第14話 「反省と感想」3
○ 神山しらゆき
……ヤバイ!! 今日中に嬉死しちゃうかも!? とーこがあたしの言ったこと、覚えててくれてる……ど、どーゆーことだろ? いや、たまたまだよね、たまたま。うん、そーなんだと思うけど……でも、にへへ。うれしいな……。
うん、よし! 次は茜先輩の俳句かぁ!! ようし、あたしはやるぞ~めっちゃ感想いうぞ~!!
ええと、そうだなあ。もしどれかお気に入りを一首あげろって言われたら、あたしは『春の風吹き散らす』をあげるかな? 教頭先生のカツラがふわり空に舞い上がってくの好き。うわさによると、教頭先生カツラ説は本当らしいし。いろんな人たちの証言によれば、ここ2年ほどまったく髪型が変わってないらしい……。
「それじゃあ、次は茜先輩の作品に行きましょう」
□ 文村冬湖
感想ってあれでよかったのかなって思うけれど、よく分からなかった。ちょっとしらゆきを見てみる。なんだかにやにやしている。どうしたんだろう?
「それじゃあ、次は茜先輩の作品に行きましょう」
茜先輩の俳句の載ったページを開く。もしどれか一首選ぶように言われたら『茜色の影よぎる』を挙げようと思っていた。どうして入稿後のことが書いてあるんだろうとか、あたりまえの話だけど茜先輩にも先輩がいて、でもそれは私にとってなんだか不思議なことだった。それに、文章ではおどけているようにも見えるけど、それだけじゃないような気がして、気になっていた。
「茜先輩?」
美夜子先輩が茜先輩に呼びかける。
「ちょっと……」
茜先輩は、注目する私たちを手で押さえるようにしてから、足元に置いていた自分の小さな赤い手提げ袋から茶色いビンの栄養ドリンクを取り出した。
テーブルの上にコチッと置く。そしてじっと見る。手にとって、しげしげとラベルを見る。そして顔から離してビンの全体を見るようにする。それからまたテーブルの上に置く。
「ふう……」
ため息をついて、精神集中するみたいに目を閉じる茜先輩。そんな茜先輩を見守る私たち。
茜先輩が目を開ける。おもむろにビンを手にとって、キュ、カチッとねじのふたを開けた。そのままゆっくりとふたを回して、そっとビンから外した。ふたをテーブルの上に置き、ビンの飲み口に鼻先を近づける。
「すんすん……」
匂いをかぐ。
「ふゥーーッ……」
大きくため息。それから「うんうん」というみたいに頷く。ちょっとためらうような仕草をしたあと、ビンに口をつけた。ビンを傾け、少し口に含んだみたい。閉じたくちびるをむにゅむにゅとさせて、舌の上にのせて味わってる感じがする。ごくんと飲み込む音が私にも聞こえた。
「はぁぁ~~……」
大きくため息。口もとに微笑みを浮かべて、どこか遠いところを見ている茜先輩。そして一言。
「タウリンが入ってゐる……」
私たちは何の反応もできない。茜先輩が小さく咳払いする。そしてまた一言。
「タウリンが、入ってゐる……」
口もとに笑みを貼り付けて、どこか遠い目のまま、茜先輩は固まってしまった。じっと茜先輩を見るけれど、茜先輩は固まったまま。やがて美夜子先輩が言った。
「……満足しましたか?」
「……ハイ。頑張りました」
「次、行ったほうがいいですか?」
「ハイ……お願いします……」
ひたいを人差し指と中指でこする茜先輩。それは初めて見る茜先輩の照れ笑いだったような気がする。




