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episode3

2014/10/23:レア度の星の数を変更。アラビア語で数字を第(1~10)を意味する言葉に変更。尚、0星のみ、星が無い→星が堕ちる→彗星→堕星という風になっています。ちなみにアラビア語にした意味は特にありません。幻想ネーミング辞典でなんとなく選んだだけです。

[本日の教訓]この世界では町で売っている飲み物で絶命する場合がある。


= = = = = = = = = = = =



 センナに連れて来られたのはこじんまりとした一軒家だった。正面には申し訳程度の小さな看板が下げられいて、そこには「RWBY」と書かれている。飾り気のないその店の入り口にはクローズの板がぶら下がっていた。


「此処が私の御店、まあ休店中だけどね」


 そう言いながら裏口に回って中へと移動する。

 最初に見えたのは商品棚とカウンター、ただし中身はなく掃除も一切行われていない。相変わらずの面倒臭がりなのか、それともただの飾りなのか。

 センナが移動したのはそのカウンターの下、わざとらしく設置された地下扉を開いて中に入っていく。その階段を降りていくと、


「ようこそ私の工房へ! 貴方が二人目のお客様だよ」


 ウィンクする馬鹿を尻目に工房を観察する。階段を降りてすぐ右手側に巨大な釜が設置されている。そのすぐ側には蛇口があり、たまに滴が垂れていた。奥を見ると巨大な宝箱がその存在を主張している。床には巨大な魔方陣が絡まるように存在している。───そして、何より目立つのは空中に浮かぶ奇妙な水晶体だった。


「アレは「霊隷石」、精霊を閉じ込めて力だけ強制的に奪う装置だよ。ちなみに入ってるのは闇精霊の、まあ、ちょっとレアな奴」

「精霊……もらっていいか」

「別にいいよ。もう新しい闇精霊いるし。所詮レベル1だから出力もたかが知れてるから───ただ、それは最後にしよう」


 いつの間にか椅子に腰掛けているセンナから座るように催促されたので腰を下ろすとその座り心地に驚いた。


「さて、先ず君の現状を語るとしよう。君が選択した物がどんなものなのかを分かり易く教えるとしよう」

「それは種族か、職業か」

「どちらも大して変わりゃしないさ。そう、冷遇されていると言う事実は変わらない」

「それはいったいどういう意味だ?」

「アバター作成時の説明文は読んだだろう。鬼人族の特徴をさ」


※「鬼人族」魔物である鬼の特性を有した種族。全体的な能力が平均以上で、一見すると圧倒的な能力を有しているように思えるが、実際は尤も過酷な生活を強いられている存在である。


「まあ、一応は」

「過酷な生活を強いられる。これはね、街の機能の殆どを使用できないって意味なんだよ」

「……は?」

「鬼人族と他種族の最大の違いはね、明白な差別なんだよ。他種族が人間と良く似た別の生きものなら、鬼人族は根本から違う化け物(モンスター)扱い───少なくともNPCからはね」


 鬼人族はそもそも他者を糧に生活している種族であり、特に吸血鬼の対象は同じ人形の種族が中心だったらしい。現在は代用品として「人工血液」が開発されたので被害は少なくなってはいるものの、それでも刷り込まれた恐怖は払えない。世知辛い事に、そんな恐怖の対象は一部のNPCを除いて受け入れてくれないそうだ。……ああ、面倒臭い。


「種族間差別があるのは、まあ知っていたが、まさか一部以外を除いてとはな」

「尤も鬼人族でも「ナマハゲ」なんかは普通に受け入れられてるけどね。そもそも否定的に見られているのは「吸血鬼」と「酒呑み童子」だし」

「ドストレートに状況は最悪だ。これはまた、魔王ロールを極めるしかないな」

「……勧めたのは私だけどさ、あんまり酷い事はよしなよ」

「なに、堂々と殺人宣言をするだけだ」

「PKはあんまりやっちゃあかんよ。そもそもレベル1なんだから無理だよ」


 今はまだ冗談だ。センナが言う通りまだ弱すぎると言う理由もあるが、そもそも戦闘のノウハウなんざ喧嘩作法くらいしか知りゃしない。現実と出来る行動は違うだろうし、不可能が可能となるのも有り得るだろう。ならこのゲーム内での戦法を確立してからでも遅くはない。


