表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された有能令嬢は世界征服を目指します!  作者: 九葉(くずは)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/10

第8話 人間重機ギデオンと、大地から湧く黄金

「ここです。ここ掘れワンワンです」


「……誰が犬だ」


城の裏手、雪の積もった荒野の一角。

私は雪かきをした地面の一点を、革靴のつま先でトントンと叩いた。


「私の計算によれば、この地下150メートルに巨大な『熱水溜まり』があります。ここを掘り当てれば、我が領地は勝ちビクトリーです」


獲得した金貨2,000枚。

これを元手に、私は即座に「リゾート開発計画」を始動させた。

まずは目玉商品となる「温泉」の源泉確保だ。


「しかし、150メートルか……。岩盤も硬ぇし、普通の井戸掘りじゃ半年はかかるぞ」


ギデオンが腕組みをして唸る。


「ええ。ですから、隣国からドワーフの掘削技師を雇おうかと。特殊技術なので、見積もりは金貨500枚ほどですが……」


「ご、500枚!?」


ギデオンが素っ頓狂な声を上げた。

彼は今や、金貨一枚の重みを(食費換算で)完全に理解している。


「高ぇ! 高すぎる! そんな金があれば、最高級の和牛が何頭買えると思ってるんだ!」


「ではどうします? 魔法で掘るにしても、宮廷魔導師レベルの魔力が必要です」


「俺がやる」


ギデオンはニヤリと笑い、背負っていた巨大な「鉄杭」のようなものを地面に突き立てた。

槍ではない。

攻城戦で城門を物理的に粉砕するための、質量兵器パイルバンカーだ。


「俺はこれでも『土属性』持ちだ。……繊細な建築はできねぇが、『壊す』のだけは得意なんでな」


「あら、適材適所ですね」


「見てろ。ドワーフなんぞいらねぇ。金貨500枚は、今夜の宴会の予算に回すぞ!」


ギデオンは両手に魔力を集中させた。

金色の瞳が輝き、鉄杭がブォンブォンと不穏な唸りを上げ始める。

土魔法による振動破砕。


「オオオオオオッ!!」


気合一閃。

彼は巨大な鉄杭を、ハンマーのように振りかぶり──地面へ叩きつけた。


ドゴォォォォォォォン!!


爆音。

そして地揺れ。

私がバランスを崩しそうになるほどの衝撃と共に、地面に亀裂が走る。

ただ叩いたのではない。土魔法で岩盤を「液状化」させながら、衝撃波を深部へ送り込んでいるのだ。


「まだまだァ!! 穿てェェェ!!」


ギデオンは止まらない。

杭を打ち込むたびに、地面が悲鳴を上げ、穴が深くなっていく。

その姿はまさに、削岩機ジャックハンマーそのものだ。


(……呆れました。本当にコストパフォーマンスの良い領主です)


【掘削深度:50m……100m……140m】

【到達予想:あと10秒】


「ギデオンさん、そろそろ……!」


「うらァァァ!! ここが急所だァァァ!!」


最後の一撃が放たれた、その瞬間。


シュゴォォォォォォッ!!


大地が咆哮を上げた。

亀裂の隙間から、白い湯気が爆発的に噴き上がる。

続いて、熱湯の柱が空高く打ち上げられた。


「うおっ!? 出たッ!?」


「成功です! 離れてください!」


降り注ぐお湯の雨。

源泉は高温だが、氷点下の空気に冷やされ、私たちに降りかかる頃には心地よい適温になっていた。


あたり一面に、硫黄の香りと、温かい湿気が充満する。

極寒の荒野に、湯気による白いサウナが立ち込めた。


私は眼鏡についた水滴を拭い、即座に湧き出たお湯に【鑑定】をかけた。


ピピピッ。


【泉質:硫黄泉(源泉温度48度)】

【効能:切り傷、冷え性、疲労回復】

【特殊効果:美肌効果(Sランク)】


「……勝ちました」


私はガッツポーズをした。

ただの温泉ではない。「美肌の湯」だ。

これなら、美容にうるさい王都の貴族女性たちから、法外な利用料をふんだくれる。


「げほっ、げほっ……。おいセシリア、大丈夫か? 火傷してねぇか?」


湯気の中から、ずぶ濡れになったギデオンが現れた。

髪も服もびしょ濡れで、水も滴るいい男……と言いたいところだが、彼はなぜか顔を真っ赤にして、私から視線を逸らしている。


「私は平気です。少し濡れましたが」


「っ! あー、その、なんだ。……俺の上着、着とけ。透け……いや、寒いだろ」


彼は自分の濡れた上着を脱ごうとして、自分のシャツも肌に張り付いて筋肉が丸見えであることに気づき、動きを止めた。


「……すまん。俺も透けてた」


「何をやっているんですか、あなたは」


思わず吹き出してしまった。

この人、戦場ではあんなに頼もしいのに、こういう時は中学生レベルだ。


「それより、見てくださいギデオンさん」


私は地面にできた、湯の溜まり場を指差した。

掘削地点を中心に、ちょっとした池ができている。

湯気のおかげで、周囲だけ春のように暖かい。


「これが、私たちの『金のなる木』です」


「……ただのお湯だろ?」


「入ってみてください。……足だけでいいですから」


私は近くの岩に腰掛け、ブーツを脱いだ。

靴下も脱ぎ、素足を湯に浸す。


「ふぅ……」


熱い。けれど、凍えた指先が解凍されていくような、極上の心地よさ。

身体の芯まで痺れるようだ。


ギデオンもおっかなびっくり、巨大なブーツを脱いで足を浸した。


「……ッ!」


彼の目が大きく見開かれる。


「なんだこれ……。熱いのに……力が抜ける……」


「これが温泉の魔力です。戦闘の疲れも、古傷の痛みも癒やしてくれますよ」


「すげぇ……」


ギデオンは子供のようにパシャパシャとお湯をかき混ぜた。

その顔からは、いつもの険しさが消え、穏やかな表情が浮かんでいる。


「俺は、この土地を『死の場所』だと思ってた。何もねぇ、誰も来ねぇ、ただの墓場だって」


彼は湯気にかすむ荒野を見渡した。


「だが、あんたが来てから……ここは宝の山になっちまった」


「ええ。磨けば光る原石です。……あなたたちと同じですよ」


私が言うと、ギデオンは耳まで赤くして、バシャバシャと激しく足でお湯を蹴った。


「う、うるせぇ! ……で、でも、悪くねぇな。こういうのも」


「はい。……さて、温まったら仕事ですよ」


私は手帳を開き、現実的な話を突きつけた。


「源泉は確保しました。次は『脱衣所』と『露天風呂』の建設です。そして王都への宣伝広告、送迎馬車の手配……」


「……前言撤回だ。やっぱりあんたは鬼だ」


ギデオンががっくりと項垂れる。

けれど、その口元が笑っているのを、私は見逃さなかった。


北の果ての荒野に、温かい湯気と、二人の笑い声が響く。

リゾート開発計画は、最高の滑り出しを見せた。


【現在の資産:金貨2,000枚 + 無限の温泉】

【従業員のモチベーション:高(入浴待ちの列が発生中)】


さあ、世界中の貴族から、入浴料を搾り取って差し上げましょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