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新百合ヶ丘高校文芸部☆  作者: m8eht
はじめての物語編
20/67

第8話 「はじめてのデート?」1

□ 文村冬湖


 私は昔から、あんまり口数の多い方じゃなかったと思う。自分の思っていることや考えていることを周りの人たちに話すのは、なんとなく気の引けることだった。私の話すことは周りの人たちにとって、あんまり意味のないもののように思えたから。

 面と向かって「なにを考えてるのか分からない」って言われたこともあるし、姉さんからも「みんなもとーこのこと、もっと知りたいって思ってるよ」って言われたこともある。それでも私は周りから一歩引いたところにいたいって思っていた。その一歩を踏み出すのは、いつでも怖かった。私が何かすることで、みんなに迷惑がかかるかもしれないって思ったし、それに……私が私じゃなくなるかもしれないっていう漠然とした不安を感じていたから。


 授業の合間の短い休み時間。私の前の席では、しらゆきとクラスメイトの井上さんと藤沢さんが、賑やかにおしゃべりをしている。そして私も、なんとなくそこに加わってるみたいな感じになっていた。

「ぜったいオススメだよ!! すっごく面白かったんだから!!」

「うんうん」

 井上さんが勢い込んで言い、藤沢さんが相づちを打っている。三人が話しているのは、この春話題のハリウッド映画のことみたいだった。

「へぇ。二人はもう見に行ったんだ?」

「行ったよ!この前の土曜日に! しらゆきも行ってきなよ!!」

「マジかぁ……じゃあ、あたしも行ってみようかなっ!?」

 明るく答えるしらゆき。こんなときのしらゆきは特別に明るい気がする。私の知ってるしらゆきとは少し違うような。だから私は不安になる。しらゆきは本当に私といていいのかなって考えてしまう。

「文村さんも!」

「えっ?」

「文村さんも行ってみてね! ほんとオススメだから!!」

「あっ、はい……行って、みます……」

 授業の開始時間が近づいて、ふたりは自分の席へと戻っていった。私が次の時間の準備をしていると、しらゆきが私の方を振り向いた。

「ねえ、とーこ……」

 私にそう呼びかけたときのしらゆきは、いつもの私といるときのしらゆきだった。

「……どうしたの?」

「あー、いや……今日さ、お昼いっしょに食べようね?」

 そんなことを聞くしらゆき。しらゆきとはほとんど毎日いっしょに食べてる気がする。だから、どうしてそんなこと聞くんだろうって思った。

「なに言ってんだ? お前ら、いつも一緒に食ってんじゃん」

 いつのまにか戻ってきていた長峰くんが口を挟んでくる。

「うるっさいなぁー、もぉ! わかんないかなぁ、繊細な乙女心がさぁ!!」

「は?」

 いつもの口げんかを始めるしらゆきと長峰くん。そこへ先生がやってくる。教室のざわめきは小さくなり、私は机に突っ伏したままでいる古屋くんの肩をゆさぶった。


 お昼休み。私たちは、池のほとりのベンチに並んで座って、お弁当を食べていた。風が吹いて、水面が小さく波立っている。となりに座るしらゆきの様子は少し変だった。なんだか思いつめたような表情で、そわそわしている。

「しらゆき?」

「ふえっ!? えっ、えっ? あっ、なーに?」

「あ、あの……どーしたのかな、って」

「あ、んーん、なんでもなーい! なんでもないよっ」

「あ、うん……」

 あせったように笑いながら、お箸を持った手を顔の前でぶんぶん振ってみせるしらゆき。やっぱり少し、変な気がする……。

 また池の方を見て、サンドイッチをひとくち食べた。他に誰もいない、私としらゆきと二人でいる時間。私は嫌いじゃないけど、しらゆきは退屈してるんじゃないかなって思った。


○ 神山しらゆき


 あたしは今、とても緊張している!

 となりにはあたしの大好きな人がいて、サンドイッチを食べている。そして、あたしはこれから、その人をデートに誘わないといけない! さっき聞いた映画の話、これを使わない手はないっ!

 と、思うんだけど……。

 いざ口に出そうとすると、とたんになにも言えなくなる。ほかの人から見れば、ただ友だちを映画に誘うだけかもしれない。でも、あたしにとって、これはデートなんだから……。そう思うと、心臓がドキドキ言い出して、うるさい。

 とーこ、さっきの映画の話なんだけどさ。とーこ、明日、たしか祝日でお休みだったよね。とーこ、明日、ヒマ? いろんなセリフがあたまの中でぐるぐるまわって、どれがいいんだか、さっぱりわかんない。

 でも、言わなきゃ。今、言わなきゃ。早くしないと、昼休みが終わっちゃう! 行けっ、行くんだ、あたしっ!!

「あのさぁっ、とーこっ!?」

「え?」

 あ、声が裏返った。落ち着け、落ち着くんだっ。

「あ、明日さぁ、映画いこーよ、ふたりでさ!」

 ……ちょっと、いろいろ直球すぎたかもしれない。うわ、顔が熱い。

「えーが?」

「そ、そう! ほら、さっき話してた映画……いっしょに、見に行かないかな、なんて……」

 いっそ心臓が痛い。

「ど、どーかな?」

 とーこはふっとあたしから視線をそらした。少し考えてるみたい。どう? どうなの、とーこ?

「……うん、いいよ」

「え? ほんと?」

「うん」

 いよっしゃああああああああ!!!! 心の中では叫んでみるけど、顔には出さない。引かれちゃったら困るし。……出てないよね?

「そ、それじゃ、明日、駅前の広場で待ち合わせね?」

「うん」

「え、映画の時間、調べたらさ、で、電話したいから、その……」

「あ、うん……」

 とーこが携帯電話を取り出す。よっしゃああああああああ!!番号ゲットォォォ!!

