彼と私は幼馴染です。
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「シルヴィア、すまない。君に何かあると心配だから学園にいるときは声をかけないでくれないか?もちろん、僕から君に声をかけないよ」
幼馴染のアロイス・ノウマイスター侯爵令息に言われたのは、学園に入る1週間前だった。先ほどまで母親たちとお茶をしていて飽きてきたので二人で図書室に移動してからの発言だった。
先ほど、私の母親であるエクスラー伯爵夫人と共に自身の母親にも言われた『学園に行ってもシルヴィアをお願いね』に了承していたのがなんだったのかと思いつつも、きっと、別の事を考えていたのだろうと勝手に納得した。興味があることを考えると何もかもそっちのけで昔からそういういい加減な所は変わらないのねと了承した。
薬学に特化した我がエクスター伯爵家と、幼馴染である医者の家系のノイマイスター侯爵家は隣接していた領地で協力関係を築いていた。さらに、彼の母と、私の母は同じ伯爵令嬢出身同士で仲が良く、物流の為にお互いの領都の道が舗装されていることもあり領主邸も馬車で半日の距離。タウンハウスに至っては半刻もかからない距離を頻繁に子供を連れて行き来をしていた。
小さな頃から知っているので、お互いに好きなもの嫌いな物も知っているし性格も知っている。何より身分差はあるが緊張しない間柄なので気易かった。それは、学園に言っても変わらないとも思っていた。でも、話しかけないように言うなんて色々考えるようになったのかと感心した。
小さな頃は華奢な体に明るい茶色に殆ど茶色に見えるよく見ると榛色の瞳は、地味な印象を与えていた少年は、年を追うごとに身体を鍛え、髪は金に近くなり、瞳は明るい茶色に緑や琥珀の混ざったような神秘的な色になり目立つようになってきた。
シルヴィアだって、顔の作りは派手では無いが整っており、少しオレンジがかった髪は伯爵令嬢らしく艶やかで、貴族に多い青の瞳はくりっとしていて愛らしかった。
幼馴染の彼は、秋波を送られようとアロイスとシルヴィアは幼馴染なんだから何も関係ないとシルヴィアは思っていた。けれど、アロイスに言われた事を無下にするほど学園でアロイスと一緒に居たいかと言うとそれは全く思っていなかった。
今迄、アロイスとその兄弟としか遊び相手がいなかったシルヴィアにとって学園でお母様とノイマイスター夫人の様な仲の良い令嬢を探すことに重きを置いていたし、クラス分けテストでクラスも違うのでアロイスが心配するほど顔を合わすことすらないと思っていた。
学園に入学して3年と半年が過ぎた最終学年には、ずっと同じクラスで休み度にお互いの家を行き来するような仲の良い令嬢も令息もできて勉学も今迄、家庭教師と積み重ねた学習に深みをもつことができ充実した。
しかし、その平穏はアロイスの恋人になったというナターリエ・アウラー子爵令嬢によって壊されつつあった。どうやら、彼女は何故か幼馴染とばれてしまったシルヴィアの事を敵視しているらしい。
今のところ、彼女は自身の友人たちに幼馴染だからと言ってシルヴィア様がアロイスの余暇を独占しているのは酷いと喚いているらしい。
確かに、学園が終わるとアロイスは我が家に来るが別にシルヴィアが独占しているわけではないし『らしい』と言うのも彼等とはクラスが違うので実害が無く噂で聞くことだからだった。
だが、思い込みの激しい人間はどの世界にもいるもので、『アロイスとシルヴィアが幼馴染』『シルヴィアの家にアロイスは毎日通わされている』『ナターリエというものがありながら』という事実であったり、なかったりする事項を並べ『アロイスとナターリエの恋路を邪魔するシルヴィア』という構図の噂が流れ始めた。
もちろん、事情を知っているシルヴィアのクラスメイトたちは大変だねと労ってくれるし危害なんて加えてこない。しかし、ナターリエと同じクラスの人々はナターリエの儚げな容姿に相まって令嬢たちも令息たちも勝手にシルヴィアを敵視している。
「何を思ってあのような目で見ているのかしら?」
食堂で食事をしているとシルヴィアの親友であるカティンカが呟く。そのつぶやきに、いつも共に過ごしているマルクスも答える。
「何も考えていないのではないか?」
「まぁ。実害があるわけではないですしいいのではないですか?私も何がしたいのか分からないので・・・対応しかねるのです」
シルヴィアのつぶやきに、カティンカもマルクスも確かにと答える。その時はまだ平和だったのだとシルヴィアも親友二人も深く考えていなかった。
しかし、実害が出て来た。シルヴィアの指定の席に手紙が入るようになった。それは、『いつまで、アロイス様を独占する気なのか?』だとか『ナターリエ様の事も考えて早く対応すべき』だとか『たかが、幼馴染のくせに』だとか言う内容を辛辣にも汚らしい言葉でシルヴィアを中傷するような手紙だった。
「あら、大変ね」
「本当にねぇ。紙がもったいないわ」
