表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された有能令嬢は世界征服を目指します!  作者: 九葉(くずは)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/10

第7話 悪徳商人の来訪

「へへへ……辺境伯様、今回も『ゴミ処理』ご苦労さまですなぁ」


城の応接室(掃除済み)。

下卑た笑い声を上げているのは、小太りの男だった。

隣国ゼリアの商隊長、バルガス。

高そうな服を着ているが、その目は欲に濁っている。


「で、今回は何が出ました? また腐りかけの魔獣肉ですか? 運搬費も高騰してるんでねぇ、金貨……いや、銀貨3枚で引き取ってやりやすよ」


バルガスが、汚いものを扱うような手つきで契約書を差し出す。

ソファの向かいに座るギデオンが、ギリリと奥歯を噛み締める音が聞こえた。

彼はこれまで、こうして「恩を売ってやる」という態度で買い叩かれ、部下を飢えさせてきたのだ。


「……ふざけるな。今回は上玉だ。銀貨なわけが……」


ギデオンが立ち上がろうとする。

私は扇子で彼を制し、バルガスの前に座り直した。


「初めまして、バルガスさん。本日から交渉役を務めます、セシリアです」


「あん? 誰だね、その嬢ちゃんは。……ああ! 噂の『王都を追い出された元婚約者』か! へへ、慰み者として拾われたんですかい?」


バルガスが舐め回すような視線を送ってくる。

背後でギデオンの殺気が膨れ上がり、部屋の温度が2度下がった。

ステイです、ギデオンさん。

その殺気は、後で値引き交渉のカードに使います。


私は営業用スマイルを貼り付け、眼鏡を押し上げた。


「雑談は結構です。……今回は、こちらの『商品』を査定していただきたいのですが」


「商品? どうせ汚ねぇ肉だろ?」


「いいえ」


私は合図を送った。

待機していた傭兵たちが、うやうやしく大きな包みを運び込んでくる。


ドン、とテーブルに置かれたのは、純白の毛皮の山。


「……あ?」


バルガスが目を丸くする。

私が包みを開くと、そこには一点の曇りも、傷一つない「キング・スノータイガー」の毛皮が輝いていた。

それも、一枚ではない。十五枚だ。


「なっ……!?」


「先日の収穫です。解体処理済み、なめし加工済み。……すべてダメージゼロの完品です」


「ば、バカな! 虎の毛皮だと!? しかも、槍の跡も焼け焦げもない……こんなもん、王都のオークションでも年に一度出るかどうか……!」


バルガスの手が震えている。

商人の本能が、目の前の宝の山に反応しているのだ。


「いかがですか? 銀貨3枚とおっしゃいましたか?」


「い、いや! これは……その! 金貨……一枚につき30枚! 合計450枚出しましょう!」


バルガスが脂汗を流しながら叫ぶ。

ギデオンが「450枚!?」と驚愕しているが、私は冷ややかに首を横に振った。


「お話になりませんね」


私は手元のメモ(帳簿)を読み上げた。


「現在のゼリア市場における虎毛皮の相場は金貨80枚。完品となれば100枚は下りません。……それに」


私はもう一つの切り札を出した。


「これも、引き取っていただけますね?」


傭兵たちが、「よっこらせ」と巨大な黒い棒を運び込む。

ドラゴンの大腿骨だ。


「ヒィッ!? こ、古竜の骨ぇ!?」


バルガスが椅子から転げ落ちそうになった。


「こ、こんな国宝級の素材、どこで……!」


「在庫整理で出てきました。魔導杖の芯材として需要が高騰していますよね? まさか『運搬費がかかるからタダで引き取る』なんて言いませんよね?」


「あ、いや、その……相場が……」


「市場価格は金貨5,000枚。虎の毛皮と合わせて、総額6,500枚相当の商品です」


「ろ、六千五百……!?」


バルガスが泡を吹いて倒れそうになる。

