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新百合ヶ丘高校文芸部☆  作者: m8eht
入部編
11/67

第4話 「みんなですごろく!」2

「じゃあ、次、あたし行きまーす!」

 神山さんがさいころをふる。5の目が出た。

『8マス目にようこそ。とりあえず、スリーサイズを教えてくれ!!』

 直球だった。そしてその下には小さく、

『おお、神よ。我らに女子部員を!!』

と、書いてある。

「スリーサイズぅ? いや、まあ、こんな感じでーす!」

 席を立って、みんなから見える位置で、両手をぱっと広げてみせる神山さん。それは、遊園地のマスコットが「ウェルカム!」って言うときによくするポーズだった。

「具体的な数値については黙秘いたします!」

 そう言って、神山さんはすとんと席に着いた。

「いい体してるよね……。なにか運動やってたの?」

「中学のころは陸上やってましたっ!」

「ふうん、そうなんだあ……」

 立花先輩のじっとりした視線が、神山さんの顔から、胸の辺りに下りていく。

「ちょっ! やめてくださいっっ!」

 神山さんは腕で胸をかばって、身をよじってみせる。二人のコントが始まったところで、宮守先輩が言った。

「えと、とーこちゃん、さいころ振っていいからね」

「あ、はい」

 私のさいころは、また1の目を出した。私のずんぐりむっくりの水色が、牧野先輩の黄色い人形のとなりに並ぶ。2マス目は、自分の名前の由来を話すマスだった。

「えと、名前は文村冬湖。冬の湖、と書いて『とーこ』です。名前の由来は……」

 私は昔、お父さんから聞いた話を思い出した。それをそのまま言うのは問題がある気がしたけれど、自分で冬の湖に関するそれらしい理由を考え出すのは、もっと恥ずかしい気がした。私は牧野先輩じゃなかったから、冬の湖のように澄んだ心に、とか言ってしまうのは、とても恥ずかしかった。

「お父さんによれば、その……冬の湖が見えるペンションで……私が生まれるきっかけになった、その、あれをしたから……らしいです」

 私はお父さんから聞いた話を、少しぼかして伝えた。部室はシンとしてしまったけれど、仕方ないと思った。そういえば、お父さんがこの話を私にしたのは、私が小学1年生のときで、お父さんはそのあと、お母さんに叩きまわされていたのをなんとなく思い出していた。

「部長? コメントしなきゃ、放送事故になるよぉ……?」

 立花先輩にそう言われて、宮守先輩はあわてて言った。

「え、あ、っと……お、お茶目なお父さん、だね……?」

「ん~、60点かな……? こういうときは、『そうなんだあ。そのおかげでこんなにかわいいとーこちゃんがこの世界に生まれたんだね! マジ感謝っ!!』って言わないと」

「茜先輩……もういいですから、さいころふってください」

 宮守先輩は強引に話題をそらしてしまった。

「はいよぉ……。よっと……お、6出た」

 立花先輩の赤い一つ目人形が9マス目へと進んだ。

『ずばり、今日の下着の色は何色だっ!? ※やあ、後輩たち。いつか女子部員が入部したときにこの質問が役に立つことだろう。俺たちはその日を見届けることなく逝くことになりそうだ。それが悲しい……』

「下着の色、かぁ……」

 立花先輩は、席から立って、ぴらっと両手でスカートの両すそをつまんでみせた。つやつやした光沢を持つ、黒い大人っぽい下着がスカートからのぞく。そして、茜先輩の太ももは、女の私から見ても、やたら色っぽかった。

「黒、ね。上も同じ色……」

「茜先輩、いちいち見せなくていいですから」

「次にこのマスに来る人に『逃げるな』ってメッセージを送ってみました……」

 そう言って、にやにやしながら、立花先輩はさいころを宮守先輩の前に置いた。

「見える……6が、出る……」

「6……6……」

 神山さんも再び念力を送り始めた。

「そんなことしても出ないと思うけど……」

 そんなことを言いつつ、さいころをふる宮守先輩。出た目は6だった。

「しゃあ!!」

 神山さんがあさっての方を向いて、ガッツポーズをする。そういうガッツポーズをする人を、私はテレビの卓球の試合で見た気がした。

「さ……スカートめくって」

 ウキウキしながら、立花先輩が言う。

「い、いやです。それに下着の色、とか……」

「ここ、女しかいないじゃん、なに自意識過剰になってんのぉ……?」

「……」

 宮守先輩は黙ってしまった。牧野先輩は、そんな宮守先輩の肩を抱いて私たちに言った。

「えっと、私はうすみどりでーす! ね、みよっちは?」

 鼻がくっつくくらい近くで宮守先輩の顔をのぞきこむ牧野先輩。

「え……んっ、白……」

「白でーす!!」

「なるほどねえ……」

「なるほどお! やっぱ白ですよねっ!!」

 立花先輩は感慨深げに頷いて、神山さんはちょっと変なことを言った。

「じゃ、今度は私がふるよぉ! えいっ!」

 牧野先輩がさいころを放り投げた。またさいころが宙を舞って、出た目は3。

『ここは5マス目だ。キリのいい数字だし、ここらですごろくの定番【いっかい休み】を入れておくか!! というわけで、いっかい休みだ!! しかし! もし君が女子部員なら6マス進んでいいぞ!!』

