小部屋。
タカハシの事務所の前に、
一台の車が止まった。
車から降りてきた男は
事務所から出てきたヨシダに告げた。
「総理大臣のヤマガタだ。タカハシ君・・・いるかね?」
車は公用車では無かった。
見た感じ普通の車だったが、
中から外は見えなかった。
「ヤマガタさん、今日は一体何ですか。」
タカハシは
少し眠そうだった。
「昨日は眠れたか?」
「えぇ。短かったですがね。」
ヤマガタは他愛も無い話を続けた。
行き先を尋ねても無駄だった。
「さぁ。少しだけ目隠しをしてもらおう。」
タカハシはされるがままだったが、
このまま殺されるかも知れないと内心不安だった。
目隠しを外されたタカハシの目の前には
ドアが一つだけあった。
逆に言えば、ドアしかなかった。
ドアに続く廊下は一本のみで、後ろを振り返ると
おそらく今乗ってきたであろうエレベーターが見えた。
「ここは・・・?」
「これが日本の中枢だよタカハシ君。」
「日本の中枢?」
「内閣は英語でなんと言うかね。」
「キャビネット・・・ですか。」
「そうだ。キャビネットすなわち"小部屋"だ。」
ヤマガタはドアを開けた。
「ようこそ。"小部屋"へ。」
スズキは証言台に立っていた。
金のないスズキは国選弁護人しかつけることは出来なかったため、
裁判は驚くほどスムーズに進んだ。
まるで、わざと死刑にしようとしているかの様に。
スズキの証言の一切は
聞き入れてもらえなかった。
それで案の定、死刑が確定したのだった。
刑の確定から一ヶ月もしないうちに、
スズキの所に見知らぬ男がやってきた。
それから先は覚えていない。
気がつくと目の前に
男が一人いた。
「スズキさん 良かったですね。あなたは運が良い。」
何のことか分からなかった。