第14話 「反省と感想」5
○ 神山しらゆき
お茶とお菓子で、まずはほっと一息。またしても「ひなた空間」にとりこまれちゃってた……。ほんとまだ修行が足りてない。窓の外では、ざんざか雨が降ってるけど、あんま気にならない。なんだろ? 美夜っち先輩をいじった後は心がすーっと晴れてくって感じ!! 部室にちょっとまったりした空気が流れる。でも、美夜っち先輩だけ、ちょっと緊張の面持ち……。そっか、次って美夜っち先輩のだ。
はっきり言って、美夜っち先輩のは、ちょっとあんまり感想言えそうにないっていうか……。なんていうか雰囲気がガチすぎて「少女と両親の関係が真に迫りすぎてますよー」とか「どうして最初のところで『誰も知らない』っていってる話を美夜っち先輩が知ってるんですかー」とか、気楽につっこめない感じ。どうしよう?
「それじゃあ、その、最後は、私の、なんだけど……」
「本誌、最大の問題作……!!」
茜っち先輩、はりきってる。
「問題作ってなんですか……」
「さぁて、誰から感想いく~……?」
……し~ん。
「ねえ、悲しいお話だったよね~? 私はこんなとき、どうしたらハッピーエンドになったんだろうって思って、いろいろ想像しちゃうんだぁ! ふたりはどうだったかなっ!?」
……どうだったかなって言われましてもぉ。
「えっと、その、すごかったです……なんていうか、うまく言えなくて……」
……し~ん。2回目。うわわ、どーしよ!?
「そいじゃ、質問を変えてみよーか……?」
□ 文村冬湖
はじめて美夜子先輩のお話を読んだとき、私は「どんな心がこんなお話を書くんだろう」と思って戸惑った。私の知っている人が、こういうお話を書いたことを、どう受け止めればいいのか分からなかった。今まで読んだ本やマンガにも悲しいお話はあった。特に深く考えることもなく、私はそれらのお話をお話として読んだ。でも書いた人を身近に知っててそれを読むとき、戸惑う。何も言えなくなる感じがする。
「そいじゃ、質問を変えてみよーか……?」
黙ってしまった私たちに、茜先輩が言う。また悪だくみを思いついたときの笑顔で。
「どうして最後に少女は水の精といっしょに水の底へ行くのかな? 少女の気持ちを答えよ。配点は30点……」
「めっちゃ現代文の問題になってる!?」
「ふふ……こんな話がある。大学入試で自分の書いたものが問題文に使われたある作家が、試しにその問題を解いてみたら、半分もとれなかったという……」
「そ、それって?」
「出題者が自分の解釈を正解にしただけなんだよね……。今回は他ならぬ作者の宮守美夜子先生がいらっしゃってますので、すぐに正解かどうか判定できるよね? とゆうわけで、よろしくお願いします、美夜子先生……」
「お願いします、美夜っち先生!!」
「え、ええ……」
しらゆきたちがそんなやりとりをしているとき、ちょうど開いていたページに私は答えになりそうな部分を見つけた。ここに書いてある。そう思って茜先輩の方を見る。
「おや? とーこが何か言いたげに見える。とーこ、どう……?」
「あ、ええと……ここに『大切な親友に嘘つきと思われるのは嫌でした』って書いてあります」
「ふむ、30点中15点かな……」
美夜子先輩に確かめることもなく、茜先輩が言う。
「15点、ですか?」
「そ。このままだと半分。残り半分を読み取る必要がある。作者も意識していない、本当の正解を……」
「それって、私たちが勝手に考えていいんですか?」
「ええよ。それは読者の勝手だから……」
「ちょ、ちょっと待ってください、茜先輩っ!! さっきと言ってることが違いませんか!?」
「えっ? さっき何か言ったっけ……?」
「あかねせんぱーい!!」
「じゃね、しらゆき。残りの15点を埋めてみて……?」
「えっ!?」
○ 神山しらゆき
くうう、茜っち先輩! 結局、作者が正解を知ってるのか、それとも正解は読者が勝手に決めていいのか、どっちなんですか~!? うん、でも、まあ、読者が勝手に決められるって方が、なんかいいかも……。
「じゃね、しらゆき。残りの15点を埋めてみて……?」
「えっ!?」
なんとゆう無茶ぶり。書いてある以上のことを読み取るってどういうことをすればいいんだろ? でも、少女の気持ち、なんとなく分かる気がしてたり。これ言ったら引かれるかもだけど。どうしよう? なんとかお茶をにごせるようなこと、言えればいいんだけどなー。でも、茜先輩……茜先輩にはあたしの気持ち、ぜんぶ見透かされてるような気がする……。ええい! 引かれたときは引かれたときだぁ! 言う、言うぞお!!
