episode15
外伝ではなく、本編です。
この章は途中まで主人公が出てきません。
春風薫子、わたしにとって親友である少女の名だ。
彼女は、なんというか、不憫な子である。主に頭が、次に周囲の環境が。
通称は空腹少女、食い倒れ人間、無限胃袋、全世界の敵、エンゲル係数の悪魔などなど。あとは変態的ネーミング少女とかもあったか。
まあ、主にその腹ペコっぷりを揶揄されたあだ名が定着している彼女なのだが、その腹ぺこを除けばそれなりにすばらしい人間である。ネーミングセンスはともかくね。
見ず知らずの他人のために一生懸命になることができて、勉強も運動も常に真剣でそれなり以上に成績優秀。女の子らしい話はどうも苦手らしいが、しかしそんな事を関係ないほどに周囲から可愛がられている中性的な美少女、というか合法ロリ。我等烏丸高校のアイドルとしてご近所での評判もすばらしい。主にご老人達を中心にめちゃ愛でられとる。
そんな彼女は男子諸君等からも受けがよく、命知らず且つロリでもオーケーな少年達は今日も今日と告白するために校舎裏に呼び出したりしているらしいのだが、個人的に言わせてもらえばよくぞまあ、恋愛と同列に命を並べられるものだと呆れえるしかない。しかも確実にフラれるおまけ付きだ、泣ける。
「荒木さん? 私の顔になにかついているの?」
「いや、今日もよく食べるなと思って」
机を引っ付けて仲良くお弁当タイムである私達の総数は2名。
本来なら彼女の周囲には10人位の人数が屯しているのだけど、私がいるせいで周囲は人っ子一人やしない。まあ、それもしょうがない。私はそれなりに有名な──悪い意味で──血筋だからね、避けられるのは無理もない。例え本人が平々凡々で慎ましやかな生活に、それこそネット環境と最低限の食事と働かなくても金が入手できる環境さえあれば十分満足して暴れることは愚か部屋から出たがらない人間であっても怖がって近寄りゃしない。むしろ目の前にいる珍妙な合法ロリ親友の脳内がおっぺけぺー、もといすばらしい花畑が広がっているだけのこと。
うん、そう考えるとこの無尽蔵に飲み込んでいく一人食糧問題の両頬がなんとも可愛らしく思える訳で、思わずつまんでムニムニやってしまった。───あかん、バレたら殺される。
「ほうひひゃんれふはあふぁひひゃん?」
「うん、殺されてもいいからこの餅頬を堪能したい」
というかだ。あのエロ担当女装男と、ヤクザ制圧型自称カタギはこの子に対して過保護すぎると思うんだが、そこらへんこの子どう思っているのやら。
しかし、そんな事を聞こう物なら延々とノロケ、もとい片思いの話をげんなりするまで聞かされる羽目になるのは確定的に明らかだ。とりあえずこの餅肌は解放するとして、ううむ。この娘っ子はいつまで食べ続けるのか。放した途端に口の中に放り込みはじめたよ。
「春風はよく食べるね」
「そうですか?」
お上品に口元を押さえながら、「まあ」と言いたげな表情でこちらを見つめるぱっと見ロリ。
そこはかとなく残念臭が漂う以外は素晴らしい。特にこういう一動作がいちいち可愛らしいのがひどく愛らしい。もうね、食べたいのよこの子。しかし殺されるからできん。最悪社会的に終わる。ただでさえ家のバカが春風にやらかした事のせいであの修羅に潰されかけたのに私がなにかやったら指詰めでもしなければ許さないだろうしね。というか、それでも許されない可能性が無きにしも非ず。
どうせならあいつがいない場所で悠々自適にこの娘で遊びたいんだが。ううむ、なにかいいところはないだろうか。───って、待てよ。そう言えば。
「そういえばさ、春風ってDWOやってたよね?」
「いきなりなんですか? まあ、やってますよ。まだペーペーですけど」
「成程ねえ、うん。そりゃいいや───よし、私もやろう」
精々一台5万ちょい。今まで貯めてたお金から少し払い、残りは父親のヘソクリから出せばいいだろう。なに、問題ない。そもそも存在しない金だ。多少減ったところで誰も文句は言えないさ。
