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episode23

 夜は既に終わっている。

 焚き火は黒煙すら残さず消えて、暖かな木漏れ日が僅かながらに皮膚を焼いている。

 少し前に剥ぎ取ったクマの毛皮を頭から被って遮光するが、しかしなんとも血生臭い。剥ぎ取ったあと何一つ処理をしなかったのは流石に拙かったか。

 暑いが、しかし身体を保護する事は出来ているのでしばらく我慢していると、子供達の中で灰色狼だけが唯一むくりと身体を起こした。どうしたのかと思っていると近場に木に小便をしていた。うむ、寝小便されなくて何よりだ。

 ふらふらとした足取りで戻ってくると、また膝の上に戻ってきてそのまま眠る事はせずにボケっとこちらを見つめてくる。ううむ、なんとも円な瞳で可愛らしい。


「わぅ」「うん? 別に理由なんてないが」

「わふっ」「……やっぱりか。まあ、お前さん達は分類上はモンスターだしそういう事もあるだろうな」

「わおぉんっ」「あん? 別にいいがよ、……ああ、そうだな。別にいいぞ」

「きゅぅん」「なに、気にすんな。ガキを守るのが大人の勤めだ、種族なんざ関係ねえよ」


 寂しげに鳴く子供の頭を撫でながら私はこの子をどうするかを考える。

 この子達に親がいない事が確定した。だとするのなら、この場に放置するのはあまりに危険すぎる。

 子供を紛争地帯に放置するほど外道ではないので引き取りたいのだが、しかしそれをこの子が了承するかどうか。今の短い会話で理解したのだが、この子は阿呆だが案外義理堅い。おまけに割と自己犠牲的な考え方をしているので説得がめんどくさそうだ。

 ───はぁ。

 とりあえず他の子供達がご飯まだー? と円な瞳を向けてくるので先ずは朝食を用意する事にしよう。 まあ、朝食といってもただの焼肉なのだが。とりあえず万能薪なトレントの枝と木材でサクッと火をつける。既に下味を付けた状態で保存箱に入れてある肉を取り出して尖らせた枝に突き刺して──ちなみにこれも武器と認められるのかどうにも現実以上に刺すのに苦労しない──は焚き火の周囲に立てていく。


「ああ、そうだエウクレイア。起きたなら帳頼む」


 了解なのだと敬礼して即座に展開してくれる愛娘。頭を撫でると目を細めて可愛らしく頬を緩めていた。それを見た子供達が自分もと鼻先を擦りつけたり手の甲を啄いてくるので順番に撫でていく。───癒し空間である。それはそうとしてとりあえず毛皮は脱ごう。

 肉がほどよく焼けたのでとりあえず一つを残して全てを冷ます。ヨダレを垂れ流してまだなのと視線を向けてくる三匹。こら、顔を、嘴を近付けるんじゃない。まだ熱いから火傷しかねんぞ。

 

「ほら、冷めたぞ」


 その言葉が引き金となり即座になくなる串から外された肉の山。

 それに比べて私の朝食は肉串一本。エウクレイアには保存箱に入れていたハニートーストを渡しておいた。美味いがやっぱり大味である。まあ、十分美味いがなぁ。

 子供達がたらふく食べた後は片付けなのだが、妖狐と灰色狼は素直に手伝い、幸運鳥は手伝おうとして挫折していた。まあ、地面に穴は掘れないのはしょうがない。だから気にしなくてもいい。

 にしても、いつまでも灰色狼とか、妖狐とか、幸運鳥とか、言いにくいったらありゃしない。

 まあ、それはこれから連れ添う事になるのなら決めるとしよう。連れ添わないなら無用の長物だ。

 ともかくこれにて休憩を終了する。子供達には少し悪いが、まあ、なんだ。

 これで別れか、それともしばらく行動を共にするか。はたまた連れ添うか。───問うとしよう。


「さて、お前さん達、私達は帰るが、お前さん等はどうするんだ? 分かれるのなら安全な場所までぶびっ!?」


 その言葉に三匹は三匹三様に反応した。

 幸運鳥はエウクレイアの背中に捕まって断固拒否の姿勢を示し、妖狐はそもそも何を言われたのか理解していないのか小首を傾げ、そして灰色狼に至っては顔面に飛びついて来た。犬の脚力じゃねえ。

 とりあえず、これがこの子等の答えらしい。……嬉しいのだが微妙に複雑である。

 親を亡くした三匹の危機一杯の道中の結末は鬼に拾われるとは、それがいいことなのかどうなのか。

 ……さて、とりあえずはレベルアップするのかを検証するとしよう。

 という訳で狩りの時間だ。HPもMPも既にほぼ空っぽだが、血を一舐めできるのならそれはすぐさま変わるだろう。美味い血に巡り会えれば幸運、不味い血なら、まあ、我慢しますかね。



 ◆



 偵察をしていたコボルトが警戒するように鼻を鳴らす。

 血の臭気を撒き散らすかのように直進する外来者がすぐ先程ここを通ったらしい異臭がこびり着いている。それは先日、と言うよりも昨日程に連絡が途絶えた仲間達の死体が散乱していた場所にも付着していた臭いそのものだった。何かを引き連れているのか、三種の臭いが周囲が血の臭気に紛れるように存在しているのも気がついた。

