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episode20

2014/12/13:誤字指摘を頂き直しました。

 幽霊都市ベルベットの中央地点である元噴水広場跡地。

 そこの壊れた噴水をぶち壊して新しい物を作り終えた匠王ことセンナがうまそうにタバコを吸っていた。銘柄はゴロワーズ、なんともいい趣味である。

 ちなみにこのタバコは初期の頃に発生した大手企業とのコラボ企画の際に追加されたもので、現実で禁煙中の者達のためにという名目で課金アイテムとして販売されている。尚、箱一つあたりは50円(年齢制限有)だが、無限タバコと言うアイテムの場合は15万円となっている。それでも購入者が後を立たないのだからタバコジャンキーはどうにも多いらしい。───尚、センナは当然のように無限タバコである。

 そんなセンナの隣にタバコを吸う姿を羨ましそうに眺めるるーと、無関心なもう二人。つまらなそうに剣をいじる褐色白髪の少女と、学生服に身を包んだ地味な印象を抱かせる青年がいた。一人はジョージにも説明されている殺人鬼ジョーカーと呼ばれる暗殺者だが、もう一人はるーが独断で連れてきた霊剣師であるレザムである。どちらも名前だけがひとり歩きしている有名なプレイヤーキラーなのだが、この場にいるメンバーは誰ひとりとして気にする事はなかった。

 そもそもの話、センナが経営する「RWBY」はプレイヤーキラーも普通に利用している。その事を知っているプレイヤーから散々突き上げられたり、トッププレイヤーと呼ばれて鼻を高くしている攻略組等から者達から販売規制を掛けろと脅されたりしても一切屈しないどころか逆に彼等に対してのみ規制してプレイヤーキラーやNPCには普通に販売した過去もあり、センナの場合は知り合いの4割がプレイヤーキラーである。

 そんな危険人物×2とマイペース二人組がゆったりとした時間を過ごす中、噴水から少し外れた空間が歪んだ。ぶれて見えるその空間からまず現れたのは吸血鬼ジョージ、この集団のまとめ役である。その次は彼の相棒の闇精霊がふわりゆらゆらと姿を現して、最後に割烹着の女性が現れた。

 紳士的に手を取りながら女性を誘導する吸血鬼の姿に、聞いていた人物像と違うと目を点にしているPK二人組と、またかと、呆れたような視線を向ける友人二人組。この男、根は紳士的すぎて困る。主に容姿の極悪さとのギャップがひどい。

 

「怯えていたのが嘘のようだが、初めての感想は如何かな?」

「───後生だ、忘れてくれ組長」


 顔面真っ赤な割烹着の女性の顔にセンナは多少見覚えが有る。

 料理人と言うか、その上である厨師として名を馳せているセガールとは互いにそこそこ名の売れた生産職同士の繋がりという物があり、素材交換の場で錬金アイテムと食材アイテムの交換も行っていた。稀に調味料の開発やら食材の熟成を早める事を依頼されたりした事もあるのだ。ジョージが来るまでは彼女に依頼した料理をたまに食べていた事もあった。

 そんな料理人界のアイドルがどうしてこんなところにいるのやら。街に入れないのでそれ以外で勧誘したのだろうがまったくもって見当がつかない。

 それにしても、あの女子真っ赤である。そう言えば以前周囲の野郎共に大切にされすぎて免疫がないとぼやいていたような、いなかったような。ともかく男と接する機会のないおしとやかな女子校生の反応だよなぁと、小さくぼやきながらまた一服。

 そんなセンナのタバコを目ざとく発見したのはジョージである。タバコ依存症とまでは言わないが、一日1箱は確実に吸いたがる程度にはタバコに依存している。仕事が上手くいかない事があるたびにタバコで苛立ちを紛らわせていたので吸うのが癖になっているのだ。

 

