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新百合ヶ丘高校文芸部☆  作者: m8eht
雨の季節編
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第18話 「文芸部の日常・6月中旬」3

☆ 牧野ひなた


 雨さん、たかたん♪ 雨さん、とととん♪

「ねえ、ひなた」

「なーんですかっ、みよっちさん♪」

「毎日、こう早く帰ってたら、バレちゃわないかしら? 私たちが、その……何か考えてるってこと」

「ん~、もうバレてると思うな~。茜先輩はああ見えて、知らんぷりが上手だから」

「そっか……」

「だいじょうぶだよっ! ばばーん☆って決めて驚かせちゃおうよ! しらゆきちゃんだって、とーこちゃんだって、茜先輩だって!!」

「……ん。そうね」

 傘の下の、みよっちさん♪ ぽたぽた落ちる、しずくの向こうの、みよっちさん♪ 雨の向こうの青いお屋根は私のおうち。寄っていきませんか、みよっちさん♪

「ねえ、みよっち。今日、寄ってくでしょ?」

「え? うん。そうね……」


「ちょっと待っててね~」

「あ、おかまいなく……」

 とたとたとたんと階段を下りて、台所にすさーっ! みよっちにはコーヒーがよく似合う。私には……ホットミルクかな? お砂糖を一杯入れて。

「おまたせ~」

「ありがと……」

 部屋に戻るとみよっちは本を読んでたから、私も買ってきてた詩集を開いたの。詩の本を読むのは楽しい! 言葉にリズムがあって、ほんの少しの言葉をすくいとっただけで、ひらめくようにイメージできちゃうの。その光景とか、その世界とか、その人の心の中にあるものが!

 いろんな詩集を読んでみて、ステキな詩がたくさんあって、だから迷っちゃう! しらゆきちゃんととーこちゃん。ふたりを思い浮かべながら、私がふたりに「こんな詩があるよ」って教えたくなる詩を探してるの。こうゆう時間、いいなって思っちゃったり。うん。でもやっぱり。うん。そうだよね。

「ねえ、みよっち」

「なあに?」

「朗読するならね、やっぱり恋の詩がいいかな~なんて思うんだぁ」

「……どうして?」

「ん~、しらゆきちゃんもとーこちゃんもお年頃だから! きっと興味あると思うの!」

 みよっち、ちょっと納得してなさそう? でもね~……。

「ね、この前のこと、覚えてる? しらゆきちゃんがみよっちのお話の感想を言うときになんて言ったか?」

「え? ええ」

「『相手を大切に思って、いつでも何かしてあげたくて、ふたりでいれば怖くない。それが恋ですよ』って。ふふ、ステキだね。これがしらゆきちゃんにとっての恋なんだね……」

「……」

「しあわせだね、しらゆきちゃんに想われているひとは……」

「……そうね」

「だから恋の詩なの! ね、どう?」

「うん……」

 考え込む、みよっち。こんなときは、そっとしておいてあげるのが一番! お絵かきでもしようかな? スケッチブックを開いたら、このまえのみよっちの言葉をみーつけた!

『いつかふたりの糧になるようなことを、してあげたい』

 思わず、クスッって笑いそうになっちゃう。


まじめな、まじめな、みよっちさん♪

特別なことをじゃなくていいと思うんだよ

きっときっと届くと思うんだよ

みよっちの素直な気持ちがふたりに

私たちの素直な気持ちがふたりに

私たちの心をそのまんま「ぽんっ!」って

ふたりに手渡してあげよう!

おにぎりさんみたいに

食べさせてあげよう、ふたりに

私たちの心を、そのまんま♪


「ねえ、ひなた……」

「なーんですかっ、みよっちさん♪」

「発表会じゃなくて、授業にしてもいい?」

「授業??」

「そう。私たちで授業をするの」

 真剣なみよっちの顔。ステキ。こんなみよっちに、私はいつだって憧れてきたんだぁ。ふふ、こんなこと、恥ずかしくって言えないよね。私の大切な、大切な、かけがえのない、みよっちさん♪ みよっちを射止めるのはどんな男性ひとだろう? 楽しみだなぁ。みよっちが恋をしたら、私、とってもうれしいなぁ……。


□ 文村冬湖


 窓の外では雨が降っていた。それを眺めているとチャイムが鳴った。先生への礼をすると、ホームルーム前の時間になる。みんながおしゃべりしたり部活の支度をしている中で、隣の席の古屋くんは早々と帰り支度を整えて机に突っ伏していた。まわりがこんなに騒がしいのに、ちょっとでもちゃんと眠れるのかなって思う。前の席では、しらゆきと長峰くんがおしゃべりを始めていた。

