episode25
新年明けましておめでとうございます。
今年も一年おめでとうございます。
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【クエスト】メリークリスマス
[達成条件]サンタクロースのお手伝い/成功
《隠し条件》暴動鎮圧/成功
《隠し条件─上記を達成していた場合─》殺人人数0/成功
【クリスマスプレゼント】「レシピ:架空聖剣」獲得
【クリスマス・パニック】称号「血濡レノ聖人代行」獲得
【メリー・クルシミマス】能力<幸運>獲得───契約精霊「変幻のエウクレイア」が同能力を所有。所有者との親密度が一定以上の為、統合進化が発生。<幸運>を<超運>へと統合されました。所有権をどちらにするか選択してください。
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クリスマスプレゼントだが、正直私にはいらないものばかりだった。
とりあえずさっさとスキルはエウクレイアに丸投げて、レシピはセンナに放り投げる。
残ったのは称号【血濡レノ聖人代行】なのだが、これ、どう考えてもおかしい。
「血濡レノ聖人代行」:聖夜の暴動鎮圧者の証。畏怖を込めて人々は語り継ぐだろう───悪さをする子供の下に現れて、暴力の化身と化す紅く濡れた聖人の代行者を。その袋に詰まっているのは、子供の夢か、はたまた子供そのものか。
……私は都市伝説かッ!?
思わず空に向かって吠えた。なんというかやるせなくて。
ちなみに隣で銀助も吠えた、なんか楽しかったらしい。
妖狐は現在お昼寝中、幸運鳥は周囲で必死に働いているセンナのサポート、と言うか道具を取るという作業をこなしていた。一番働きものなのが鳥というのもどうなんだ、このメンバー。
「組長さんや、とりあえず私にお茶をくださいな」
「……おう、少し待て」
疲労困憊しているセンナの下に茶を運ぶ。この広い空間を全て更地に変えたこの根性には流石に度肝を抜かれ、同時に流石だ親友と誇らしい。と言うか、予定では一ヶ月以内に出来たら御の字じゃないかって話になってたんだが、まさかこうも早く終わらせるとは。……やりおる。
ともかくお茶をセンナの下に運び、ついでにまんじゅうも手渡す。ちなみにこれはセガール嬢の作品だ。私は和菓子はそこまで詳しくないが、しかしこれが店で買えばそれなりの値段が取られる事は理解できる。思わず賞賛を繰り返してしまい、その後真っ赤になったセガール嬢に熱したままのフライパンで顔面フルスイングされるハメになった。まあ、避けたが。
久しぶりに友人と二人きりで腰を下ろして茶をすする。
ああ、苦い。こいつに合わせるといつも渋すぎる。私としてはもう少し薄い方が好きなんだが。
───ほぅ、と吐息が漏れた。
更地とかした都市部の何処か、ぽつんと設置された椅子に座り、上を見上げる私たち程幸福な存在はそういない。子供の頃に騒ぎ過ぎた私はそこそこ静かに生きる事を望んでいる。同時に、コイツは我慢をすることを止めたせいか楽しく生きれるならなんでもいいらしい。まあ、なんというか、真逆だよなぁ───俺達。
「そう言えばさ、ジョージは目標どの程度進んだの?」
「さてね、ステータス的に見るならあとひと押しってところかね」
「なら行けば? 無理に付き合う必要はないぜ?」
「いや、……たまにはのんびりと過ごしたい」
ゲームで焦りたくない。現実で散々焦るんだ、此処くらいはゆっくりしたい。
まあ、メンバー内で一番レベルが低いのが私なので本当は焦らにゃならんのだがな。しかし、先日の狩り、と言うか子供達を拾ってからというものは子育ての方が楽しくて、もうね。
だって全匹どこでもトイレするから最低限そこから仕込まねばならんかったし。致命的な食品でも食べようとするし。色々と仕込む必要もあったし。なにより戦闘訓練が必要だったしな。
と言うか、この子等単体だと弱すぎる。銀助は速度はあるものの決定力に欠けており、琥珀は奇襲はそれなりだがやはり決定力がなく、翡翠は決定力も速度もあるが如何せん脆すぎる。
なので現在は三匹一組での狩りを教えているのだが、これが中々はまっている。ただまあ、今は小型であるのであまり無茶はさせたくないので基本的に弱らせた獲物が標的だがな。
「狩猟動物にでもする気なの?」
「いや、最低限の能力だろこの程度」
「お前の最低限は非常にハードルが高いからな」
「そうか?」
「自覚しろよ大魔王」
「さて、子供達が楽しんでいるので何とも言えないな」
ちなみに現在子供達は楽しく遊んでいる。
銀助と琥珀は楽しく追いかけっこをしていて、それを見守るかのように幸運鳥が周囲を飛び回っていた。なんというか、なんというべきか、幸運鳥は確り者の姉、狼狐ペアはその妹弟と言うイメージだ。
「ちなみに未だに子供達でまとめてるの?」
