第4話 「みんなですごろく!」5
茜先輩がさいころを振ると、5の目が出た。
『22マス目までよく来たな。ところで、ちょっと考えてみてくれ。いままでどれだけ多くの作家が「生と死」の問題を扱ったのかをよ。この問題も俺たちには避けては通れないものだと思わないか? ということで「でっかいテーマ」シリーズ第2弾は「生と死」だ!! さあ語ってくれ!!そう熱く!!』
茜先輩は少し間を置いてから言った。
「生きてるってことは心臓が動いてるってこと、死んでるってことは心臓が止まってるってこと……。死んだあとのことはわからない。何もないのかもしれないし、本当は何か在って、ただ五感で感得できないだけなのかもしれないし……」
そして、少し言葉を区切って、私としらゆきの方を見た。
「ようするに分からんってことですな……」
そう言って、茜先輩は美夜子先輩の前にさいころを置いた。
「えと、あたしたちもいずれ、そんな哲学っぽいことをしないとヤバいんですか?」
「んーん、そんなことない……。若いうちは恋にうつつを抜かしてるほうが健康的……」
「ですよねー!!」
しらゆきは茜先輩に向かって、びしっと指差し確認をした。
「お勉強も忘れずにね」
そうしらゆきに釘を刺しながら、美夜子先輩がさいころを振る。出た目は4だった。
『さて、20マス目だ。ここまでくればあと一息ってところだな。このマスに止まったのも何かの縁だな。自分の将来について考えてみよう。お前は将来、何になりたいんだ? 高校ってやつはよ、いやでもそれについて考えさせやがるんだ。老婆心ながら、ここであえて、そいつを聞いてみようじゃねえか。胸を張って、さあ、言ってみろ!!』
「将来の夢……」
美夜子先輩の顔を戸惑いみたいな感情がかすめた気がした。
「いま、さがしてるところなんだよね?」
ひなた先輩が、美夜子先輩の肩にそっと触れて、やさしくささやく。
「……ええ、そうね」
美夜子先輩が、ひなた先輩に微笑みを返した。なんだろう、いっしゅん、二人の世界みたいなのができた気がした。私はただ、それをぽかんと見ていた気がする。
「ようし、次は私の番だねっ!」
ひなた先輩が明るく言って、さいころを振った。出た目は6だった。
「やったぁ! 6が出たよ!」
ひなた先輩の黄色いのがひょいっとマスを飛び越えていく。
『24マス目。ゴールまであと一歩というやつだな。さて、お前がこのマスに止まったのにも何か意味があるんだろう。ということで、最後にふさわしい問いを出すぜ。「物語」とは何だ? 直感でいい、答えてみてくれ。そして文芸部にいる間、ときどきこの問いと、自分出した答えのことを、時々思い出してみてくれ!』
「物語、かぁ……」
そう言いながら、ひなた先輩は少し考えるようなしぐさをした。そして、いつも思ってることを言うときのように、よどみなく答えた。
「物語はね、誰かをしあわせにするために生まれてくるものだって思うんだ。何か楽しいことをしたい誰か、自分の知らない感情を知りたい誰か、ひとりぼっちでいる誰か、ひとりになりたい誰か、悲しい目に会った誰か……そんな誰かに寄り添うために、物語は生まれてくるんだって……私はそう思うの」
また部室の中はシンとした。どうしてひなた先輩の言うことは毎回反応に困るんだろう? たぶんそれは、ひなた先輩が自分の気持ちを素直に言っているから、茶化したらいけないような気がするからじゃないかなって思った。
「あ、あたしも、誰かに寄り添えるお話が書けるように、精進、いたします……」
「うん、がんばろうね、しらゆきちゃんっ!」
ひなた先輩は、そう言ってふんわり笑った。
「とりゃあああああ!!」
ふたたび何かを振り切るようにさいころを横投げするしらゆき。出た目は6。しらゆきの白い二つ目ロボットがゴールのマスにたどり着く。
「よしっ!いちばん乗りぃ!!」
