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episode21

 ギルド<逢魔>初期活動内容

『組長と闇精霊/レベル上げ(目標+20)

 ネカマエルフ/都市開発(目標瓦礫撤去完了/現在7割終了)

 腹ぺこ残念娘/雑貨購入(組長代理の挨拶回りも兼用)

 純情乙女女将/料理屋経営(上記と同様)

 高校生殺人鬼/情報収集(NPC中心)

 無表情無口娘/素材収集(魔物討伐中心)』



= = = = = = = = = = = =



<組長と闇精霊>

 夜が広がっている。ぽっかりと、冷たい月の光だけが妙に明るく周囲を照らしていた。

 場所は大森林北側、獣系の魔物が跋扈する森の狩人達の領域。

 その中央で、分かりやすいくらいに挑発的に、私とエウクレイアは音を立てて歩き回っている。

 音を立てるたびに何かが動くように視界の影が揺れている。隠れている筈の獣の輪郭が嫌という程に浮かんで見える。これが吸血鬼の隠れた能力なのか、闇夜の中が真昼よりも尚明るい。

 血の匂いを感じる。土に染みた獣臭い血の匂い。鉄臭いのだが、しかしそれ以上に食欲を刺激する圧倒的な魅力に満ちている。思わずにたりと笑みを浮かべると、愛娘が楽しげに真似をしようとして、ニパッと言う笑みを浮かべていた。可愛さが天元突破しとる。

 ああ、それにしても牙が疼く。耳が冴える。身が震える。

 夜が満ちる。嗤うように。

 

「狙われる側とも気づかずになんとも間抜けな駄犬供だ」


 その通りだと小さく頷く愛娘を肩に乗せて、木々の隙間から遥か遠くに見える犬と人を足して2で割ったようなモンスターへと視線を向ける。所謂コボルトと呼ばれるモンスターの特徴はこちらも把握している。匂いを辿り襲撃を仕掛ける半人半犬、最低でも5つは同時に現れる集団戦闘(パーティーバトル)の練習台。そして、初心者殺しその一である。

 このコボルトと呼ばれるモンスターの特徴は集団で戦闘を行う点と嗅覚を頼りにした索敵を行う点。そして最後に集団の半数が失われると1体を囮に逃走する事だ。しかし、その内の嗅覚は夜だけなら私の方が優れており、常に風下に移動しているのでバレる事はない。そして戦闘だが連携のいい練習台になるだろう。そして逃走行動は、愛娘がどうとでもしてくれる。

 相手は未だにこちらを知らない。私ではない物を獲物に定めているその駄犬共の数は15体。不意打ちで4体は確実に殺せるだろう。多少鎧やら武器やらで身を固めようが最低限の急所しか守れていないのなら殺りようなどいくらでも。

 さて、それでは獲物を襲うその時を待って襲撃を仕掛けるとしよう。

 出来るなら───牙の疼きも止めたいところだ。



<ネカマエルフ>

 今日も私は瓦礫撤去。できれば今日中に終わらせたい。

 正直飽きるし面倒なんだよねこの作業。ジョージの頼みじゃなければ絶対にやらない。

 全体の三割が素材になれば御の字だ。膨大だからそれなりの料にはなるけれど、だからと言って利益になる程じゃない。この時間で何かを作るほうが遥かに有意義だし、なにより金になる。

 でもまあ、……自分で誘ったゲームだし、この程度なら私が、というか僕が普段かけている迷惑と比べれば大した労力じゃなし、頑張ってやりきりますか。

 ……あ、そう言えばジョージからなにか貰ってたんだっけ。袋に入ってたからなにか分からなかったけど。疲れたり飽きたりしたら使えって言われてたけど、なんだろう。

 まあ、そろそろ飽きてきたし開いてみますか。


 渡された袋の中には何かが包んである笹の葉と、竹で作られた水筒が入っている。

 笹の葉を解けば中からはおにぎり二つと沢庵が。水筒の中身は東茶(この世界のグリーンティー)で僕好みに渋いやつ。───なんというか、おかんだね。

 ちなみにおにぎりの中身は鮭の切り身と豚生姜だった。美味しかったです。



<はらぺこ残念娘>

 始まりの街ドロレス、エルフのかくれ里、ドワーフの街マウンテン。

 その三つの街を食べ歩きしつつ買い物中なのですが、その途中の町や村で特産品も購入するのも忘れないように気をつけています。

 現在ジョージさんがプレイヤーモンスターと化しているので通常の方法では買い物ができませんのでその代わりを勤めています。その際にギルドの名前も口コミで広げて欲しいとセンナさんから言われたんですが、はて。ジョージさんに許可はもらったんでしょうか?