「まあ、その辺は追々どうにかするとして」

「しちゃうんだ」

「職業不遇の理由が分からん」

「それは分かりやすいよ。単純に難易度の問題さ」


「戦士」あらゆる武器を使用可能な職業。スキル【喚装】習得。

「精霊使い」契約した精霊を使役して戦闘を行う職業。スキル【精霊契約】を習得。成長補正、補助スキル、アーツの習得。


 別段問題のない内容だと思うのだが、何か裏でもあるのだろうか。


「「戦士」にはシステムアシストが存在していない。つまり武器を使おうにも身体の動かし方が分からないんだよ。このゲームのシステムアシストは多岐に及ぶ。剣なら握りや体捌き、手首の返しや足運び、呼吸なんかもシステムが補助してくれている。対人戦闘も多いこのゲームだと、それはあまりに致命的だった。そもそも楽しむ為に行うゲームで実際と変わらない修業を繰り返せる者なんて一握りで、しかも後から来たプレイヤーが楽々と自分を追い抜いていき、いつしかPKからカモ扱い。そんな事態が重なって、今じゃ新規プレイヤーが極僅かな期間だけ頑張るか、今でも極めようと足掻く廃人くらいしかいない」

「それはそれは、何とも心踊る話だ」

「……ですよねー。ジョージってこう言うの好きだもんねー」

「修業? なにそれ、楽しいが?」

「うわー、変たいすぎぃぅるっ……!?」


 何かを言い掛けたセンナをアイアンクローしながら持ち上げる。どうにも痛覚再現を最低レベルに設定しているらしく、普段と違い余裕があるらしい。

 それならと、空中に浮かぶ「霊隷石」目掛けて振りかぶり、


「ちょ、まっ……!」


 大リーガー気分でぶん投げた。放物線を描く事なく、真っ直ぐに飛んでいく耳長族は、もの凄く鈍い音を立てて「霊隷石」へと突き刺さる。そのまま重力に捕らわれて、かなり際どい角度で墜落したのを確認し、思わずガッツポーズ。


「流石ゲーム、非現実が日常茶飯事か」


 スゲェと感嘆の声を漏らす。何せ人一人を筋力だけで軽々と投げ飛ばすなんて現実では出来そうにない。全身を使い前方に投げ飛ばすならともかく、空中にぶん投げるのは流石に厳しい。


「……あのね、痛覚再現最低限でも痛い物は痛いんだよ? これだけされても精々爪楊枝で頬を突かれる程度とは言っても痛いんだからね?」


 まったくと、立ち上がるセンナに流石に拙かったかと謝罪する。ちなみに投げた事ではなく、インテリアにぶつけた事に対しての謝罪だ。壊れてないかと心配したら何故か呆れたように天を仰いでいたがどうしたのやら。


「うん、もう面倒だから話を戻そう。という訳で、はい」


 投げられた「霊隷石」を受け止める。すると、途端に宝玉を思わせる石に小さな亀裂が無数に入り、中から黒い液状の物がうにょうにょと漏れ出している。

 これが精霊? 闇の精霊と聞いていたが何やらイメージと正反対の物が現れた。もっと、こう、───悪魔然とした存在をイメージしていたのだが。スライムか何かの変異種の間違いじゃないのか。


「その精霊の名前は「変幻のエウクレイア」。不定形の液状精霊で、様々な形状に変化する事が可能なレア度〝第八星(アル・サーメン)〟の闇精霊。錬金術でレア素材適当にぶち込んで、鍋に全MPつぎ込んだ結果【突然変異】で発生したんだ。即座に「霊隷石」の素材にしたけど、まさかジョージに譲る日が来るとは思いもしなかった」


 硝子が割れるような音を立てて球体が崩れ、黒い粘液が周囲に弾け飛ぶ。

 ソレ等が掌の上に集まると黒い球体に変化して、それがつぼみの様に開いた中には、────何故か可愛らしい子供がぼけっとした表情で此方を見ていた。


「………………おい、ガキを監禁するのはまずいだろ」

「人の形をしてるだけで精霊だよ。虫かごに虫を入れて何が悪いのさ?」

「いやまあ、そう言われればそうなんだが」


 目の前の精霊を前に虫と言えるセンナの神経だけはある意味尊敬に値する。

 手のひらサイズの子供の容姿は、一言で言うならやはり可愛らしい。ふわっとしたトゥヘッドを肩の当たりまで伸ばしていて、黄金色の瞳は純粋に何も考えていない。端正だが、子供らしい表情を浮かべたこの精霊は、なんというか、保護欲を掻き立てるように作られたかのようだ。

