいの背丈の子が目に止まる。かなり小柄だ。


 小柄な子を目で追っていると。


「何をしているの。早く座りましょう。」


 怒られてしまった。


「やっぱりこの学園はいろんな奴がいるんだな」


「ええ、一学年に400人はいるもの。変わり者がたくさんいても不思議でもないわ」


 それはそうか。魔法闘士学園では毎年きっかりと400人の新入生が入るそうだ。とはいえ 、卒業時にもその人数とは限らないが。


「帝もその内の一人ね」


 俺が変わり者だと?いたって普通だと思うがな。


「ふふふ、冗談よ」


  紅葉は人の悪い笑みを浮かべる。楽しそうで何よりだ。


 でもまぁ変わり者と言えば変わり者だと言うのは違いない。この学園で必要な物が欠落とまではいかなくても俺には足りないのだから。

 


 席に座り30分ほどで入学式が始まり、滞りなく終わった。学園長の話だったりいろいろあったがあまりちゃんとは聞いていなかったから覚えていない。


 入学式のあとは自分達のクラスに行くのだが、いかんせん人が多い。そのため自分のクラスに行くまで辟易した。ちなみに紅葉とは同じクラスであと結局来なかった剛太と言う知り合いも同じクラスだった。


 今後の説明を担任から聞き終え寮(魔法闘士学園は全寮制だ) に帰る途中体のでかい男が前方に見えた。さっき言っていた剛太だ。


「おい!!剛太!!」


 近くまで行き背後から大声で呼んでみる。


「んわぁああ!!な…なんだ、帝か。それと燕も」


 相変わらずでかい音に弱いやつだ。俺は驚かすことに成功して大いに満足だ。


「なんだじゃないわよ剛太。入学式にも出ないで今まで何をしていたの」


「んー、人助けかな」


 剛太は身長が190cmあり肩幅も広く髪は短く黒で対面するだけで萎縮してしまいそうな程のなかなかの恵体だが、内面は困ってる人がいたら放っておけないほど心優しい男だ。


「入学式に向かうときに途中の信号で待ってたら近くにいたお婆さんが急に倒れたんだよ。息をしてなかったから救急車を呼んでそれが来るまで俺が人工呼吸してたんだぜ」


「それで結局お婆さんは助かったのか」


「ああ、勿論‼」


 それは良いことをしたじゃないか。なんせ人を一人助けたのだからな。


「俺のファーストキスを捧げんだ。助かって当たり前だ」


 いろいろと台無しだ。


「捧げられたお婆さんの身にもなりなさい、剛太」


「し…辛辣過ぎませんかね…」

 



  半泣きの剛太はさておき、今日は疲れた。早く帰って休みたい。


「紅葉、剛太。そろそろ寮に帰ろう」


「あいよ」


「そうね」


 空はもう橙色に染まり黄昏時だ。今日1日は特に何も無かったが、本格的に学園生活が始まれば今まで以上にめんどくさい事が起こるだろう。


 だが、そんなことは魔法闘士を目指すのであれば当然のように巻き込まれていく。


 自分の意思とは関係なく、必然として厄介事は付いて回るだろう。


 そんなことは百も承知。俺が俺に求めている物を得るために。俺が探す答えを得るためには経験が必要だ。むしろ厄介事に自ら巻き込まれていく勢いだ。


 ふと、後ろを振り返る。


 そこには俺の視線に気付いた紅葉が立っている。


 美しくもありあどけない笑顔は、昔から馴染みのある笑顔だった。

 

 

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