表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された有能令嬢は世界征服を目指します!  作者: 九葉(くずは)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/10

第6話 歩く毛皮の群れ

「……ひどい。これは『大赤字』です」


城壁の上。

寒風吹きすさぶ見張り台で、私は眼下の惨状を見て頭を抱えた。


雪原には、白い巨体──「スノータイガー」の群れが押し寄せている。

体長3メートルを超える猛獣だ。

鋭い牙と爪は、鉄の鎧さえ紙切れのように引き裂く。


対するは、我が領地が誇る「ラグナ傭兵団」。


「オラァァァ!! 肉だァァァ!!」

「死ねぇぇぇ!! 俺の新しいブーツになれぇぇ!」


彼らは雄叫びと共に突撃し、圧倒的な武力で虎を屠っていた。

強い。文句なしに強い。

王都の騎士団なら全滅しかねない相手を、彼らは楽しそうに狩っている。


問題は、その「狩り方」だ。


ドゴォォォン!!


一人の傭兵が、戦槌ウォーハンマーをフルスイングした。

虎の背中に直撃。

脊椎が砕ける音と共に、美しい純白の毛皮がグチャグチャに千切れ飛んだ。


「ああっ!? 私の『特級品(Sランク)』がああぁぁ!!」


私は悲鳴を上げた。

背中の毛皮は一番面積が広く、最も高値がつく部位だ。

それを叩き潰すなんて、札束をシュレッダーにかけているのと同じだ!


さらに別の場所では、炎魔法の使い手が虎を丸焼きにしている。


「待って! 燃やさないで! 炭になったら1ゴールドにもなりません!! 焦げ臭い毛皮なんて誰が買うんですか!」


彼らは「倒すこと」しか考えていない。

素材としての価値リセールバリューへの配慮が欠落している。

これでは、ただの「害獣駆除」だ。利益が出ない。


「……経営介入します」


私はトランクから持ち出していた、メガホンのような魔道具を取り出した。

風魔法石を組み込んだ「携帯用拡声器」だ。


スイッチオン。


『──総員、注目!!』


戦場に、私の声が雷のように響き渡った。

傭兵たちがビクッとして動きを止める。

襲いかかろうとしていた虎さえ、驚いて足を止めた。


『あなたたちの戦い方は非効率的です! それは敵ではありません。「歩くボーナス」です!』


私は城壁から身を乗り出し、計算スキルをフル稼働させて叫んだ。


『右翼の斧部隊! 胴体を狙うな、首か関節を狙え! 毛皮に傷をつけたら……』


私は深く息を吸い込み、彼らにとって最も恐ろしい宣告を放った。


『……今夜のシチュー、肉抜きにしますよ!!』


戦場が凍りついた。

一瞬の静寂。

そして。


「に、肉抜きだと……!?」

「具なしスープなんて嫌だァァァ!」

「やべぇ! 姐さんは本気だぞ!」

「綺麗に殺せ! 俺たちの晩飯がかかってるんだ!」


傭兵たちの目の色が変わった。

殺気ではない。

「食」への執着という、生物として最も原始的かつ強固な意志が宿った。


動きが劇的に変わる。

力任せの破壊から、急所を的確に突く「解体作業」のような鋭い攻撃へ。

私の目には、彼らの攻撃によって守られた「利益額」がリアルタイムで加算されていくのが見えた。


【予想利益:金貨50枚……120枚……200枚!】


よし、いい調子です。

だが、群れのボス──ひときわ巨大な「キング・スノータイガー」が、包囲を突破して城門へ突進してきた。


「グルルルルルァァァァ!!」


速い。

傭兵たちが追いつけない。城門が破壊されれば修繕費がかさむ!


「チッ、大物が抜けたか!」


その時。

黒い疾風が、雪原を駆けた。


ギデオンだ。

彼は私の背丈ほどもある大剣を軽々と担ぎ、猛虎の正面に躍り出た。


「オラァァァァ!!」


正面衝突。

ギデオンは大剣を振りかぶり──


『ギデオンさん! 真っ二つは禁止です! そのサイズなら最高級の絨毯になります!』


私が叫んだ瞬間。

ギデオンは空中で無理やり体勢を変えた。


「ぬぐゥッ!?」


振り下ろされようとしていた刃を、寸前で反転させる。

剣の「腹」の部分を使い、虎の脳天を狙う。

だが、ただ叩くだけでは頭蓋骨が砕けてしまう。


彼はインパクトの瞬間、手首を返して衝撃を逃がし──脳だけを揺らした。


ドォォォォォォン!!


凄まじい衝撃音と共に、虎の巨体が雪の中に沈む。

雪煙が舞い上がる。


煙が晴れると、そこには気絶して白目を剥いた巨大な虎と、その横で剣を地面に突き刺し、荒い息を吐いているギデオンの姿があった。


「……ど、どうだ!」


彼は城壁の私を見上げ、ニカッと歯を見せて笑った。


「無傷だろ? ……これなら、今夜の肉は増量か?」


私の眼鏡の奥で、【計算】スキルが弾き出した数値は……。


【損傷率:0%】

【推定評価額:金貨300枚(オークション級)】

【ギデオンの身体制御能力:S+(神業)】


私は震える手で拡声器を握り直した。


『……満点パーフェクトです。今夜は肉大盛り、さらにデザート付きです!』


「っしゃあ!!」


ギデオンが子供のようにガッツポーズをすると、傭兵たちからも「うおおお!」「姐さん万歳!」と歓声が上がった。

敵は全滅。

こちらの被害はゼロ。

そして確保された、億単位の素材の山。


私は望遠鏡を下げ、深く息を吐いた。


「……恐ろしい職場ですね」


彼らはただの荒くれ者ではない。

適切な餌……もとい、報酬と指揮官がいれば、最強の生産部隊になる。


城壁の下で、ギデオンがブンブンと手を振っている。

幻覚だろうか、彼の背後に大きな尻尾が揺れているのが見える。


「さて。……在庫管理と、解体作業の指揮に行かなくては」


私はドレスの裾を翻し、階段を降りた。

どうやら今日の帳簿は、久しぶりに気持ちの良い黒字になりそうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