 それはそうと、先程からずっと後ろをついてくる方々はいったい何なんでしょうか?

 撒いても撒いてもいつの間にか沸いているんですが、むむむ。これはアレでしょうか、ストーカーと言う犯罪行為なのでは。って、ないですね。私美人さんじゃないですし、年不相応に色々と小さいですし。───スカって、音が聞こえるんですよね、悲しいですけど。

 センナさんも小さいですけどなんというか魅力的ですし、セガールさんは大人な女性と言うか、大和撫子な雰囲気で格好いいし、レザムちゃんは可愛いだけじゃなくて足がスラッと長くておまけに胸も私よりは大きいですし。女らしさの欠片もない私よりも周囲が魅力的すぎて正直泣けてきます。おまけに一人は男性ですし。しかも一番危ないと言うおまけ付きで。

 これでも毎日豆乳三リットルは飲んでるんですけど、全然効果ありませんね。

 努力しても絶対に報われるとは限らない現実にどれだけ打ちのめされたか。今度は柘榴ジュースでも試してみましょうか。あれには豊乳効果があると言われていますし。

 

「───はぁ」

 

 ため息が漏れた。主に将来的な不安について。

 未だに映画を子供料金で見れるのは嬉しいんですけど、周囲からも子供扱いされてますし。

 ジョージさん、というか宗司さんからも妹分扱いだし。───女の子として見て欲しいなぁ。

 


<純情乙女女将>

 相変わらず閑古鳥が鳴いている店の中であたしはひたすらに下処理を続けている。

 料理人として初めてこのゲームで料理を行った際、料理があちらと勝手が違い、苦戦しながらも必死に足掻いていたあの頃に、さんざん周囲の見知らぬ他人に馬鹿にされ、作った料理は食べてもらえず、ゴミのような扱いを受けた初期の頃と違って、今は一角の料理人だと認められる程度には腕に自信を覚えていた。攻略組と呼ばれるトッププレイヤー達から依頼されて様々な料理を作る機会があった事もあり、その自信はけして揺るがない物だと信じていた。──────昨日までは。

 美味い料理を食べた。店に出されているようなものじゃない。ただの家庭料理だ。

 味付けは特別なものではない。普通のものを、普通に使うだけ。誰でも作れそうな料理の数々。

 だって言うのに、あたしは美味いと感じた。店で食べるような上手い料理じゃない、本当に美味い料理だった。食べだしたら止まらないし、食べると妙に気楽になれる。自然と笑みが溢れるような不思議な料理だと、少なくともあたしは感じた。

 自分の料理を貶めるわけではないが、しかしあの料理には勝てる気がしない。そも土台が違いすぎて勝負になる事はないだろう。あたしは金を得る料理、あちらは皆で食べる料理。味で負けるつもりはないが、それ以外では勝てそうにない。なんとも悔しい。


 ───ガタガタ、と。

 下処理を終えてしばらくして入口の扉が開く音が響き、見知った奴等が現れる。

 この周辺で店を開いている職人達の休憩時間、それがどうやら始まったらしい。

 さて、それでは仕事の時間だ。とりあえずあたしはあたしの料理を楽しみにしてくれる人のために上手い飯を作るとしよう。



<高校生殺人鬼>

 街と街を繋ぐ街道、点在する村やら町やら。旅商人が乗る馬車や、プレイヤーを運ぶ竜車の嘶き。

 ゆったりと走る俺の周囲にはそんなありふれた──少なくともこの世界(ゲーム)では──光景に欠伸しつつ、一人虚しく考えた。


「俺だけ個性薄くね?」


 組長は最早語るまでもない。センナさんもそれなりに変人だ。るーちゃんはある意味個性的過ぎるし、セガールさんも今時珍しい純情乙女、レザムちゃんに至っては帯みたいな水着防具の上からマント着てる褐色さんだ。───殺人鬼ロールとか今時珍しくもない俺の個性は何とも薄っぺらいし味気無い。