「一本くれねえか」

「だめ、この世界でくらい禁煙しなさいさ」

「……マジかぁ。まあ、娘の前で吸うもんじゃないよなぁ」


 肩を落として落ち込む吸血鬼の方にはいつも通りに精霊が小首を傾げてタバコって何と疑問符を浮かべている。バカ正直に答えて頬を膨らませて怒られるのだが、しかしそんな精霊の心配も嬉しいのか吸血鬼は満面の笑みである。親ばかの笑みである。

 この男が自分達の上役になるのかとちょっと微妙な気持ちになりながらもその様子を眺めていた新参二人組は、早速とそのおっかない面の吸血鬼に話し掛けた。ただしジョーカーは若干腰が引けていたが。


「すみません、貴方が俺達のまとめ役でしょうか?」

「む? ───ああ、お前さんがジョーカーってやつかい。そのとおりだ、よろしく頼む、頼りにしているぞ少年」

「少年って、俺、一応見た目通りに高校生なんですが」

「若々しくてなんとも頼もしいな。ちなみに私は社会人だ、目上を敬えなんてゲーム内では言わねえが、しかしガキ扱いだけは許してくれや。こればっかりは現実で散々やってるんでな、直すのが面倒だ」

「いやまあ、別にいいですけど───あっれぇ~? センナさんから聞いていた人物像とかけ離れてるぞ?」


 想像していた人物像と正反対にまともな対応で正直拍子抜けした。なにより顔こそ凶悪だが内面は存外に普通だ。現実でなら目を背けていたかもしれないが、ゲーム内でならこの程度は許容範囲だ。顔面を大火傷したかのようなアバターだって存在するのに天下のPKがこの程度にビビるわけにはいかない。

 

「ところで、そちらのお嬢さんは? 私の記憶ではジョーカーのみしか説明されていないんだが」

「あ、彼女をレザムちゃんです。会話が苦手なのでそこは勘弁してあげてくださいね」 

「その程度では怒るようなら緘黙症のジイさまと楽しくクッキングなどできないさ。

 さて、先ずは感謝と歓迎を。私と私達を助けてくれてありがとう、これからよろしく頼むレザム。───あと、私は君の血を吸うつもりはないから安心しなさい。まあ、君が許可をくれるのなら別だがね」


 極々自然に吐かれた台詞に珍しく目を丸くして驚くレザム。

 ネットでも現実でも表情だけで会話が可能な無口な子供など珍しくもないが、無口無表情の相手が言いたい事を正確に理解して返答する存在がいるとは想像もしてなかったのだ。

 思わず何故わかったのと視線だけで問いかけると、件の吸血鬼はやや呆れたように息を吐きながら、


「そんなもの、相手を見てればわかるだろうに」


 どうしてそんなに不思議そうなのが不思議だと言わんばかりに苦笑していた。

 この瞬間、レザムからすればすごい人という評価を得たのだが、しかしそれをジョージが知るのは遥か先のことである。



 ◆



 幽霊都市ベルベット中央に位置する噴水広場。

 そこでメンバーの顔合わせが無事終了し、───予定よりも一人人数が多かったのは嬉しい誤算だったな。しかしそのせいで私のレベルがアベレージを物凄く下げているのだが、しかしまあ、今更か。

 ともかく現在はギルドの設立を行う必要がある。

 そのために必要な物はすべて揃っている。建物を購入するための最低基金である1MCはセンナが払いってくれる。レベルスターは私とセガール嬢以外は全員所有している。ネックだった人数の問題は余裕をもっての達成だ。なので購入したギルドホームを今すぐ何処かに設置すれば一先ずギルドは閑静なのだが、しかし問題が一つ残っていた。

 それは名前だ。ギルドの名前を決める事を完全に忘れていたのである。

 

「はい! <スタガリン自由軍遊撃部隊>がいいです」

「どっから出たスタガリン」

「自由軍というよりも自由業」

「部隊もなにも一つしかないね」

「ないわー、全力でないわー」

(無言で視線を逸らす)


