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episode12

 ───気が付けばそこは奇妙な場所だった。

 明闇としか表現のしようのない薄ぼんやりとした明るい闇の中、周囲に何もない事を理解しながら、視界を塞ぐように展開されている【UNDER DOG】の文字、文字、文字。無数に広がるソレを鬱陶しいと払ったその手に、硬質な感触を感じて、それが何か気になり手を伸ばした。

 ───そこにあるのは金色の鍵。アラベスク模様が特徴的な、5インチはある巨大な鍵だった。

 そして、それはひどく見覚えがある。一度だけ見たことのある、そしてそれ以降思い出すこともしなかったこの世界で最初に手にした鍵と酷似している。サイズが大きくなっている以外、違いが一つも見当たらない。

 それが何なのかはわからない。しかし、今これを握らなければいけない、そんな予感に腕を伸ばす。

 金の鍵は手のひらに容易く収まり、───同時に闇が駆逐されていく。より、深い闇へと。


【イベント】黄金の鍵(キーアイテム)

空を仰ぎ見ろ、そこに全ての始まりがある。血を飲み喰らえ、それが道となり得るだろう。不倶戴天、───それこそが汝の存在理由だ。


【クエスト】錆色願望2:発生。

【クエスト】血を吸いし鬼の行方:発生。

【クエスト】魔と堕ちるか、人と生きるか:発生。


【称号】吸血鬼(人型を対象に吸血行為):プレイヤー・モンスター。

【称号】喰命鬼(初「吸血」対象とのレベル差が10倍以上):能力「吸命」取得。

【称号】窮鼠猫噛(HP1割以下、継続ダメージ発生中に反撃でCRクリティカル発生):1割以下で、一撃のみVIT無視、確実CR発生。


 ◇◆◇  ◇◆◇



 ───目覚めは最悪だ。

 ともかく、首がいたい。腹も痛い。おまけに気分もすこぶる悪い。

 ケタケタ笑うクソッタレの顔面を次は潰すと一人決意して、インベントリから這い出てきた相棒の頭を大丈夫だと笑みを浮かべて撫でてやる。この子を怖がらせた分は確実にぶちのめす。


「───で、此処は何処だ?」


 プレイヤーが死亡した場合、最後に訪れた街の教会の中庭か、もしくはギルド内部に転送される。俺はギルドに加入していないので当然教会の中庭に転送される筈なのだが、しかしここが協会とはとても思えない。───周囲は廃墟、空に太陽が昇っているというのに、分厚い霧に阻まれてその光は身体を焦がすに至らない。まるで街中のように日光による嫌がらせが発生しないこの場はいったいなんなのか。そして人っ子一人いないこの現状は何がどうなっているのか。謎だらけだ。これはGMコールをして現状の説明を求めた方がいいのだろうか。

 ともかくメニュー画面を開き、───何故かメッセージ以外が灰色になっている。選択しようとしても一切反応がなく、メニューそのものを閉じようとしてもうんともすんともしない。しょうがないので選択すると、黄金色に輝きながら、目の前にスクロールが現れ、それが自動で紐解かれる同時に浮き上がる文字の羅列。何処か癖のあるその文字は───なんというか、唐突だった。


【現状説明】

この度は「DWO」をご利用頂き誠にありがとうございます。

プレイヤー「ジョージ」様はモンスター化の条件をクリアしたため、強制的にプレイヤー・モンスターへと情報を書き換えさしていただきました。尚、種族「吸血鬼」の条件はスキル「吸血」で人型を対象にして成功させる事です。

 プレイヤー・モンスターとは、プレイヤーでありながらモンスターとしての立ち位置であると言う存在です。プレイヤー・モンスターのメリットはプレイヤーを殺害した際のペナルティの消失、レベル上昇時に得るポイント数の上昇(モンスターとしてのレベル上昇も含むため)等があります。デメリットはフィールド上でプレイヤーと出会った場合、犯罪者を表す黒のアイコンが頭上に浮かびます(貴方は目視できません)。これはモンスター側に寝返ったと言う意味を指しています。その為街の施設は完全に使用不可能となりました。

 プレイヤー・モンスターは現在地である「廃都市(ゴーストタウン)ベルベット」が使用可能な街となっています。しかし、この場にはNPCが存在しない為、プレイヤーの行動がない限り、ただのリスポーン地点でしかない事をご了承ください。尚、この場に知人を呼ぶ場合の注意点ですが、この場に来るプレイヤーは必ずしもモンスター・プレイヤーである必要はありません。呼ぶ場合、プレイヤー・モンスターに配られる「幽霊都市の招待状」をそのプレイヤーに贈り、贈り先のプレイヤーがソレを使用する事で転送されます。街に戻る際は「幽霊都市の招待状」を再度使用していただく事で戻る事が可能です。尚、このアイテムは一度送った相手には退出時に自動で配るか、もしくは毎回貴方から手渡すかを個人で選択する事が可能です。