 と言うか、あの集団濃くね? ネタキャラオンリーだよ、セガールさんとか名前で落ちてるし。


「───やめよう、これ以上は多分イケナイ」


 主に女性の勘は恐ろしい。下手なこと考えれば即座に地獄行きだろう。

 とにかく今は情報収集(仕事)を優先するとして、暇があれば殺人鬼(ロール)も徹底しよう。真面目に不真面目、遊びも仕事も同列に。組長に怒られない程度に仕事しないと怖いしなぁ。

 先ずは知り合いの情報屋へと当たるとしよう。経費は……領収書とかないから手持ちから出すしかないか。



<無表情無口娘>

 空に浮かぶふた振りの霊剣。

 巨大で分厚く、赤赤と燃えるような刀身が特徴的なマランドーズ。

 禍々しくどこまでも蠱惑的な輝きを宿す呪われしダーインスレヴ。

 その浮かぶ霊剣に腰掛けて漂うレザムだけが戦場での唯一の生存者だ。周囲には無数のドロップ品が散乱しており、それを回収するために二体の精霊が走り回っていた。


 霊剣師、と言う職業がある。精霊使いと剣士の両極に至り、とあるクエストにて精霊を剣へと変化させる術を得た者達の事だ。精霊を剣へと変化させると言う特異性と引き換えに新たなる精霊との契約が不可能になるデメリットに目を瞑れば、複合職業内でトップクラスの物理/魔法攻撃を可能にする特化型の職業。精霊使いの少なさも関係してあまり日の目に出る事のないが、凶悪極まりない性能を有している。

 その職業を発見した者はレザムではないが、その職業を最も使いこなしているのは彼女だった。


 精霊使い、聞いた瞬間に震えた。剣士、想像するだけで芯が痺れる。

 そう、彼女はファンタジーを愛している。己の足で様々な場所へと赴く興奮、不思議な存在との出会いと別れ、ありえない物がありえる光景。それこそが彼女が求めるもの。

 だからこそ、その幻想を楽しむために彼女は一欠片たりとも手を抜かない。

 剣士として戦うためにシステムのアシストを捨て、訓練場でひたすらに足掻き。

 魔力特性【無力】でありながらその精霊と交流を深めた結果4体の精霊と契約を結び。

 そして霊剣師となり得た後はとある精霊からの依頼を受けて自らプレイヤーキラーへと進んでいった。

 そのせいでプレイヤーからはPKとして恐れられており、街に入る場合は気を付けなければ物資を購入する事さえ一苦労である。

 だが、そんな彼女にも友人が一人いる。脳内お花畑で小柄な狼少女。

 初めての出会いは街の外でアグリ相手に敗北して、狂い鶏に啄かれて泣きべそをかいて、カルンアナブラに食料を奪われと散々な様子があまりに哀れで手を貸した時だ。それからと言うもの会うたびに満面の笑みでお礼や挨拶を言われ、気が付けば稽古を付ける事になり、いつの間にか会話が可能な程に仲良くなっていたのである。

 そんな彼女の頼みで親切ギルドに入ったレザムなのだが、現在与えられた仕事に対して正直疑問に思う所がある。

 モンスターから素材を入手して欲しいと言われたのだが、しかしそれならば自分ではなく殺人鬼に頼んだ方が効率がいいのだ。ステータスで見るのならあちらの方が遥かに格上で、おまけに盗賊と拳闘士の複合職業である「暗殺者」、盗賊と追跡者の複合職業である「忍者」を有しているのだ。単純にドロップを待つだけのレザムよりも盗みを行えるジョーカーの方が遥かに効率がいい。

 しかし、与えられた仕事は仕事である。疑問に思いつつも一切手を抜く事なく、淡々とモンスターを倒してはドロップアイテムを入手を繰り返し続けている。何度か拠点に戻り、サブマスターであるセンナにアイテムを預けていたが、それでも入手できたアイテム数は目標からすればそこまで多くはない。


 ──────はぁ。

 溜息を漏らしつつも巨剣は周囲をなぎ払う。

 とりあえず友人が褒めてくれるような量を確保しようと、更に奥地へと浮遊していくのだった。



 

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