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新百合ヶ丘高校文芸部☆  作者: m8eht
はじめての物語編
24/67

第8話 「はじめてのデート?」5

□ 文村冬湖


 駅前広場を臨む駅入り口のひさしの下で、私としらゆきは姉さんが来るのを待っていた。雨は降り続いている。幾千の雨粒の向こう側で、中央通りのネオンの明かりがとても綺麗に映えていた。

「雨、やまないね」

 しらゆきが雨粒の落ちてくる方を眺めながら、そんなことを言う。もう一度カフェに戻る? そう言おうとしてやめた。なんとなく、そんな感じでもなかったから。そのまま私たちは二人、人の流れの外側で雨の街を見ていた。

 しらゆきと二人でいるのにも、なんだか少し慣れてきた気がする。二人でいて黙っていても、居心地の良さを感じる気がする。そして、それは今も。どうしてしらゆきは私と一緒にいてくれるんだろう? 今日、私は楽しかったけど、しらゆきは楽しかったのかな? ぼんやり雨音を聞きながら、私はそんなことを考えていた。

 それから20分くらいして、駅前広場のわきにある送迎場に姉さんの車が止まった。窓を開けて姉さんが手を振る。

「しらゆき、来たよ」

 私たちは傘をさして駆け出した。


「ふたりとも後ろに乗る?」

 姉さんにそう言われて、私としらゆきは後ろの席に並んで座っていた。しらゆきはなぜか緊張しているみたいに体を固くしていた。

 車は走り始めてすぐ、大通りの信号につかまった。そのとき、しらゆきが意を決したみたいな感じで、姉さんに話しかけた。

「あ、あの!! えと、いつもとーこさんに仲良くしてもらってます!! 神山しらゆきっていいます!!」

「ふふっ、はじめまして、とーこの姉の春菜です。とーこと仲良くしてくれてありがとう」

 バックミラーごしに姉さんがしらゆきに微笑みかけたのが分かった。

「え、えへ……ど、ども……」

 しらゆきはてれてれしながら頭をかいている。古屋くんのときにも思ったことだけど、しらゆきは本当に誰とでも仲良くなる。そんなしらゆきを私は少しだけうらやましいと思った。

「おうち、雨ヶ森神社なんだよね? 神社の方に行けばいいのかな?」

「あ、はいっ! ウチ、境内の中にあるんですよ!」

「りょーかいっ!」

 信号が変わって、車はまたゆっくりと走り始める。私は窓の外を見た。窓ガラスに伝う雨の向こうの街は、赤や黄色の光をにじませてぼやけて見えた。


 雨ヶ森神社へと向かう道の途中、車はぐねぐねと曲がる山道にさしかかっていた。車のヘッドライトに照らされるのは、白いガードレールとぼんやりとした雑木林とその奥にある暗がりばかり。雨は小雨になっていた。

「しらゆきちゃん、いつもこんな遠くから学校に通ってるの?」

 姉さんがしらゆきにそんなことを聞く。

「え、あ、はいっ」

 しらゆきはまだ少し緊張しているみたいだった。

「毎日、大変じゃない?」

「いやあ、もう慣れたもんですよ!」

「そうなんだぁ。頑張り屋さんなんだね」

「そ、そんなことないですよ……あ、中学のころ陸上やってたんで、体力にも自信があるっていうか……」

 しらゆきは陸上部。そういえば、私にそれを初めて教えてくれたのは莉香子さんだった気がする。

 そんな話をしているうちに、車は雨ヶ森神社の鳥居の前に出た。「雨ヶ森神社入口」と書かれたバス停を上から電灯が明るく照らしている。その少し奥に鳥居があって、その鳥居から先は石段になっていた。その石段は黒々とした闇に向かって消えていくように伸びている。なんだかお化けがでそう。そんなことを思ったけれど、しらゆきに悪いような気がして口に出しては言わなかった。

「あ、あの、送ってくださって、ありがとうございました!!」

 しらゆきが姉さんにそう声をかける。

「え、えと……それじゃあね、とーこ。また明日……」

 そして私には思い切り悪くそんなことを言って、小雨の降る外へと出た。

「とーこ」

 バックミラーごしに姉さんが笑っている。その笑顔は「見送ってあげよう?」って言っていた。

「うん」

 私はそう答えて、私も車の外に出た。霧のような小雨が、さぁっと顔にあたる。

「と、とーこ? どうしたの?」

「ううん、なんでもないけど……」

 なんでもないけど、なんとなくちゃんとお別れの挨拶がしたいって思っていた。顔を上げると、しらゆきのきょとんとした顔があった。その顔を見ると、なんだか恥ずかしくなってうつむいてしまう。でも言わなきゃ。そう思って、私は言った。