 そんな精霊は自分の着ている粘液だったワンピースの裾を弄りながら、交互に俺達の顔を見つめている。


「和む、……すげえ和む」

「どうでもいいけどさ、そろそろ話を戻さない?」

「話? 終わっただろうに」

「まだもう一つあるよ。ほら、思い出して」


 なんだったか。吸血鬼の扱いも職業の難易度も聞き終えたと思うんだが、……ああ。

 そう言えば「精霊使い」の説明がまだだったか。さて、戦士以上に不遇と言う事もあるまい。いったいどんな話が出るのやら。


「潔く思い出したから説明を続けてくれ」

「了解。それじゃあ言うけど、「精霊使い」が精霊と契約できる確率ってかなり低いよ?」

「……なん……だと?」

「まあ、ぶっちゃけるとね。このゲームの最大の特徴である脳波測定による個体差が原因なんだけど、魔力の性質と言うのか、ともかくそういうのが存在している。明白にはされていないんだけど、例えば「魔法使い」の初期魔法【魔力弾】はその性質によって形状だったりが変わってる。確認されているのだと通常球体の魔法が弓矢の様に変化したなんて話もあるよ。尤も、そこまで性質が顕著に表れる人は少ないけどね。

 さて、そんな魔力の性質なんだけど、どうにもその精霊ごとに存在する好みがあったりなかったりするそうな。そんな訳で好みの魔力でない場合はそもそも契約すら出来ない。ついでにこのゲームのNPCは高度なAIが入ってるから好みもそれぞれと言う徹底ぶり。魔力を与えた際にクソ不味いと吐き捨てられたプレイヤーがマゾに目覚めたなんて笑い話もあったりする程度には成功率が低いらしいよ」

「最後のマゾ云々はどうでもいいが、ともかく成功率が低い事だけは理解できた」

「ちなみにこの「エウクレイア」の好みは知らない。キャッチフレーズは愛玩用だなんて練成した途端に運営からおめでとうメールと共に詳細が送られてきたけどね。当然ながらそういうのは教えてくれないんだよ」


 愛玩用と言われて視線を向ける。するとあちらも此方を見つめていた。

 何、とでも言うかのようにこてんと首を傾げる姿は、成程キャッチフレーズに偽りなしだと納得するには十分だった。しかしそれはそれ。これはこれ。

 俺は何が何でもこの精霊を戦闘に参加させる。その為に最低限の教育もしようと思っているのだが、さて。どうなる事やら。今から楽しみである。


「という訳で、サクッと契約してみれば? 成功すればよし、失敗すればそれもまたよしって感じでさ」

「応、それじゃあ早速」


 【精霊契約】はアクティブスキルではなく、パッシブスキルに分類されている。

 説明文では「一期一会を大切に。貴方の友は、貴方自身の鏡である」と記されているのだが、正直効果の程を教えて欲しい。意思疎通が出来るかも分からないが、まあ、ともかく自分らしくやるとしよう。

 そう思い、一度椅子から降りてその場に正座する。

 目線より少し高い程度の机に「エウクレイア」を移動させて、しっかりと相手と視線を合わせる。小さな子供に話しかける際に同じ目線で話す事はとても重要な事だ。自分よりも大きな存在が見下ろしてくると言うのは圧迫感と恐怖を与えてしまうのだから。まあ、サイズの問題まではどうにもならないがな。


「今更だがこんにちは、もしよければ俺と話をしてくれないか?」


 「エウクレイア」は悩むように何度も小首を傾げて、最終的に縦に振った。

 もしかしたら【精霊言語】がないと会話が出来ないのではと思ったが、どうもそんな事はなかったらしい。


「ああ、ありがとう。それじゃあまずは自己紹介をしよう。私の名前はジョージ、吸血鬼で、まあ、こんな顔だが、別に何処にでもいるような男だから怖がらないでくれると嬉しいな。……さて、早速だが聞いてくれないか。私は旅をする予定だ。色々見て回って、色々と遊び歩いて。そんな旅をしたいんだが、君も一緒に行かないか? 石牢の中よりは快適で楽しい毎日だと思うんだが?」


