第22章 泣いている波の音
「王都の調律」を終え、もはや神話の登場人物のようなスペックとなった一行ですが、カイルの耳には新たな「不協和音」が届いていました。
舞台は王都を離れ、遥か西に広がる広大な海――**【蒼穹の海域】**へと移ります。
王都の港。レオン、クラリス、セシリア、そしてカイルの四人は、新造されたばかりの巨大な帆船に乗り込もうとしていました。
「ひゃっほー! 海だぜ! この『ハープ剣』、波の音と合わせると最高のビートが刻めるんだ!」
光の巨人・レオンが、船の舳先で剣の弦をかき鳴らしています。その余波で、船が時速100キロを超える猛スピードで進み始めました。
「ちょっとレオン、飛ばしすぎよ! 譜面が風で飛んじゃうじゃない!」
セシリアが叫びますが、カイルは一人、静かに水平線を見つめていました。
「……おかしいな。海の『呼吸』が浅い。まるで喉に何か詰まらせているような……変なフラット(半音下げ)が聞こえる」
カイルは腰のポーチから**【深海共鳴音叉】**を取り出しました。
第29章:潮目のメンテナンス
船が海域の中央に達した時、突然、海が真っ黒に変色し、巨大な渦潮が巻き起こりました。
現れたのは、この海の主とされる超巨大な魔獣**【リヴァイアサン】**。しかし、その咆哮は恐ろしいというより、どこか悲痛な「絶叫」でした。
「グルゥゥゥゥ……アアアア……ッ!」
「ああっ、かわいそうに。リヴァイアサンさん、喉の奥に変なものが刺さっているみたいです……!」
クラリスが【世界樹のフルート】を耳に当て、魔獣の心の声を聴き取ります。
「よし、僕が『喉の調律』をしてくるよ。レオン、少しだけ揺れを抑えてて」
「任せとけ! ……おい海! 静かにしてろ!」
レオンがハープ剣を垂直に突き立てると、周囲数キロの荒波が一瞬で鏡のようなベタ凪に変わりました。
カイルはその静まった海面を、まるで水の上を歩くように(実際は水の表面張力の波形を調律して足場にしながら)リヴァイアサンの元へ歩み寄りました。
「ちょっと、口を開けてくれるかな? すぐに終わるから」
カイルは巨大な魔獣の顎をトントンと叩き、その口内に飛び込みました。
リヴァイアサンの喉に突き刺さっていたのは、古代の呪われた沈没船の錨でした。それが魔獣の神経を刺激し、常に不快な「金属音」を脳内に響かせていたのです。
「……君も辛かったね。この錨、錆びてていい音がしない。……消えてもらおうか」
カイルは漆黒のハンマーを振りかぶると、錨の「結晶構造の弱点」をコンッと一叩き。
パリンッ。
呪われた古代の鉄塊が、キラキラとした光の粒子に分解され、海の栄養分へと書き換えられました。さらにカイルは、リヴァイアサンの喉の粘膜をハンマーで優しく撫で、炎症を「調律」して沈めました。
「はい、お大事に。……あ、お礼はいらないよ。職人の義務だからね」
カイルが外に出ると、リヴァイアサンはかつてないほど澄んだ、美しいソプラノの声で鳴き声を上げました。その声は、海を浄化し、枯れ果てたサンゴ礁を一瞬で蘇らせる「癒やしの旋律」となりました。
【SNS:王都実況掲示板:大海原の冒険スレ 1】
001:名無しの船乗り
【速報】『蒼穹の海域』の呪いが消えたぞ!
凶暴だったリヴァイアサンが、今、小さな帆船を背中に乗せて、楽しそうに歌いながら泳いでる。
002:名無しの冒険者
またあいつだ……あの「楽器職人の少年」だ……。
船乗りたちの間じゃ、もう「海の調教師」って呼ばれ始めてるぞ。
003:名無しの冒険者
カイルがリヴァイアサンの喉を叩いた瞬間、海全体が「ド」の音で共鳴して、
溜まってた汚泥が全部真珠に変わったってマジかよww
004:名無しの冒険者
ちなみに、その帆船の名前は『メロディ・ゴー・ラウンド号』らしい。
#カイル被害者の会(深海編) #リヴァイアサンはペット #海が歌い出した
「……カイル。あなた、今度は海そのものを自分の『合唱団』に組み入れるつもり?」
セシリアが、リヴァイアサンの背中でバイオリンを弾きながら呆れ顔で言いました。
「まさか。僕はただ、海のリズムを元に戻しただけだよ。ほら、波の音が心地よい『三拍子』になっただろ?」
カイルたちの船は、巨大な魔獣を伴奏に従え、まだ見ぬ未知の島々へと進んでいきます。
第二部、大海原の調律。
カイルのハンマーが叩き出す次なる音は、失われた海底都市の目覚まし時計か、はたまた荒ぶる海神の耳鳴りか。
「さあ、行こう。次の『ズレ』が僕たちを待っている」