「いや、一応決めてはいるんだが、なんというか……な」
名前呼んでも反応鈍いんだよな。とくに琥珀、あいつは色々な意味で反応が遅い。
だのに食事に呼んだ際のみ反応が神がかっている。なにせ言葉を言う前にダッシュしてくるのだ。あれは異常すぎる。
「まあ、ぼちぼち呼びなれてもらうつもりなんだがな」
「ふうん、ジョージらしいね」
「私らしいか、そこら辺はよう分からんがな」
「子供相手だととりあえず優しいって事さ。私だったら反応しないだけで怒られちゃうのに」
「それはお前さんが悪い。半分以上が気付いてしないのだからな」
「そこはほら、私達夫婦だし」
「おい、ただでさえご近所さんから怪しい噂流されて、同年代の腐女子諸君に散々ネタにされ、実際に男にまで告白された私にはその発言はキツいんだが」
ちなみに年下の女の子のように華奢で可憐な容姿の少年でした。
高校を卒業する頃だったが、本当にあの時は驚いた。男だろうがなんだろうと、好意を向けてくれるのは嬉しいが、しかし同性に持つのは友愛のみだ。恋愛感情は抱く事ができない、なので丁重に感謝と断りの言葉を述べたので、それ以降も頻繁に会うものの、しかし前と比べると距離が少し遠くなった気がする。
現在は彼も立派な社会人で、趣味で行っていた衣装作りが職業になったんだったか。なんでも女子力が三倍になったとかどうとか彼の近所に住んでいる友人が喚いていたような、……いや、上がったらダメだろ、そこ。
「ああ、あったねそんな事。あの時は僕も驚いた。て言うか、返しがイケメンで殴りたくなった」
「俺としては普通に返したつもりだが。まあ、お前のように不誠実な奴からすればそうかもな」
「うっさい、僕は不誠実なんじゃない。相手が勝手に僕に理想を抱いた挙句馬鹿な事を言ってくるから笑えるくらいにはっきり振ってるだけだよ、盛大にね」
「そうだな、お前さんを本当に理解できる女がいれば、……嬉しいんだが」
「……あの、そう言う事言うの止めてくれない? ほんとね、不意打ちだからそれ」
「不意打ちと言われても思った事を言ってるだけなんだが?」
「だから恥ずかしいんだよッ! あーもう、この野郎は。無自覚に色々とこっ恥かしい事を言いやがって」
頭を抱えて何やら騒いでいる親友に対して大丈夫だろうかと小首を傾げるが、まあいつもの事だしな。どうせすぐにでも元に戻る。
「あー、もう疲れたー。僕もうログアウトするからさっさと目標到達して来い」
「了解だ。まあ、そろそろ娘の機嫌がやばいからな、遊びに行ってくるよ」
さて、と言う訳で何処か楽しい場所にでも行くとしようか。
確か大森林の東部に面白いモンスターがいるらしいし、それ目当てに遊びに行くとしようか。
◇◆◇
大森林は大まかに5つに分けられる。
初心者が楽しむのに適している南は温厚なモンスターが多く生息している。北側、つまり森側に進めば進むほどにユニークモンスターである鬼熊が現れる確率が跳ね上がると言う素敵仕様も存在するが、黄金色の蜂蜜でも所有していない限りは基本的に出くわさないので3割程度は安心してもいい。
子供達と出会った北側は好戦的且つ縄張り意識の強いモンスターしか存在しない。南側と比べると凶暴で、ほぼ確実に複数単位で現れるのが特徴的だろう。連携が上手いモンスターもおり、特にコボルトは希にコボルトリーダー率いる小隊と出くわす場合もあるという。彼等はなかなかに強力で、役割分担がしっかりされているので苦戦は必至だろう。まあ、たまに謎の逃亡もするのだが。……と言うか、彼等が戦闘を行っている光景は見た事があるのだが、私と出会すと戦闘にならずにそのまま猛ダッシュで逃げてしまうのはなぜだろう。
西側は一体のモンスターが治める特殊な場所だ。名前は未だに知らないがなんでもユニークモンスターと呼ばれる世界に一体のみの巨悪性能モンスターが生息しているらしい。所謂レイド級と呼ばれる化け物なのだが、周囲が森と言う視界が悪く遮蔽物が多い空間で縦横無尽に駆け回り、まるで瞬間移動のような速度で移動するモンスターで、魔法に対してリフレクトと呼ばれる特殊なブロッキングを仕掛けてくるので今のところ討伐されていないらしい。なんでも見た目はにゃんこらしいので今度見に行ってみよう。
中央に存在する耳長の集落も忘れてはいけないだろう。特筆する点は中央に存在する巨木、世界樹なんてありきたりな物ではないらしく、森林の翁と呼ばれる意思ある老木であるらしい。かの者は偉大なる知恵の賢者、失われし世界にて目を咲かせた最古の精霊樹だとかなんとか。説明書にする名前が乗るくらいのビックネームだ。ちなみにこの集落の周辺にはエルフから疎まれる<半端者>と呼ばれる耳長モドキが生息しているらしい。容姿は耳長で長命だが、どちらかと言えば人に近い存在で、精霊の声が聞こえる者は三割に満たないとか。人間相手にはあまり友好的ではないらしい、過去に奴隷狩りと呼ばれる行為を行い、それに伴うイベントの際に首輪をされたボロボロの少年少女が最前線で戦わされた姿があったなとジョーカーが楽しそうに答えていったけか。ちなみに奴さんは容赦なく殺したらしい。うむ、それでこそ殺人鬼だ。
