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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

タイムマシンは時計です。

作者: かげる

 人類はついにタイムマシンを作り出した。これにより太陽の方角を調べることなく簡単に時間という目に見えない物を見ることができるようになった。

 人々はタイムマシンのおかげで少し自由になった。しかし、すぐに支配されるようになった。時間に縛られる不自由が始まったのだ。

「しーくんはタイムマシン買ってもらえていいなー」

「こんなのいまどき誰だってもってるよ。あっくんはもってないの?」

 学生は手首にタイムマシンを装着して小学校に通っていた。学校側もそれを許可していた。

 あっくんはこの学校で唯一タイムマシンを持っていない生徒だった。別に家計が貧乏だったわけではない。ただ家に必要がなかった、というだけだ。あっくんの親の言い分は『べつにタイムマシンがなくたって死ぬわけじゃない』だった。

 もはやそれを言ってしまったら他のなにもかもが『べつに死ぬわけじゃない』で済んでしまう問題になってしまうのだが。そういう理屈を言えてしまうあたりが世間でいう変わった親、というやつなのかもしれない。

 あっくんは学校が下校時間になり、しーくんに話しかけた。下駄箱で靴に履き替えたあとだった。

「しーくん。こんど本当のタイムマシンってやつを見せてあげるよ。そんなちっぽけなんじゃなくて二メートルくらいあるやつなんだけど」

「なにをいってるん? タイムマシンに本当も嘘もないじゃん?」

「いいからいいから」

 彼の手を引き、自宅へ向かった。

 意気揚々と、あっくんの足取りは軽かった。

 歩いて二十分。家の裏庭にやってきた。

「ほらみてみ。これが本当のタイムマシンなんだ」

「え。これ、ただの……」

 あっくんが見せたのは時間を自由自在に行き来することができるTMスペック67という機械だった。

 この時代では人間が過去や未来にいくだけの機械など珍しくなかった。それよりも、時間を精確に計ることのほうが役に立つと一般的に考えられていた。

「これは大昔にはタイムマシンて呼ばれていたんだぜ。当時は凄い大発明だって驚いていたらしいんだ」

「理解の教科書のすみに書いてあったじゃんね」

「知ってたの?」

 平然としたしーくんの態度に困惑顔を浮かべたあっくん。

「そりゃあ、授業でやってたから」

「やってたっけ」

「うん」

「俺らが生まれた頃には“タイムマシン”なんて古臭い呼び名はすたれたらしいよ。だからそれはタイムマシンじゃなくてTMって呼ばないと」

 裏庭に置かれた球体のそれをまじまじと見つめる。あっくんは少しだけため息をついた。

「あーあ。これは今の時代でいうタイムマシンじゃないのか。だったら興醒(きょうざ)めだな。ごめんな。こんなくだらないものを見せるために連れてきたりして」

「いーよ」と言いながらいーくんは手首に巻かれているタイムマシンの指針をみた。

「もう、帰る?」

「まだ大丈夫。六時まであと一時間四十ニ分五十秒零七あるから」

「正確だね」

「うん、精確だよ。このタイムマシンは超高精度原子時計だからね。やっぱり人間は時間に几帳面にならないといけないと思うんだ」

「どうして? あ、ちょっと待って。いったん俺んちに入ろう」

 ドアノブをひねり、二人は無人の家に入った。

「親は?」

「未来に仕事しにいった。いつ帰ってくるかわかんない」

「へぇー。そりゃあ大変だ」

「大変なの?」

 しゃべりながら小部屋に向かう。そこはあっくん専用の部屋で、勉強机とベッドが置いてある。あっくんは椅子に座りいーくんはベットに腰かけた。

「え!? Tワープっがめちゃくちゃ危険なのしらないの?」

「しらない。……Tワープってなんだっけ?」

「タイムワープだよ。過去か未来にワープするってこと。失敗すると体が消えちゃう」

「え」

 あっくんは初めて人間が次元を超えることの恐ろしさを知った。自身の両親がそんな危険な仕事をしていることを恐怖し、とても心配になった。

「ねえ! お母さんとお父さんは今日帰ってこれるよねえ?」

「それはもう運に頼るしかないことだね」

 絶望に打ちひしがれた。今まで何回、両親がお仕事に過去や未来にいってきたのか彼には想像だにしない。そして今回は無事に帰ってきてくれるのだろうか、と不安でしかたなかった。

