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新百合ヶ丘高校文芸部☆  作者: m8eht
入部編
14/67

第4話 「みんなですごろく!」5

 茜先輩がさいころを振ると、5の目が出た。

『22マス目までよく来たな。ところで、ちょっと考えてみてくれ。いままでどれだけ多くの作家が「生と死」の問題を扱ったのかをよ。この問題も俺たちには避けては通れないものだと思わないか? ということで「でっかいテーマ」シリーズ第2弾は「生と死」だ!! さあ語ってくれ!!そう熱く!!』

 茜先輩は少し間を置いてから言った。

「生きてるってことは心臓が動いてるってこと、死んでるってことは心臓が止まってるってこと……。死んだあとのことはわからない。何もないのかもしれないし、本当は何か在って、ただ五感で感得できないだけなのかもしれないし……」

 そして、少し言葉を区切って、私としらゆきの方を見た。

「ようするに分からんってことですな……」

 そう言って、茜先輩は美夜子先輩の前にさいころを置いた。

「えと、あたしたちもいずれ、そんな哲学っぽいことをしないとヤバいんですか?」

「んーん、そんなことない……。若いうちは恋にうつつを抜かしてるほうが健康的……」

「ですよねー!!」

 しらゆきは茜先輩に向かって、びしっと指差し確認をした。

「お勉強も忘れずにね」

 そうしらゆきに釘を刺しながら、美夜子先輩がさいころを振る。出た目は4だった。

『さて、20マス目だ。ここまでくればあと一息ってところだな。このマスに止まったのも何かの縁だな。自分の将来について考えてみよう。お前は将来、何になりたいんだ? 高校ってやつはよ、いやでもそれについて考えさせやがるんだ。老婆心ながら、ここであえて、そいつを聞いてみようじゃねえか。胸を張って、さあ、言ってみろ!!』

「将来の夢……」

 美夜子先輩の顔を戸惑いみたいな感情がかすめた気がした。

「いま、さがしてるところなんだよね?」

 ひなた先輩が、美夜子先輩の肩にそっと触れて、やさしくささやく。

「……ええ、そうね」

 美夜子先輩が、ひなた先輩に微笑みを返した。なんだろう、いっしゅん、二人の世界みたいなのができた気がした。私はただ、それをぽかんと見ていた気がする。

「ようし、次は私の番だねっ!」

 ひなた先輩が明るく言って、さいころを振った。出た目は6だった。

「やったぁ! 6が出たよ!」

 ひなた先輩の黄色いのがひょいっとマスを飛び越えていく。

『24マス目。ゴールまであと一歩というやつだな。さて、お前がこのマスに止まったのにも何か意味があるんだろう。ということで、最後にふさわしい問いを出すぜ。「物語」とは何だ? 直感でいい、答えてみてくれ。そして文芸部にいる間、ときどきこの問いと、自分出した答えのことを、時々思い出してみてくれ!』

「物語、かぁ……」

 そう言いながら、ひなた先輩は少し考えるようなしぐさをした。そして、いつも思ってることを言うときのように、よどみなく答えた。

「物語はね、誰かをしあわせにするために生まれてくるものだって思うんだ。何か楽しいことをしたい誰か、自分の知らない感情を知りたい誰か、ひとりぼっちでいる誰か、ひとりになりたい誰か、悲しい目に会った誰か……そんな誰かに寄り添うために、物語は生まれてくるんだって……私はそう思うの」

 また部室の中はシンとした。どうしてひなた先輩の言うことは毎回反応に困るんだろう? たぶんそれは、ひなた先輩が自分の気持ちを素直に言っているから、茶化したらいけないような気がするからじゃないかなって思った。

「あ、あたしも、誰かに寄り添えるお話が書けるように、精進、いたします……」

「うん、がんばろうね、しらゆきちゃんっ!」

 ひなた先輩は、そう言ってふんわり笑った。

「とりゃあああああ!!」

 ふたたび何かを振り切るようにさいころを横投げするしらゆき。出た目は6。しらゆきの白い二つ目ロボットがゴールのマスにたどり着く。

「よしっ!いちばん乗りぃ!!」

 しらゆきが立ち上がってガッツポーズをして、先輩たちが拍手する。しらゆきがゴールしたのに、私の水色のずんぐりむっくりはまだ6マス目にいた。まだ先は長かった。さいころを、ぽてんと振る。1の目が出た。もう慣れていた。

