国立遺伝学研究所。
「タカハシさん。」
オバタと名乗った男は
口を開いた。
「早老症というのを知っていますか?」
「えぇ。」
「ウェルナー症候群、
ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群、」
「それにロストモンド・トムソン症候群。」
「あとはコケイン症候群。
まぁダウン症候群なんかも入るときがありますね。」
オバタは窓から外を見ている。
「ウェルナー症候群。全世界で約1200例報告されています。」
「そのうち8割が・・・」
「そう、日本人ですよ。」
ウェルナー症候群とは1904年、
ドイツの内科医オットー・ウェルナーにより、
アルプス地方居住の4人兄弟の症例が初めて臨床報告された病気である。
「早老症・・・もし、その逆が可能なら・・・」
「え?」
「不死とまではいかずとも、限りなく老いから遠ざかる。」
「・・・。」
「そういうの、素晴らしいですよねぇ。」
オバタは椅子を回転させ、
あの笑顔を向けた。
「どうですか? "日本"は見えてきましたか?」
スズキにある一人の男が訪ねてきた。
「あなたがスズキさん?」
「・・・はい。」
男はベッドの横の椅子に腰掛けた。
「あなたがねぇ。 そうですか。」
「あの・・・あなたは?」
「私?」
男は物腰柔らかな初老の男性で、
今まで見たどのような人より紳士的だった。
「文部科学大臣、タケダです。」
法務大臣に文部科学大臣。
スズキは全く訳が分からなかった。
「ここは国立遺伝学研究所。静岡県三島市谷田という所にあります。」
静岡?自分はいつの間に
こんな所まで連れてこられたのだろう。
初めて恐怖を覚えた。
「あなたは国家の最高機密を見た。」
スズキは唾を飲んだ。
「だが今は、あなたが国家の最高機密です。」
スズキはやはり飲み込めなかった
今から何が始まるのか、最高機密とはなんなのか。