「大地ィ、あんた、今日もバイト?」

「おうよ。がっつり稼いだるわ」

「こんど、学食おごってよ? いつもあたしにお世話になってるでしょ?」

「記憶にございません」

「は?」

「あ、私にも! 私にもおごって!」

 藤沢さんも話しに加わっていく。

「なんつーか……俺の彼女になったら、いつでもおごったるぜ?」

 さわやかっぽいような笑顔を浮かべながら、長峰くんが言った。

「……あ、ゆかりん、今度の日曜のことなんだけどさー」

「まっかせてー! おいしいお店、紹介するから!」

「わ~、たのしみ~」

「ちょっと? おーい!」

 長峰くんの声が聞こえないふりをしながら、しらゆきと藤沢さんはおしゃべりを続けていく。

「とーこちゃん。委員長、寝ちゃってるの?」

 井上さんは私のほうに来た。腰を落として目線を低くして、机に突っ伏している古屋くんの顔を見ようとしている。

「……ねー、私が起こしてみてもいいかなー?」

「え、いいですよ。どうぞ」

「委員長~、起きて~、先生きちゃうよ~」

 古屋くんの肩をつかんで、ゆっさゆっさと大きく揺さぶりながら、井上さんはニコニコしている。

「え……何……」

 古屋くんがむっくりと顔を上げて、井上さんを見た。

「うわ~、委員長、起きた~」

 ぱちぱちと手を打ってはしゃぐ井上さんに、しらゆきと藤沢さんが意味深な笑みを向ける。

「え、ちょっとなに~?」

 井上さんは困ったような嬉しそうな笑顔で、ちょっと後ずさりをした。

「ミッキちゃんは将来いい嫁になるわ。俺とか、どう?」

「バーカ!」

 ばしんとしらゆきが長峰くんの背中をたたく。そのうちに先生がやってきて、ホームルームはすぐに終わった。古屋くんが立ち上がって、号令をかける。

「きりーつ、れーい、さよーならー」

「「「さよーならーー」」」

「おつかれっしょいィィ!!」

 なぜか今枝くんが声を張り上げていた。しらゆきが私を振り向く。

「とーこっ! 部室いこっ!」

「うん」


☆ 牧野ひなた


 部室が近づいてくると、みよっちの歩みが遅くなって、ふふ。こういうところ、本当に変わってないなぁって思うの。みよっちに言ったら怒られちゃうかもだけど!

「みよっち、どうしたの?」

「……」

「不安?」

 うつむいちゃう、みよっち。こうゆうときはね、言葉なんていらないんだぁ! こーゆーときは……。

「久しぶりに、アレ、いっとく……?」

「……茜先輩!? どこから出てきたんですか!?」

 茜先輩は、こういうのを見逃さない人だからね、みよっちさん♪

「いーから、いーから! いっときましょ~!! みよっちサンドイッチ~☆」

 説明しま~す! みよっちサンドイッチっていうのは、前から後ろからみよっちを抱きしめちゃう、私と茜先輩の奥の手なんだよ!

「あ、おかまいなく~♪」

 しらゆきちゃんととーこちゃんが、どぎまぎしながらそばを通りすぎてくけど、気にしない♪ みよっちのエネルギーを満タンにしなきゃ!

「……どうかな? だいじょうぶになった?」

「ん、少し……」

 みよっち、かわい~! さーて! それじゃあ、いざ出陣だよ~!! れっつごー!!


□ 文村冬湖


 廊下の窓から外を見ると、やっぱり雨が降っている。明るい廊下と薄暗い外と、そのあいだにある鏡のような窓。自分の顔の奥にしらゆきの顔が見えて、鏡になった窓越しに私の事を見ていた。

「しっらゆき~!」

「わ! お、お……っと」

 唐突に莉香子さんの声が聞こえて、しらゆきのほうを見ると、莉香子さんがしらゆきに抱きついていた。体を預けるようにしてもたれかかってくる莉香子さんをしらゆきは抱きとめて支えている。

「しらゆき~、最近、からめてないよぅ! こんど一緒にどっか行こうよ~」

 莉香子さんはちょっと甘えたような声を出す。そんな莉香子さんを廊下を行く人たちが振りかえって見ていく。

「週末とか、どう!? ヒマ? ヒマ?」

「えと……うん、土曜日なら……」

「じゃ、土曜日ね! あとで連絡するから!!」

 バイバイと手を振って、莉香子さんは教室に戻っていった。その間、莉香子さんは一度も私のほうを見なかった。

『とーこちゃんってさ、今、好きな人いる?』

『私はいるよ』

『恋をするとさ、毎日が楽しくなるよ』

 莉香子さんのそんな言葉が、なぜか私の頭をよぎっていく。

「とーこ?」

「えっ?」

「ど、どーしたの?」

「え、ううん。なんでもないよ……」

 歩き始めるとき、しらゆきから半歩おくれて1組の教室に莉香子さんの姿を探した。莉香子さんは何か言って友達を笑わせていた。


「え……な、なにしてるんだろ……?」

 部室の前まで来ると、美夜子先輩とひなた先輩と、それから茜先輩がひとかたまりになっていた。近づいて見ると、美夜子先輩とひなた先輩が抱き合っていて、茜先輩が美夜子先輩を後ろから抱きしめている。

「な、なにしてるんですか?」

「どうぞ、おかまいなく……」

 茜先輩がそう言ってにや~っと笑うと、ひなた先輩も「さきに部室に入っててね」って言うみたいにニッコリ笑った。

 部室の中に入ると、テーブルの位置が変わっていた。私たちがいつも座る席が黒板に相対するようになっている。茜先輩が部室に入ってきた。すぐに美夜子先輩とひなた先輩も入ってくるはずなのに、なぜか扉を閉めてしまう。

「茜先輩! 今日、なにかあるんですか!?」

「あるみたいだね~、うんうん……」

 そう言って茜先輩は、いつも窓際に置いている自分の椅子を、私たちの席の後ろに移動させた。

「私はこの保護者席で……」

「保護者席?」

「ほら、座って座って……」

 茜先輩にうながされて、私たちは席につく。私たちが席についたら扉が開いて、ひなた先輩と、その後ろから美夜子先輩が入ってきた。


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