episode9
2014/12/17:ステータス一部変更
変更点:HP/MPの上昇率
草原の採取場所を巡る散歩の最終地点、丁度森の手前辺りに存在する岩のオブジェクト同士が重なる小さな隙間。そこに手を入れて何かを握るような感触を得て引っこ抜くと、そこにいたのは蠢く珍生物だった。───ちなみに一部の採取ポイントから現れるレアモンスターの類だった。名前は「餅男爵」。突きたての餅のような柔らかさと、ダンディな髭を持つまんじゅうのような可愛らしいモンスターである。なんでも人気なモンスターらしい。襲ってくることもなかったので撫でて遊んでいたらエウクレイアに食べられた。……ドロップ品は「男爵餅」だった。
大して、エウクレイアが身体を屈めて入っていた先に待っていたのは手のひらサイズの、と言ってもエウクレイアからすれば一抱えもある琥珀のような小さな宝石らしき物。───本日3回目のレアアイテムである。ちなみに名前は「秘蟲珀」。センナ曰く初心者が金欠の際必死に探し回り、そして見付けられずに時間の浪費を後悔する出現率1%未満と言う驚異のレア度を誇るらしい。
ちなみに、そんなレアアイテムを手に入れた相棒の反応は静かにため息を吐くだった。その顔にはありありと食べられないと書かれている。最初の「甘露」で味をしめたらしく、どうにも食べ物以外に興味が無くなってしまったらしい。……腹ペコまっしぐらか。
「……精霊の幸運が高いのか、それともこれが特殊なのかはちょっと判断できないけど、断言する。こいつ異常だ」
「右に同じです。……精霊使いの条件が厳しいのって、もしかしてこう言う隠し要素的な物が多いからなんでしょうか?」
ぽつりとるーが零した言葉に思わず黙り込む面々、と言っても三人と一精霊だけだが。しかも一精霊はそもそも喋らない。
契約可能かどうかが非常に厳しい反面、確かに契約出来るとその恩恵が凄まじい。エウクレイアだけかもしれないが、武器の代用、魔法の代用、アイテム採取、あと癒し。これ以上の隠し要素があるのかは知らないが、まあともかく難易度に対する見返りはあるらしい。
しかしまあ、別にそんな事を期待はしていなかったんだがなあ。小さい子供が石牢で過ごすってのも嫌なもんだと思っただけだったんだが、こういうのも運がいいと言えばいいのかね? まあ、一番LUCKがいいのはエウクレイアだろうけどな。
「まあ、いいや。ともかくこの虫が役に立つことだけは確実だろうから安心した」
「その虫発言がなくなればもう少し歩み寄れるかもな」
「精霊なんて虫だよ。虫、害虫。奴等に工房を半壊にされた恨みは絶対に忘れない」
「……なにやってんだよお前」
「気にしないで、それよりも確認も終了したし、そろそろ森に向かおうか」
話を逸らすかのように、と言うか間違いなく逸らすために足を進めるセンナに追従しながら、ともかく森を目指して進む続ける。普段通りの他愛のない話をしながら、しかし自分の事だけは頑なに話そうとしない友人達の秘密主義はまあ、問題ないとして、一番の問題はさっきから森に近づくにつれて太陽の傾きぐわいが速くなっているように見えるのだが、気のせいだろうか?
「さて、ようやく着いたね。まあ、本番はここからなんだけどね」
「それで、結局を何をするつもりなんだ。俺は何一つ聞かされていないんだが?」
「ああ、言ってなかったけ。私はちみつ採取するつもりよ。ちなみにはちみつ採取中、蜂に襲われる可能性が高いから気をつけてね」
「私は昆虫採集です。レアモブの黄金兜蝶の角が欲しいので」
「センナのはまだいいとして、レアモブって、出てこない確率のほうが高いんだろう?」
「いえ、前日奴の好物である黄金林檎の果汁を樹に塗りたくっておいたので高確率で出現すると思います」
特定のアイテムを使用することでモンスターの出現率を上げる方法があると。
成程成程、これは面白い情報だ。それなら甘露を塗ったらどうなるのか後で試してみるとしよう。
だが、その前に聞かねばならねえ事がある。強いて言うなら俺の必要性がない。徹底的にない。完膚無きまでにない。介入する余地がない。採取に俺は必要か?
「超必要だから。ジョージには周辺モブを惹き付ける役割があるからさ!」
「おい、それ単なる壁じゃねえか」「その、センナさんの護衛お願いします。DEX極振りしてるので即死するんです、その人」
「何なら私のステータス見るかい?」
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【NAME】センナ/LV28(★×2)
【RACE】耳長族(禁忌種)
【JOB】万物の創造者(ユニーク)
【SUB─JOB】匠王(MAX)
【SKILL】神霊言語、強制使役、禁霊術、万色の神技、錬禁術、即席錬金、工匠の業、異界知識、工房作製、識別、探索
【VITALITY】HP2380/2380 MP2480/2480
【PARAMETERS】STR89(-100)/VIT110(-100)/DEX704(+704)/AGI134/INT206(+206)/MND195
【ARMS】禁星珠杖[DEX+同数/INT+同数/禁断症状/隷属(匠神ウィル)/夜間凶暴化/夜間混乱/耐久無制限/ユニーク/カースドレジェンド]、呪縛の禁布礼装[STR-100/VIT-100/錬禁術使用時にボーナス/装備変更不可/耐久無制/ユニーク/カースドレジェンド]
【ACCESSORY】[禁忌種の血紅石/禁忌の烙印][禍柘眼の耳飾り/魔法封印/STR無視][S・C/物理脆弱化/状態異常無効B]
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「数字がおかしいぞ、これ」
「まあ、転生二回経験あるしね」
「こう見えてもトップランカーですよ、センナさん」
「こう見えてもって、……まあ、株以外暇だしね」
しかしそれだけ凄まじいのに装備品によるSTRとVITのマイナス数値が大きい。ぱっと見で訳のわからない能力がいくつかあるが、しかしまあ、よくぞこんな呪われた装備を選択したものだ。ついでに種族の禁忌種ってのはどういう意味だ? 普通ハイエルフとかダークエルフとか、そういうやつじゃねえのか?
───まあ、どうでもいいか。
ともかく俺はこの紙性能をなんとか無事に守りきる必要があるというだけだ。
こいつがどうとかは後回し、今はともかく戦うことだけに集中するか。
「でさ、話は変わるんだけどジョージ。採取の際、虫、貸してくれない?」
「そんなのは本、……霊? に頼め」
まあ、とちらりとエウクレイア見る。
頬を膨らませてそっぽを向く姿に思わず頭を掻いてセンナを眺めると、ギギギと唇の端から歯ぎしりを漏らしている。ただまあ、自業自得だ甘んじて受け入れろ。