第24章 ノックされた冥界の門
アトランティスを救ったカイルの「究極の共鳴」。その余韻は、海水の層を突き抜け、地殻の奥深く、生者が決して触れてはならない**【冥界の門】**にまで到達していました。
カイルが「釘抜き」を作ろうと素材を弄んでいたその時、足元から地響きと共に、この世のものとは思えない「重く、冷たい音」が響き渡りました。
「……ん? なんだか、地下室の扉が風でガタついてるみたいな音がするね」
アトランティスの王宮の床から響く**「ギィィィ……」**という不快な軋み音。カイルは首をかしげ、音叉を地面に当てました。
「カ、カイルさん! これ、ただの地下室じゃありません! 王国の最下層にある、生者と死者を分かつ『冥界の門』の方向から聞こえてきます!」
クラリスが顔を青くして叫びます。
カイルの放った「全事象調律」の振動が、あまりにも完璧すぎたがゆえに、冥界の門の「封印の鍵(周波数)」と一致してしまったのです。つまり、カイルは無意識に冥界の扉をノックしてしまったのでした。
「扉が軋んでるなら、直さないと。油を差すか、建付けを調整しないと夜も眠れないよ」
カイルは【漆黒のハンマー】を手に、アトランティスの最深部へとスタスタと歩き出しました。
門の前には、三つの頭を持つ巨大な魔犬ケルベロスが、侵入者を阻むべく立ち塞がっていました。しかし、その咆哮はどこか情けないものでした。
「バウッ! ギャウン……! ヴォォォ……」
「……ああ、君。三つの頭の『ピッチ』がバラバラだね。右の頭が高いし、左の頭は低すぎる。これじゃあハモれないし、喉も疲れちゃうよ」
カイルはケルベロスの前に出ると、三つの鼻先をリズムよくポコン、ポコン、ポコンとハンマーの柄で叩きました。
「はい、三和音の構成で鳴いてごらん」
「……アオーーーーーン♪(完璧なCメジャー)」
ケルベロスは、自分の鳴き声があまりにも美しく響いたことに感動し、カイルにすり寄って甘え始めました。地獄の番犬が、カイルの調律によって「癒やしの合唱犬」に上書きされた瞬間でした。
第36章:冥王のクレームと扉のメンテ
すると、開いた門の奥から、漆黒のローブを纏った冥王ハデスが姿を現しました。
「……何事だ。我が領土の門を勝手に叩き、番犬をコーラスグループに変えた不届き者は……」
「あ、すみません。門のヒンジ(蝶番)が歪んでたみたいなので、直しに来ました。あと、地獄の業火の音が少し『爆ぜすぎ』だったので、低音を抑えておきましたよ」
カイルは冥王の威圧感を無視して、巨大な門の隙間に【海神の涙で作った釘抜き】を差し込みました。
「……フンッ!!」
カイルが力を込めると、世界の境界線そのものが「ミシッ」と音を立てて矯正され、冥界の門は**「バタンッ」**と、今までにないほどスムーズに、そして完璧な気密性を持って閉まりました。
「……。……!!(何だこの滑らかな閉まり心地は……!?)」
冥王は驚愕しました。数万年、どんな神も直せなかった「冥界の建付け」が、一人の少年の手によって完勝されてしまったのです。
【SNS:王都実況掲示板:大海原の冒険スレ 3】
201:名無しの冒険者
【怪奇現象】さっきから、亡くなった俺のじいちゃんが枕元に現れて、
「地獄の扉の滑りが良くなって、エアコンの効きが良くなったから感謝しとけ」って言ってきたんだがwww
202:名無しの冒険者
俺のとこにも死んだ師匠が出てきた。「地獄の番犬がすごく良い声で歌うようになったから、安眠できる」だと。
203:名無しの冒険者
犯人はやっぱりカイルか。
アトランティスの底で、冥界の門を「バリアフリー化」してきたらしい。
204:名無しの冒険者
冥王様が「もうお前がこの門の管理人(職人)になれ」ってスカウトしたらしいけど、
カイルが「地上に美味しいパン屋があるので」って断ったってマジか。
#カイル被害者の会(冥界編) #地獄のリフォーム #ケルベロス合唱団
「……ふぅ。これで扉のガタつきも収まったね。冥王さんも、腰が痛そうだったから少し叩いてあげたかったけど、帰っちゃったな」
カイルは満足げにアトランティスの街へと戻りました。
門が完璧に閉まったことで、逆に「成仏できずに迷っていた魂」までもが、正しい音の導きによって安らかに冥界へ還っていくという、かつてない浄化現象が世界中で巻き起こりました。
「カイル……あなた、ついに生と死の境界線まで『整備』しちゃったのね……」
セシリアが、もはや神を崇めるような目でカイルを見つめていました。
「整備じゃないよ、セシリア。道具は正しく使われてこそ、美しい音が鳴るんだ」
カイル一行の旅は、地上、深海、そして冥界の音さえも味方につけ、さらなる未知へと進みます。