当然だ。一介の商人が即金で払える額ではない。


「ですが、バルガスさん。あなたに6,500枚を払えとは言いません。あなたは商人だ。転売して利益を出さなきゃいけない」


私はニッコリと微笑んだ。


特別価格ホールセール。総額、金貨2,000枚で手を打ちましょう」


「に、二千……?」


「ええ。市場価格の三分の一以下です。これを持ち帰れば、あなたは座っているだけで金貨4,000枚以上の利益が出る。……濡れ手に粟ですね?」


バルガスの目が欲望でギラついた。

しかし、すぐに顔を歪める。


「だ、だが2,000枚なんて大金、今ここには……」


「ありますよね?」


私は彼の目を覗き込んだ。


「あなたの商隊は、これからゼリアの織物都市へ『絹の買い付け』に行く途中のはず。……金庫には、仕入れ用の資金が眠っているはずです」


図星だったようだ。バルガスの顔色が青ざめる。


「な、なぜそれを……! だが、その金を使っちまったら、俺の商売が……!」


「目の前の4,000枚の利益を捨てて、ちまちま絹を運びますか? それとも、この契約書にサインして大金持ちになりますか?」


「ぐぬぬ……!」


バルガスは葛藤し、そして強硬手段に出た。

彼はテーブルの上の契約書をひったくり、破り捨てようと身を乗り出した。


「ふざけるな! こんなもん、力づくで……!」


ガシッ。


「……おい」


地獄の底から響くような声。

バルガスの手首を、背後に控えていたギデオンが掴んでいた。


「ヒィッ!?」


「俺の雇い主の前で、暴れるんじゃねぇ。……その汚ぇ手ごと、骨をへし折られたいか?」


ギデオンの金色の瞳は、完全に「捕食者」のそれだった。

バルガスは蛙のように縮み上がり、ガタガタと震え出した。


「ギデオンさん、暴力はいけません。……商品バルガスさんが傷つきます」


私はやんわりと諫め、新しい契約書を差し出した。


「バルガスさん。もし買わないのなら、結構です。……来週、ゼリアの競合他社である『ガルド商会』が挨拶に来る予定ですので」


「なっ、ガルドだと!? あいつらにこれを渡されたら、ウチのシェアが……!」


嘘です。

ガルド商会なんて呼んでいません。

ですが、焦った商人には劇薬です。


【交渉進捗率:100%】


バルガスは脂汗まみれの顔で、骨と毛皮、そしてギデオンの顔を交互に見て……ガックリと項垂れた。


「……わ、わかった。買いやす。……金庫の金、全部置いていきやす」


契約成立ディールですね」


***


一時間後。

バルガスの商隊は、宝の山を積み込み、代わりに持っていた「仕入れ資金の全額」を吐き出して、逃げるように去っていった。


テーブルの上には、山積みの金貨。

しめて2,000枚。

日本円にして約2億円相当の「現金」だ。


その輝きに、ギデオンと傭兵たちが呆然としている。


「……夢じゃねぇよな?」

「俺たちが捨ててた骨が……こんな大金に……」


「夢ではありません。これがあなたたちの『正当な報酬』です」


私は金貨の山を崩し、革袋に仕分けしていく。


「まずは食費の確保。次に装備の更新。そして……城の修繕費と温泉開発のボーリング調査費」


「セシリア……」


ギデオンが私を見つめている。

その瞳には、かつてないほどの信頼と、少しの畏怖が混じっていた。


「あんた、魔法使いよりすげぇな。……口先だけで、剣より強く戦いやがる」


「あら。褒め言葉として受け取っておきます」


私は眼鏡を直し、金貨をチャリンと鳴らした。


「さあ、資金はできました。……次はいよいよ、この『死の土地』を『楽園』に大改造しますよ」


私の脳内には、すでに壮大なリゾート開発計画の青写真が描かれていた。

忙しくなりますね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