 進行方向はおそらく東だ。なぜならばそちらから臭いが流れてきており、なにより戦闘痕らしき物が無数に残されている。深々と地を抉る奇妙な破砕後は何が行われたのか、木々に空いた穴は何が行われたのか。関係はないが糞をした後何故それをわざわざ地面に埋めたのか、まったく理解できない。

 それを追うべきか、それとも集落に合流するべきか。

 二者択一の選択の前にその集団を率いる個体(リーダー)は追う事を選択した。

 先に滅ぼされた集団にいた身内の敵討ちだと、周囲の数匹が騒ぐのを無視するのは今後の活動に支障をきたすだろうとの判断だが、しかし慎重派である残りに二匹からは先ずは本体と合流をと何度も言われる事になった。それをなんとか納得させる事が出来たのは、そのリーダーのおかげで生き延びる事が出来たと言う今までの実績があったからだ。

 そうして、憤怒を周囲にまき散らしながら進むコボルトの集団は明るくなった森で臭いを頼りに進んでいく。夜と比べて見通しがいい分、相手からもみつかりやすいのだと気を引き締めたリーダー以下八匹の集団が進むことおよそ30分弱、血の臭いと共に、地の底から響くような笑い声が響いていた。


 ───まさしく悪鬼だった。

 無造作に伸ばされた艶のない黒髪を振り回して、鉄塊のような巨剣を何度も弱った虎縞猿へと振り下ろす長身の吸血鬼。周囲を無邪気に漂い闇色の魔力を溢れさせる小さな精霊を引き連れてソレは猿の群れを殲滅している。


 伸ばされた腕の先でもがき泡を吹く猿の両足を容赦なく噛み砕く灰の子狼。

 闇色の茨に蹂躙された猿達の間を飛び交って爪や嘴で傷口を抉る緑の小鳥。

 笑いながら頭蓋を足蹴にされ両手足を失った猿の腹を貪り食らう金の子狐。

 その三匹に何事を囁き更なる獲物を求めて嗤う幼女のようなおぞましい闇。

 そして何よりもどこまでも愉快そうな笑みを浮かべて血を飲んでは四肢をへし折り、首をもぎ、泣き叫ぶ命を無慈悲に餌にする残虐な悪鬼。

 それを見て復讐だと騒いでいたコボルト達は水を打ったように静まり返った。

 若い個体の中にはパニックに陥りかけて、リーダーに気絶させられた個体もいる。

 

「くは、ははは、はははははッ!!」


 悪鬼の声が響くたびに地が崩れるような恐怖を覚える。

 冷たく嗤う鬼の表情はどこまでも喜悦に歪められ、振るわれる暴力は一欠片の慈悲も感じられない。

 未だに生き足掻く存在を餌と配下に与える様はあまりにも不気味でおぞましい。

 アレは、けして戦ってはいけない存在である。

 勝てるか、負けるか。それ以前だ。

 勝てど失う物がある。負ければ全てを失うだけではすまない。

 そのような存在を相手にしてたまるか、そう静かに呻いて撤退を進言するリーダーに異論を挟むものはいない。先程騒いでいた個体などは最早一刻もこの場を去りたいと青い顔──と言っても種族間でしか認識できないが、なにより毛が邪魔だ──で呻いていた。

 気絶した個体を担ぎ、急ぎその場を去るコボルトの集団の後方から笑い声に紛れてポツリと何かがつぶやかれた。それを聞いた個体が、リーダーの言葉を無視するように駆け出すのだが、どうやら見逃されたらしく追っては来ないらしい。

 それからしばらく離れた場所で先程の行動を攻める集団の中で、リーダーだけは冷静に何を聞いたのかを問い、震えながら応える個体の言葉に集団は青褪める。


「なんだ、こないのか。赤犬(コボルト)はけっこう美味いんだがな」



 ◆



 レベルアップは確認されなかった。

 と言うよりも、私ではこの子達のステータスを開けないらしい。

 理由は分からないが、もしかしたら魔物使役者なら見れたのかもしれない。

 まあ、見れないのならそれはそれで別にいいのだが、しかし戦闘中にどうすれば効率よく相手を倒せるかを念頭に教えたので今では三匹だけで狩りが出来るようになったのでレベルアップといえばレベルアップしている。

 かくいう私もレベルアップしたのだが、しかし大して面白くもないので別にいいだろう。

 それにしても、途中でコボルトが逃げた時はちょっとだけホッとした。

 いや、別に負ける気はないんだが。なんといえばいいのか、コボルト相手だと食料にしか見えないんだよな、血とか野性味たっぷりなクマよりもあっさりとしてるし、甘みのある肉がなんとも言えない。昔食ったヌロンイの劣化版とでもいえばいいのか。とにかく美味い。

 にしても、食料がこの短い間だけでそれなりに入手できた。まあ、その中には明らかに異質──猿なんだが──な物も手に入ったが、まあ食べられないわけじゃない。とりあえず三匹の食料に回すとしよう。

 ともかくそろそろインベントリが溢れそうだ。此処は一度戻り、アイテムをセンナに預けるべきだろうな。

 

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