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episode18

省略していますが、一部のスキルを習得済です。

2014/11/21:誤字修正。ご指摘ありがとうございました。

 ───CHAOSルートを選択して早3日経つ。

 現在の拠点である幽霊都市は現在センナの手により整備されている途中だ。最初に作った小屋もバラして今はおよそ3割が更地となっている。その際に使用できそうな物は材料としてそのまま使うらしく、新たに作られた保管庫には大小様々な古びた木材やらまだ再利用可能な石材が収納されているらしい。それ以外となると私が使用可能な寝床──棺桶──とセンナやるーが使用する寝床くらいしか用意されていない。

 なので現在この場にいることは非常に意味が無い事なのだが、さて。

 現在私達は一つの企みがある。それはギルドを作る事である。

 端的に言うと、我々は一つの目標を持つ事にしたのだ。

 私は吸血鬼だ。おそらく特殊な例でもない限りNPCに受け入れられる事はないだろう。何故か、恐ろしいからだ。誰だって自分を害するかもしれない存在が隣にいれば関わらないように距離を取るものだ。実体験からだ間違いない。

 ならば私はそれら全てに宣戦布告しよう。私は自らの隣に立つ者以外を攻撃する存在だと。私は自らの歩みを止める他者を喰らう鬼だと。我々は一切の容赦をしない残酷非道の存在だと。

 それと同時に分からせるのだ。私は隣人ならば助けると。私は道を共に行くものならば全力で守る修羅であると。我々は弱者を裏切らない任侠者だと。

 いわば極道だ。それをこの仮想世界で作り上げる。

 恐怖されども感謝される。そのような存在で有り続ければいい。


「───そのためにも先ずは人材探しだな」


 ギルドを作る最低条件。

 一つ、所持金が1MC以上ある事。───これは既にセンナが払うことが確約されている。正確には利子なしで借りている状態だ。素材持ち込み等で返していくように決定している。

 一つ、レベルスターが1以上ある者がいる事。───これは現在私以外がクリアしている。情けないが私が一番弱いんだよな、レベル的には。

 一つ、人数が5人以上である事。───これが問題だ。今のところセンナの友人らしい男が参加する予定なのだが、それを含めても未だに4人。あと一人を何処かから見つけ出さない限りはこの企みは始まりすらしない。そしてその役目を受けているのが、まあ、残念なことに私である。

 本日も更地が徐々に伸びていく光景を目の当たりにしながら、インベントリで鎮座している青と黒のチェック柄カードを取り出す。普段通り、それに反応して噴水広場跡に存在する謎の青い扉を抜けた先は先日訪れた初心者の街周辺、まあ要するにお馴染みの草原地帯が広がっている。

 さて、そこでは既にエウクレイアが待機していた。いや、正確には待機はしていない。なにせ花の間をせっせと飛び回って蜜が出るか出ないかで一喜一憂しているのだから。


「エウクレイア、今日はそのくらいにしなさい」


 びくりと体全身を震わせる粘液。広げていた身体を一点に戻して、普段通りの愛らしい容貌に変化した相棒は今日も今日とて平常運転で食事をねだってきた。インベントリから取り出したアプリコットジャム(自家製)を取り出して匙に一掬いして千切ったパンに塗ってエウクレイアに渡せば途端に伸ばした手を粘液状にして美味しそうな表情で飲み込んでいく。───うっかりと忘れそうになるが、別に食事時でも人型形態でなかろうと問題がないのだ。なのでこんな真似も可能だ。

 食べ終えた相棒はニコッとした笑みを浮かべて私の周囲を飛び回る。身振りや手振り、あとは雰囲気から今日は何をしに行くのと聞いているらしいので、今日は人探しだと短く答えて歩き始める。

 街中に入れない身なので正直草原やら森やらを歩いて探すくらいしか方法がない。なので正直他のメンバーにやってもらいたいんだが、───センナは作業中、るーは一部のファンがうるさそうなので禁止、最後の頼みのセンナの友人はロールプレイが殺人鬼らしく、現在はターゲティングしていた相手とじゃれているとか。まあ要するに、消去法で私しか残っていなかったわけだこれが。いやはや、自分発案とは言え流石にこれはひどいな。終りが見えん。

