episode28
2015/01/26:誤字修正完了しました。
2015/01/26:パソコンなんか動作おかしいです。
此処は人間至上国家「パライア」。
人間こそが神の子供であり、それ以外は獣から生まれた存在だと見下している嫌われ者の王国だ。
ここでは奴隷が平然と存在しており、さながら穢多・非人のような扱いをされている。要は下のものが不満を抑える為のストッパーとして存在する、まあ言ってしまえば労働力のある生贄だ。
そして、その奴隷の中には吸血鬼が比較的多い。それは美男美女が多いと言う理由もあるが、それ以上に過去の恐怖に動かされた結果と言っても間違いではない。
今回、一人の魔法使いによる報告で新たに発見された吸血鬼。個体名は今のところ不明、判明しているのはとある貴族を意図的に殺害したと言う点のみ。ただしそれも理由は不明で、目的に至っては見えもしない。全貌の掴めない相手というだけでも厄介なのに、種族的にも十分恐ろしいと来た。
おまけに奴隷の吸血鬼の数を考えれば、それはもう、王都に過ごす者からすれば恐ろしいどころの騒ぎではない。貴族も、王も、平民さえも、玩具として、道具として使用した吸血鬼の数を数えるだけで震えが止まらず、まさか復讐ではと不安と恐怖で気が狂う思いをしていた。
普段は活気のある、とは言えないが、少なくとも通夜のような空気はないこの王都の街を守るはずの騎士も、自らの死は恐ろしいと、様々な理由で逃げ出す始末だ。
そして、最終手段として異邦組合にクエストが発行されたのだ。
内容は吸血鬼の討伐、来るはずもない吸血鬼に怯えた結果、逆に招いてしまうとも気が付かぬままに。
◆
パライアの王都には無数のプレイヤーが犇めいていた。
その理由はとあるクエスト、一匹の吸血鬼を殺すだけの簡単なお仕事。
仕事内容からは考えられない程に高額な依頼料に皆欲に目をぎらつかせ、今か今かと日が落ちるのを待っていた。それもしょうがないだろう、どれほど高額なクエストをこなしても、大規模なクエストでもない限り、その金額は1MCを上回る事はない。むしろ今回の報酬額こそが異常なのだ、吸血鬼と言う種族に対する偏見、恐怖、歴史の積み重ねによる不安の巨大化が今回の馬鹿げた金額の原因そのものだ。
ちなみに、このような金額が狂ったクエストと言うのは珍しいが、他に類を見ないと言う物ではない。
吸血鬼退治の依頼人が人間である場合特にその傾向が強い。笑い話のようなクエストなのだが、寒村に現れた吸血鬼を退治して欲しいと言うクエストだったのだが、相手は吐血するような弱った状態で、ただ薬を分けて欲しいと現れた旅の吸血鬼ですら、一度のクエストで15000cと言う破格な値段が付く事がある。指名手配なんぞされよう物なら些細な事でもいきなり生死問わずだ。
こういう事情もあり、吸血鬼だけは鬼人族の中でもすこぶる人気がなかったのだが、しかし驚く事にこのクエストの現況はまさかのプレイヤーだ。驚くな、と言う方が無理だろう。
「それにしても、今回の問題プレイヤーってどんな奴なんだろうな」
「黒銀の爪牙」を名乗る集団からふと声が漏れる。
その声は雑多の中ですぐにかき消されそうなわずかなものだったが、しかし近場にいた友人達は聞き逃す事はなかった。
「なんでも、まさしく鬼って感じの人らしいよ」
集団の紅一点である「狙撃手」は情報版で流れていた内容を思い出し、ポツリと呟いた。
なんでも長身で、悪鬼のような恐ろしい顔立ちで、ちっこい癒し生物を連れているのが特徴だという話で纏まっていたソレを仲間達に伝えれば、すぐさま一人が反応した。
反応したのは「剣従師」の少年で、その癒し生物と言うのに心当たりがあると、スクリーンショットを周囲に見せるように公開した。
そこに写っているのは、小さな少女だ。
赤い服装に、白い装飾。手にプラカードを持ちながら、花開くような笑みを浮かばる銀糸の髪と金月を思わせる双眸が特徴的な、手のひらサイズの少女だった。