しらゆきが立ち上がってガッツポーズをして、先輩たちが拍手する。しらゆきがゴールしたのに、私の水色のずんぐりむっくりはまだ6マス目にいた。まだ先は長かった。さいころを、ぽてんと振る。1の目が出た。もう慣れていた。
『7マス目によく来たな。青春……してるか、ぼうや? 今しかないこの時に、お前は何をするんだ? みんなの前だってかまわねえ、言っちまえよ。そしてやっちまえよ。誰の目をはばかることもない。今この瞬間を大切にするんだ!!』
私はおもむろに水色のずんぐりむっくりをつまみ上げてゴールのマスに置いた。
「ゴールしたいので、ゴールしてみました……」
なんとなくそんなことをしてみて、上目遣いに先輩たちの反応をうかがってみる。
「えっと、でも、それは……」
美夜子先輩はちょっと困ってしまったみたいだった。
「いいんじゃない……? ちゃんと『やっちまえよ』って書いてあるし……。それにとーこちゃん一人で何回もさいころ振らないといけなくなったら、とーこちゃん泣いちゃうよ……ねえ?」
茜先輩の言葉に乗っかって、こくこくと頷く。
「そうね、仕方ないわね……」
美夜子先輩も、そう言って笑ってくれた。
「とーこ、やるじゃん!!」
しらゆきが、私の肩にぽんと手を置きながら言った。
「それじゃ私もゴールするー……」
そう言いながら振った茜先輩のさいころは3の目を出した。
「よし、ゴールっ……!!」
茜先輩の赤い一つ目もゴールにやってくる。
「4以下……4以下出ろ……」
「4……4……」
美夜子先輩の番になって、また茜先輩としらゆきがさいころに念力を送り始めた。美夜子先輩はそんな2人には構わず、さいころを振った。出た目は4。物語について語るマスだった。
「うっし!!」
「これはもう、あれしかないよね……」
しらゆきと茜先輩がはやし立てる。
「はいはい……。物語は想いを言葉にするところからはじまります……」
「なんですかぁ! もっと感情こめて言ってくださいよぉ!」
「そーだ、そーだぁ……!」
「はい、ひなた。さいころ」
美夜子先輩は、少しずつ2人の扱いを分かってきたみたいだった。ひなた先輩のさいころは2の目を出して、角ばった黄色の人形がゴールする。
「はい、ゴールしたよっ♪」
そして、次の回には美夜子先輩も5の目を出して、三角頭の十字目もゴールにたどり着いた。こうして、私たちはみんなゴールした。ゴールのマスには、私たちの人形が、思い思いの方を向いて立っている。
「どうだったかしら? このすごろく?」
美夜子先輩が私たちに聞く。
「いやー、もうほんとしんどかったです!!」
ハンカチでひたいを拭き拭き言うしらゆき。笑い声が起こる。私はゴールのマスを見てみた。ゴールに集まった形も色もそれぞれ違う人形。そして、私はその足元の文章を読んだ。
『やあ、ゴールしたんだな。どうだったい?このすごろくは? なあ、お前たちは、これから一年間、同じ文芸部員としてやっていくことになるわけだが、俺から言っておきたいことは一言だけだな。仲良く、万事仲良く。これだけさ。何も見えてこなくて苦しいときも、いろいろなことを悩んだりするときも、仲間との絆を大切にするんだぜ? そうとも、お前らは一人じゃないんだ。俺もいるしな。さて、と……。今年もこんなふうに、お前たちと遊べて、本当に楽しかったぜ! それじゃ、あばよっ!! 四代目部長 四ツ谷次郎』
すごく恥ずかしいことを平気な顔で言ってるような気がした。たぶん、ひなた先輩みたいな人だったんじゃないかなって思った。ふと視線を感じた。顔を上げると、茜先輩が私のことを見ていた。そして、にーっと笑う。「まあ、そういうことだから……」その笑顔は、そう言ってるような気がした。
「ねえ、しらゆきちゃんっ! とーこちゃんっ!」
ひなた先輩が、私としらゆきの名前を呼んだ。
「これからよろしくねっ!!」
胸の前で両手を重ねて、満面の笑顔でひなた先輩は言った。
こうして、私たちのすごろくは幕を閉じた。すごろくをやる前より、なんとなく、仲良くなれた気がした……。




