episode14
〝あの女神ッ! 人様の出番を横取りしやがってェェ!!〟
イベント終了後、先程までの舞台だった教会方向から何やら怨嗟の声が響いている。なんとなくだが、本来会うのはあの声の主なのではなかろうかと、ふと疑問に思った。野太い男の声だが、なんというかどことなく哀愁漂う感じがして、少しばかり哀れに感じたが、……エウクレイアが驚いてオヤツ落としたじゃねえかテメエ。
「いきなり騒ぐんじゃねえよッ! 近所迷惑だろうがあッ!」
インベントリから取り出した丸太を、全力をもって教会に空いている穴に放り投げる。
轟音とともに響く悲鳴をBGMに新たなオヤツを取り出してエウクレイアに手渡して、再度教会へと視線を向ける。ふわりと、白い靄のような物が教会から嗚咽を流しながら浮かんで消えるのを見送ったあと、ああ、ようやく静かになったとセンナ達が待つ小屋へと戻った。
「ただいま」
「おかえり。どうだった、神様?」
「親しみやすいやつだったぞ。まあ、もう一人の奴はうるさかったがな」
「えっ、それってさっきの悲鳴の」「るー、世の中には気にしない方がいいこともあるぞ」
「あ、はい」
ともかく晴れてプレイヤー・モンスター化が決定し、手伝ったら疲れたから飯食わせろとセンナから請求されたので、一先ず食事にする事にした。自分で用意したのは狂鶏卵、蜂蜜、各種調味料。あとはセンナから材料としてもらった「マナケミア米」「片栗粉」、「熟成醤油(プレイヤーメイド)」、「純米清酒(プレイヤーメイド)」「ベリーキャベツ」。ちなみにるーからは「黄金林檎の酵母液」、「天然聖水」、「チョコレイト」をもらっている。
酵母液とチョコレイトはまあ、別途で活用させてもらうとしよう。
センナが石材を組み合わせて竈モドキを作ってくれたので火の問題は解決したとして、ふむ。とりあえず照り焼きでもつくるとするか。
木材の一部に溝を作り、そこに落ちていた枝をあてがって木材に押し付けながら回転させる。それを10秒程繰り返すと煙が上がり、もうしばらくで火が起きた。それを消さないよう気を付けながら竈モドキへと入れる。火を中心にして木を積み上げていき、中心部に風を送るようにエウクレイアに要してもらったうちわで風を贈る。ある程度火が大きくなったのを見たあと、管理をセンナに任せてもう一つ作っておく。そちらはるーに管理を頼んだ。
最初に米を土鍋で洗い、30分ほど放置して浸水させておく。気温的に夏に近いので問題はないだろう。その間にセンナと交代し、ざるを作ってもらい、時間が経ったのを確認したらざるへと米を移す。その後米と同量程の水をいれ、中火程で10分程炊き込む。沸騰した後、木を何本か抜いて弱火にし、その後15分炊き込み、音が鳴ったのを確認した後、強火にしておこげを作る事にした。───個人的にはなくてもいいと思うのだが、背後で肩を組んでおこげコールをするでかいガキとミニマムなガキからの要望で作ることにした。
火から下ろして暫く蒸らしておく為に台の上に置いておき、さて10分ほど。蒸らし終えたので土鍋の蓋を開け、中身をしゃもじでかき混ぜ、余分な水分は飛ばしてしまう。その後蓋と土鍋の合間に一枚布を挟んで放置して、───照り焼きを作るとしよう。
酒、蜂蜜、醤油を大さじ2杯程混ぜ合わせておく。鶏肉を一口大に切っていき、塩胡椒をふり、片栗粉をまぶす。その作業の合間にフライパンを熱しておき、温まったのを確認して油を投下。全体になじませるように広げ終えたら皮側を下にして、木材を追加すると同時に鞴で風を送り込み火を強くする。皮に焦げ目が付いた事を確認した後、燃えている木材の何本かを抜いて火を小さくし、逆側を焼いていく。
その後、最初に準備したタレを入れて再度火を強くし、ある程度煮詰まったところでタレと絡ませて一応完成だ。
さて、現実と多少勝手が違うのだがどうなっていることやら。
もはやお馴染みのエウクレイア食器セットに炊きたての米と、千切りにしたキャベツを添えた狂鶏肉の照り焼きを並べて二人に手渡した。そして、小さなサイズの物にも食べやすいサイズに切って同じように盛り合わせてエウクレイアにも渡しておいた。ちなみに俺の分は照り焼きの切れ端を使った握り飯である。なんというか、材料が足りなかった。
