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新百合ヶ丘高校文芸部☆  作者: m8eht
雨の季節編
47/67

第14話 「反省と感想」4

○ 神山しらゆき


 ……え? 終わり? 今ので終わり!? え、なんでなんで!? まだぜんぜん感想とか言ってないし! しかも美夜っち先輩もなんか流すカンジになってるし、どうしてだろ?

「それで、次はひなたの作品だけど……」

「どうだったかなっ!?」

 答えにつまるその笑顔……っ!!

「ひなたのお話とかけて……」茜っち先輩が大皿のあめ玉を1個つまみあげて「このあめ玉と解く……」

「そのあめ玉と解く! そのこころは?」

 のっかっとくあたし。

「……さぁ? ちょっと言ってみただけ」

「あかねせんぱぁい!!」

 茜先輩につっこみつつ横目で見れば、ひなた先輩があたしのことを見てるっ! ここはあたしから行くしかない!?

「あ、えとっ、それじゃ、あたしから行きます!!」

 なんてゆうか、気のきいた感想とか言えそうにないけど、ええいままよ!!

「ええと、ほのぼのしてて、それから子ネコちゃんたちがかわいくって、よかったと思います!! それで、えと、自分でもお話を書いたから、だと思うんですけど、登場人物がたくさん出てきてて、すごいなぁ~って思いました!!」

 どやっ!!

「ありがとぉ!! ルルック王国はね、読んでくれた人が和んだり、ほのぼのしてくれたりしたら嬉しいな~って思いながら書いてるんだぁ!! だからそう言ってもらえて、ほんとうに、すごく、うれしい!!」

 わ~めっちゃニコニコやぁ~。

「ひなた先輩って、ネコ飼ってるんですか?」

「ううん、飼ってないんだぁ。お父さんが動物苦手だから。子ネコちゃんの場面はね、『ネコの飼い方』って本を読みながら、もしネコちゃん飼ってたらこんなふうなのかな~って想像しながら書いたんだよ!!」

「へえ~」

「あと……そう! 登場人物はね、しらゆきちゃんもお話作りに慣れてくれば、たくさん出せるようになるよっ!」

 あっ、まなざしが……まなざしが、なんか夢見る感じに……!!

「……新しいキャラを出すってことはね、その世界を大きく、また新しくすること! だから私ね、新しいキャラを出すときはいつもドキドキしてるの! しらゆきちゃんもね、クセになっちゃうと思う! だってね、本当に楽しいから!!」

 ……ぐぇぼっ!! っと心の中で砂糖をぶちまけておく。顔は……顔は平静を装うんだ、あたしっ!! ひなた先輩のキメ顔で有名なふんわりスマイルも決まって百点……百点満点でございます……!!

「とーこちゃんはどうだったかなっ!? とーこちゃんの感想も聞きたいなっ!!」


□ 文村冬湖


 しらゆきは頬を赤く染めて、まるで機械の人みたいな動きで、ひなた先輩に相づちを打っている。でも、ぷるぷるしてて何かをこらえているようにも見える。と、ひなた先輩が私の方を向いた。

「とーこちゃんはどうだったかなっ!? とーこちゃんの感想も聞きたいなっ!!」

 そう聞かれて困った。しらゆきのを読んだときと同じで、ひなた先輩らしいなぁというのが、私の感想だったから。ロッタさんとそのまわりの人たちと、それから双子の子ネコのエピソードを全部読んで、私はそう思った。どれか一部分だけを取り出して感想を言うこともできる。でも、それだと、なんだか空々しくなってしまいそうな気がした。

「ええと……」

 私は今までも本やマンガを読んだりしてきたけれど、読んで面白くてもただそれだけで、誰かに感想を伝えるなんて考えたこともなかった。ひなた先輩が期待するようなまなざしで私を見ている。ひなた先輩のお話を読んで持った感想の中で、いちばん自分で空々しくならないものはと考えて、そして私はそれを言った。

「あ、私は……ロッタさんはひなた先輩かなー、って思いながら読んでました」

「ほえ?」

 ひなた先輩に不思議そうな顔をされて言い直す。

「あっと……ロッタさんが本当にひなた先輩に似てて、ロッタさんはこの世界にいるひなた先輩なのかなって思って……」

「んー……」

 ひなた先輩は、人差し指をくちびるにあてて、きまじめな顔で考え込む。そしてやがて答えに思い当たったみたいに私を見た。

「うん、やっぱりちょっと違うかも」

 そしていつものやわらかい表情にもどる。

「とーこちゃん。ロッタはね、私じゃないよ。自分がこんなふうになりたいって思ってる私でもなくて……やっぱりロッタはロッタなんだよ」

 ふわりと胸の前で指を絡めるひなた先輩……。

「私にもロッタのことで知らないこと、たくさんあるの。私のてのひらの上の世界なのに、知らないこと、たくさんあるの。ねえ、とーこちゃんは『キャラクターが勝手に動き始める』って言葉、聞いたことないかな?」

「あー、あのよくマンガ家の人がインタビューで言ってるあれですかっ!?」

 私の代わりにしらゆきが答えた。

「そっ! それ! 『キャラクターが勝手に動き始める』って、そういう瞬間、本当にあるんだよ! 考えて、考えて、ずっと考えて、夜ねむる前のベッドの中でもこの子はどんな子だろう?これからどうなるんだろう?って考えてると、ある日、その子が私の中で動き始めるの。それでね、私、思うの。あ~そっか~そうだったんだ~この子はこんな子だったんだ~って! そして、それを書きとめてく。私のね、いちばんしあわせな瞬間なの!」

 うっとりするひなた先輩。

「結末なんて、知りたくないの。書きながら、ドキドキしていたい……」

 最後の言葉は私たちではなく自分自身に言ってるように思えた。熱っぽい、とろんとした目をテーブルの上に落とす、ひなた先輩。しばらくそうしたあと、はっと気付いたように、私たちに向かって照れ笑いをした。

「あっ、ごめんね~! 一人で話しちゃってたねっ!」

 美夜子先輩はもう慣れた感じ。茜先輩は何度も「うんうん」とうなずいている。しらゆきは……テーブルに突っ伏していた。

「どうしたの、しらゆきちゃん? だいじょうぶ?」

「だ、だいじょうぶです……」

 むくっと顔を起こすしらゆき。林檎みたいな頬の色になってる。

「でも……あたしもとーこと同じで、ロッタさんがひなた先輩でアリアさんが美夜っち先輩だと思って読んでました……」

「ううん、そうだったのかぁ~!」

 ひなた先輩がちょっといたずらっぽい表情になる。

「ふふっ! 実はそう思われても仕方なくて、ロッタとアリアのところは、私とみよっちの間にあったことをエピソードとして入れてたりするんだよね~! 今回はお泊りのところとか。えへ、やっぱり、みよっちに『思わずニヤリ』してほしくて……」

「すいません、お泊りの件について詳しく……」

 茜先輩が口を挟む。

「つ、次に行きましょうか」

「あれ? 美夜っち先輩の感想がまだですよ?」

「私はもうフライングして感想伝えちゃったから。私の部屋で」

「えっ!? お泊りですかっ!?」

「枕を並べて……? 事後……? ピロートーク……?」

「……しらゆきも茜先輩も、あとで自分の頭を叩いておきなさいね?」

「サー! イエッサー!!」

「うんうん。ヒビの入るくらい、ゴチンしておく……」


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