 しかし諦めるのはありえない。そんなことをグダグダと考える暇があるのならさっさと組員探しを頑張るとしよう。今日は、───そうだな、森に行ってみるとしよう。トロルに会えるかもしれないしな。

 


  ◇◆◇  ◇◆◇



 ───大森林入口から覚えている程度に適当に歩き回った先。

 おそらく前回死に戻る原因となった水銀狂いとの戦闘跡地はすっかりと修繕されており、今ではあの光景が夢なのではと思う程度には美しい緑が茂っている。まったく、あの時の熱がぶり返して、今すぐにでも再戦したいところだな。まあ、今はまだ無理だ。ステータス的な意味で勝てないので、もう少し鍛えてから挑むとしよう。

 それにしても、───さっきから蜂の巣に顔を突っ込んでいるクマは私の事が見えていないのか、それとも単に気にしていないのか。名前は「鬼熊」というらしく、胸元のV字の斑毛からベースはツキノワグマだろうが、体長はおよそトロルより頭一つ程大きいくらい──約350cm。ちなみにニホンツキノワグマは120~150cm、大陸のツキノワグマは120~180cmなのでほぼ二倍程のサイズだ。──だが、しかし腕や膝から生えている赤黒い甲殻が何とも不自然だ。

 それにしても、無数の蜂が襲いかかる中、呑気にはちみつを食べ続ける姿はある種見ていて飽きないな。サイズこそ大きいが、どこぞの狂った鶏みたいに目がイっている訳でもないし、角付きうさぎのように視認した途端に飛びかかってくる事もない。角槍ディアは最初は可愛いと思ったが、毎回モンスターとの戦闘中に乱入する形でしか出会していないのでしょうがなく狩るしかない。案外目も可愛らしいし、───うむ、和む。


 ……そういえば、先日分けてもらった熊肉の煮付け美味かったな。

 肉は火を入れると固くなるが、まあ、そこら辺はどうとでも出来るから問題ない。獣臭いのが嫌という奴もいるが、今が春頃か冬眠直後ならその匂いも気にならない。まあ、生食には寄生虫問題があるから向いてはいないが、しかし此処はゲームだ。それもまた試す事が出来るかも知れない。そう考えると可愛らしいよりも美味しそうに見えてくる、───訳が無い。

 肉は肉、動物は動物でちゃんと分けている。こちらに無関心の相手をわざわざ狩るつもりはない。

 まあ、エウクレイアは蜂蜜貪るクマさんに憤怒の視線を向けているが。すごく楽しみしていたもんな、蜂蜜飴。しかしクマさんに罪はない。アレは単に食物連鎖の一つの形なのだから。

 それでも納得いかないのか。両手を振り回して怒りを表現する相棒に溜息を吐きながら、そういえば「魔物言語(獣)」を試してないし、少しばかり試してみるかとケツに付いた泥を落としながらクマに向かって話しかける。


「よう大将、少しいいかい?」


 先程までの無反応ぶりが嘘のような高速行動、木の洞の縁を掴んでいた右腕が轟音と共に薙ぎ払われたのを確認して、身体を半分後方にずらす事で回避して再度話しかける。もちろん興奮状態では話にならないと判断したので、手土産替わりに趣味で作っていた薬草酒を詰めた一升瓶をその口内に突き刺した。なくなったのを確認して口内に未だに刺さったままの一升瓶の横に新たな瓶を突き刺して古い瓶を回収、それを3度ほど繰り返し、瓶を全て回収すると、何故かそのまま背後に倒れ、重々しい音を立てて泡を吹いて倒れた。───アルコール度数は精々15度程度なのだが、案外クマは酒に弱いらしい。

 