『7マス目によく来たな。青春……してるか、ぼうや? 今しかないこの時に、お前は何をするんだ? みんなの前だってかまわねえ、言っちまえよ。そしてやっちまえよ。誰の目をはばかることもない。今この瞬間を大切にするんだ!!』

 私はおもむろに水色のずんぐりむっくりをつまみ上げてゴールのマスに置いた。

「ゴールしたいので、ゴールしてみました……」

 なんとなくそんなことをしてみて、上目遣いに先輩たちの反応をうかがってみる。

「えっと、でも、それは……」

 美夜子先輩はちょっと困ってしまったみたいだった。

「いいんじゃない……? ちゃんと『やっちまえよ』って書いてあるし……。それにとーこちゃん一人で何回もさいころ振らないといけなくなったら、とーこちゃん泣いちゃうよ……ねえ?」

 茜先輩の言葉に乗っかって、こくこくと頷く。

「そうね、仕方ないわね……」

 美夜子先輩も、そう言って笑ってくれた。

「とーこ、やるじゃん!!」

 しらゆきが、私の肩にぽんと手を置きながら言った。

「それじゃ私もゴールするー……」

 そう言いながら振った茜先輩のさいころは3の目を出した。

「よし、ゴールっ……!!」

 茜先輩の赤い一つ目もゴールにやってくる。

「4以下……4以下出ろ……」

「4……4……」

 美夜子先輩の番になって、また茜先輩としらゆきがさいころに念力を送り始めた。美夜子先輩はそんな2人には構わず、さいころを振った。出た目は4。物語について語るマスだった。

「うっし!!」

「これはもう、あれしかないよね……」

 しらゆきと茜先輩がはやし立てる。

「はいはい……。物語は想いを言葉にするところからはじまります……」

「なんですかぁ! もっと感情こめて言ってくださいよぉ!」

「そーだ、そーだぁ……!」

「はい、ひなた。さいころ」

 美夜子先輩は、少しずつ2人の扱いを分かってきたみたいだった。ひなた先輩のさいころは2の目を出して、角ばった黄色の人形がゴールする。

「はい、ゴールしたよっ♪」

 そして、次の回には美夜子先輩も5の目を出して、三角頭の十字目もゴールにたどり着いた。こうして、私たちはみんなゴールした。ゴールのマスには、私たちの人形が、思い思いの方を向いて立っている。

「どうだったかしら? このすごろく?」

 美夜子先輩が私たちに聞く。

「いやー、もうほんとしんどかったです!!」

 ハンカチでひたいを拭き拭き言うしらゆき。笑い声が起こる。私はゴールのマスを見てみた。ゴールに集まった形も色もそれぞれ違う人形。そして、私はその足元の文章を読んだ。

『やあ、ゴールしたんだな。どうだったい?このすごろくは? なあ、お前たちは、これから一年間、同じ文芸部員としてやっていくことになるわけだが、俺から言っておきたいことは一言だけだな。仲良く、万事仲良く。これだけさ。何も見えてこなくて苦しいときも、いろいろなことを悩んだりするときも、仲間との絆を大切にするんだぜ? そうとも、お前らは一人じゃないんだ。俺もいるしな。さて、と……。今年もこんなふうに、お前たちと遊べて、本当に楽しかったぜ! それじゃ、あばよっ!! 四代目部長 四ツ谷次郎』

 すごく恥ずかしいことを平気な顔で言ってるような気がした。たぶん、ひなた先輩みたいな人だったんじゃないかなって思った。ふと視線を感じた。顔を上げると、茜先輩が私のことを見ていた。そして、にーっと笑う。「まあ、そういうことだから……」その笑顔は、そう言ってるような気がした。

「ねえ、しらゆきちゃんっ! とーこちゃんっ!」

 ひなた先輩が、私としらゆきの名前を呼んだ。

「これからよろしくねっ!!」

 胸の前で両手を重ねて、満面の笑顔でひなた先輩は言った。

 こうして、私たちのすごろくは幕を閉じた。すごろくをやる前より、なんとなく、仲良くなれた気がした……。


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