「あの、ジョージさんだけどうしておにぎりなんですか?」
「あんまり腹減ってないんだよ」
「あ、そうなんですか。てっきり材料が足りなかったのかと」
「あー、確かに3人前には少し足りなかったかもね」
「そうでもない。作ろうと思えば作れたぞ」
「ふうん、それならまあ、いいけどさ。それじゃ、いただきます」
「いただきます」
教えた通りに手を合わせて食べるエウクレイアを眺めつつ、握り飯を食べる。
ほんのりとした塩味が米と絡み合い、中の具からほのかに染みた照り焼きの味が食欲を刺激するが、悲しいかな。量が少ない。肉は程よく焼けており、煮詰めたタレの甘辛さは予定よりも少しばかり辛かった。しかしこの程度なら、まあ、許容範囲か。
「美味い、本当に美味いッ。まったく、ジョージが嫁にこればインスタント生活から解放されるのに」
「俺は男だバカモン」
「ならお婿に!」
「同性相手に結婚するつもりはねえよ!」
「なら私と、その、……ぁぅ」
「お前は照れずに言えるようになってから言え」
食事中の二人と1精霊を尻目に、俺は自分のステータスを弄ることにした。
ポイント数は9ポイント。何処に振るべきか、それが重要なのだが、しかし自動振込当たり前のゲームしかやっていなかったので正直悩む。ううむ、なんというか、全部自動振込とかの方が有難いという立場からすれば自由性があるのも考えものだ。
今回は、とりあえずVITに4ポイント、AGIに1ポイント、MNDに4ポイント振り込んだ。正直、肉体が脆いのは許容しがたい。精神が弱いのは気に食わない。そんな理由で振り込んだのだが、……はぁ、やっぱり自動振込にできないかね。
振込が終わるまでに食事が終わったらしい二人は腹をさすりながら、相変わらずのだらし無さでその場で寝転がって談笑している。片付けろとは言わない、諦めてるから。食べてすぐ寝るなとも言いたい、しかし意味はないだろう。しかし何よりも、……センナ、お前その露出の激しい服装で股を開くな。るー、お前はまだ食うのか無限収納胃袋娘。そしてエウクレイア、二人を見て急いで食べなくていいからしっかり良く噛んで食べなさい。
しかしまあ、あそこまで楽しそうに話しているのに横槍を入れて中途半端に終わらせるのも忍びない。話し終わるまでにちょっと色々と確認するか。
【メッセージ】
【GM】「解体」について
【GM】「採取術」について
【GM】「威圧」について new
【GM】「プレイヤー・モンスター」について new
【GM】「CHAOSルート」について new
◆
【職業】
駆け出し戦士:駆け出した先は戦場。その場に待つは闘争。
《アーツ》
戦場の心得:HP3割以下でVIT+3、MND+3
見習い精霊使い:認められるまでどれほどかかるのか、相棒の機嫌は大丈夫?
◆
【取得能力一覧】
「吸血」制限:生物限定、対人使用後「吸血鬼(モンスター)」に変更。
性能:VIT無視、防具破壊、血液摂取量=HP/MP回復量。極低確率で状態異常《魅了》発生。その際、レベル差、種族特性、耐性を完全無視する。
「吸命」制限:夜間限定、アンデッド使用不可/消費:MP20/冷却時間:一時間
性能:半径2メートル以内の敵対象のHPを吸収する紅い霧を展開。発動から1分間の間は周囲を漂い、それに触れた対象のHPは自身のHPに変換される。
「換装」制限:イベントアイテム対象外
性能:インベントリ内の装備可能アイテムを装備、装備中アイテムはインベントリ内に収納される。
「精霊契約」制限:契約済精霊使用不可
性能:精霊と契約を結び秘術。しかし精霊が好む魔力でない場合契約は果たされないと言われている。成功時にMPを全消費する。
「装備制限全解除」制限:イベントアイテム対象外
性能:イベントアイテム以外のアイテムの装備可能。装備可能アイテムが消費アイテムの場合、通常アイテムとして使用可能。
◆
【称号一覧】
「吸血鬼(モンスター)」:一度でも人を餌とした吸血鬼。人工血液を有していなかったのか、それとも血の味に酔ったのか。行動の善悪は別として、それは人に忌み嫌われるものである。
「命喰鬼」:それは強者も弱者も関係なく襲いかかる恐怖の象徴であり、事実命を奪い取る術を持つ餓鬼である。喰らう命に貴賎はなく、ただそこにある美酒を貪るのみ。
