事実上の刑死人。
「あ 何するんだっけ?」
「あなたって人はもう・・・。」
タカハシの一言で先程の真剣さは
意味のないモノになってしまった。
「だから 今日は・・・」
「おっと思い出した。」
タカハシはそう言って頭を掻くと
すぐにヨシダに背を向けた。
「じゃ 行ってくる。」
「死ぬのだけは勘弁ですよ。」
タカハシはドアを開けた。
この日本で人一人というのは
本当に取るに足りない。
しかし一部は違う。
その一部が国を動かす。
末端の人間に知る必要の無いことは
数多くある。
日本の癌治療、
死刑制度廃止、
憲法第九条破棄。
これがその一例。
一見関係ない事とも思える。
だが、そうではない。
全ては仕組まれていた。
そう75年前に。
「スズキさん。あなたには今日からここで暮らしてもらいます。」
何が何だか全く分からなかった。
「ここは・・・?」
「言えません。残念ながら。」
男はまた笑った。
誰から見ても、作った笑顔だった。
「あの・・・一つ聞いて良いですか?」
スズキはこの目的を問おうと思った。
が、口から出てきたのは違う言葉だった。
「お・・・お名前なんて言うんですか?」
「私ですか。ヨコミゾと言います。」
スズキはそのカオに見覚えがあった。
「あの・・・あなたって」
「そうですが。」
男はまたあの嫌な笑顔を見せた。
「法務大臣のヨコミゾです。以後宜しく。」
確かにテレビで見た法務大臣が今目の前にいる。
と同時に、違和感を感じた。
「あなたがこれから目にするのは、国家の最高機密。」
スズキは唾を飲んだ。
「あなたは死刑とは対をなす刑を受けてもらいます。」
「逆・・・って事ですか?」
「スズキさん。あなたには死なないでもらいます。」
ヨコミゾが開けた扉の先には、
無数のベッドが置いてあった。
「この人達は・・・・・?」
「"事実上"の刑死人ですよ。」