ちなみにどうして私がこのゲームをやろうとしているかと言うと、あの化物の弱点はズバリ機械。特にパソコンのキーボードを見たまま硬直して動かなくなった姿も見たことがある程度には現代科学に依存していない生活をしている。……というか、今時田舎とは言えパソコンはまあ、ともかくとして、ケータイがらくらくホンってのはどうよ? スマホ見て頭痛がするってのは現代人としてどうなんだ25歳。
「荒木さんもやるんですか?」
「購入するのが先だけのね」
「でしたら購入次第教えてください。一緒に遊びたいです」
のほほんと、花のような笑みを浮かべる子犬系美少女。
ううむ、───萌える。二次元も顔負けやでこの子。
◇◆◇ ◇◆◇
購入は滞りなく完了した。
さて、私は現在アバターを作成してる。
と言っても、悩んだのは名前くらいだ。それ以外は情報板で調べた結果である。
というか、鬼人族とか誰が選ぶんだよ、どんなドM御用達だ。能力値だけ見れば頭一つ飛び越えているのに、しかし差別に悩まされるとか生々しい。街の施設の内教会以外使用できないから宿による休息もできないので必然的に高い買い物──テント(15,000C)ただし安全は保証されない──をする必要まである始末だ。おまけに吸血鬼だと日中常にダメージ&ステータス半減、酒呑み童子だと常に「悪酔い──ステータス半減&平衡感覚麻痺──」のバッドステーテス、ナマハゲに至ってはカルマ値1以上でもれなくステータス七割減だ。スキルの習得を行わない場合は自動で剛力招来と言うなんとも鬼らしい─STR、VITを30秒のみ二倍。その後2分間全能力半減&クールタイム5分──スキルが習得可能らしいが、だからなんだよ救いなんてないだろってツッコミ待ちかと思う程度に救いがない待遇だよね。
逆に現在持ち上げられている種族がある───翼人族だ。
これの特徴は【歌唱魔術】に他ならない。このスキルの特性は「パーティ内で詠唱中の魔法使い、聖職者の呪文に同調し、詠唱速度の底上げ、効果の上昇」と言う、魔法使いに対する支援を目的している点だろう。なんとこの能力、人数によるクールタイムの均等割と言う恐ろしい付加効果までつくらしい。おまけに耳長ほどではないが美人補正が付くらしい。なにそれ選ぶしかない。
職業は魔法使いで決定した。これもオススメの一つで、魔法使いは脳波測定により魔法に個人差が出るのでイイモノを引き当てると軽くチートになる可能性があるとやんわりと書いてあった。逆に最悪を引き当てると悲惨らしいが、なに、私はもともと運はそれなりにいい方だから大丈夫だろう。……フラグじゃない、これは絶対にフラグじゃない。
サブは拳闘士で、これの理由はアーツのクールタイムの短さ、使用する際に必要なMP量、威力やほぼキャンセル可能という優秀すぎるところに注目したわけだ。おまけに格ゲーのようにコンボ機能が存在し、攻撃を連続でヒットさせ続けると威力が減少する代わりに相手のMNDを10コンボごと減少すると言う旨みもある。尤も、そのリーチの短さや、拳ゆえに威力の低さはどうしようもないのだけど、まあそこら辺は魔法による攻撃をメインで考えているので問題ない。目指せ魔法拳士。極めるなら雷か氷と思う私は古いのだろうか。───あの漫画、もう10年以上前に完結してるし古いんだろうな。
「さて、こんな感じでいいかな?」
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【NAME】エヴァ
【RACE】翼人族(黒翼種)
【JOB】魔法使い
【SUB─JOB】拳闘士
【SKILL】歌唱魔術、黒魔法
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名前の由来は某少年魔法使いの師匠である吸血鬼さんから拝借しました。つってもロールする気はない、だってあのツンデレめんどそうだし。
まあ、ともかくとして、こうして私こと───荒木唯花の冒険譚が始まったのである。
といってもゲームだけのね。