 5マス目には、ずいぶん気前のいいことが書いてあった。私もまだ2マス目だけど、この先もこんなマスがあるなら、すぐに追いつけるかも、と思った。私がそんなことを考えている間に、牧野先輩の黄色が11マス目へと進んだ。

『11マス目だぞ! ずばり聞くが、君の好きな異性のタイプを教えてくれ!! ※後輩たちよ、お前たちはこの質問を口実に女子部員から好きな男のタイプを聞きだし、俺たちに出来なかったことをしてくれ!!たのむ!!』

「罠じゃん!」

 神山さんが言う。たしかに5マス目は罠みたいだった。

「えっと、好きな男の人のタイプかぁ……」

「去年は『お父さん』って言ってた……今年は別の回答希望……」

「ええ~っ……」

 立花先輩に言われて、牧野先輩は困ったように、ちょっと宮守先輩の方を見た。

「えと、やっぱり、『お父さん』で……」

「え~……」

「ひなたはそれでいいんです!」

 宮守先輩が、牧野先輩をかばうようにそう言った。

「仕方ない……しらゆき、盛り上げて……」

「まっかせてください!」

 神山さんがいきおいよくさいころを転がす。出た目は6。神山さんの白い人形が12マス目に進んだ。

『12マス目へようこそ。君の好きな同性のタイプを教えてください。※へへっ……どうせ女子部員なんてやってこねえんだ。それならいっそ、ホモになろうや……!!』

「なんでホモなんだよ! あきらめんなよ!」

 神山さんが質問につっこんだ。

「ねえ、自分が男だったらって思って答えてみたらいいんじゃないかな?」

 宮守先輩がまた助け舟を出すのを、立花先輩がさえぎった。

「だめ……それじゃ面白くないし、盛り上がらない……。むしろガチレズの人になりきってみるべき。で、しらゆき? もししらゆきがガチレズの人なら、このなかでいちばん裸のお付き合いをしてみたい人は誰……?」

「いや、わけわかんないですよ! 黙秘します!!」

「ちなみに真面目に答えると、その人の太ももに軽くタッチする権利を得ます……」

「えっ? ま、マジですかぁ!? ええっとぉ……」

 神山さんは、なぜか急に真面目に考え始めて、それから、ちらと私のことを見た。

「が、ガチレズ的にはとーこさんがいいです……」

 なんでさん付けなんだろう?

「へぇ、とーこかぁ……。で? とーこのどこらへんが、しらゆきのガチレズセンサーにひっかかったわけ?」

「えー、いやまあ、真面目そうなところとか、あと、真面目そうなのに、体が、こう、出るとこ出てて、やわらかそうっていうか……」

 まるで本当にガチレズの人みたいなことを言い出す神山さん。

「なるほどねえ……。それじゃ、とーこ。悪いんだけど、ちょっと太ももにさわらせてあげてね……」

「え、あ、はい」

 スカートを少し上にずり上げて、太ももを神山さんに見せた。

「え? いいの?」

「え? いいよ?」

「ごくっ」

 神山さんののどが鳴った。そして、神山さんが私の太ももに手を置いて、軽くというより、ぺたっと手のひらを押し当てて、軽くさすってくる。

「す、すべすべ、だね……」

「え? うん」

「あの、二人とも?」

「あ……」

 宮守先輩の声に、神山さんは我に返ったみたいにハッとして、私の太ももからぱっと手を離した。

「す、すいません。ちょっとガチレズになりきってました……えへへ」

 神山さんはそんな言い訳をして、笑った。

 そしてまた、私の番が来た。さいころをふると1の目が出た。なんとなく、そんな気がしていた。3マス目に水色のずんぐりむっくりを進める。なぜか何かを期待するような視線が私に集まった。面白いことはなにも思いつけなかったので、そのままふつーにやるしかなかった。覚悟を決めて立って、片目をつむってピースして、片足をぴょこんとはね上げる。

「文村……とーこっ……☆」

「いーよー……とーこちゃん、いいよー……!」

「うんうん!」

 立花先輩と神山さんが、うんうんうなずきながら拍手してきた。すごく恥ずかしかった。


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