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死人の償い  作者:
1/6

終と始の交差点









──生きる、という事が苦手だった。





優しい両親、何不自由ない家庭。恵まれた環境で育った。

勉強も運動も人並みにできたし、他人に合わせる事が得意だったから友人も居た。それなりに楽しいと思える事もあったし、手芸という得意分野もあった。

とても、恵まれた人間だと理解していた。



いつからだろう。

生きる、という事に意味があるのかと疑問を感じ始めたのは。


いつからだろう。

生きる、という事に価値を見出だせなくなったのは。


いつからだろう。

生きる、日々が苦しくなったのは。



元々、少しズレた性格であった事は知っていたのだ。

昔から、他人が心惹かれるものに関心が持てなかった。流行、というものに興味が持てず、話を合わせるだけの為にテレビや雑誌に目を通す。食べ物や恋愛、芸能人。ドラマに化粧品、何もかも、本当はどうでもよかった。


友人が笑うから、私も笑った。

きっと、『これ』が『楽しい』という事なんだろうと。

友人が泣くから、私は慰めた。

きっと、『これ』が『悲しい』という事なんだろうと。


そんな『常識』だけが積み重なって増えていくにつれて、言いようのない感情が胸を支配していく。


たくさんの友人の笑顔に囲まれながら私も笑うのに、ぽっかりと穴が空いてるような気持ちになる。どこか冷めたもう一人の私が、笑う私を客観的に見ているようだった。


そんな心の穴を抱えたまま幾年いくとしが過ぎ、高校生を終える頃。増える知識に漸く自分が異常であることに気付いた。



違う。『これ』は『楽しい』では、ない。

ならば、『これ』も『悲しい』ではない。

では…『嬉しい』?

──違う。嬉しくはない。

では、『切ない』?

──違う。切なくもない。



『これ』は何だろうか。『これ』は何と言うんだろう。『これ』に支配されていくのに、『これ』がどんな感情なのかわからない。


わからない。

わからない。

わからない。



息が、苦しい。



逃げ出したかった。周りに合わせるだけの自分が大嫌いだと思った。自分が異常であると口にしてしまいたかった。


けれど、それら全てを蓄えられた『常識』が否定した。


この世界で生きていくには、どうしたって『常識』から逃れられないのだと。そんなこと、一生気づかずにいたかった。


ゆっくりと光を失っていく世界。

重力がのし掛かるように身体の自由を奪っていく。

息が満足にできない此所は、きっと、深い、深い、水の底。





──これは生きる事に悩み、終わりを望んだ人間の、命の話。






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