 途方に暮れて、うわの空のあっくん。

 その様子を見てなにを思ったのか。

「怖いなら、一緒に待っていてやるよ。二人が帰ってくるまでな」

 しーくんが力強い口調でいった。

「やっぱり弱い」

「ん?」

 座りながら二人は沈黙した。それは違和感のない、自然なものではあった。しかし、愉快な気持ちに満たされるような明るいものではなかった。

 雑談は片方の人間が黙るとなりたたない。しだいに痺れを切らした片方はいった。

「おーい」

「あの……」

 しーくんの声が聞こえた。

「俺の声は聞こえてる?」

「うん」

「会話の途中で押し黙るんだもん。こっちの気になってみろよ。めっちゃ気まずいぞ」

「ごめん。考えごとしてた」

 あっくんはベットから腰をあげ、すっかり暗くなったベランダの方に歩く。窓ガラス越しに上空をみた。部屋の照明とは対象的な黒。

「このご時世(じせい)なんだから、帰る正確な時間は聞いてるんだろ?」

「聞いてない。うちは時間にいい加減だから」

「まじか」

 常識のない家庭だと思われたのではないか、とあっくんは心配になった。

 人間には心配事を打破する能力と受け入れる能力がある。彼がどちらの選択をするのかは誰にもわからない。

 窓の外をじっとみてひと息ついた頃。あっくんがある決心をした。ひと息の間、考えていたことを口にだす。

「TMにのらないと。うん、乗る。しーくん?」

「いやいや急にどうしたんだよ」

「俺、行き場所を知ってるんだ。だから、行ってくる」

「危ないって! まさかとは思ったけどさっきの古ぼけたTMに乗り込む気かよ!?」

「うん。場所は五百年後の未来」

 心配を打破するためだった。今すぐに行動しなければならない、と心に決めた。

 しーくんが止めに入ったがあっくんは言うことを聞かないで、裏庭にあるTMスペック67の機内に入っていった。

「ちょっとやめとけ! 素人(しろうと)がヘタにいじったりしたら大変なことになるぞ」

 機内の座席につくあっくんを心配した。

「大丈夫。実は簡単な操作は知っているんだ。未来に行って戻ってくるだけなんだ。わけないよ」

 安全性を(いぶか)しむしーくんを尻目に、先へ進もうとするあっくん。否応無(いやおうな)しについていくしかなかった。その理由としては、あっくんの身にもしも危険があったらとてつもなく責任を感じてしまうからに(ほか)ならない。

「十九時五十分三十秒二八零九七四一三!」

「……それが?」

「今の時間! 起動する時間は絶対に間違えるなよ! 帰る時に少しでも違えば世界に大きな矛盾が生じてお前が消えることになるんだから」

「わかった」

 わかった、という返事がこれからおきることをどれだけ『わかっている』のか不透明ではあった。不安ながらもしーくんは意を決して同行する。

 しーくんは腕時計を凝視する。

「じゃあ起動するタイミングは俺が決める」

「お願いするよ」


 3


 2


 1


 0.5


 0.2


 0.1


 0.05


 0.01


 0.001


 〜


 0.0000000000000000001


 起動は押された。

 機内が不気味な音で満たされた。

 刹那的(せつなてき)に二人の視界が途切れた。

 やっぱりやめとけば良かった、と思った心境はとめどなく彼の脳内をぐるぐる、ぐるぐると回り、やがて、視界が開かれる、と思った。しかし、二人はいなくなった。視界は永遠に開かれることはない。

 タイムマシンがあっても死にはしなかったが消えたことには違いない。

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