GOSSIP ─Christmas─
遅れましたがクリスマスです。
仕事帰ってきてからの1時間のテンションで書いているのでぶっちゃけるとおかしいかもしれません。ちなみに番外編であり、本編とは関係ないと思います。
12月24日だからと言って特に何かがあるわけでもない。
俺はそもそも行事を楽しむような事はしないし、祖父さんの影響であまりクリスマスに対しては興味がない。閃は聖なる夜ではなく性なる夜をお楽しみらしく、先程買い物に行った際にモデルみたいなお嬢さんを相手に公園で熱烈な愛を囁いていた。ちなみに先々月のハロウィンの際はまったく別の女性相手とキスをしていたのだが、しかしまあ、だからといって気にする必要はない。なにせ恋人はいないのだ、個人的にはもっと誠意を持てと言いたいが、しかしそればかりは個人の自由なのでしょうがない。
……ふと、時計を見るが未だに針は7時を回っていない。
こうも手持ち無沙汰だとなにかしたい所だが、───ジュークボックスで音楽でも垂れ流しながらとりあえず寝転がるとしよう。それ以外にやる事などないしな。
という訳でしばらくまったりとした時間を過ごす事にした。
うつらうつらと意識が半覚醒状態に何度も突入しながらも、なにか奇妙な予感がして眠ろうにも眠れない。虫の知らせにたたき起こされるような感覚だ。ああ、気持ち悪い。
しかしその知らせの原因がなにか悟った時、俺はすぐさま私に切り替わった。
何故ならばそれは、───ケータイが震えた。
ディスプレイに映るのは薫子の文字、件名は「クリスマスイベントはどうしますか?」と言う問いかけ。
内容を確認してみたが要するにクリスマス限定のイベントやりませんかと言うお誘いだった。特に断る理由もなかったので即効で承諾、すぐさまログインするのであった。
ちなみにイベント内容は以下の通りだ。
「メリークリスマス(A)/サンタ撲滅運動会(B)」期間限定イベント
今日は聖夜です。子供達がプレゼントを待ち、恋人達が愛を語らう素敵な夜。……だと言うのにサンタクロースが道中で魔物に襲われて気絶してしまいました。急遽代役の方々を探しています。
今日は性夜ですね、死ねばいいのに。サンタクロースの邪魔は完了した、プレゼントは街に配られない。……代役か、ちっ、今からじゃ間に合わねぇな。孤独な同士よ、悲劇を我々の喜劇に替える為にどうか力を貸してくれッ!
クエスト内容(メリークリスマス)/サンタ変装キットを使用した状態で街でプレゼントを配る。なお、妨害があるが防げばボーナス獲得。尚ステータスの均一化、装備品固定、スキル使用不可能です。
クエスト内容(サンタ撲滅運動会)/暴漢と化してサンタの妨害工作を行いましょう。ただしサンタと、恋人以外に迷惑をかけた場合はカルマ値+1プレゼント。ステータス均一化、装備品固定、スキル使用不可能です。
報酬(メリークリスマス):??
報酬(サンタ撲滅運動会):??
依頼人:運営
確認:どちらにしますか? A or B?
◇◆◇
今日は待ちにまったクリスマス・イブ。
子供も大人も理由は知らねどとにかくお祭り気分ではしゃげる日だと笑い声が響く街中にようやく主役が登場した。
紅い衣装に雪のような装飾を付けて現れるプレイヤー達、大小様々老若男女色取り取り美醜含めりゃ星ほどに、多くの者達を楽しませるサンタクロースの登場だ。
背に持つ袋には子供達が楽しみにしているプレゼントがぎっしりと詰まっており、その袋が開けられる時を今か今かと待ち望んでいた。
そんな子供達に囲まれてもみくちゃにされるサンタクロースに微笑みを浮かべる周囲の人々。その内の半数以上が子供達の親か、もしくはイルミネートされたモミの木の下で愛を確かめ合うカップル達で、一人でいる者達は極々僅かだ。まあ、一人のクリスマス程虚しい物はないだろうし。
さて、ようやく袋を開き、子供達にプレゼントを渡す時間が訪れた。
皆が焦る中、一人のサンタだけが泰然自若に笑みを浮かべて周囲の子供達を集めていた。
皆、その顔を見ると一度は驚くものの、しかしそれよりもプレゼントが気になるらしくすぐさま笑顔で欲しい、頂戴と喚き始める。それを聴いて笑みを深めて配る姿はまさしくサンタクロースである。
「ほら、先ずは並びなさい。大丈夫、皆の分はちゃんとあるから」
柔らかく、何処か安心感さえ感じる声に子供達は不思議と従い、小さい子達を優先するように列を作っている。こんな事になっているのはそこだけで、他のサンタクロースは乱戦状態だ。
その列の最後尾には、可愛らしいサンタコスチュームを来た精霊がふわりと舞ってプラカードで最後尾である事を周囲に伝えている。それを見た一部のプレイヤーが鼻血を噴出し、スクショを連射して、最終的にはファンクラブまで出来上がったのだが、しかし今は聖なる夜、そのような些事は誰も気にしなかった。
楽しい時間が過ぎる中、唐突にどこからか奇妙な集団が現れる。