そして、最後に東側。
此処はフィールドボスモンスターが生息しているらしい。
いや、正確に言うとエリア移動を制限する為に存在する番人的な存在か。
現在私が知っているのはモンスターの名前のみ───ドライアド。言わずと知れた木の精霊である。
どのような存在なのか私は一切知らないが、しかし間違いなく厄介な相手に違いない。なにせ植物は痛みを感じない、感じる機能が存在しない。なので怯むような事はないと思われる。
なので、背後から感じた悪寒に飛びよって剣を振り下ろそうとした瞬間、小さな姿が見えて急停止した瞬間に顔を叩かれて、───ちょっと呆然とした。
少女の頭上には「ドライアド」の文字が爛々と輝いている。ついでにボスを意味するBシンボルも金色に輝いてる。
ほぼ素っ裸、と言うか、植物の葉や蔓が体に巻き付いている以外に衣服なんて存在しない出で立ち。耳が僅かに尖り、明るい茶色の髪色に、そばかすがチャームポイントの純朴そうな、小学校低学年くらいにしか見えないこの少女相手に先人はどう勝ってきたんだろうか。……あかん、勝てるビジョンが見えん。
「えっと、ボス、だよな?」
思わず話しかけるも相手から反応は返ってこない。
指揮者のように木々に命令を出して揺らめいて落ちる葉が刃のように鋭く、風もないのに襲いかかってくる。それに対しては木々を盾に回避したが、しかし周囲の木々からもまたしても発射されたその攻撃を避け続けるのは少し厳しい。
なので早々に決着を着ける必要があるのだが、しかし相手は子供である。殴れないし、殺せない。
大人が子供に手を出すなんてするべきじゃない。最低限の体罰は許容しよう、間違えた際に言葉だけでは分からない事も確かに存在しているのだから。だが、相手を傷付ける目的の行動はけして出来るもんじゃない。あれはまさしく鬼畜の所業だ、私には出来ない。例えゲームであろうとも、私は子供に攻撃はしない。これは自分なりのルールだから。
そんな私とは裏腹にエウクレイアだけは楽しげだ。と言うか、私が動けない状況に満面の笑みで任せろとドヤってる。何をするつもりだと視線を向けると、途端に全身から力が一欠片も残さない勢いで吸われていく。普段のようにMPだけではなく、今回はHPもごっそり持って行かれた。急いでポーションと人工血液を飲み込んで対処したが、少しでも遅れていたら攻撃を受けていないのに死に戻りなんて笑えない状況に陥る所だった。
さて、そんな色々と腹一杯で元気溌剌な愛娘がした事は少しばかり異常でした。
強いて言うなら膨張、破裂。全身を粘液塊に変化させた途端私も平然と巻き込みながら大爆発。
周囲を待っていた木の葉は勢いに飲まれて全て落ちて、その粘液がへばりつくと途端に消化されていく。ああ、成程。お前さん食べるつもりかね。
散らばった粘液は少女に戻る事はなく、そのまま粘液のままで活動を開始する。進行方向には興奮して両手を振り回しているドライアドの少女、そして振るわれる蔓やら木の葉やらは<物理無効>と言う規格外の能力を有したエウクレイアには一切通用せず、そのままその身体をエウクレイアに飲み込まれていく。
泣き叫びながら飲み込まれていく様子にそれなりに罪悪感を感じつつも、悲しいけどこれゲームなんだよねと現実逃避しながら観察を続ける。助けを求めるように伸ばされた手に脳内でひたすら謝罪を行いながら、沈み消えていく姿に合掌。
そのまま暫く蠢くと、うっすらと透けたエウクレイアの内で足掻きながら消えていく──溶けていくとは表現しない──ドライアドの少女にとりあえず黙祷。
《第二の街ローエンへの通行が可能になりました》
無機質なメッセージに少し癒されつつ、先程よりも一回り大きくなった姿が印象的なエウクレイアを頭に乗せて、私は何も見なかったと、愛でながらその場を去る事にした。
<超運>
自身だけでなく周囲にも幸運を分け与える幸運の上位スキル。
<ドライアド>
樹木の精霊。少女、女性の2パターン有り。尚、少女バージョンは1/16の確率で出現。
主な攻撃方法は周辺木々に命令を与える事で行う木の葉の乱撃や蔓の連撃等。魔法による攻撃ではあるのだが、その特性上物理攻撃に属する。
弱点は火属性だが、水分を多量に含んでいるため実際はそう簡単に燃える事はない。その為単純に火を放つだけでは効果が薄い。むしろ氷の方が被害が大きい。
尚、女性バージョンの場合木々から出られない為動く事は不可能だがステータスが高く、自分を中心とした植物を急成長させる事が可能。少女バージョンの場合は自由に動き回れるが全体的なステータスは低く、植物に対して簡単な命令しか出す事が出来ない。