「ええと、あたしは……あたしは恋かな~って思いました……」
「ほおお? 説明してみて……?」
「えと、相手を大切に思ってて、相手のために何かしてあげたくて、そのためには何でもできちゃって、それでふたりでいれば怖くないって、それって……それってやっぱり恋かなって思いますから……」
わーっ、わーっ、なに言ってんの、あたしっ!! やっぱナシで、やっぱナシでお願いしますっ!! うつむいて顔が熱い! しかも3回目の「し~ん」しちゃってるぅ!? だっ、だれかしゃべってよぉ~!!
「……と、ゆうことのようですが、いかがですか美夜子先生?」
「そ、そうね……そういう解釈も、できると思うわ……」
「おお、しらゆきよ。よくぞ読み取った。それでこそ我が弟子……」
茜っち先輩のわかりやすすぎるウソ泣きが!!
「えへえ、そうですか? ありがとうございます……」
ともあれ、なんとかなったみたいでよかったぁ!!
□ 文村冬湖
しらゆきの話を聞きながら思ったのは、少女は水の精に恋をしていたの?ということ。私は少女にそんな感情があることを読み取ることができなかった。私は恋がどんなものなのか知らない。でも、しらゆきはそうじゃないみたいだった。
「えへえ、そうですか? ありがとうございます……」
しらゆきは照れたように頭をかいている。私はそんなしらゆきに聞いてみた。
「しらゆき、恋をしたことがあるの?」
「ふぇっ!?」
しらゆきが、ぎょっとしたように私の方を向く。
「どっ、どどど、どーして!?」
「え……だって、恋がなんだか知ってるみたいだったから……」
「え~!? しらゆきちゃん、そうなの!?」
「え、いや、いや、ぜんぜん、ぜんぜんちがいます! イッパンロンです、イッパンロン……!」
しらゆきは、あたふたと手を振る。
「え~、そうなのかな~? あやしい~☆」
「ひ、ひなた! しらゆき、困ってるから」
「わっ、ごめんね~っ! ちょっと舞い上がっちゃった!」
「い、いえ……」
「でも……恋だとしたら悲しいね。どうして二人で生きてくことを選ばなかったんだろう?」
ひなた先輩がそう言って、その言葉の余韻に雨の音が割って入った。空白の時間ができる。いままで、みんなでおしゃべりしていたのが嘘みたいに、みんな自分の物思いに沈んでいったように見えた。窓の方を見てみる。蛍光灯の光がガラスを鏡のようにして、半透明の私たちと窓の向こうの景色がそこに重なって映っていた。
「ずず~」
茜先輩が栄養ドリンクのビンの底を真上に向けて、中の液体を飲み干す。
「はう~、タウリンが入ってゐるぅ~……」
茜先輩の言葉に、静かに張り詰めた空気がゆるんだ。
「そういえば、1年生と2年生は、今度の水曜、実力考査じゃなかったっけ~……?」
茜先輩がにんまり笑う。
「茜先輩、それ思い出させないでくださいよっ!!」
「がんばってね~、3年生はないけど……」
「大丈夫。1年生の実力考査は範囲が狭いから。また教えてあげる」
「いっしょに去年の過去問をおさらいしてみよ~う☆」
「お世話になりますぅ~……!!」
しらゆきがテーブルに手をついて時代劇の人みたいなお辞儀をした。私はティーカップに残った紅茶をちょっと口に含んでみる。すっかり冷えてしまっていたけれど、それはとても甘かった。
【参考文献】
構想社「小説家の時計」黒井千次 ←現代文のテストが悪くても気にする必要が無いことを教えてくれる有難い書。




