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episode5

 ───スキルには二通りの習得方法がある。

 一つは種族、もしくは職業のレベルを上昇させる事で得る方法。

 もう一つは習得条件を満たしたと判断された場合、習得可能とアナウンスが響き、習得する為に提示された条件をクリアして得る方法。

 そして現在、高らかに鳴り響くアナウンスと共に、メニュー画面に「スキル習得」と新たな項目が現れて矢印がしつこいくらいに点滅している。

 一狩終えてからでも問題ないよなと思いつつ、しかしこのまま点滅されては気が滅入りそうだと頭を抱える。───その間に襲いかかってきた狂い鶏はとりあえず足で踏み付けて黙らせておくとして。

 しょうがないとエウクレイアに周囲の索敵と牽制を頼んで、スキル習得を選択した。

 現れたウィンドウにある単語は3つ───「装備制限全解除」「解体技能」「採取術」。

 解体技能と採取術は大した説明が記されていないのだが、何故か装備制限全解除の詳しく記されていた。それも運営からのメッセージと言う形でだ。


【メッセージ】「装備制限全解除」について【GM】

習得最低条件:職業「戦士」である事

項目追加条件:武器としてカテゴライズされていないモノを使用して戦闘を行い、連続50勝を収める。

習得条件:連続イベントクエスト【錆色願望】/我、士ヲ求ム者也。

追記:面白半分で追加したアイテム、モンスターの武器化が活用されるとは思ってもいませんでした。まだ色々と公表されていない要素がありますので探してみてください。



 ───魔物を武器に使うのは別段珍しいアイディアではないと思うんだが。

 それこそこの娯楽大国の漫画や小説ではそれなりに溢れたアイディアだ。俺以外の誰かが行っていてもおかしくはないと思っていたのだが、───まあ、習得最低条件が職業「戦士」だからだろうと思っておく。

それでも先人の一人くらいはやってもおかしい話ではないと思うんだが、連続で行っていなかったんだろう、おそらくは。

 ともかく、イベントクエストをクリアする事で習得が可能になるらしい。

 クエストは受ける物ではなく突発的に発生するか、もしくは事前に何処かで情報を聞いて場合に限り特定の場所で発生する形となっている。そしてこのクエストは間違いなく前者だろう、いつどこで発生するか分からないので常に身構えておくのが吉と考えておくとしよう。

 

 メニューを閉じて周囲の警戒を任せていたエウクレイアへと視線を向ける。

 そこには身体から物理的に有り得ない量の闇色の粘液を放出しながら、ソレの形状を変化させて作ったらしい籠にドロップ品を拾い集めている精霊が、ひどく楽しそうにはしゃいでいる姿があった。───いやまあ、楽しそうで何よりだ。



 ◇◆◇  ◇◆◇



 突発的なイベントの準備として、一時的な拠点、と言うか宿屋を利用できない関係で居候する事が掴適した「RWBY」の地下室───センナの工房の端っこでアイテムの整理をしている。

 現在のインベントリ内のアイテム数は十種類以下、30以上。その内戦闘中に役に立ちそうな物は僅か数種類。それを初手しか通じそうにない物を抜くと実質的に役に立つのは3つしかない。

 狂い鶏からドロップしたのは全て食材アイテムであり、「狂鶏卵」と「狂鶏肉」と言う何とも使えない物ばかり。しょうがないので工房の角のスペースを借りる為の交渉道具として、センナが有していた「糖花印の露砂糖」、「マナケミア米」、「熟成醤油(プレイヤーメイド)」等々を拝借し、センナの好物「親子丼」の材料の一部となった。尚、現在は机で三杯目をかっ食らっているセンナからは最初は勝手に素材を使うなと言われたが、現在は料理だけは例外でいいよとの言葉をいただいている。普段からインスタント中心だからだろう。……現実でも作ってやるか。


「食べても太らない、美味しいのにカロリーとか関係なし、何故かホッとするこの温かみ。これはまさしくおふくろの味!」

「大げさな。食えるものを食えるようにしているだけだろうに」

「それが出来ない料理人による惨劇を嘗めるなぁ!! とあるアジオンチーなダイヨウアレンジャーが作成した「ファイアドレイクの竜田揚げ」なんて評価〝無星(マズナブ)〟という悪夢のような作品で、食べただけで全状態異常、感触はまるで濡らした段ボールと発泡スチロールを混ぜた物が何故かネバッとしていて、無味無臭かと思いきや飲み込んだ途端に旨味、苦味、酸味、甘味、塩味が全力主張した挙句大ゲンカ、腐敗臭や刺激臭などが断続的に襲いかかってきて強制デスペナルティ。しかも状態異常は復活した後も暫く続いたし、味や匂いを感じなくなるのに三日くらいかかったんだ。……ちなみにケミカル☆グロリアサイダーは彼女のレシピをNPCがまねて作ったもので、本物と比べる威力がかなり少ないと言う裏話があったりなかったり」


