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pudding  作者: みゅう
3.臆病なライオン
8/14

3ー1 ウィークポイント

「――準備は整ったわ」


 水曜日、いつものように少し遅れて入ってきた月見里(つきみさと)がそんな事を(のたま)った。


「へー。何が?」


 本に視線を落としたまま、()して興味はないが一応そう(たず)ねる。


「何を言ってるの? 準備といったら、あなたが私に告白する準備に決まってるじゃない?」

「……」


 前々から知っていた事だが、彼女は馬鹿(ばか)だ。頭はいいのに可哀想(かわいそう)に。


「私はいつでもOKなのだけど」


 椅子(いす)(きし)む音と、月見里が腰を下ろす気配がした。


「こっちは全然OKじゃない」

「心の準備がまだという事?」

「というより、気持ちの準備かな。僕はまだ、君に告白しようという気持ちになっていない」

「断られるのが怖いとかそういう事?」

「……君は本当にアレだな」

「アレ?」


 おそらく、今、彼女は首を(かし)げている事だろう。


「とにかく、僕は君に告白する気などさらさらない」

「今の所は?」

「……そうだな。今の所は」


 未来の事なんて誰にも分からない。もしかしたら、そんな未来もあるかもしれないな。()くまでも、可能性の話だが。


「私のどこに不満があるというのかしら?」

「どこって……」

「私にウィークポイントがあるのなら、逆に教えて欲しいぐらいだわ」

「……」


 凄いな。さすが、月見里明里(あかり)。言う事が違う。


「なんてね。冗談よ。分かってるわ。(たちばな)君の言いたい事ぐらい。でも、こればかりは、自分ではどうしようもないじゃない。だって、こういう風にしか育てなかったんだから」


 月見里も、本当は分かっていたのだ。自分が難儀な性格をしている事を。でも、分かっていても、性格は急には変えられない。彼女は彼女なりに、その事で悩んでいたのだ。


「一応、努力はしてるのよ。けど、一人じゃ、なかなか変わっていかないの。だから、橘君も協力してくれたら嬉しいのだけど」

「別に、その程度の事なら……」


 お安い御用だ。具体的に何をすればいいかは不明だが。


「そう。なら、早速、手を出してくれる?」

「手?」


 本から顔を上げ、片手を月見里の方に伸ばす。


(しばら)く、そのままにしててね」

「ああ」


 月見里が椅子から立ち上がり、こちらに歩み寄ってくる。そして、僕の手を(つか)み、自分の胸に押し当てた。


「……へ?」


 瞬間、頭が真っ白になった。

 この(やわ)らかい感触、まさか……。


「うわ!」


 慌てて、自分の手を引っ込める。


「何慌ててるのよ。協力してくれるって言ったじゃない」

「協力だと。何をどうしたら、これで君の性格が改善されるって言うんだ」

「性格? 何を言ってるの? 私の性格のどこに問題があるというの?」


 この女、本気で言っているのか? だとしたら、神経を疑う。


「私の唯一と言ってもいいウィークポイントは、胸でしょ?」

「……は?」


 もうツッコミどころが満載過ぎて、何をどうツッコめばいいものやら。


「まず第一に、君のウィークポイントは胸ではない。第二に、胸を()んだら大きくなるというのは迷信だ。第三に、胸が小さいからと言ってそれはウィークポイントにはならない。第四に――」


 さすがに息が続かなくなり、そこで一度呼吸を入れる。


「胸が小さいからと言って告白を悩む奴がいたら、そいつはクズだ。君とは釣り合わないから止めた方がいい」

「えーっと……ありがとう?」

「どういたしまして」


 なんだ、この()り取りは。


「つまり、橘君は私の性格に難があるから告白を悩んでる、と。そういう事なの?」

「それとこれとは話が別だ」

「ふーん。難がある事は認めるんだ」

「……」


 読み掛けだった本に視線を戻す。

 ちょうど犯人が探偵に追い詰められ、自白する所だった。

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