 あなたがこの場に訪れるには、フィールド上で「幽霊都市フリーパス」を使用していただけばどこでもこの場に転移可能です。また、外に出たい場合再度「幽霊都市フリーパス」を使用していただけば出る事が可能です。その場合、最後に立ち寄ったフィールドに転送されますのでご注意ください。

 


「これ、運営に苦情とか送っても問題ないんじゃねえか?」


 まあ、やらないが。こういうイベントもゲームの華だ。

 しかしまあ、この場合センナ辺りでも招待するべきなんだろうが、さて。どうしようか。

 少なくともるーは確実に心配しているし、どうにもあの小動物ちっくな外見で泣かれると本当に精神的にクルものがある。こう、サイコロを振った際にでかい数字が出た時と同じ絶望感を味わえるのだからアレはアレで神話生物かも知れない。───まあ、可愛らしいのだが、犬っぽくって。こう、尻尾振って近寄ってくる感じが手に取るように分かるというか。

 それから数分ほど悩んだが、結局センナに連絡する事にした。

 単に呼び出した際のこの惨状をどうにかできそうなアレだっただけだからだ。少なくともこのままだと寝床もないから流石に厳しい。正座しながら眠れるが、アレは正直休んだ気がしない。


『ジョージッ!? 何処にいるのッ!? 教会に行ってもいないし、戻っても来ない。まさかまだ森にいるの?』

「いや、ちげえ。色々あってな、ちょいと面倒な事になっちまってんだよ」

『面倒な事って?』

「まあ、なんというか───かくかくしかじか」

『ガジガジウマウマ───なるほどね。早速ソレを贈ってもらえる?』


 簡単に説明したあとメール送信の際にプレゼントとして添付して送信する。

 すると噴水跡地にある小さな円形のレリーフが不気味に輝くと同時に、そこからセンナが現れた。……何故か奇妙な冒険なポーズをしながら。


「ジョージ! 貴様! 見ているなッ!」

「アホな事言ってる前にさっさと動け!」


 思わず近場の石を投げると小気味いい音を鳴らしてセンナの額に命中した。

 なんというか、色々な意味で台無し感溢れる男だなお前さんは。



 ◇◆◇  ◇◆◇


 ───センナを呼び出したのは成功だった。

 あれから僅か数分ほどで、周囲の瓦礫は撤去されている。

 これは別に運搬したわけではなく、センナによる「足跡錬金」の応用で、周囲の瓦礫を石材として処理、そして錬金によりレンガ調の一軒家が作成されていた。それは建築の分野じゃないかという言葉に対して、サブ職業である匠王(鍛冶師、錬金術師、刀匠、調剤師、裁縫師、木工職人、農業者の全一時職業レベルMAXまで上げると試験後にクラスチェンジ可能な工匠の上位ジョブ)による工匠の業を併用する事で可能なんだとか。確か一次職の最大レベルが30だったので、合計で240レベル分の経験値を習得したと言う事になるはず。……これが最高に廃ってやつか。


 とりあえずるーに連絡を取り、すぐさまこちらへと転送してもらう。

 涙目で目尻を釣り上げた姿に少し微笑ましさを感じたので、昔のように抱き上げて髪を撫でていたら機嫌が直った。相変わらずのワンコである。


「構図が犯罪的」

「否定は出来んが否定する」

「これでもるーって人気あるから、ファンクラブにバレるとやばいよ?」

「蹴散らせばいい。───可愛がるのは俺の特権だ」

「無自覚にそういう事言うから余計に話がややこしくなるんだけどね」


 完成した家の内部には既にベットや椅子、机が適当に並べられている。

 質素だが頑丈そうなその日常用品の出来前に素直に感心しつつ、とりあえずベットに腰を下ろして膝の上にワンコ状態のるーを載せる。更にその頭頂部にはエウクレイアが大の字で寝そべっており、なんというか、非常に癒しを与えてくれる。


「さて、結局強制悪者ルート入ったけどどうするつもり?」

「とりあえずはクエストを消化しようと思っている。それがどうにも作為的なものばかりでな、気になって仕方ない」

「……ふむ、とりあえず聞きたい事は後で回すとして、先ずは情報を洗いざらい頂戴」

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