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新百合ヶ丘高校文芸部☆  作者: m8eht
入部編
9/67

第3話 「神山しらゆき」3

 その日は、新入生向けの部活見学期間が終わってはじめての部活動だった。放課後になって部室へ行くと、そこには立花先輩がいて本を読んでいた。

「どもーっ」

 神山さんが元気に挨拶して、私はその後ろでお辞儀をする。

「お、来たね……」

 私たちの姿を見て立花先輩は、にまっと笑う。

「あの、宮守先輩と牧野先輩は……?」

「ん……まだ来てないよ」

「なるほど……」

 テーブルを囲む椅子に腰掛けながら、チラと立花先輩の方を見てみた。立花先輩が持っているのは、ずいぶん昔の部誌のようだった。

「ところで先輩、たいへん聞きづらいんですが」

「なにかな?」

「新入部員って、けっきょく何人……?」

 立花先輩は、口もとに薄い笑みを浮かべながら神山さんの顔をじっと見て、そして、こくんとうなずいてみせた。

「……あたしたち、二人だと?」

 立花先輩は、もう一度うなずく。

「うあー、やっぱりかぁ……」

 神山さんは頭を抱えた。

「なんとなく、そんな気がしてたんですよねー。友達なんて砂糖吐いて知恵熱でたらしいですし」

 事実を少し変えながら、神山さんが莉香子さんたちのことを言う。

「気にしない気にしない。例の二人はちゃんと喜んでるからね。二人が来てくれたから……」

「そ、そうですかぁ……?」

 まんざらでもなさそうな神山さん。

「あ、そーだ……」

 立花先輩が席を立って、それから買い物袋らしいバッグと大皿を持ってくる。

「余ったお菓子、食べちゃおうよ……」

 そう言いながら、チョコレート菓子の箱をぱりぱりと開けた。私たちが手分けして大皿にお菓子を流し込んだり、ジュースをついだりしているとき、宮守先輩と牧野先輩がやってきた。

「あ、来てるわね」

 そう言って私たちに笑いかけ、宮守先輩はきびきびした足取りでテーブルの自分の席へ向かう。少しだけ違和感を感じて、そしてそれはすぐに消えた。そうなんだ、普段はこんなふうなんだって思った。泣き腫らした目の子どもっぽい人じゃなくて、宮守先輩はちゃんと大人っぽいの女の人だった。

 その後ろには牧野先輩。ふんわり笑って、「わー」って言うみたいに片手で手を振った。それでもあんまり、子どもっぽいって感じはしなかった。優しそうなお姉さんって感じがした。

「それじゃ、はじめましょうか」

 席に着いた私たちを見回して、宮守先輩が言う。

「今年は二人の新入部員を迎えることができました。部長として本当にうれしく思います。みんなで楽しく、部活がんばっていきましょう」

 宮守先輩は、私たちの顔を交互に見ながら、そんな挨拶をした。

「これからのことを話しておくわね。前にも言ったように、部誌は年3回発行するんだけど、一回目は6月上旬に出すの。締め切りは5月の末日。まずはこれに向けてがんばっていきましょう。途中、中間考査もあるから、時間に余裕を持って取り組んでください」

 よどみなくそう話す宮守先輩。なんとなく、しっかり者なんだなって思った。

「ここまでで何かあるかしら?」

「あのー先輩」

 神山さんが顔の横で手を上げる。

「ん?」

「もしかして、いや、もしかしなくても、それってあたしたちも書くんですよね?」

「そうよ。最低でも一人一作品ね」

「やっぱりかぁ……」

 神山さんの声にどこか不安そうな響きが混じった。私も不安になった。小学校の作文の授業で原稿用紙3枚埋めるのに、頭がぎりぎり痛んだのを思い出した。

「だいじょうぶ、私たちがちゃんとフォローするから。それに書きはじめてみると、『もっともっと』って書きたくなってくと思うわよ?」

 神山さんを元気付けるように、宮守先輩が言う。そのとき、ふと牧野先輩と目が合った。牧野先輩は私に、ちょっとうなずいて見せる。「だいじょうぶだよ」って言うみたいに。

「それに……いざとなったら、私がいろいろ教えてあげるし……。いろいろな、テク、とか」

 立花先輩がにんまり笑いながら言う。そんな立花先輩を宮守先輩はちょっときっとしながら見た。

「ちょっと先輩? あんまり変なことは教えないでくださいね?」

 私たちと話してるときと、少し声音が違った。やっぱり気の強い人なんだって思った。

「うんうん、気をつける……」

 立花先輩は、宮守先輩に叱られて、なんだかうれしそうだった。

「それで……」

 宮守先輩は、ちょっと目を伏せて、それからまた私たちを見た。

「今日のことなんだけど……二人とも、時間あるかしら?」

「ぜんぜん大丈夫です!」

「あ、私も……」

「そう。よかった」

 そう言って、宮守先輩は牧野先輩の方を見た。牧野先輩は目でそれに答えてから、私たちの方を向く。

「今日はね、みんなですごろくをやるよっ!」

 そう言いながら、テーブルの上に、大きな画用紙を広げていく。

「あのぉ、なんですごろくなんですか……?」

 神山さんが慎重そうな様子で聞く。

「このすごろくはね、ずーーっと昔に4代目の部長さんが作ったものなんだ。それ以来ね、新入生を迎えてはじめての部活動では、みんなでこのすごろくをやったんだよ」

 画用紙を広げ終えて、しわを伸ばしながら牧野先輩が言う。画用紙の上のほうには「文芸部すごろく」と筆か何かで書かれていて、スタートの地点から丸で囲まれた文章が数珠のようにつながっている。そしてゴールには「ゴール!!」と書かれていて、その両脇には、丸と棒で出来た人が万歳をしていた。

「そ、そうなんで、すか……」

 たどたどしく、それだけ言う神山さん。

「そうなんだよっ。みんなこのすごろくで仲良くなったんだよっ」

 そう言い切る牧野先輩。宮守先輩は、そんな牧野先輩に優しげな眼差しを注いでいた。立花先輩は、にやにやしながら私を見ていた。その視線は「と、言ってるんだけど、どう思う?」って聞いてる気がした。

 牧野先輩は、今度は小さな布製の巾着袋を取り出して、テーブルの上で逆さにして振った。中からゴムで出来た二頭身ロボットの人形が出てくる。

「これが駒だよ」

「ちょっと待ってください! なんでガン○ムなんですかっ!?」

「ええと、それは……」

 牧野先輩は特に疑問に思ったことはないみたいだった。立花先輩が代わって神山さんに答える。

「これも4代目のころから受継がれてるんだよね……。伝統、ってやつ? 昔は、文芸部って言えば、男所帯だったからね……」

「え、意外です」

 神山さんが言う。私も、なんだか意外な気がした。いま、部室には女の人しかいなかったから。

「さ、駒をえらんで!」

 テーブルの上には二頭身の人形が山になっている。立花先輩は目が一つしかない赤い人形を、宮守先輩は目が十字になっている黒っぽいのを、牧野先輩は四角張った黄色いのを、神山さんは目が二つある白いのを選んだ。私は、みんなが取ってしまってから、一番手前にあった水色のずんぐりした人形を手に取った。

「それじゃあ、みんな、すごろくやろー!」

 牧野先輩が声を上げて、そうして私たちのすごろくが始まった。


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