第4話 「みんなですごろく!」4
そして、次は美夜子先輩の番だった。さいころを振ると、出た目は2。16マス目は、似顔絵スケッチのマスで、美夜子先輩の正面に座っているのは、私だった。
「それじゃあ、とーこちゃんの似顔絵を書けばいいのね?」
美夜子先輩の落ち着いたまなざしが私に注がれる。私はちょっと気恥ずかしくなって目を伏せた。
「美夜子、ガンつけてる……」
「つけてません!」
からかってくる茜先輩に一言そう答えて、美夜子先輩はじっと私の目をのぞきこんで、それからふっと笑った。
「そうね……
その子は、静かな光をたたえる目を持っていた。それはその子の名前、冬の湖を連想させる、透き通った光だった。顔立ちはまだ幼く、肩に軽く触れるセミショートの髪が中学生だったころの名残をとどめている。
……こんな感じかしら?」
こんな感じかしら?と言われても困った。私はそんなたいそうな人間じゃなかったから。私の目はたぶん、ふつーの目だと思った。
「でもねぇ……」
美夜子先輩がちょっといたずらっぽい笑顔を浮かべる。
「私の見たところ、家ではけっこう甘えん坊さんかもしれないわね。お母さんとか……そう、お姉さんもいるんだったわね。けっこう甘えたりするんじゃない?」
たしかにそれは図星だった。私はよくお母さんに甘えていたし、今ではお姉ちゃん相手にわがまま放題にふるまっていた。
「え、と……たしかに、そういうところ、あります……」
「そうよね? 私の経験上、そんな感じがしたの」
美夜子先輩はちょっと得意そうに言った。
「経験上ってことは美夜子先輩もそうだったり!?」
しらゆきがつっこんで聞く。
「え? わ、私は違うと思うけど……あ、別に甘えたりするのがダメって言ってるわけじゃなくてね!」
私の視線に気付いて、美夜子先輩があわててそう付け加える。
「ごめんね、とーこ……。美夜子は生まれたときから、孤高の生き方をしてきたから……」
茜先輩がよく分からないフォローをする。
「してませんから!」
美夜子先輩が声のトーンを変えながらきっぱり言った。
「それじゃあ、私の番だねっ! それっ!」
ひなた先輩がさいころが高く放り投げる。出た目は4だった。
『18マス目にようこそぉ! 17マス目に引き続いて実践的なお題・第2弾だ! もしも右隣と左隣の奴が親子だったら、いったいどんな感じになるのか、ちょっと考えてみないか!? お前の心に映る光景を言っちまえよ!!』
ひなた先輩の右隣は美夜子先輩、真正面のしらゆきが左隣にあたっていた。
「親子、親子かぁ……」
しらゆきをじっと見つめながら、人差し指をくちびるに当てて、ちょっと考えこむしぐさをするひなた先輩。そして、なにか思いついたのか、にっこり笑う。
「えっとね、こんなのどうかな……
ある街にね、とっても仲のいい親子が住んでたんだ。
明るいけどちょっと抜けてるお母さんのしらゆきさんと、しっかりもので頑張り屋の娘さん、みよちゃんね。
お母さんのしらゆきさんは、みよちゃんのことが大好きなんだ。大好きだからいつもからかっちゃう。そのたびにね、みよちゃんは、
「もう! お母さんっ!!」
って言って怒るんだよ。でもね、本当はみよちゃんもお母さんのことが大好きなの。
そう、例えばね、みよちゃんがお友だちとケンカしちゃって、部屋で一人で泣いているとき、しらゆきさんは、みよちゃんのことをそっと抱きしめて、
「だいじょうぶだよ、きっと仲直りできるよ、よしよし……」
って、してくれるんだよ。みよちゃんはね、そんなお母さんのことが大好きなの!
……ね、どうかな?」
部室の中がシンとする。しらゆきを見ると、何かをぐっとこらえているみたいだった。
「んっ?」
部室の中が静かになってしまって、ひなた先輩が首を傾げた。
「そ、そうね、とってもひなたらしいって思ったわ……」
「うん!」
美夜子先輩にそう言われて、ひなた先輩はうれしそうだった。
「そ、それじゃあ、あたし、振りますね……」
よろよろとさいころをつかむしらゆき。
「そりゃあああ!!」
何かを振り切るように、いきおいよく振ったさいころは、ガツンガツンと転がって、5の目を出した。
『21マス目に来てしまったようだな。さて、文芸を志してしまったからには、ときに大きなテーマってやつを扱ってみるのも悪くないもんだ。ここではその練習をしようじゃないか。「神」について語ってみてくれ。どうだ?びびるなよ?思ったことをスパァーンと
言えばいいんだ!!』
「ズバリ、雨ヶ森のお狐様、です!!」
しらゆきが、スパァーンと言う。
「ふむ……説明して?」
「えーと、私の家って神社なんですよ。で、うちの御祭神様が雨ヶ森のお狐様なので!」
「家って、雨ヶ森神社なんだ……? 私んち、いつも初詣で行く……」
「私の家もそうだよっ」
「わ、私も……」
私の家もそうだった。お母さんがいたころも、いなくなったあとも。いつも駐車場がすごく混んでるから、徒歩で。軽い遠足みたいな感じで。
「いつもごひいきにどうも! これからも、うちのお狐様をよろしくっ!!」
しらゆきが、にぱっといい笑顔で言った。
私の番になった。私の水色のずんぐりむっくりは、みんなより相当後ろの方にいた。質問のノリも私だけが違って、なんだかやりにくいような気がした。もし、今度も1がでたら、11マス目にいけるなあ、と思いながら、さいころを振る。出た目は2だった。なんとなく、そうきたかって思った。
『ふー、やれやれ。やっと6マス目まで書いたぞ。最初にさいころを振って6が出たら、一気にここまで来れるわけか。まだ先は長いわけだな。なあ、君たちの部長さんはさ、いつもみんなに楽しく過ごしてほしいって思って、日夜、見えないところで色々やってるんじゃないかな? ということで、このマスに止まった人は、感謝の気持ちをこめて、「ありがとう」って言ってあげようぜ!!』
その文句を見て、チラと上目遣いに美夜子先輩を見る。美夜子先輩は少し居心地が悪そうにした。
「べ、別に無理に言わなくてもいいんだからね? 私は二人に何もしてないんだし……」
美夜子先輩はそう言うけれど、私はありがとうって言ってもいいような気がした。チラシのこととか、いまここにいることとか。
「あ、ありがとうございます……」
美夜子先輩を見つめながら、そう言ってみた。
「ど、どういたしまして……」
美夜子先輩は照れたように、私から視線をそらした。
「ふむ……とーこちゃんは素直ないい子だね……」
「それが、とーこのいいところなんですよっ!」
「一年前のひなたを思い出すよね……あのときひなたは私に同じ台詞を言ってくれたよね……」
「覚えてますよっ! 新入部員は私一人だったからすごく緊張してたんです!」
「それがまあ、こんなに立派になって……」
袖口でそっと目元をぬぐうふりをする茜先輩。
「じゃあ、去年は美夜子先輩が入るまで、2人だけだったんですかっ?」
「んーん……3年の先輩が3人いた……」
「『雑木林の三賢』って言うんだよ! 面白い先輩たちだったんだぁっ!」
どうやら、茜先輩の上に3人、先輩がいたらしかった。
「いずれ……あの連中についても語ることになるだろう……。といっても、まあ、わりとどうでもいい連中なんだけど……」
茜先輩はそう言って、にやっと笑い、さいころを手に取った。