「窮鼠猫噛」:弱者であっても侮ってはいけない。強者が理不尽に奪えるのはあくまでもその能力の高さ故である。意思ある者はけして能力に頼らず、強者は喰らう牙を研ぎ澄ましているのだから。
◆
【クエスト一覧】
「解体のすゝめ」習得イベント
貴方は刈取った命をどう扱いますか? 奪った命をどうしますか? 無駄にしていいものはありません、それが命であるのなら尚の事。それは奪う我々の義務として誰もが認識するべきものでしょう。
クエスト内容:始まりの草原に生息する「狂い鶏」の討伐。討伐後、ドロップする前に解体ナイフ(イベント開始時支給)を使用する。
報酬:スキル「解体」習得
依頼人:NO DATA
確認:受注しますか? YES/NO
「採取のすゝめ」習得イベント
自然を摘み取ることは罪ではありません。しかし加減を覚えなければいつかは取り返しのつかない事になるでしょう。自然を愛せとは言いません。ですが自分達も自然に生きる者であることを忘れないでください。
クエスト内容:大森林に存在する黄金林檎の木から林檎を採取する。
報酬:スキル「採取術」習得
依頼人:NO DATA
確認:受注しますか? YES/NO
「弱者に対して」習得イベント
雰囲気、気配、感情、空気。それはけして目に見えるものではありません、ですが確実に他者に影響を与えるものです。それは知覚する事が出来るのなら、貴方は触れずして他者を圧する者となり得るでしょう。
クエスト内容:害する意思のみで他者を恐慌させる
報酬:スキル「威圧」習得
依頼人:NO DATA
確認:受注しますか? YES/NO
「錆色願望2」連続イベント
我等ガ戦場ニ我剣ハ待ツ。
報酬:???
依頼人:錆色の願い
確認:後悔はしませんか? YES/NO
「血を吸いし鬼の行方」種族イベント
血とは生命の象徴。血とは生命の脈動。血とは生命の証明。ソレを飲み干す鬼が向かうは屍食鬼への堕落か、孤高なる誇りを貫くか。それとも……?
報酬:不明───?
依頼人:ラーズグリーズ
確認:強制イベントです
◆
「……あ、うん。こまめに見ないとめんどいなこれ」
確認した情報量に目眩がした。スキルの説明やらクエスト確認やらがあるとは思っていたが、まさかこんなに溜まっていたとはなぁ。
とりあえず取得できるスキルは後々取りに行くとして、メッセージの内容も確認しておいた方がいいか? ……面倒が、一応確認しておくか。
まあ、とりあえずはプレイヤー・モンスターまでは大体予想できるので消去を選択するとして、最後のだけ開くとしよう。
【メッセージ】「CHAOSルート」について【GM】
モンスターとしての生を歩む者、邪神教団の信徒として他者を虐げる者、善なるものを嫌い邪悪を好む外道非道。そのように法を守らず、自分が納得している信条や教義のみを守り、その過程で他者を虐げる。それが貴方が選んだ道です。ですが、それが貴方の進むべき先であるかは、貴方自身が決めてください。
……ああ、成程。ようするにあの時の契約書はそういう。
回りくどいったらありゃしねえ。それならそうと言えばいいものを、……はぁ、なんともなあ。
さて、そういう事なら善は急げだ。さっさと話にケリをつけて、今日はログアウトするとしよう。
「おい、センナ、るー。ちょいと話があるんだが」
「でさー、って何? いきなりどしたの、なんとも爽やかで邪気に満ちた笑みを浮かべて」
「マフィアのボスも裸足で逃げ出しそうですね」
「おい、お前等は俺をなんだと思ってる」
「ヤの付く自由業者」
「チンピラのまとめ役?」
「おい、だからヤクザ扱いやめろお前ら」
俺はそこまで酷くねえよ。と言うかチンピラはまとめてない。ただこき使ってるだけだ。
それにしても、友人達の評価がいつもこう、手厳しいのはどうしなんだか。仲が良い証明とでも言えば聞こえがいいのでそういう事にしておこう。
「ったく、本題に映るぞ。いいか、俺はこれから───」
こうして、俺は本当の意味でロールプレイを始める事となる。
今までのように口調を変えるだけの遊びのようなロールから、その名の通り魔を統べる王様を演じてやろうじゃねえか。───待ってろ腐れ帽子屋女、一先ずの目標はテメエへの仕返しだからよ。