 全員からダメだしされ隅っこで体操座りするるーは一先ずスルーするとして。

 さて、問題はどんな名前にするかである。少なくともそれが世間様に知られる物である以上、奇妙な物や手抜き感半端ない名前は却下だ。コレは全員一致で即欠した。


「なにか候補はないか?」

「センナさんのお店の名前そのままだとダメなんですか?」


 ギルド「RWBY」───成程、確かに悪くないかもしれない。

 しかしこれに異を唱えたものがいる───センナだ。

 実はこの「R W B Y」の意味がそれぞれあるらしい。火の属性を意味するRED()。風の属性を意味するWHITR()。水の属性を意味するBLACK()。土の属性を意味するYELLOW(黄色)。コレ等の頭文字を繋げて一巡する形にした物が「RWBY」らしい。これは初期の頃エルフらしさを演出しようとしてから回った時期に決めたものらしく、正直店として使用しているだけならともかくとして、ギルドの名前で使われるのは精神的にキツいらしい。個人的には精神的に追い詰めてみたいと笑みを浮かべたら全員から反対を受けた。解せん。

 

「店の名前ならセガールのでいいじゃん」

「レストランにするつもりかお前さんは」


 ちなみに料理経験者は私、セガール嬢、意外な事にレザムが出来るらしい。

 ただしそこまで得意ではないから無理です、とのこと。なんとも可愛らしいが、しかし本気で無理とおびえている当たり自信はないらしい。なので安心しろ、世の中には酔っ払った勢いでカップ麺に愛してる、貴方が僕のお嫁さんだと囁いた残念な奴もいると言って、体を右へと傾ける。先程まで背中があった位置を石が通り過ぎて行き、背後を見ると顔面真っ赤にして肩で息をしているネカマエルフが喚いていた。───ああ、いい反応だ。


「あの、純粋にジョージズマフィアとか、ジョージ組とかダメなんですか」

「黙れ殺人鬼縊り殺すぞ」

「あ、はい。撤回するんで睨まないでください」


 ピンポイントで俺を指定するな。流石に自分の名前が入った組は全力でお断りする。

 ちなみにとあるエルフが騒いでいたので物理的に黙らせて椅子にした。その様子に周囲が怯えていたが、まあ慣れろ。日常茶飯事だ、いつか笑えるようになる。まあ、そうなったらそうなったらで割とバイオレンスな日常を送っているという意味でもあるんだがな。


「このままじゃ拉致があかないねぇ、もうなにか好きな言葉から選ぶかい? ちなみにあたしは夕日だね」

「なら俺はアサシン押しですね、もしくは黄昏で」

「私はアルゼンチ「私も夕日が好きだけど被るから夕暮れで」

「レザムは、ふむ───茜色? 合わせなくても、ああ、うん。そうか、それでいいなら別にいいんだが」

「あの私はAR-「という訳で夕暮れ的な物の中から選択するとしよう。賛成は挙手で」

「グレ「多数決!」……はい」


 何やら危険なワードを言いそうだったるーを黙らせて会議は進行する。

 夕暮れから連想ゲームのように無数の言葉があふれる中、私はエウクレイアとほのぼの遊んでおく。というのも、会議が長すぎてエウクレイアが頬を膨らませてしょんぼりしていたので少しだけ時間をもらいあやしているのだ。───ちなみに遊び内容は鬼ごっこ。フィールドはこのベルベット全域なのでそうそう捕まる事はない。

 それから15分程は必死に走り回り、互いにいい汗を流しつつ──と言うか、背後から大口を開けて迫る闇色物体というのは正直冷や汗ものである。しかも直前に瓦礫等を見事に飲み込んで吐き出さない光景を何度も見せられているので余計にな──会議の場へと戻り、その明らかにやる気のない態度に思わず目が点となった。

 わずか十数分である。だというのに、センナは殺人鬼とカードゲームをしており、セガール嬢は楽しそうにおにぎりを握り続けている。るーは壁際で落ち込んでおり、レザムはそんなるーの肩を叩きながら必死に慰めようと身振り手振りで応援していた。なんだこのカオス。