そのあまりに愛らしい容貌に、思わず周囲の仲間がもっと見せろと押し寄せる中、「剣従師」はある事実を話し始める。
「それ、<サタンクロース>の契約精霊って言われてる子だぞ」
当然通じるだろうという気持ちで伝えると、周囲からはなんだそれと小首を傾げられて、「剣従師」は呆れ気味に溜息を吐いた。流石に公式ホームページくらいは確認しろよと言いながら、事細かに、自分が参戦し、一発でのされてしまったイベントを話し始める。
途中まで笑顔だった少年少女も、戦闘に突入したあたりからその内容の異常性を理解し始め、それが今回の相手なんじゃないかと、誰もが恐れていた───そんな時だった。
北門の方向から突如として悲鳴、怒声が飛び始める。それと同時に聞こえる言葉はただただ罵倒の嵐。
吸血鬼が来たかと身構える「黒銀の爪牙」のメンバーは手に持つ各々の武器を握り締め、ギルドホーム購入の夢の為に張り切り、───一人が、倒れた。
それを誰も気が付かない。まったく同数のままに走り抜ける少年少女は一人、一人と減っていき、しかし数が減らないと言う奇妙な現実が知らぬ間に背後で繰り広げられていた。
リーダーである「聖騎士」が号令を掛ける。雄々ッと頼もしい返事が聞こえ、───そして誰もいなくなった。
◆
振るわば切裂、薙げば風断、振るう少女の逝く道は屍山血河の死霊の宴。当たらぬ矢雨に苛立ち放てば、浮かぶ巨剣の嘶きで、死者に誘われ河の中。騒ぐ剣戟の横入れ相手には、鋭き双牙の煌きにその身を溶かされ嗤いが走る。
無情無血の人形姫は、狂ったような笑みを浮かべて、他者の眼窩を抉り掴んで、赤色嬉しと腹を裂く。さながら鬼か死霊の長か、仕える四剣は応じる様に、赤を恋しやと周囲を喰らう。
ああ、雄々しきは無数の軍勢。血色塗れたその勇姿、四肢がなくとも這い動き、剣がなくとも動きは止めず、一夜の報酬求めずに、怨敵求めて怨嗟に吠える。殺し殺され百年目、此処であったが復讐劇。
狂気の姫君と相対するは、首撥ねられし復讐者の群れ。
過去の因縁引き合えば、溢れる思いが爆発四散。剣の姫君迎え撃つ、反英雄の剣軍猛る。
一合、二合、三合。一触、二触、三触。
響く剣戟数あれど、霊剣未だに折れることなく。
触れる剣先増えるたびに、姫の口元歪み緩んで。
血色に塗れた姫君は、己が魔力を代償に、精霊達を震わせた。
途端、人を空を見る。そこにあるは四剣、否、霊剣。
数は一、されど強大、なにより凶悪。浮かぶ波紋はさながら落雷。
そして結果は───大災厄。
落ちる霊剣軍勢砕き、響く轟音、無数の放電。
焦げ付く血河に笑みを浮かべて、振り向け笑えば無数の砲撃。
笑みを浮かべたその顔に、始めて焦りが浮かんで消えた。
残るは勝利の声を上げ、目的忘れた魔法使い。応える声は増える一方、奇妙な事に気が付き青ざめ、───現れた剣軍に飲み込まれ、姫の誘いに容易く堕ちた。
◆
まったく、派手にやるもんだね。
そう思いながらも、街の人間を安心させるために、営業スマイルは延々と。
送られてきた情報で一人が逝き、もう一人が遊んでいるのが分かるものの、しかし魔法の対策が「自爆」前提のアクセサリーとは誰が思うもんか。と言うか、センナのお嬢ちゃんもそういうのはもう少し考えて渡すべきだと思うんだけどねぇ、しかも組長には内緒ときた、これは折檻物だ。
手伝ってくれている小さな少女に感謝替わりの金平糖を与えると、満面の笑みで齧り付くが、しかしこの子本当に此処にいていいんだろうか。組長の指示でこちらを手伝っているらしいのだけれど、しかしこの子は組長の武器担当だったんだが。
まあ、別にいいか。私はいつも通り、上手い飯を、誰かに提供するだけさね。
ああ、それにしても、───もうそろそろか。
組長がなにかやらかしそうな気がするのは気のせいだといいんだけどねぇ。




