episode16
とてつもなくどうでもいい事ですが、録画してた暴れん坊将軍で中田譲治さんが出てきて目が点になりました。───声優以外にもやってたんですね、チョイ役でしたがすげえ印象に残りました。
ログインした途端、最初に目にしたのは大きな噴水。そして周囲を埋め尽くす人々。
ベンチに座りイチャつく複数人、噴水で水浴びする子供達、温かな日差しに夢うつつな老人。
空を飛ぶ小鳥の集団に、道端で寝転がる猫のような生き物、周囲を警戒するように女の子を囲むモンスター。
街路樹が風に揺れており、噴水の水は音を立てて周囲に降り注ぎ、踏みしめるレンガの感触はどこまでも本物に相違ない。
どれもこれも現実以上に鮮明で、どこまでもファンタジー溢れるその光景に思わず私は呟いた。
「───うん、買ってよかった」
この光景だけでも十二分に金を払う価値が有る。
美しいのだ、この風景は。レンガ調の街の中は昔憧れたヨーロッパの町並みを思い出させ、行き交う人々は幻想の中でのみ存在する奇妙でなんとも言えない美醜大小強弱様々な不思議種族のオンパレード。稀に見る人間でさえ、分かりやすく日本人とは違ってなんとも面白い。
それにしても、現実とは違うがなんとも不思議な気分だね。周囲の人々からチラチラと見られるのもなんというか、いつもとは違う視線でなんとも言えない。普段は怖がられてるけど、此処はなんというか、好奇の視線が、胸やら顔やらに突き刺さるというか。
ううむ、一応分類上は女の子だぞ男子諸君。ジロジロ見るのはネチケットにも反してるんじゃね?
まあ、いいか。とりあえず近くにあるドリンク屋で適当なモノ買って街をふらりと回るとしよう。えっと、一番安いのは───ケミカル☆グロリアサイダーだね。
所持金は5,000c、その内から100cを渡して、ストローに口を付け、
「──────ッ」
口内に生じた衝撃的な味に意識が遠くなる。
甘い、ただひたすらに甘く、そしてむせ返るほどに苦く、吐き気がする程にすっぱい。そして、舌に爆音を響かせる炭酸の刺激が走り、胃へと落ちた途端に化学反応でも起こしたのか、逆に喉元を駆け上がり、口から、鼻からその紫色の炭酸飲料を放出する。視界の中央で【UNPALATABLE!?】の文字が輝いたかと思うと、次の瞬間、私は見知らぬ場所でぽつんと、立ち尽くしていた。
「な、何が起きた?」
この現象は知っている。所謂死に戻りというやつだ。なのでこの場が教会の中庭である事を理解できる。できるが、……なんでドリンク一杯で死に戻ってるんだ私は?
まさか毒殺? いやいや、毒殺される云われはない。でもそれくらいしか思いつかないし。
……まあ、別にいいか。いや、良くはないけど先ずはこの街を回ってアイテムを選ばなければ。えっと、まず見るべきはなんだったか。確か商業区北側にあるセガールレストランがオススメだと書いてあったけど、確かあそこ一見さんお断りなんだよね。なのにオススメってどういうことなのか。それだけ美味いんだろう。それじゃあ、次は生産職の耳長アイドルらしいセンナって人が経営する万事屋「RWBY」に行きたいんだけど、確かこっちは現在臨終休業中。なんというか、アイドルってどんなのだと内心でドキドキワキワキ(誤字にあらず)していた分だけ少し残念だ。ううむ、けったいな美人さんらしいから見てみたかったんだけどな。まあ、割と性格が悪いらしいけど。
しょうがない、普通に商業区の露店巡りでもしながら、チュートリアル訓練場のハルツマン教官に指導を受けるとしよう。───でも、否定的な意見も多かったんだけどそこら辺はどうなんだろう。
考えるのも面倒だし、ともかく行くとしよう。目指すはそれなり以上の性能の杖と、革防具の入手だ。流石にこのしょぼい装備品では戦いたくない。というか、───私のステータスクソ弱いし。
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【NAME】エヴァ/LV1
【RACE】翼人種(黒翼種)