「……酔いつぶれたら話が出来ねえんだが、まあしょうがないか」


 しかしまあ、喋りかけても会話にもならないとは検証もできん。とりあえず襲いかかったので肉認定だ。新たに手に入れた「解体」スキルでサクっとやるか。まだ一応は生きているが、───まあ、状態異常の「昏睡」らしいし、解体しても問題ないだろう。倒すと解体が出来ないので可愛そうだが生きたままだ。救いがあるとすれば意識を自力で取り戻せない「昏睡」状態である事だろう。

 解体用ナイフ(解体スキル使用時に自動で出現する)を取り出してうつ伏せの腹にナイフを入れる。股間付近から首元まで一切の慈悲なく中央をぶった切るのだが、ここからの説明は流石にグロいので割愛する。ソフトに言えば手足も同様に切ったあと手首足首をチョンパして、中身を取り出したりするって事だけは確実である。ちなみに後処理として一部の内蔵以外は地中深くに埋めておく事を忘れてはいけない。ついでに、出た血液の一部は飲用に拝借させてもらった。獣臭さがひどくない点が救いだが、味は野性味が強すぎてあまり美味くない。


「ふむ、しかし解体を使うと血で装備が汚れるのが難点だ」


 全身を赤黒く染めた初期装備がなんともグロテスクだ。乾いた部分が硬く、そして何より変色しているので洗濯が大変そうだ。最悪落ない事を考慮した方がいいかもしれない。一応布は持っているが量が少ないし水もないので応急処置はできないし、そもそも量が量なので論外だろう。酸素系の漂白剤でもあればなんとかなるかもしれないが、……流石に漂白剤がゲーム内で売っているとは思えない。面倒だが、どうにか代用品を探すしかないな。もしくは塗って作るか。足ふみ式のミシンでもあれば御の字なんだが。

 そんなことを考えていた私の右斜め前方では、既に蜂を無力化して蜂蜜に手をいれて飴が出ないと嘆いている相棒が、それなら熊のようにと直接蜂蜜に顔を近づけ落ちて、全身を蜂蜜まみれの状態で食べれたと嬉しそうにはしゃいでいるところだった。───そして存分に食べたあと、平然と「黄金色の蜂蜜」をインベントリに収め、拭いて欲しいと両手を万歳している。

 とりあえず身体を粘液に戻させたあと適当な石かなにかに変化させてから拭こうと思ったのだが、しかし相棒はそれはいやだと頬を膨らませて聞いてくれない。しょうがないので服を脱がせたあと、丁重に布、というかハンカチを取り出して拭き取っていく。どうにも最近甘え癖が付いたらしく、構ってもらいたい時はこうやって困らせるような事をしてくる。別に拭いて興奮を覚えるような特殊嗜好は持っていないが、しかしながら森の中蜂蜜まみれ手乗り幼女を丁重に吹いている男というのは正直絵面的に問題だらけだ。見付かったら通報待ったなしだろう。



 ───そして、現実とは非常である。



「──────うわっ」


 木々の向こう側、気配もなく現れた女の姿に俺は思わず思考停止した。

 格好は一言で和服の上に割烹着を着ている。手には何やら小さな包丁が握られており、逆の手には何故か鍋の蓋が握られていた。濡羽色のおかっぱで、口元の紅がよく生える輝かんばかりの白貌だ。おしとやかそうな女性だが、しかしその冷ややかな桑の実色の視線がまさしく絶対零度で見られている身としてはその容貌に見とれる余裕はない。しかも華奢で触れれば壊れそうな程に細い体なのにその周囲を揺らがす程の憤怒の気配は状況が状況だけに流石に頬が引き攣った。───これ、あかんやつや。


「───言い訳を、言わせてください」

「筋が通れば聞いてやる。だがまあ、先ずはあれだ。その子に服を着せてやりな。それと、───正座しろ」

「あ、はい」



状態異常「昏睡」

時間経過での回復、外的要因での回復が不可能な睡眠状態。

魔法でのみ治療可能だが、しかし一定時間が経過すると死亡する。

尚、酒精耐性(個人差有り)が低い物の場合、酒類を飲みすぎた際に稀に発症する。

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