第14話 「反省と感想」2
○ 神山しらゆき
外は雨。でも、あたしの心は快晴もいいとこ! そんな気分で紅茶をひとくち。ふぃ~、口の中に華やかな味わいが広がりますねぇ~! いいお茶っぱ、使ってるぅ~! ちがいのわかる女、神山しらゆきです!! 今のあたしなら「生きてる」ってことのすばらしさ、みんなに伝えられる気がする!!
「じゃ、次はしらゆきのに行きましょうか」
ドキッ! 美夜っち先輩のSな目があたしを見てるんですけど!?
「ほぉら、『あぁん』して? だいじょおぶ、いたくないよぉ……?」
「茜先輩? 歯医者じゃないんですから」
「そうですよぉ~☆」
みんなが笑ってる。あれ? でも、なんでだろ? 今、胸がチクッってしたような……。
「それじゃあ、私から行くわね」
□ 文村冬湖
紅茶をちょっと飲んで、のどがこくっと鳴った。自分の分がなんとか終わって少し安心していた。部誌を繰って、しらゆきのお話が載ったページを開ける。そしてまた、少し不安になった。しらゆきのお話。読んできていたし、読んで感じたこともあるけど、でも、その感じたことをどう言うのか、まだ決められずにいたから。
「それじゃあ、私から行くわね」
美夜子先輩がまっすぐな黒髪を耳にかけながら言った。
「私は……コノハナとコハルの関係をとても面白いと思ったわ。二人は傍から見るとお姫さまとその侍女だけど、実際には友だちみたいね。でも、ただの友だちってわけじゃなくて、友だちみたいに話せるのはお忍びで街に出かけたときだけとか、それもあんまりなれなれしくするとコハルがお妃さまに叱られたりするみたいだけど。それでも、私には、二人は親友同士に思えるの。主従だけど、親友。二人の間にあるそんな距離がもどかしくて、それが、これから二人はどうなるんだろう、どうなっていくんだろうって思わせるんだと思うわ。最後のダンスに誘うシーンをみれば分かるけど、コノハナはコハルをよく見てる、よく理解してる。コハルは、いつかコノハナのために役に立つかもしれないと思って魔法を覚えたりする。二人はとってもステキな関係、だと思うわ」
美夜子先輩はしらゆきを見ながらそう言って、しらゆきはぽーっとなって聞いている。
「甘い……」
「……はい?」
美夜子先輩が茜先輩をけげんそうに見る。
「まだまだ……読みが甘い。『それだけじゃない』って部分を読み取らないと……」
「ん……じゃ、じゃあ、茜先輩の、その、読みというのを披露してください」
茜先輩はゆるむ口もとを手で隠しながら言う。
「そう……ずばりコハルはすけべちゃんです……!」
「……はい?」
「ほら、よく見てみて……。空を飛ぶときも、川を渡るときも、ダンスのときも、コハルはコノハナとさりげなくスキンシップを図ろうとしている……。空を飛ぶ魔法を覚えたのだって、役に立ちたいから、とかではなく、単にコノハナをおんぶしたかったから。そうに違いない……」
「はぁ……」
呆れた感じの美夜子先輩。
「というわけで、コハルはすけべちゃん。コハルとコノハナの関係を見るときは、こういう視点からも見る必要がある。そうゆうことが言いたかった……」
なんとか重々しい口調を保とうとしながらうなずく茜先輩。
「それは、茜先輩の汚れた心で見るから、そういうふうに見えるのでは?」
「さうかな? でも、ほら、しらゆきをごらん? 図星って顔してるよ……?」
茜先輩、美夜子先輩、ひなた先輩の視線がしらゆきに集まる。
「ふぇっ!? やや、ぜんぜん、そんなじゃないですよっ!? ほら、おんぶとかじゃなくて、ひなた先輩と話してるときに、『あっ、自分も空飛ぶ魔法出してみたいな~』って思って!!」
「うん、そうだったよね~☆ ね? 空、飛んでみて、どうだった?」
「そのう……なんていうか、自分で書いてて不思議な感じがしました。『雲の近くまで来ると、もう街はミニチュアのようです』とか。なんかこう……うまく言えないですけど、なんかこうヘンなカンジで、でもなんだか楽しくなってきて!!」
「そうそう! それが想像力の醍醐味なんだよ~!!」
「とゆうことですから!! おんぶとか関係ないですから!!」
「うんうん、そうやね。わかっとる、わかっとるから……」
「いや、ちょっと茜先輩! それぜったいわかってないです!!」
「ふふふ……」
満足そうな茜先輩。それを見て呆れ顔の美夜子先輩。そしてひなた先輩が手を上げた。
「ハイハーイ!! 私も感想いいまーす!!」
○ 神山しらゆき
くぅ~茜っち先輩めぇ~!! せっかく美夜っち先輩がイイカンジなこと言ってくれてたのに~!! ぜんぶお見通しってワケですかぁ!? そりゃ、あたしってとーこと、その、スキンシップとか! したいけど! でも、そのう、それは……。てか、とーこて! コノハナ姫でしょ!? うお~……はずかしい……なんか、めちゃくちゃはずかしい……。とーこ、どうおもったかな? 横を向いてみたいけど、ちょっとできないカンジ……。
「ハイハーイ!! 私も感想いいまーす!!」
来ちゃった……ひなた先輩、来ちゃったよ……。なるべく、こう穏やかなカンジでお願いします……。
「ええとね~、コノハナちゃんとコハルちゃんのことは美夜っちと茜先輩が言ってくれたから~、私はキツネさんのこと、聞きたいな!? 担当編集ごっこしてたときは、出てこなかったよねっ!?」
ほっ。ふつうの感想っぽい!