 それはもう料理人じゃない。処刑用のアイテム作製者だ。

 そんな感想を抱きながら、ともかく道具の整理は終了した。ガランとしたインベントリの中には薬草とカルンアナブラのドロップ品「小さな角」、そして最後の生命線である「人工血液入大瓶」が入っている。この「人工血液」を使い切るような状況になった場合、面倒な事になるのは間違いない。

 隠しパラメータにある吸血衝動が一定以上を超えると身体の操作が離れ、一番身近に存在する人型の首筋にかみつくようになっているらしいのでどうにか気を付けたい。

 ちなみにスキル「吸血」は当然だがアクティブスキルに分類されている。これまた説明文かと思いきや、最後の最後に申し訳程度に効果も記されていた。どうも人型の存在から血(正確には命そのもの)を吸う事でHP、MPの回復、パラメータを一時的に1割増、低確率で魅了にする効果があるらしい。ちなみに精霊もその対象になるらしいのでエウクレイアには気を付けるように言っておいた。まあ、無駄そうだが。


「げぷ、ごちそうさまでした」

「ゲームっていいな、片付ける必要なくて」


 汚れなど一つも付いていないお椀等はそのまま消失する。

 お椀と箸はエウクレイアの肉体の一部を切り離した物─ちなみに即座に再生した─を加工して使用していたので、使用済みになった物はエウクレイアが処分してくれるのだ。本人(本霊?)もプリンを乗せる皿をそれで作っていたので別にいいのだろう、多分。


「こういう使い方が出来るなら霊隷石に入れずに道具代わりに使えばよかった」


 その言葉に対してエウクレイアは近場にあったゴミ、もとい大量のクズ紙を全力で投げ付ける。ふわーんとゆるい円を描きながら飛来するソレを、センナは鬱陶しげに払い落としているが、正直今の発言はどう考えてもお前が悪い。

 そんな思いを込めながら背後から羽交い絞めにして怒り心頭のエウクレイアが落ち着くまで押さえ続けていた。



 ◆



 始まりの街から東に移動した際に発見できる一振りの剣。

 大地に力強く突き立てられた墓標の代わりのソレは主が現れる日を待ち、今日も静かに錆びついてた。

 しかし、そのつまらない日常はどうやら今日で終わりらしい。


 武骨な幅広剣の柄に懐かしい感触が触れた。

 それは剣と同じくらい武骨で、傷だらけで、そして何処までも一途な狂気。

 遥か昔の戦争で命を落とした一人の戦士の掌が、今こうして自らの柄を握りしめている。


〝───ケタ〟


 大地から力強く剣が抜かれる。

 その刀身は完全に錆びついており、とても使い物にならないだろう。

 しかし戦士が懐かしむかのように剣を振るうと、まるで初めからそうであったかのように草原に一筋の傷が生まれる。それは戦士の技量と、主の為に最後の力を残した剣にとって至極当然の出来事。

 錆びついただけで、命を落とした程度で戦士も剣も終わりはしない。満足のいかない、ヴァルハラに至る事すら出来ないままに殺された無念を忘れる事は決してない。鉄の弾幕に肉体を削られ、死してなお彷徨う事になった無力さを忘れる事は出来ない。

 その為に強者を探していた。ただ強い者ではない。自分と同じような戦士を。自分とは違いまだ生きて足掻いている戦士を。死して永遠と思える程に長きに渡り、戦士は自らを殺せる者を探していた。

 生憎と今の戦士は肉体がない。ただ振るわれる意志だけの存在だ。剛腕はそのまま再現されようが肉体の屈強さはまるでない。大地を踏みしめる感触がないせいで足運びも何処か怪しい。ただ漠然と握る相棒(つるぎ)の感触だけがただただ懐かしく力強い。

 

〝───見付ケタ〟


 最愛の戦女神は既に眼前にはいない。しかし、その者と戦えば出会えるだろう。

 過去に自らを戦場へと連れ出し、神々の計画すら笑いながら破壊する偉大なる愚か者の女神に。

 気まぐれに現れるこの世の理の外にいるあの狂おしき破滅の女神は必ず戦士の傍で笑っている。

 そして今回の戦士も、間違いなく彼女に観察されている。───そうでなければ、けして戦士が目覚める事はなかっただろう。


〝見付ケタゾ───ラーズグリーズノ契約者ヨ〟


 戦いの時は近い。

 未だに遠くで遊んでいる者が来るのを待ち、戦士は静かに死を願った。

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