「おい、これはいったいどういう事だ?」


 そんな思わず漏れた問いに対して返答したのは全員。異口同音、まったく同じタイミングで、まったく同じ内容を口にした。


「「リーダー頑張って」」

「おい、丸投げかお前等」


 私も人の事は言えないが、しかしたった15分で諦めるの早すぎるだろうに。


「くっ、こうなったら考えるぞエウクレイア。私が候補を適当に上げていくから気に入った物を選んでくれ」


 任せてと言いたげにガッツポーズする相棒にとにかく夕暮れをモチーフにした単語をつぶやき続ける。途中高校の名前やらゲームの名前やらアニメソングの題名やらが飛び出したが全てダメ出しを食らいまくった。ああ、鬱だ。連想ゲームは苦手なんだよな。


「もうシンプルに夕暮れじゃダメか!? それともちょいと格好つけて逢魔ヶ刻とかにしちまうかぁ!?」


 途端、エウクレイアがそれと言わんばかりに両手を振った。え、まさか逢魔ヶ刻ってのが気に入ったの?

 そのまさからしく、何度も確認したがそれと言って譲らない。ううむ、しかし逢魔ヶ刻ってギルド名はなんというか遊べる時間帯が決まりそうで嫌だな。───よし。


「全員集合、今からギルド名を発表する」

「待ったッ!! 今白熱し「そうかい」


 言い終わるよりも早く殺人鬼の首筋に蹴りを叩き込む。沈黙したそれの首筋へと牙を立て、とりあえずHPを回復する。うむ、不味い。不健康な味だな、クソッタレ。

 その後倒れた殺人鬼の顔にビンタを数回食らわせて無理矢理起こし、再度やり直す事にした。


「全員集合、今からギルド名を発表する」


 戦々恐々とする約一名を除く、半数以上がぽかんとした表情でこちらを見ている。唯一エウクレイアだけが私のお父さんは強いんだぞと胸を張っているが、こら、やめなさい。照れるし、何より今はそれを行う場面ではない。


「さて、諸君。我々のギルドの名前なのだが<逢魔>に決定した。愛娘が気に入った「逢魔ヶ刻」から取らせてもらった」

「逢魔ヶ刻ってなんですか?」

「簡単に言うなら夕暮れ時のことだ。昔の人間が夕暮れ、つまり昼と夜が変わる瞬間は化物が出るんじゃないか、と言う風に考えたから魔と逢う刻───これを入れ替えて逢魔ヶ刻ってことだ」

「化物に会う時間ですか。……えっと」

「なんだ、どうした? なにか言いたいことでもあるのか」

「組長、その反応から察してあげな」

「多分この場の誰もが言いたい事が理解できると思いますよ」

「吸血鬼に禁忌に手を出した錬金術師、腹ぺこ魔神に殺人鬼、レザムちゃんも巷で有名な暗殺少女だし、まともなのってセガールくらいだよね」


 私もいるぞと自己主張する愛娘の愛らしさったらない。

 思わず現実逃避する理由にしてしまう程度には可愛らしい。

 まあ、それはともかく確かにまともな輩が少なすぎる。セガール嬢だけが唯一のまともな存在とは恐れ入る。───やべえ、あまりにハマりすぎな名前かもしれん。

 

「まあ、ぴったりな名前だと諦めて受け入れるとしよう」

「私も特になにも言う必要はないけどさ」

「どうせ言ってもスルーされますし」

「事なかれがなんとやらです」

「まあ、あたしはそれなりに気に入ったよ」


 こうして、私達は結束した。こうして、私達は集結した。

 これより私達は集団だ。自由気ままな個人主義者の群れ、最低最悪、チームワークもあったもんじゃないが、しかし居心地のいい住処を、我々は共有することとなる。

 さて、ひとまずは──────鍋でもたべようか。

 

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