 その問いに対する答えは一向に来ない。ただ、何かを言いたげに此方へと視線を向けているだけだ。

 その視線が指先と顔を何度も交互している事から、もしかしたら指先を向けろと言う意味かと、悩みながら指を差し出して、───指先を噛まれて少しくすぐったい。

 何かが吸い取られるような感覚がしばらく続き、ようやく放されたと思えば相手は何故か爆睡している。何が起こったのかセンナに説明を求めると、専門外ですと平らな笑みを浮かべて顔をそむけている。何でも知っている訳じゃないと不貞腐れているように見えるのは気のせいではないだろう。

 ともかくどうしたものか。一先ずステータスを確認してどの程度吸われたかを確認する事にした。


==== ====


【NAME】ジョージ/LV1

【RACE】鬼人族(吸血鬼)

【JOB】戦士見習い

【SUB─JOB】へっぽこ精霊使い[契約:闇精霊「変幻のエウクレイア/LV1」]残り契約枠0

【SKILL】吸血(陽光脆弱化)、換装、精霊契約

【VITALITY】HP100/100 MP0/150

【PARAMETERS】STR14/VIT14/DEX14/AGI15/INT10/MND11

【ARMS】普段着上下セット[VIT±0/耐久無制限]

【ACCESSORY】[][][]

==== ====


 何故か契約できているのだが、何と言うか、釈然としない。

 契約が難しいと言われていたのにコレである。僅かに感じていた緊張や、失敗した時のリアクションに悩んでいた事が今では莫迦らしい。

 しかし、まあ。こうして契約できた事は素晴らしいのだから、喜ぶべきことなのだろう。


「…………契約はどうだったの?」


 物凄く微妙な顔で問い掛けられる。どうにも釈然としなかった様子が落ち込んでいるように見えたのか、気持ち心配そうな声色で此方を見下ろしてくる。……ああ、そう言えば正座したままだったか。


「色々と釈然としないが、まあ、契約は成功したらしい」

「それはよかった。あげる云々言ったのに渡せなかったじゃ笑い話だ。友人の門出にそれじゃ、情けなくって久々に鍋を使う羽目になるところだ。休業中に働くなんて死んでも嫌だからね」


 現実では株で収入を得ているこの男が労働をするのは珍しい。なので働くと言うのなら見てみたかったが、……精霊を譲ってもらっただけで満足だ。


「まあ、ともかく「精霊使い」の第一歩おめでとう。これから予定がないのなら色々案内するけどどうする?」

「有り難い申し出だが、……まあ、なんだ。そこまでおんぶに抱っこは流石に悪い。どうせ街の施設の殆どが使用不可能らしいし、街の外で遊んでくるさ」

「そっか、まあ、そうだろうね。そう言う輩だが僕等は友達になったんだし」


 やっぱり同類だよね、とゲーマーが戯言を呟いた。……四六時中遊び呆けている輩の同類にされてもなぁ。


「なに、その呆れた顔?」

「何でもねぇよ」


 さて、それじゃあ身体を動かしに行くとしよう。幸い天気は五月晴れ、外で遊ぶにゃ丁度良い。


【PARAMETERS】各項目説明

STR:筋力の瞬間に出せる最大出力。

VIT:肉体の頑強さ。肉体的な抵抗力、行動力はVITで計算される。

DEX:肉体の制御能力。様々な行動に補正が掛かる。

AGI:筋肉の最大速力。

INT:魔力の質、操作能力等。総合的な数値である為過信は禁物。

MND:精神の頑強さ。精神的、魔法的な抵抗力、行動力はMNDで計算される。



【PARAMETERS】平均

人間:STR10/VIT10/DEX10/AGI10/INT10/MND10

獣人:STR12/VIT12/DEX10/AGI13/INT6/MND7

耳長:STR6/VIT4/AGI10/DEX10/INT15/MND15

髭長:STR14/VIT14/DEX15/AGI6/INT4/MND7

小人:STR5/VIT4/DEX13/AGI14/INT14/MND10

巨人:STR15/VIT15/DEX3/AGI3/INT14/MND10

翼人:STR10/VIT5/DEX9/AGI15/INT11/MND10

鬼人族

吸血:STR12/VIT12/DEX12/AGI13/INT10/MND11

酒呑:STR16/VIT16/DEX3/AGI12/INT8/MND15

悪滅:STR10/VIT10/DEX10/AGI12/INT14/MND14


※尚、個体により各項目がランダムで最大±2される。


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