【JOB】魔法使いの卵
【SUB─JOB】自称拳闘士
【SKILL】歌唱魔術、黒魔法
【VITALITY】HP125/125 MP200/200
【PARAMETERS】STR8/VIT3/DEX11/AGI16/INT13/MND11
【ARMS】杖[INT+1/耐久無制限]サラシ[STR+0/耐久無制限]普段着セット[VIT+0/耐久無制限]
【ACCESSORY】[][][]
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STRとVITが基本値を下回っているのには泣いた。いやまあ、普段から動いてませんけどね。それでもここまで低いのは泣けるって、一応拳闘士よ私。まあ、現在自称だけどさ。
ちなみに職業はレベルが上昇すると名前が変更されるらしい。
例えば魔法使いなら「魔法使いの卵」「見習い魔法使い」「半人前魔法使い」「魔法使い」「魔法師」「魔術師」「魔道士」「魔導王」の順にランクアップするらしい。この時サブもランクが最大になっていた場合、二つの職業を纏めて上位職に変更可能になるらしいけど、まあ、まだ私には関係ないからそこから先は読んでないんだよね。
まあ、何はともあれ先ずは街の探索だ。その途中で春風に会えるといいな、待ってろ子犬系ヒロイン、此処にあの悪魔は存在しない。あったらその場で頬タッチだ! むにゅみにゅして最後は縦縦横横丸かいてハグだ!
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───露店巡りをして思った事が一つ。
うむ、なんで男に店員共は全員胸に視線が行くんだコラ。人のコンプレックス凝視するとか嫌がらせか、春風のような純粋無垢なかわいいちみっ子ならともかく、何が悲しくておっさん共からときめき熱視線とか最悪だ。てめえら川にブチ込むぞ。
しかしまあ、女の店員さんでめちゃかわいい子いたなぁ。胸は控えめ、身長低め、春風には負けるけどそれはもうすばらしい美ロリっぷり。お姉さん、もう少しで襲うところだった。───思わずただの花に2,500cも払っちったよ。まあ、後悔はしていない。
それ以外だと、初心者用の杖だと心もとないのでそれよりは性能がいい杖を一つ購入したよ。見た目はハリケーンミ○サーだけど、うん、いい買い物をした。その代わりもう金はない。
【武器】トレントの杖(杖)/NPC─ユーリカ─ MADE
トレントの枝を削って作成した杖。魔力伝導率はそこまで良くないが、微量ながらも魔力を増幅する能力を有している。先端の装飾のモチーフは牡牛であり、秘められた意味は勇猛である。しかし勇猛は時として蛮勇になりかねない。己を解する者のみが勇猛であるという戒めの象徴。
性能:INT+2/魔法威力増幅(極小)/耐久150
うむ、いい武器が手に入って気分が最高に「ハイ!」ってやつだああアアアア───ッ。と、とりあえずダメージを喰らうレベルで指を頭部に押し付ける。当然だが痛い、しかし後悔はしていない。
よし、ネタ回収もしたしそろそろチュートリアル訓練場にいくとしよう。たしか場所は商業区北側の通りにあったはず。そこで魔法使いとしての最低限の戦闘法を習うのが今回の目的です。
という訳で脳内マップを参考にそちら方向へとえっちらおっちらてとてと歩いて、ようやく発見。
訓練場というごつい名前からなんというか、軍隊式とかだったら嫌だなぁとか思っていのがバカみたいな程に小さな扉が一つあるだけ。───どこで○ドア、いやベルベッ○ルームが元ネタか? 製作者の年齢的にダイレクトだし間違いないだろう。
とりあえずその扉を蹴り開けて中へと侵入。呆然とする受付嬢のようなお姉さんにウィンクしながら杖を手の中でくるくると回しながら──ちなみに中学生時代にモップで練習した経験有──その場で意味もなく一回転。最後にビシッッ!! と響き渡るような音を立ててマスケット銃のように両翼の隙間に差し込むように収納してその後普通に受付のお姉さんに話しかけた。───NPCも引くんだね、流石最先端ゲーム。