「あっ、そうなんですよ! ええと、ウチの神社のお狐様がゲスト出演!! とゆうことで、ちょっと出してみました!」
「そうなんだぁ! うーん、なんだろぉ? なんていうかね、とってもいい子だよね!? きっと尻尾はもふもふしてるんだろうなぁ……って思うんだけど、どう?」
「えっ!? あー、アハハ……そうかもしれないです……」
ほんとはキツネ耳をつけた弟をイメージしてたり。まあ、奴も自分をオイラとは言わないけど……。
「しらゆき先生の担当編集的には、これからもコノハナ・コハルシリーズ、続けてほしいなぁ~って思うんだぁ! ふたりともとってもかわいいから!! そしてね、キツネさんもまた出してほしい!! このキツネさんのキャラを掘り下げたら、きっと楽しいことになるような気がするっ! どうかなっ!? しらゆきセンセ!!」
「え!? ええと、け、検討させていただきます……」
「うんっ!!」
あっ、ひなた先輩が両手をふわりと胸の前であわせたときは『ヤバイ』の合図っ!! なんか来るっ!! そんな、そんな夢見心地な目であたしを見ないでくださいっ!!
「しらゆきちゃんの初めての物語……コノハナちゃんとコハルちゃん! ふたりのこと、もっと知りたいな!? たくさん考えてあげてね? たくさん知ろうとしてあげてね? たくさん、たくさん、もっといろんなこと……。そうすればふたりのこと、もっとよく知ることができるよ! ふしぎ! 私たちのてのひらの上の世界なのに、知ろうとしなければ知ることができないなんて……ねえ?」
「ん、ぐ……」
こらえるんだ、吐いたらダメだ、砂糖吐きそう……でも、こらえるんだ、がんばれ、がんばれっ、あたしっ……!!
□ 文村冬湖
しらゆきは顔を真っ赤にして、何かをこらえている。ひなた先輩はそんなしらゆきに気付いて、首を傾げて、不思議そうな顔をする。
そんな中で、美夜子先輩が私のことをちらっと見た。
「そ、そう! とーこ! 最後にとーこの感想を聞きましょうか? とーこ、どう?」
「えっと……」
なんとなく言おうと思っていたことを全部、美夜子先輩とひなた先輩に言われてしまったような気がした。
「もう、全部、言われました……」
「重なってもいいの。とーこの感想を聞かせて?」
美夜子先輩が言う。
「そこはあえて別なアプロウチをするという手もある……」
茜先輩がニヤニヤしながら言う。別なアプローチ。そう考えて、ちょっと前に池のところでしたしらゆきとの会話を思い出した。
「えと……前にしらゆきと二人で話してたときに、しらゆき、『自分の世界を持ってる人にあこがれる』って言ってたんです。『自分もいつか自分の世界を持ちたい』って」
「ほおう……ふだんそういう話、してるんだ……」
「あ、あの、部活見学のときにもらった部誌を読んでて……それでそういう話になったんですけど……」
「ふむふむ……」
「それで……それで、このお話を読んだとき、初めてこのお話を読んだとき、ちょっと不思議な感じがしました。なんていうか……しらゆきじゃないような気がして……」
初めて読んだときは戸惑った。いつものしらゆきと、しらゆきの書いたお話とがつながらなかった。でも。
「でも、もう一度読んでみたら、やっぱりしらゆきのような気がして……それで、読んでるうちに、だんだんしらゆきらしいなぁって思えてきて……ええと、その、よかったです。あ、お、面白かったです……」
「だって、しらゆき……」
「は、はい。えへへ……」
茜先輩の言葉に、しらゆきは照れたように笑った。