皆統一感のある服装をしており、そのギンギラギンな出で立ちは80年代の不良のようなのに、漂わせる哀愁と憎悪の念は彼等のように方向性を間違えた元気ではなく、ただ周囲に対して不満をぶつけたがっているだけの子供のようだ。しかし、子供のようだといってもそれは本日のみ。聖なる夜は人々をやや粗暴な童心に戻す事もあるというだけの話である。
その童心に戻ったプレイヤー集団は突如として奇声を上げたり、楽しく逢瀬を重ねていたカップルに対して敵愾心をむき出しにして大暴れし始める。それはさながら世紀末のように無秩序で無意味な暴力行為。ただ周囲に不満をぶつけるためだけの癇癪のような暴力だった。
それを最初、ただの騒動でしかなく、サンタクロースの仕事を邪魔するようなものではなかったのだが。しかし、この手の興奮は度が過ぎると暴走しやすい。
とにかくテンションに任せていたプレイヤー達が騒ぎ、物を壊したりするのを見て子供達が怯え始める。プレゼントをもらう事なく家に帰る子供まで現れる始末。
おまけに、そのプレイヤー達はけしてしてはいけない事をしたのだ。
子供に対する暴力行為、と言うか、ぶつかった際に怪我をさせてしまったのだ。
泣き叫ぶ子供に混乱して騒ぐ子供達、───その途端、一人のサンタクロースが動き出した。
「メリークリスマス、プレゼントだぜ悪ガキ」
いっそ優しさすら感じる声と共に繰り出された拳の一撃。
空を舞うような不可思議はなく、現実的に地へと崩れ去る巨漢。
静まり返る広場の中で、そのサンタクロースが少年の背を叩いて安心させるように何かを呟いた。
途端、少年は泣き止んで、渡された小さな袋を握り締めてサンタクロースから離れていく。
そうして、広場には迷惑なプレイヤーと、一人のサンタクロースのにらみ合いという奇妙な光景が生まれたのだ。ちなみにこの場面は既に公式ホームページで生放送されており、サンタクロースが何をするのかを楽しみにしている声が多かった。
「さて、子供達が怖がるから止めて欲しいんだがどうだろうか? と言うか、いい歳してリア充がどうたら叫ぶなとは言わんが、子供が変な言葉を覚えたらどうするつもりだ? 自重しろ悪ガキ」
まったくもってそのとおりであり、周囲からもうんうんと頷きと言葉が響いていた。
それに顔を真っ赤にした一部のプレイヤーが暴走し、そして、1対多と言う乱戦が開始された。
数の暴力は流石にまずいとサンタクロース一同が大慌てで止めようと突撃する中、当のサンタクロースが静止して、子供達にプレゼントを配る事を優先させろと笑みを浮かべた。当然反対もあったが、その際に小さな狼耳サンタコス少女から大丈夫ですと妙に自信満々に言い切られてその場を任せる事になった。
一人攻撃に晒されているサンタクロースは人波を片手で捌きながら集団に高速で拳を打ち込んでいく。
それはステータスとは関係なく起こされた非現実だった。速度は皆同じ、筋力も頑丈さもすべからず同一。だと言うのに、サンタクロースはたったの一発で確実に一人を沈めていく。
的確に急所を打ち抜き、それでいて子供達からは見えないように処理して、声すら上げさせぬように一方的に蹂躙していく。おそろしいのはその全てが死に戻りしない点であり、すべからず状態異常「気絶」「脳震盪」が発生している結果であるところだろう。これでも手加減しているのだ、子供の前だから。
しばらくして、残っているのは数人だけでその全員も及び腰、おまけに女性というどちらが悪者か混乱しそうな構図が出来上がった事でサンタクロースはようやく行動を止めた。ちなみに足元で転がっているのは全員男であり、今のところ女性に対しては一撃も入れていなかった。
流石にこの図はまずいだろうと溜息をついたサンタクロースに、一人の女性が駆け寄った。
ヤケクソなのか、ゲームだからどうでもいいとでも思ったのか、手にはシャンパンが握られている。
それを背を向けたサンタクロースに振り下ろし、当然のように防がれ、そのまま拘束されている。
「女の子がこんな事をするもんじゃないぞ? 暴れるよりも着飾りなさいな」
どうでもいいが、このサンタクロース、声が普段よりも三割マシで優しいせいか、妙に腰に響く声だったりする。赤面した女性プレイヤーが暴れるので何度か客観的な褒め言葉と共に落ち着くように伝え続ける事1分程、抵抗が完全に無くなった女性をベンチへと移動して、小さな袋を握らせた。
「メリークリスマス、落ち着いたら食べなさい」
自作したクッキーを渡して振り向けば、何故か真っ赤な女性陣が暴れる事も怯える事もなく挙動不審にしているが、サンタクロースはお構いなしに皆に袋を渡して満面の笑みでメリークリスマスと去っていた。───尚、この戦闘が終了したあと、サンタクロースの周囲には子供が寄り付かなかった。
と言うよりも、親から悪影響を受けかねないと止められていた。子供達はべらぼうに強いサンタクロースにキラキラとした視線を向けていたが、当のサンタクロースはそれに気付かず、ただふれあえない現実に膝を抱えて隅で精霊に慰められていた。