カティンカの発言に、斜め上の返事をするシルヴィアをカティンカとマルクスはジト目で見つめる。よく似た二人の反応に慌てたシルヴィアは弁明する。
「だって、これインクも付いているし中身もいらないものだからゴミになるのよ。もったいないじゃない?紙って凄く便利なのよ!本を作っても羊皮紙より重くならないし、メモ書きもできるし!薬草を包んで保存するのにも適しているのよ」
やがり斜め上なシルヴィアの発言に周りにいたクラスメイトたちも苦笑するしかない。もうシルヴィアはしょうがないからとその手紙は私が大切に使わせて貰うわとカティンカに貰われた。再利用できるなんて公爵家の技術は凄い!さすが、植物紙のイステル公爵家だわ!とシルヴィアのキラキラした瞳にカティンカはしょうがない子ねと頭を撫でる。
手紙だけなら、紙がもったいないと書かれていた言葉は嫌だったわで済ませるシルヴィアもだんだんとエスカレートしてくる嫌がらせに頭を悩ませ始めた。
わざと近くでクスクス笑いで指を指すことから始まった嫌がらせは、すれ違い様にわざと身体を当てて来ては不注意ですみませんと謝ってきたり、1階を歩いている時に上から物を落とすなどしてきて危険性を増してきた。
それは、必ずカティンカもマルクスも離れてる時に行われていた。だから、二人も必ず1人は一緒に居るようにしたし、段々とクラスメイト達も嫌がらせの達の悪さにシルヴィアを守るようになった。
そんな状態になると、苛立ったのは嫌がらせをしている人々だった。そしてついに、直接攻撃に転じてきた。
移動教室の為に友人のカティンカとマルクスと3人で回廊を歩いていたところ、急に後ろから声をかけられた。あまりに不躾であったし、そもそも声をかけられないと思っていたシルヴィアは。1回目は気のせいかと思い気づかぬふりでした。しかし、その生徒はあろうことかシルヴィアの腕を後ろに引いてとめた。
「シルヴィア・エクスラー!無視しないで頂きたいわ!」
シルヴィアが無理矢理足を止められて振り向かされたので、カティンカとマルクスもしょうがなく足を止めて振り返った。
「何か御用でしょうか?アウラー子爵令嬢」
シルヴィアが、答えるとナターリエは顔を真っ赤にさせて大きな声を張り上げる。
「いい加減!アロイス様を解放して下さい!毎日毎日呼びつけて!」
「何を言っているのか分かりかねます。私はアロイスを呼びつけておりません」
「アロイス様がわざわざ格下の伯爵家を訪ねていると言うの!」
「えぇ。そうですし、家格のお話をされるのであればアウラー子爵令嬢。今の状況をお考えになった方がよろしいかと・・・」
「私が子爵令嬢だからと馬鹿にしているの?学園は平等を称える場所でしてよ!」
ナターリエの言葉に、場の空気が凍る。あまりのシンっとした静けさにナターリエも気がついたようで押し黙る。そこで、カティンカが話を切り出した。少し、騒ぎになり始めているが教師たちはまだ到着していない。
「ナターリエ・アウラー子爵令嬢。貴方は色々と間違えています」
「・・・」
流石に公爵令嬢に反論するのはと思ったのかナターリエは口を噤む。
「まず、学園が掲げている平等は、【誰にも等しく学ぶ環境を平等に与える】ことです。学園は社交界の前哨戦、社交界の縮図、貴族子女たちが社交界に出る前に人脈を築いたり身分差を弁えた行動を出来るように学ぶ場です。決して、貴方のように子爵令嬢が公爵令嬢である私の足を無闇にとめていい場ではありません!」
「私は、シルヴィア様を呼び止めただけでカティンカ・イステル公爵令嬢をおとめしたわけでは無くて・・・」
ナターリエは青い顔になりながら、可愛らしい顔を歪ませ瞳を潤ませてマルクスを見る。クラスメイトはこの顔を見ると助けたのだろうかと思いながらシルヴィアもマルクスを見るとごみを見る様な目でナターリエを見下ろしていた。自分に向けられた目でなくても怖い。
「何故、子爵令嬢が伯爵令嬢を力づくで呼び止められると思っているのかがまずわからん。 ネッツァー先生が不憫でならない」
先ほど、この騒動の場に到着して青い顔でこの状況を眺めるナターリエのクラス担任である若い男性教師のネッツァー先生がマルクスを見て号泣し始めた。苦労されているんだろう。シルヴィアもここで色々はっきりしておこうと話始める。
「アウラー子爵令嬢。あのですね。アロイスは、」
「呼び捨てにしないで!」
先ほどまで、公爵令嬢と侯爵子息に言い負かされて青い顔をしていたのにシルヴィアだけに、あたりが強いなとシルヴィアは髪色を同じ眉を下げて困り顔になる。
「家格の上の者の発言を止めてはいけないと習わなかったのか?」
苛立つマルクスの発言に、ナターリエはぐっと黙り込む。是非、最後まで話を聞いてほしい。
「そもそも私とノウマイスター侯爵令息は幼馴染なんですよ?ナターリエ様の何の障害になっているのかお伺いしても?」
え?そこからなの?という周りの顔にナターリエは、青い顔を真っ赤に変えてわなわなと震える!
