第49章:存在のペンと「五番目の季節」の旋律
ハンマーが意志を持ち、伝説の武具を飲み込んで**【全象調律筆】へと変貌したその日、カイルの「職人仕事」は物理的な修理を超え、世界の概念そのものを書き換える「創造」**の領域へと到達しました。
「……マスター、そんな神妙な顔すんなよ。俺を使えば、あそこの枯れた花園だって『永遠に歌い続ける花』に書き換えられるんだぜ?」
ペンが軽口を叩く中、カイルは空中に浮かぶ透明な五線譜を見つめていました。彼が気にしていたのは、世界に流れる「四季の循環」の継ぎ目に発生する、ごく僅かな音の空白でした。
「春、夏、秋、冬……。この四つの楽章の間に、一瞬だけ誰も聴いたことがない『寂しい音』が混じっているんだ。……よし、新しい季節を書き足して、世界のリズムをもっと滑らかにしよう」
カイルが空中へさらさらとペンを走らせると、季節の隙間に**【第五の季節・楽音】**という一節が書き込まれました。
その瞬間、世界の色が一変しました。
空からは虹色の雪のような「結晶化した音符」が舞い降り、風が吹くたびにハープの音色が響きます。暑くもなく寒くもなく、ただそこにいるだけで心が調律されていく、音楽に満ちた新しい季節の誕生。
「なっ……何よこれ!? 呼吸するだけで体が楽器になったみたいに響くわ!」
セシリアが歌うように叫ぶと、彼女の言葉がそのまま空中に金色の文字となって浮かび、物理的な輝きを放ち始めます。
「カイル、これじゃあ冒険どころか、全員が幸せすぎて動けなくなっちまうぞ!」
光の巨人・レオンも、あまりに心地よい「楽音」の響きに、剣を置いて踊りだしたい衝動に駆られていました。
しかし、このあまりにも完璧な創造は、天界の**「原作者」**たちを絶望させました。
雲の上からその様子を眺めていた神様が、ついに白旗を掲げて降臨します。
「……もう、降参じゃ。カイルよ、お主はもう職人ではない。この世界そのものを執筆する『共同著者』じゃな。……どうじゃ、そのペンで、ワシのこのパッとしない老後の脚本も、少し『情熱的な冒険譚』に書き換えてはくれんか?」
「いいですよ、神様。退屈な音は、僕も好みじゃないですから」
カイルが神様の背後にペンで一筆加えると、隠居気味だった神様は瞬く間に「真っ赤なリーゼントの熱血ギタリスト」へとリライトされ、エレキギターをかき鳴らしながら天界へと帰っていきました。
「……ふぅ。これで世界も、少しは賑やかになったかな」
カイルは意志を持つペンをくるりと回し、満足げに微笑みました。
一億回のループの果てに、少年が手にしたのは世界を直すハンマーではなく、世界を共に描き、綴るための**「ペン」**でした。
今日もカイルは空中の余白に、新しくて面白い「音」を書き込み続けています




