消えた46人。
死刑が廃止される前から、廃止が決まった75年前までの10年間で、
死刑執行された人間は全部で46人。
まぁ"事実上"の話だ。
その46人。誰一人として火葬されたという報告はなく、
また献体になってもいない。ましてや誰も引き取っていない。
あるのはタダの死亡報告書のみ。
46人に一体何が・・・
「タカハシ君。」
「ヤマガタさん。お久し振りです。」
「ナカムラ君が死んだ。」
ヤマガタは穏やかな表情だった。
どこか笑っている様でもあった。
「えぇ 聞きました。あまりにも突然で・・・」
「そうだ。突然だ。」
「え?」
「え じゃないよタカハシ君。キミだろ。」
「すみません、何のことだか・・・」
ヤマガタの表情はさっきのそれとは
うって変わっていた。有無を言わさない目をしていた。
「ついこの間だなぁ。法務のトダ君が死んだのは。」
法務のトダというのは先月暗殺された
トダ法務大臣の事である。
「はい。」
「そんなに大臣になりたいか?」
タカハシは表情を変えなかった。
「さっきから仰っている意味が・・・」
「とぼけるな。」
「殺したのはキミだ。調べもついている。」
タカハシは焦った。
完全に見透かされていた。
が、ヤマガタは思いがけない言葉を口にした。
「いいよ。入りたいなら。今日からタカハシ法務大臣か。」
ヤマガタは一瞬笑ったが。
本当に一瞬でしかなかった。
「"日本"を見せてあげよう。」
あれからどれぐらいたっただろう。
スズキは気付くとベッドに寝かされていた。
「起きたか。」
「ヨコミゾさ・・大臣。」
「あなたは素晴らしい。予想以上です。」
「はぁ。」
やはり何が何だか全く分からなかった。
「早老症というのを知っていますか?」
スズキは違う方の字しか出てこず、
一瞬自分の股間あたりを見た。
「人間のDNAにはテロメアというモノがあります。」
「テロメア?」
「細胞が分裂するのは知っていますか?」
「えぇ 学校で習いました。」
「細胞には分裂の数に制限がかかっているんです。
早い話、テロメアが鍵を握っています。」
スズキはこれから先の話が
理解できるか不安だった。
「その制限に、つまり終わりに近くなっていくのが老化です。」
「はい・・・」
「しかし、老化しない 不死化した細胞があるんです。」
「そんなモノが・・・」
「ふふ 癌細胞ですよ。」
ヒトなどの動物組織から取り出した初代培養細胞は
分裂回数が制限されており、一定数の分裂を行うと
細胞周期が停止してそれ以上は分裂できなくなる。
この現象を細胞老化と呼ぶ。
これに対して、
がん化した細胞などは際限なく分裂することが可能であり、
この形質を細胞の不死化と呼ぶのである。
「私たちは、ガン細胞のテロメアから細胞の不死化に成功したのです。
癌細胞そのものではなく、人工の細胞として。」
「それが・・・どうしたんですか?」
ヨコミゾはあの嫌な笑顔を浮かべながら、
スズキの目と鼻の先ほどの距離までカオを近づけた。
「今、あなたで実験中なんです。」