「毎日!毎日!幼馴染ごときの家に行っている事が問題なんじゃない!私のお誘いを毎日断って『幼馴染のエクスラー伯爵邸にいくから無理』と仰るのよ!」
ん?そもそも、ナターリエとアロイスは恋仲なのか?という疑問が周囲の人間の頭に疑問符を作る。
「えぇ。毎日来ていますね。幼馴染とはアロイスから聞いたのですか?」
「そうよ!幼馴染の家に行っているだけだからと仰ってたわ!私の事を愛してるとも言ってくださるのよ!でも、毎日逢瀬をしていてただの幼馴染なんて言わせないわ!」
ナターリエ様とアロイスが本当に恋人同士らしいことが伺えたのでホッとする傍観者たちを置いてけぼりにシルヴィアが爆弾発言を投げかける。
「ただの幼馴染では無いかもしれませんねぇ・・・」
「ほら!貴方が私の邪魔をしてるじゃない!」
「え?私はしてませんよ!」
「ただの幼馴染じゃないって言ったじゃない!」
「えぇ。いずれは家族になりますし!」
「えぇ!?婚約者だって言うの!私を恋人にして下さると言ったのに!」
ナターリエは不倫相手にされたのかと、青い顔になるがシルヴィアはそれもサラッと否定する。
「え?違いますよ。義弟です!」
「「「「「・・・・・・・・」」」」」
「私、アロイスのお兄様のユストゥス・ノウマイスター様の婚約者なのでいずれアロイスとは姉弟になりますの」
「・・・・・」
周囲の沈黙の後に、大きなため息がふたつ落ちる。カティンカとマルクスは二人で呆れたようにつぶやく。
「そんなことも知らないのか下位クラスは」
「社交界は情報戦なのよ。貴方たち生きていけますの?」
吐き捨てるように言うマルクスと、呆れを通り越して心配するように言うカティンカに先ほどの話が事実であることの信憑性が強まる。
「え?アロイス様はご次男?」
「いいえ。アロイスは自由な三男ですわ。うちの兄の元で薬学の研究者として就職するために毎日我が家に訪れますの。兄も幼馴染ですし、ゆくゆくは上司ですわね」
「え?」
「いずれ、平民になるので婚約者がいなかったのですがアウラー子爵令嬢の様な恋人が出来ておば様も喜んでいましたわ!」
「平民?」
「毎日、蛇やセミの抜け殻を探したり、カマキリの卵を持って来たり、植物の病気で出来たこぶを集めたり、最近ではアオカビの研究をしている変人ですけど・・・」
「抜け殻・・・虫の卵・・・変人」
「末永く、義弟をよろしくお願いしますね!」
「義姉・・・」
「あっ研究所の研究員ですので、給与はそこそこありますわよ!」
「そこそこ・・・・」
ぶつぶつとシルヴィアの言葉を復唱するナターリエに、カティンカはにっこりと微笑んでナターリエに優しい声色で怖い話を語り掛ける。
「義姉になる伯爵令嬢に嫌がらせしてるお手紙は、私から、ご自身の親友の娘である未来の嫁を溺愛するノウマイスター夫人にお渡しておりますわ!もう、アウラー子爵ともお話されているんじゃいかしら?薬の研究にしか興味の無い息子を支えてくれるお嫁さんはほしいですものね」
「良かったな君は卒業したら平民だ。その浅慮な頭で社交界に出てこなくて済む」
ナターリエの将来は見えてきたが、励ましているようだが二人の怒りようを見て嫌がらせに加担したクラスメイトたちの将来の方が不安になるとシルヴィアは考えていたが、ナターリエとは縁戚になる。
「私とアロイスは幼馴染ですわ。いずれ、兄妹になりますもの仲良くしましょうねナターリエ様」
ナターリエは。平身低頭に礼を尽くすしかなかった。
拝読ありがとうございます。
<補足?>
皆さまお気づきかと思いますが。
シルヴィアに学園で話しかけないようにすると入れ知恵したのは、彼のお兄様であるシルヴィアの婚約者です。自分の興味のあることにしかメモリーを割かないアロイス。入学試験で最も下位のクラスに分けられ、虫を取ったり山にはいったりするために鍛えられた体。日に当たりすぎて金に近くなる髪色。という理由で見た目はよくなりましたが、次期侯爵夫人になるシルヴィアの社交の邪魔でしかない変人自由人弟(薬学に置いては信頼も信用もしている)の世話をシルヴィアがしないようにの配慮です。
アロイスは、そんな変人なナターリエのアプローチを普通に喜ぶくらいには女の子に興味ありますので、きちんと恋人だと思っていますが、デートをするという基本概念が皆無ですので毎日、研究研究の日々です。それでも、甲斐甲斐しくお世話をするナターリエの事がちゃんと好きです。
ナターリエちゃんは、アロイスのフォローで忙しく(卒業させるため)社交が疎かですね。野心はあるのに根回し不足は貴族に致命的です☆