 そっと後ろから覗き込んでみると、あたしの番号はNo.8に登録されてた。ずいぶん、数字が若い……。

「あ、あたし8番なんだ? ずいぶん前の方だね?」

「うん。家族とか親戚とかしか、登録してない、から……」

 ……か、家族と親戚の次に、あたしの名前が!? こ、これは責任重大ですぞぉ!!

「そ、それじゃあ、今夜、電話するからね」

「うん、わかった」

 やったぁ!!「とーことデート大作戦」第一段階、任務完了っっ!!!!


 家に帰り着いて、かばんを放り出し、ベッドにダイブ。泳ぐんだ、あたしっ!このふとんの海をっ!!!

「なにやってんの?」

 弟の双一郎がドアのところに立って、あきれたようにあたしを見てる。やばい、ドアを開けっ放しにしてた。

「べ、べつになんでもいいでしょ!? ほら、行った行った!」

 弟は微妙な顔をして、どっかへ行った。ふー、あたしとしたことが……。

「あ、そうだ!」

 明日の服を決めなきゃ! 初デートだし、気合入れないとっ!!


 服の山ができた。ちょっとはりきりすぎた。夕飯をはさんで格闘すること3時間。けっきょく、あたしが選んだのは、いちばんお気に入りのシャツに、ジーンズ。よし、これで勝負しよう!

 鏡の前に立ってポーズ。うん、いいんじゃない? 実を言うと、からだにはちょっと自信があるんだよね。陸上部で鍛えてたし。は~、これでとーこも悩殺されてくれないかな~?

「よぉ、なんかマンガ貸して」

 またしても弟が!!

「わぁっ!? ちょっと!ノックくらいしなさいって、いつも言ってるでしょ!?」

「あぁん? なんだこりゃ?」

「あっ」

 とっさに服の山の前に立ちふさがってみるけど、おそかった。

「ああ、もしかして男か?」

 ニヤリと笑って弟が言う。

「そ、そんなわけないでしょ? 友だちと出かけるだけ!」

「ふーん?」

 弟はやっぱり微妙な顔をして、マンガを持ってどっかに行った。今、なにをあせったんだろ、あたし。


 お風呂に入ってリラックスした後は、ひたすら携帯電話を見つめる作業がはじまった。初めての電話……うう、緊張する。

 午後9時42分。遅すぎるってことはないよね。でもそろそろかけないと迷惑だよね。うん、頑張れあたしっ!

 言わないといけないことを、もう一度胸の中でくりかえしてから、意を決してとーこに電話をかけた。呼び出し音が鳴り始める。またしても心臓の音がうるさい。指先もちょっとふるえてる。

「はい、もしもし」

 とーこの声だ!電話ごしのとーこの声もいい!!なんだかあたし、変態みたい!!

「あ、とーこ? あたし、しらゆき」

「うん」

「あしたさ、13時20分の回にしよっか?」

「うん」

「あ、あのさ、映画見る前にどっかでゴハン食べよーよ。どう?」

「ん、いいよ」

「そ、それじゃあさ、明日の午前11時半に駅前の広場で待ち合わせってことで」

「ん、わかった」

 よしっ!!!デートっぽい!!デートっぽいぞ!!!「とーことデート大作戦」第二段階、任務完了っっ!!!!

「しらゆき?」

「あっ、あっ、えっ? な、なーに?」

 やばい、ちょっと飛んでた。てゆうか、このまま切るの、もったいない。なにか話題……なにか話題……。

「……それじゃ、しらゆき。明日ね」

「えっ、あっ、うん。あ、明日」

「うん」

 電話が切れてしまう。あたし、バカすぎる。どうしてこうなんだろ。でも……。

『それじゃ、しらゆき。明日ね』

 へっへっへ。デートだっ!!明日は、デートだあああああ!!はりきっていこう!!!

「へへ……」

 携帯をにぎりしめたまま、ふとんにくるまる。食事、映画、ウィンドウショッピング、それから……ホテル?ないない。いや、あってもいいけど。ていうか、あった方が……。いやいや、落ち着けあたし!! とにかく、楽しい日にしよう!! とーこが楽しんでくれたらいいな……。


□ 文村冬湖


 しらゆきからの電話を切った。明日はしらゆきとお出かけ。しらゆきの誘いに「いいよ」って言ったことを、私は少しだけ後悔していた。私の知らない休日の過ごし方に少し戸惑っていた。

「とーこ、電話だったの?」

「うん」

 お風呂から上がった姉さんが、髪を拭きながら私に聞いてくる。私に電話がかかってくるのはとても珍しいことだったから、無理もないことだと思う。

「学校のお友達?」

 そう聞かれて、私はなんて答えればいいのか分からなかった。しらゆきが私のことをどう思っているのか、知らなかったから。私は自分でもよくわからない言葉を、口の中でもごもごとつぶやいた。

「ふうん」

 姉さんはそんな私を見て微笑む。そして私のとなりに腰掛けた。私は姉さんの肩によりかかる。

「……明日、出かけてくる」

「そう。どこに?」

「街」

「さっきの電話?」

「うん」

「お友達と出かけるの?」

「……ん」

「そう。じゃあ、あとで服出しとくね」

「んーん、いつものでいい」

「だぁめ。ちゃんといい服着ていかなきゃ。お姉ちゃんがとーこに買ってきたのが、あるんだから」

「ん……」

「枕元に出しとくからね」

「うん」

 姉さんは私の肩を抱いて、私の肩をさすった。姉さんのシャンプーとボディソープの匂い。肌触りのいいお寝巻きを着た姉さんの、やわらかい肩。明日のことが分からなくても、私にはいつでも姉さんがいる。そう思った。


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