そこまで再現する必要あるのかねと小首を可愛らしく見えるように傾げながら、支持された通りに魔法使いの訓練施設へと移動する。といってもまあ、単に「魔法使い」とプレートが掛けられた部屋に入るだけなんだけど、───あー、うん。こういう部屋なのね。
それは射的場だった。ただしそれは一方方向に射つ射的場ではなく全方位、どういう仕掛けなのか扉を抜けた先はぐるりと360°囲まれた円形の広場。視界の端で唐突にデジタル時計が時を刻み始め、それと同時に遠くであの赤と白の円形ターゲットが挑発するかのように出現する。タイムアタックかなにかなのか、まあとりあえず───いい度胸だな、おい。
【黒魔法】魔弾(射撃)/無属性
魔力で弾丸形成し前方へと射出する。
性能:MP2消費/詠唱時間0秒/冷却時間1秒
さて、やりますか。
私に射撃物で喧嘩売ったことを後悔しろ製作者。
◆
【黒魔法】初期魔法「魔弾」
この魔法は初歩ということもあり、威力的に見るとそこまで高くない。
反面、詠唱速度に優れ、冷却時間も最短の1秒、何より消費するMPが少ないこともあり、鼻先に当てる事に成功した場合、わずかだが相手が硬直すると言う点も鑑みると十二分に優秀な攻撃手段と言える。
しかし制御方面に関してはシステム的なアシストはなく、魔法の発動まではスムーズに可能だがそれ以降で詰まるなんてプレイヤーがそれなりに存在している。しかしこれはその他全ての職でも言える事なのでそこまで大した問題ではない。
杖を握る手に力がこもる。緊張ではなく興奮から来る震えに身を任せながら、その身の丈以上に長大な杖を振り回しながらエヴァと名乗る変態淑女はおよそ5メートル程先に存在するターゲットに狙いを定めて小さく呟いた───魔弾。
先端部から弾き出される乳白色の弾丸は、しかしターゲットに向かう事無く、途中で大きく逸れるように見当違いな場所へとぶっ飛んでいった。これは別段珍しい光景ではなく、制御に慣れていない魔法使いがよく起こす制御ミスである。制御できるようにならない限りこの訓練場のターゲットは一つとて壊すことはできないだろう。
さて、その制御方法なのだが。実際のところ確立されているわけではない。行程を随時考えて行う者もいればイメージだけで制御する者もおり、中には気が付いたら出来ている者もいる。そんな中、エヴァの制御方法は───。
「ふむふむ、まあ、なるようになるかな」
イメージするのはFPS、脳内に存在するドットサイドが静かに、しかし正確に動いてターゲットと重なるように配置する。いつも通りに落ち着いて、いつも通りに冷静に、さながら相手の頭部に狙いを定めた時のように、───ターゲットを粉砕した。
ふう、と息を吐くと同時に現れる新たなるターゲットをエイムしていつも通りに高速で粉砕する。
この時点では何一つ疑問に思っていないが、実際の魔弾はこのような速度では射出されない。この速度は魔力特徴による結果である。「魔法弾」───あらゆる魔法が銃弾のような速度/サイズで射出され、着弾後にその魔法の効果が発動する魔力特性。
その後、空に浮かぶターゲットやら、秒単位で転移を繰り返すターゲット、一定以上のダメージを与えると爆散するターゲット等々、数多のターゲットをほぼノーミスでクリアしたエヴァは退室した。
『訓練場:魔法使いのランキングに変動がありました』
『point950、クリアタイム3分47秒───暫定1位はエヴァに変更されます』
『初900超えをしたプレイヤーには称号「必中魔弾」が送られます』
【※魔力特性】説明
脳波測定時に自動的に決定。この決定は一応ランダムではあるが、性格や日常的な行動で決定率に変動が怒る。
魔力そのものの特性であり、例えば無味無臭である魔力だが【悪臭不味】である場合、精霊は近寄る事すら許さない等のデメリットになり得るが、場合によっては先頭に有利になる特性を有している場合もある。