「今日はありがとう。楽しかった」

 その一言であたりはしーんとしてしまった……ような気がした。おそるおそる顔をあげると、しらゆきはぽかんとしている。

「あ……うん!!!!」

 そして次の瞬間には、ぱぁっと笑顔になっていた。

「そ、それじゃ、また明日ねっ!!!!」

 私に手を振って、しらゆきはきびすを返して駆け出していた。そのまま石段を一気に駆け上がっていく。小雨が降る中、私はそんなしらゆきを見送っていた。頬にあたる冷たい感触が心地よかった。

 ふいに足音が止んだ。電灯の明かりの届かない暗闇の中で、しらゆきが私の方を振り返ったような気がして、私はその暗闇に向かって手を振った。そしてまた階段を駆け上がっていく音が聞こえて、その音はだんだん遠ざかっていった。

「それじゃあ、とーこ、帰ろっか」

 後ろから姉さんの声が聞こえる。私はもう一度だけ、うっすらと夜空と木立の境目が見える暗闇の方を見上げて、そして車に乗り込んだ。


「とーこ、楽しかったの?」

 助手席に乗った私。隣にいる姉さんの声は弾んでいる。

「……うん」

「そう、よかったね」

 姉さんの少しからかうような笑顔。私はちょっと恥ずかしくなる。どうして私はあんなこと言ったんだろう? 普段の私じゃないみたい。でも、後悔してるわけじゃなかった。胸がドキドキして悪い気分じゃなかった。自分が自分じゃないみたい。でも、私はそれを怖いと思わなかった。

 ありがとう、しらゆき。私、今日、とっても楽しかったよ。


○ 神山しらゆき


 石段の途中で、もう一度、とーこのことが見たくなって振り返った。ぽっかりとした明かりの中にいたとーこは、あたしのことを見て手をふってくれた。そして再び駆け出すあたし。顔にあたる小雨が気持ちいい!! ありがとう、おきつね様!! とーことデート大作戦、大成功!!!!


 そのまま玄関に飛び込んで、家の階段なんか一段飛ばしで、自分の部屋のベッドにダイブ!! ゴーーーール!!!! 神山しらゆき選手、やりました!!! やりましたぁぁぁ!!!!

「おおい、うるせーぞ!!」

 弟がやってくるけど、今日のあたしはとってもきげんがいいから、思わず心が広くなっちゃうよね!? やぁ、弟よ!!

「あんたもね、ちゃぁんとお勉強して、いつかはお姉ちゃん孝行しないとね。うんうん」

「はぁ?」

 なに言ってんだコイツみたいな目であたしを見るけど、すぐに何気ない調子で聞いてくる。

「それで? デートはどうなったんだ?」

「え? えへへへへ……」

 おっと、思わず笑いが!! 一瞬の間が空いて、弟の姿がかっ消える。すぐに階段をドタドタ降りてく音と、

「おかあさああああん!!! やっぱりデートだったあああああ!!!!」

 という声が聞こえてきた。

「ほんとぉぉぉ~!!?」

 お母さんの声だ。そして下が賑やかになる。あたしはベッドに寝っ転がったまま、丸めたおふとんをぎゅーーっと抱きしめた。

 そう、そうだよ! 誰がなんと言おうと、あたしにとって今日はデートだったんだ! いつか、うれしい楽しい思い出になるんだ!!

 腰にあたるポシェットからマムシドリンクのビンを取り出した。今日の思い出の品がこれってどーよ!? でも、かえってこんなののほうが、後で笑えたりするのかも? 大地、今回だけは感謝しといてあげる!!

 ……ねえ、とーこ、あたしが初めてあなたと出会ったのは高校の入学式の日だったよね。あのときあたしは、あなたに一目ぼれしたんだよ。だから、あなたと一緒に文芸部に入れて、あなたと一緒にお昼を食べれるようになれて、本当にうれしい……。

 誰かを好きになるたびに、あたしの未来は見えなくなる。あたしはいつも、同性の女の子を好きになるから。そしていつも、あたしの恋は片想いで終わっていく。これからもずっとそうなんて、そんなの嫌。

 だから……ねえ、とーこ、覚えてる? 学校の池のほとりであなたがあたしに言ってくれた言葉。

「いっしょの思い出を積み重ねて、ある日、ふと気付いたら、かけがえのない人になってる……そういうのが好き」

 ねえ、とーこ、あたし信じるよ? 信じちゃうよ、とーこの言葉。とーこはそういう意味で言ったんじゃないってわかってる。けど、でも、信じてみたい、賭けてみたい。今のあたしにできることは、この言葉に賭けてみることだけだから。とーこ、あたし、がんばるから!!

 だって、ねえ、とーこ、とーこ……あたし、あなたが好き。


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