75年前、そして75年後。
この小説には、
実在の機関・団体名等が出てくる場合があります。
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「スズキさん 良かったですね。あなたは運が良い。」
何のことか分からなかった。
「あなたが事実上、最後の刑死人ってことですよ。」
そうか、俺が最後か。
馬鹿なことをした。今更どうしようもないが。
「何でそんな暗いカオするんです?」
男が笑いながら言った。
殴り飛ばしてやろうかと思った。
「だから言ったじゃないですか。事実上って。」
事実上・・・?
何のことか分からなかった。
タカハシは新聞を広げていた。
新聞の一面には日本の癌完全治療から75周年を祝う式典が
昨日行われたことを報じている。
「75周年ねぇ 何で5年刻みでやるんですか?」
返事はない。
「あのー もしもし?」
急に目の前に女が現れた。
ソファに座っていた彼はのけ反ることが出来ず
ただ背筋が奇妙にのびた。
「いちいちうるさいんですよ。もう少し仕事熱心になりませんか?」
「悪い悪い。」
彼女はヨシダと言った。
一応はタカハシの秘書ということになる。
新聞を取り上げたのは彼女だった。
「先程14:15 共民党ヨシハラ派衆議院議員、ナカムラが死にました。」
「いいよそんな長い説明。 ナカムラで分かるよ大体。」
大体という言葉に多少の苛立ちは感じたものの、
ヨシダは続けた。
「恐らく、暗殺かと。」
「ヤな時代だねぇ。」
「先生ッ ホントにやる気あるんですかぁ?」
「人はすぐ殺されるわ
殺したヤツは死刑にならないわ
昔と変わったのはテレビがメガネなしで3Dで見れるぐらいだし。
・・・そんな良い時代じゃないよねぇ。」
「で、何やればいいの?」
ヨシダは困惑していた。
が、すぐにタバコに手を伸ばすタカハシを制止した。
「いてッ 何すんのヨシダ。」
「いてッ じゃないですよ 何タバコ買ってんですか。」
タカハシの手はまたもタバコに伸びていたが
今度はヨシダは止めなかった。
「いいだろ 一箱ぐらい・・・」
「ダメです。タバコ一箱いくらすると思ってるんですか?」
「いいじゃん 諸経費で落とせば。」
「だから私、政治家って嫌いなんです。」
「あぁ寂しいなぁ ヨシダにフラれたぁ」
そう言うとタカハシは背広を取った。
議員バッヂは付けっぱなしだった。
「出かけるよ。」
「御気を付けて。」
この会話だけは今までと違い、
妙な真剣さが取り巻いていた。